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13.高貴なる血筋
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高校生活2日目。
いまだにクラスメイトとの間に溝を感じる。
だが中村と話す姿を見て、少しずつではあるがクラスメイトの俺に対する恐怖は和らいでいるような気がする。
中村は寮で俺の隣の部屋の住人ではあるが、まごうことなき一般家庭の出身者だ。
そんな学園のヒエラルキーを超えて親しく話す俺達を見たクラスメイトの中で、少しだけではあるが俺への印象が変わりつつあるようだ。
6月に行われる体育祭はクラス対抗だ。
クラスのみんなで力を合わせることが重要になってくる。
それまでには仲良くなっておきたいところだが、下手にこちらからクラスメイトに近寄っては変わりつつあるクラスメイトとの距離がまた離れてしまうかもしれない。
今はぐっと我慢し、地道に中村との会話を通して俺という人間を知ってもらう他あるまい。
そして放課後、今日も3人で家庭科部の活動している第3調理室に向かう。
まだ新入部員勧誘期間なので部としての活動は6日後からとなるが、あんなに女子生徒がいる場所に行かずにはいられない。
俺達3人は新入部員勧誘期間が終わるまで毎日家庭科部に入り浸り、中村と雪村に至ってはたらふくお菓子を食べる気なのだ。
昨日と同じように無料通話アプリで雪村を呼び出す。
だが、今日はいつまで経っても返信がない。
「雪村、どうしたんだろうな…」
中村が心配そうな顔でそう呟いた直後、ペコペコッという返信を告げる電子音が鳴る。
そこには、申し訳ないけど逆にこちらに来て欲しいと書かれていた。
俺と中村は首を傾げながらも雪村に呼ばれた部屋まで向かった。
そこは校舎本館の隣、通称サロン棟。
そこでは放課後になると金持ち達が優雅に茶を飲みながら、情報交換や人脈作りに勤しむ大小様々なサロンが開催されている。
そんなサロン棟の最上階、巨大なガラス張りの温室の中に作られた楽園。
その名を、ノーブルジャルダンという。
フランス語で高貴なる者の庭という意味らしいが、フランス語の単語が並べられているだけでフランス語の文法にはなっていないのでおそらく生徒が付けた通称だろう。
そんな部屋の前に来た俺と中村だったが、入り口で止められてしまった。
「坊ちゃん方、ここから先は高貴なる人意外は入れません。生徒証を見せてください」
俺と中村を止めたのはガタイのいいSPっぽい黒スーツの男だ。
しょうがないので俺と中村は生徒証を出し、男に渡す。
男は俺と中村の生徒証をモニターに繋がれた端末にかざす。
ピッと音がして俺と中村の情報がモニターに映し出された。
「はい、四宮要君と中村文彦君ですね。四宮君だけ入ってください。中村君は残念ながら入室条件を満たしてませんので、お引取りください」
困ったな。
俺一人しか入れないとは。
何をもって入室条件にしているんだろうか。
親の年収か、血筋か?
俺の父は別に高貴な血を引いているわけでもないので多分親の年収だろうな。
だとすればただ金を持っているだけのものをこいつらは高貴なる人と呼んでいるというわけか。
片腹痛いな。
うちのメイドを見習え。
あいつは正真正銘の魔王の娘。
まさしく高貴なる魔界の王族。
高貴というのならそれくらいのインパクトが欲しいよな。
「その人たちは入れてもいいよ」
SP風の男の後ろの扉が開いて雪村が出迎えてくれる。
こうなることが分かっていて迎えに来てくれたようだ。
「はっ、かしこまりました!」
男は直立不動で敬礼している。
やっぱり御三家は対応が違うな。
俺達と接するときは確実にこちらを子供扱いしていたというのに、雪村にはずいぶんへりくだるじゃないかあのゴリマッチョは。
今度本物の高貴な魔界のプリンセスとご対面させてやろうか。
『坊ちゃまのご命令とあらば、私その男の精神を崩壊させることもやぶさかではありません」
やめておけ。
少し精神に負荷をかける程度に留めておくんだ。
メイドをほどほどに宥め、雪村のあとをついていく。
すごい庭園だな。
これが建物の最上階にあるんだよな。
「すげぇ。空中庭園みたいだ」
まさに中村の言うとおり、窓の外に見える空とよく手入れされた庭園の調和が、まるで空に浮いた庭園のようだ。
だめだ、ろくな感想が出てこない。
もっと語彙を鍛えないとな。
「すごいよね。僕も高等部に上がって今日初めて見たんだ」
「それで、こんなところになんの用があるんだ?」
庭園は確かにすごいと思うが、正直な話こんなところでお茶会してる金持ちは俺の苦手な人種だと思うんだよな。
「うん、ここで今日ちょっとお茶会があるんだけど…」
だろうな。
こんなところに来てお料理教室なわけがない。
「そのお茶会は御三家や遊桜会の先輩方を集めたものなんだ。だから少し心細くて…」
うげ、遊桜会。
この学園で俺が一番接触したくなかった面々だ。
遊桜会とは、一言で言えば旧華族の血縁ばかりの集団だ。
華族とは昭和の時代まで存在した日本の貴族階級のことだ。
つまり遊桜会の連中は皆貴族の血を引いている。
華族が特権階級だった時代からまだ100年も経っていない。
そいつらが自分のことを高貴な存在だと思っていてもおかしくはない。
華族の多くは華族制度廃止と共にただの人になったが、財産を処分して商売を始めたものや、その人脈を生かしてうまいこと大企業の役員に納まった者もいたと聞いている。
政界にも多数の華族血縁者がいる。
真四角グループの前身となった真四角財閥の創始者のような一部の財閥華族などはかなりの額の財産があって、それを元にした商売で成功している。
遊桜会の奴らの祖父あたりがきっとそういった一部の成功者なのだろう。
なまじ成功してしまっているだけに、おそらく今も変わらず自分たちが特別な存在であるという選民意識がその老害共に残ってしまった。
そんな者たちに育てられた新世代のモンスターがこの遊桜会の連中だ。
おうち帰りたい。
いまだにクラスメイトとの間に溝を感じる。
だが中村と話す姿を見て、少しずつではあるがクラスメイトの俺に対する恐怖は和らいでいるような気がする。
中村は寮で俺の隣の部屋の住人ではあるが、まごうことなき一般家庭の出身者だ。
そんな学園のヒエラルキーを超えて親しく話す俺達を見たクラスメイトの中で、少しだけではあるが俺への印象が変わりつつあるようだ。
6月に行われる体育祭はクラス対抗だ。
クラスのみんなで力を合わせることが重要になってくる。
それまでには仲良くなっておきたいところだが、下手にこちらからクラスメイトに近寄っては変わりつつあるクラスメイトとの距離がまた離れてしまうかもしれない。
今はぐっと我慢し、地道に中村との会話を通して俺という人間を知ってもらう他あるまい。
そして放課後、今日も3人で家庭科部の活動している第3調理室に向かう。
まだ新入部員勧誘期間なので部としての活動は6日後からとなるが、あんなに女子生徒がいる場所に行かずにはいられない。
俺達3人は新入部員勧誘期間が終わるまで毎日家庭科部に入り浸り、中村と雪村に至ってはたらふくお菓子を食べる気なのだ。
昨日と同じように無料通話アプリで雪村を呼び出す。
だが、今日はいつまで経っても返信がない。
「雪村、どうしたんだろうな…」
中村が心配そうな顔でそう呟いた直後、ペコペコッという返信を告げる電子音が鳴る。
そこには、申し訳ないけど逆にこちらに来て欲しいと書かれていた。
俺と中村は首を傾げながらも雪村に呼ばれた部屋まで向かった。
そこは校舎本館の隣、通称サロン棟。
そこでは放課後になると金持ち達が優雅に茶を飲みながら、情報交換や人脈作りに勤しむ大小様々なサロンが開催されている。
そんなサロン棟の最上階、巨大なガラス張りの温室の中に作られた楽園。
その名を、ノーブルジャルダンという。
フランス語で高貴なる者の庭という意味らしいが、フランス語の単語が並べられているだけでフランス語の文法にはなっていないのでおそらく生徒が付けた通称だろう。
そんな部屋の前に来た俺と中村だったが、入り口で止められてしまった。
「坊ちゃん方、ここから先は高貴なる人意外は入れません。生徒証を見せてください」
俺と中村を止めたのはガタイのいいSPっぽい黒スーツの男だ。
しょうがないので俺と中村は生徒証を出し、男に渡す。
男は俺と中村の生徒証をモニターに繋がれた端末にかざす。
ピッと音がして俺と中村の情報がモニターに映し出された。
「はい、四宮要君と中村文彦君ですね。四宮君だけ入ってください。中村君は残念ながら入室条件を満たしてませんので、お引取りください」
困ったな。
俺一人しか入れないとは。
何をもって入室条件にしているんだろうか。
親の年収か、血筋か?
俺の父は別に高貴な血を引いているわけでもないので多分親の年収だろうな。
だとすればただ金を持っているだけのものをこいつらは高貴なる人と呼んでいるというわけか。
片腹痛いな。
うちのメイドを見習え。
あいつは正真正銘の魔王の娘。
まさしく高貴なる魔界の王族。
高貴というのならそれくらいのインパクトが欲しいよな。
「その人たちは入れてもいいよ」
SP風の男の後ろの扉が開いて雪村が出迎えてくれる。
こうなることが分かっていて迎えに来てくれたようだ。
「はっ、かしこまりました!」
男は直立不動で敬礼している。
やっぱり御三家は対応が違うな。
俺達と接するときは確実にこちらを子供扱いしていたというのに、雪村にはずいぶんへりくだるじゃないかあのゴリマッチョは。
今度本物の高貴な魔界のプリンセスとご対面させてやろうか。
『坊ちゃまのご命令とあらば、私その男の精神を崩壊させることもやぶさかではありません」
やめておけ。
少し精神に負荷をかける程度に留めておくんだ。
メイドをほどほどに宥め、雪村のあとをついていく。
すごい庭園だな。
これが建物の最上階にあるんだよな。
「すげぇ。空中庭園みたいだ」
まさに中村の言うとおり、窓の外に見える空とよく手入れされた庭園の調和が、まるで空に浮いた庭園のようだ。
だめだ、ろくな感想が出てこない。
もっと語彙を鍛えないとな。
「すごいよね。僕も高等部に上がって今日初めて見たんだ」
「それで、こんなところになんの用があるんだ?」
庭園は確かにすごいと思うが、正直な話こんなところでお茶会してる金持ちは俺の苦手な人種だと思うんだよな。
「うん、ここで今日ちょっとお茶会があるんだけど…」
だろうな。
こんなところに来てお料理教室なわけがない。
「そのお茶会は御三家や遊桜会の先輩方を集めたものなんだ。だから少し心細くて…」
うげ、遊桜会。
この学園で俺が一番接触したくなかった面々だ。
遊桜会とは、一言で言えば旧華族の血縁ばかりの集団だ。
華族とは昭和の時代まで存在した日本の貴族階級のことだ。
つまり遊桜会の連中は皆貴族の血を引いている。
華族が特権階級だった時代からまだ100年も経っていない。
そいつらが自分のことを高貴な存在だと思っていてもおかしくはない。
華族の多くは華族制度廃止と共にただの人になったが、財産を処分して商売を始めたものや、その人脈を生かしてうまいこと大企業の役員に納まった者もいたと聞いている。
政界にも多数の華族血縁者がいる。
真四角グループの前身となった真四角財閥の創始者のような一部の財閥華族などはかなりの額の財産があって、それを元にした商売で成功している。
遊桜会の奴らの祖父あたりがきっとそういった一部の成功者なのだろう。
なまじ成功してしまっているだけに、おそらく今も変わらず自分たちが特別な存在であるという選民意識がその老害共に残ってしまった。
そんな者たちに育てられた新世代のモンスターがこの遊桜会の連中だ。
おうち帰りたい。
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