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13.オーク狩り紀行1

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 エルフの露店商シルキーさんの商品は相変わらずだ。
 仕入れを行うお金もなさそうだから当たり前だけど。
 あれ?でも新しいスキルオーブがある。

スキル名:【振動lv1】
  詳細:触れたものを振動させるスキル(非生物)。色んなことに使える(意味深)。

「これどうしたの?」

「さあね。なんかキモい男が置いてったのよ。ニヤニヤしながら今夜使ってよって。意味わかんないわよ!」

 ああ、それはホントにキモい男だね。
 この鑑定証の『色んなことに使える(意味深)』の部分明らかに筆跡が違うからね。
 たぶん書き加えたんだろう。
 しかしこれは刃物と非常に相性のいいスキルではなかろうか。
 超振動ブレードとかこの世界の人はあまり知らないかな(圧倒的転生者感)。
 僕は接近戦は怖いからあまりしないけれど、これから有用な素材が取れる魔物を狩るようになると解体作業というのが必要になるかもしれない。
 そんな時にナイフを振動させてズバズバ切れたら便利かも。

「これ買うよ」

「ホントに!?すごいわ、タダでもらったものが売れたわ!!あたしはやっぱり天才だったのね!!」

 ああ、うん。
 そのキモい男に粘着されないように精々気を付けて。
 今日はお金を多少持っていたので正規の値段である銀貨10枚を支払ってお店を後にした。




 街から歩いて2日ほどの位置、オークの縄張りにほど近い森の中。
 時刻は夜。
 目を開けているのか閉じているのかも分からなくなるような暗い森のその一角に、異質な物体が鎮座していた。
 まるで巨大な巻貝のような見た目をしたその物体。
 色は闇を溶かして固めたように艶やかな黒。
 ところどころ周囲を威嚇しているかのような棘が生えている。
 そう、僕だ。
 これが僕の考えた最強鉄壁の就寝方法である黒巻貝だ。
 【スキル効果10倍】を手に入れた今、【毛魔法lv3】で操作する体毛はかなりの強度を誇る。
 それゆえに、体毛を束ねて神社の大しめ縄のように太い綱にしてからとぐろを巻く蛇のように巻いて下に空間を作ればそこで安全に眠ることができるのだ。
 実は魔法というのは寝ていてもある程度の維持が可能だ。
 体の中にある魔力の蓋のようなものを閉じない限りは魔法の効力が切れることはない。
 前に【生活魔法lv3】で光球を出したまま寝てしまって朝になっても消えていなかったことから、この方法が可能なのではないかと気づいた。
 1回の発動に僕の全魔力の半分くらいを使わないといけないのが欠点だけれど、眠れば魔力というのは回復するので主に寝る前に使う予定のこの魔法ならそれほど問題はないだろう。
 これならちょっとくらい雨が降っても大丈夫だし、あの耐え難い匂いのする布でテントを拵えなくても済む。
 あとは全ての髪の大本が僕の頭に繋がっているので少し頭が動かし辛いのも難点か。
 切り離した後の大量の髪がもったいないというのもあるし、そのへんはスキルレベルの上昇に期待しよう。
 はあ、恐ろしい暗闇の森にあってなんという安心感。
 僕は真っ暗な黒巻貝の中に光球を浮かべ、持ってきた本を読みふける。
 快適だな。
 僕はあっという間に眠りに落ちた。




 さあ翌日だ。
 今日はいよいよオークを狩る。
 昨日色々考えてこの黒巻貝の中から一方的に攻撃して倒せないかなと思ったんだけどね。
 この黒巻貝、防御力が高いかわりに中から外があまり見えないんだ。
 それに移動もできないし。
 そのうち戦闘用の毛魔法を開発して練習することとして、今のところは就寝と緊急避難のために使用することとしよう。
 なるべく早く発動できるように練習はしているので現在では40秒ほどでがっちり防御を固められるようになった。
 これなら緊急避難には使えるだろう。
 なにせ今回は初めて戦う魔物、オークだからね。
 保険はいくつあっても足りない。
 僕はさらさらとただの毛髪の山になってしまった黒巻貝を少しもったいないと思いながらも、準備をして歩き出す。
 なにか大量の髪の使用法があるといいのだけれどね。
 今でも編みこんでロープとしては使っているけれど、他に使えるとしたらカツラとかかな。
 うーん、貴族ってなんかカツラとかかぶってるイメージあるんだけど。
 あとは音楽家とか。
 でも僕の髪はこの大陸じゃあまり一般的な色じゃないからな。
 母方の祖母が南の大陸出身の人だから僕の髪は隔世遺伝で黒いんだけど、この大陸では金髪や赤毛が多いみたいだ。
 母も父も金髪だし。
 いかんいかん、ひとりだとやっぱり余計なことばかり考えてしまうね。
 今は集中しないとオークに尻をやられちゃう。
 誰もそんなジャンルは求めてないんだよ。
 僕は集中して周囲の様子を探った。
 木立の枝が折れている場所がある。
 そこを探ると足跡を発見。
 大型の二足歩行の魔物が通った跡だ。
 おそらくオークだろう。
 僕は匂いをよく嗅いでみる。
 オークは風呂に入らないから酷い匂いがするらしいから。
 しかしオークがここを通ってから少し時間が経っているらしく何の匂いも感じることができなかった。
 獣人でもない僕の嗅覚では空気に残ったかすかな匂いなんて追えない。
 しょうがないので僕は落ちていた木の棒を真っ直ぐ立て、倒れた方向に向かった。
 その日はオークにはエンカウントしなかった。





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