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3.襲撃
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段々と、足音が近づいてきている。
普段から運動なんてしない私の足は正直言って子供より遅い。
追いつかれるのは時間の問題だ。
その前に私の体力の限界が来るけど。
「はぁはぁ、もう無理走れない……」
「ようお嬢様、この寒いのにずいぶん薄着でお出かけじゃねえか」
「俺たちが温めてやろうか?」
「傷さえ隠しゃあなかなかに綺麗な顔してるよな」
「乳がねえのが残念だがな」
追いかけてきた男たちは汚い恰好をしており、そうと分かるものも持ち合わせていないが全員伯爵家の兵士だった。
おそらくならず者の犯行に見せかけるためにそうしたのだろうが、お嬢様とか呼んでるから私に隠す気はなさそうだ。
つまり私を犯した後は殺すということなんだろうな。
『アリシア様、あっちからも来たみたいですよ』
私の行き先に使い魔を飛ばして偵察していたエレナがそう伝えてくる。
どうやら色々な方向から追い立てる作戦だったようだ。
私の体力が無さ過ぎて片方からの追っ手が追いついてしまったのは妹にとっても誤算だったことだろう。
反対側からも6人のガラの悪そうな男たちが走ってきた。
「お、まだ始まってなかったな。間に合ってよかったぜ」
「な、なあお嬢様って処女だろ?誰が一番先にやるんだ?」
「そりゃおめえ……」
人の処女を巡って気持ち悪い争いをしないでほしい。
鳥肌マックスだ。
私を取り合うならまず生まれ変わって子供になってから出直してほしい。
恋とか愛とかまだよくわからないって顔した少年同士が私を取り合う状況は想像しただけで滾るけれど、ガチムチの臭そうな男が血走った目で誰が最初に私を犯すのかを言い争っている状況なんて気持ち悪くて吐きそうだ。
というか吐いた。
「おぇぇぇっ」
『アリシア様、吐くくらいなら僕たちに命令してくださいよ』
『あいつら、斬るよ』
『我慢ならんな。こんなのが我がヨナーク伯爵領の兵士だなどとは』
「はぁ、もういいか。ルーク、とりあえず水出して。それとコート。もう寒さが限界」
『はい!!』
ルークは嬉しそうに瓶に入った飲料水と毛皮のコートを収納から取り出してくれた。
可愛すぎる。
私は飲料水で口をゆすいで吐き出し、残りをごくごくと飲んでコートを着込んだ。
極寒の北国の魔物の毛皮で作られたコートは体温を全く逃がさず、とても暖かい。
「お、おい、お嬢様どうやって今……」
「収納の魔術か?お嬢様が魔導士だったなんて聞いてないぞ?」
どうやら男たちは私が収納の魔術を使っていると判断したようだ。
これは結構都合がいい。
私は死霊術師であることを隠したいだけで、魔導士だったら別にいい。
『ルーク、エレナ、私が使っているみたいに見せかけて魔術使える?』
『できます!』
『もちろん可能ですよ。ぶっ飛ばしたい奴の方に手のひらを向けてください』
『わかった』
私はエレナに言われたとおり男の一人に手のひらを向ける。
すると私の手のひらから発生したとしか思えない軌道で水の塊が飛んでいき、男をくの字に折れ曲がるほどぶっ飛ばしてしまった。
自分が魔導士になったみたいでめっちゃ楽しい。
男たちの攻撃はルークがバリアで防いでくれるので何も心配することはない。
私は次々と男たちに手のひらを向けていく。
「くっ、剣も矢も通用しねえ!やっぱりお嬢様は魔導士だったんだ!!」
「聞いてねえよ!!ひ弱なお嬢様一人始末してついでに気持ちよくなれる簡単で美味しい仕事じゃねーのかよ!!」
兵士がそんな仕事請け負うなよ。
私は段々腹が立ってきた。
手のひらに霊力を集め、仮想の巨腕を具現化する。
『アリシア様?』
「気が変わった。こいつらは妹へのメッセンジャーになってもらう」
実の姉に対して犯して殺すように依頼する妹。
そんなものがこの世にはたくさんいることを死霊術師である私は良く知っている。
しかし実際自分がやられてみるとこんなにムカつくことなんだとは思わなかった。
こんなに簡単に請け負う人間もたくさんいるのだとは思わなかった。
若い娘を犯して殺したなんてことが知られたらこの世の中を生きていくことは難しくなるだろう。
しかし、それが誰にも知られない状況ならその依頼を受ける人間は結構多いのかもしれない。
それが人間のあるがままの姿なのだろう。
私は仮想の巨腕を伸ばし、男たちの魂をつまみ上げた。
「あがぁぁぁっ、あ、ああああ、ああああああっ」
男たちから引っ張り出した生霊に、死霊術で黒い首輪をつけていく。
死霊術はあくまでも死んだ人の霊に干渉する術なので、生霊は長く使役することはできない。
しかし今の私の力量でも半日程度であれば人間を思うがままに操ることができるのだ。
こんな術があるのが死霊術が危険な術であると言われている所以なのだろう。
しかし妹への脅しにはちょうどいい。
死霊術を使えることがバレて追っ手がつくことを私は恐れていたけれど、知られていなくても追っ手がかかっているのならもう一緒だ。
それにミーシャとケインは馬鹿なのでこれが死霊術だと気づかないかもしれない。
せいぜい盛大にビビらせてやろう。
普段から運動なんてしない私の足は正直言って子供より遅い。
追いつかれるのは時間の問題だ。
その前に私の体力の限界が来るけど。
「はぁはぁ、もう無理走れない……」
「ようお嬢様、この寒いのにずいぶん薄着でお出かけじゃねえか」
「俺たちが温めてやろうか?」
「傷さえ隠しゃあなかなかに綺麗な顔してるよな」
「乳がねえのが残念だがな」
追いかけてきた男たちは汚い恰好をしており、そうと分かるものも持ち合わせていないが全員伯爵家の兵士だった。
おそらくならず者の犯行に見せかけるためにそうしたのだろうが、お嬢様とか呼んでるから私に隠す気はなさそうだ。
つまり私を犯した後は殺すということなんだろうな。
『アリシア様、あっちからも来たみたいですよ』
私の行き先に使い魔を飛ばして偵察していたエレナがそう伝えてくる。
どうやら色々な方向から追い立てる作戦だったようだ。
私の体力が無さ過ぎて片方からの追っ手が追いついてしまったのは妹にとっても誤算だったことだろう。
反対側からも6人のガラの悪そうな男たちが走ってきた。
「お、まだ始まってなかったな。間に合ってよかったぜ」
「な、なあお嬢様って処女だろ?誰が一番先にやるんだ?」
「そりゃおめえ……」
人の処女を巡って気持ち悪い争いをしないでほしい。
鳥肌マックスだ。
私を取り合うならまず生まれ変わって子供になってから出直してほしい。
恋とか愛とかまだよくわからないって顔した少年同士が私を取り合う状況は想像しただけで滾るけれど、ガチムチの臭そうな男が血走った目で誰が最初に私を犯すのかを言い争っている状況なんて気持ち悪くて吐きそうだ。
というか吐いた。
「おぇぇぇっ」
『アリシア様、吐くくらいなら僕たちに命令してくださいよ』
『あいつら、斬るよ』
『我慢ならんな。こんなのが我がヨナーク伯爵領の兵士だなどとは』
「はぁ、もういいか。ルーク、とりあえず水出して。それとコート。もう寒さが限界」
『はい!!』
ルークは嬉しそうに瓶に入った飲料水と毛皮のコートを収納から取り出してくれた。
可愛すぎる。
私は飲料水で口をゆすいで吐き出し、残りをごくごくと飲んでコートを着込んだ。
極寒の北国の魔物の毛皮で作られたコートは体温を全く逃がさず、とても暖かい。
「お、おい、お嬢様どうやって今……」
「収納の魔術か?お嬢様が魔導士だったなんて聞いてないぞ?」
どうやら男たちは私が収納の魔術を使っていると判断したようだ。
これは結構都合がいい。
私は死霊術師であることを隠したいだけで、魔導士だったら別にいい。
『ルーク、エレナ、私が使っているみたいに見せかけて魔術使える?』
『できます!』
『もちろん可能ですよ。ぶっ飛ばしたい奴の方に手のひらを向けてください』
『わかった』
私はエレナに言われたとおり男の一人に手のひらを向ける。
すると私の手のひらから発生したとしか思えない軌道で水の塊が飛んでいき、男をくの字に折れ曲がるほどぶっ飛ばしてしまった。
自分が魔導士になったみたいでめっちゃ楽しい。
男たちの攻撃はルークがバリアで防いでくれるので何も心配することはない。
私は次々と男たちに手のひらを向けていく。
「くっ、剣も矢も通用しねえ!やっぱりお嬢様は魔導士だったんだ!!」
「聞いてねえよ!!ひ弱なお嬢様一人始末してついでに気持ちよくなれる簡単で美味しい仕事じゃねーのかよ!!」
兵士がそんな仕事請け負うなよ。
私は段々腹が立ってきた。
手のひらに霊力を集め、仮想の巨腕を具現化する。
『アリシア様?』
「気が変わった。こいつらは妹へのメッセンジャーになってもらう」
実の姉に対して犯して殺すように依頼する妹。
そんなものがこの世にはたくさんいることを死霊術師である私は良く知っている。
しかし実際自分がやられてみるとこんなにムカつくことなんだとは思わなかった。
こんなに簡単に請け負う人間もたくさんいるのだとは思わなかった。
若い娘を犯して殺したなんてことが知られたらこの世の中を生きていくことは難しくなるだろう。
しかし、それが誰にも知られない状況ならその依頼を受ける人間は結構多いのかもしれない。
それが人間のあるがままの姿なのだろう。
私は仮想の巨腕を伸ばし、男たちの魂をつまみ上げた。
「あがぁぁぁっ、あ、ああああ、ああああああっ」
男たちから引っ張り出した生霊に、死霊術で黒い首輪をつけていく。
死霊術はあくまでも死んだ人の霊に干渉する術なので、生霊は長く使役することはできない。
しかし今の私の力量でも半日程度であれば人間を思うがままに操ることができるのだ。
こんな術があるのが死霊術が危険な術であると言われている所以なのだろう。
しかし妹への脅しにはちょうどいい。
死霊術を使えることがバレて追っ手がつくことを私は恐れていたけれど、知られていなくても追っ手がかかっているのならもう一緒だ。
それにミーシャとケインは馬鹿なのでこれが死霊術だと気づかないかもしれない。
せいぜい盛大にビビらせてやろう。
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