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2.英霊とモブ霊
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ヨナーク伯爵家3代目当主ウィル、彼は当主の座を狙う弟に暗殺されて亡くなった青年で、その恨みの深さから200年以上の時が経過してもなおこの屋敷の中を彷徨い続けていた。
偶然私が恨みを静めて契約することができた霊で、私に死霊術のなんたるかを教えてくれた人でもある。
ウィルの親友で、竜騎士のクラウス。
彼はウィルが死んだことの真相を調べるうちに彼の弟に勘づかれて同じく殺されてしまった青年だ。
愛竜フラウの霊も彼の傍らを決して離れずに現世に留まっていた。
闘技場の英雄ムラクモ、彼女は女性の身でありながら剣闘士として最強の地位に登りつめた女傑。
身の丈を超える大剣を振るう怪力無双の女性だ。
自分が戦って大金を稼げば弟は売らないという奴隷商との約束を守ったが、すでに弟は売られてしまっており彼女は発狂した。
その怒りから奴隷商を虐殺したが自身も隷属の魔術の影響で死亡した。
元宮廷魔導士のSランク冒険者エレナ、彼女は宮廷魔導士のドロドロの政治闘争に嫌気がさして冒険者になった変わり者だ。
しかし冒険者にも同じように人間関係のしがらみは存在し、それが原因で仲間に裏切られて死亡した。
彼女の仲間だった冒険者たちはまだどこかで生きているらしいので、復讐を手伝うことを条件に私と契約した。
そして最後に魔導士の卵のルーク。
この5人が私の契約している守護霊になる。
ああフラウがいるから5人と1匹か。
正確には自分の人格を保っていられる霊が彼ら彼女らだけなのだ。
基本的に死霊というのはこの世にあるだけで狂っている。
狂ったような怒りや悲しみ、恨みなどの強い未練がなければ魂だけの状態でこの世に留まることなどできはしないのだ。
だけどそんな狂ったような感情の渦の中に精神を置けば、通常であればすぐに摩耗して自分が誰なのかすらわからなくなってしまう。
だから普通は死霊術で荒ぶる感情を鎮め、契約してみても、ほとんど意思のないただの人形のような霊になってしまうことがほとんどなのだ。
5人と1匹がそうならなかったのは、各々強い意思を持っていたからだ。
狂ったような感情に苛まれながらも、決して自分を失わない意思の強さこそがこの人たちの人格を繋ぎとめていたのだ。
私は意思の無い霊のことをモブ霊と呼び、意思のある霊を英霊と呼び分けている。
モブ霊は本当に融通が利かないし簡単な命令しかこなせないので契約している数には入れていない。
人の魂であることには変わりないからあまり粗雑に扱うわけにはいかないのだけど、寝転がったときに物を取ってもらったりするのについ使っちゃうんだよね。
私は死んだらモブ霊じゃなく英霊になりたいな。
そうなれるように頑張らないと。
まあ無理かもしれないけど。
「うう、さむい……」
季節は冬だ。
上着を着ることも許されず、室内着のワンピース1枚で屋敷の外に放り出された私は寒さに震えていた。
毛皮のコートなんてルークの収納には売るほど入っているが、屋敷の前で着るのはまずい。
きっと私が室内着のまま放り出されてみじめに震えている様を笑いながら見物している奴らが屋敷にはいるから、まずはここから早く離れることを考えなくては。
『アリシア様、もうコート着ましょうよ』
『そうだぞアリシア、多少能力を見せたところで誰も死霊術だなんて思わんぞ』
私が寒さに震えていることに耐えかねたのか、ルークとウィルがあれやこれやと言ってくる。
ルークは可愛いけど、ウィルはうるさい。
5人と1匹の守護霊の中で一番口うるさいのがウィルなのだ。
ご先祖様だから血も繋がっているし、孫のような感覚なのかもしれない。
大体こんな門番の目もあるようなところで話しかけて私の挙動がおかしくなったら怪しまれると思わないのかな。
私は念話で2人に伝える。
『ルーク、ありがとうね。でももう少し待って。ウィルはちょっと黙ってて。面倒だから死霊術師だって知られたくないの』
『だがな……』
『ウィル、そこまでにしておけ。アリシア様とて色々と考えておられるはずだ。屋敷から離れればコートくらい着られるのだし、それからゆっくり話せばいい』
ウィルを諫めてくれたのは竜騎士のクラウスだ。
彼は冷静沈着勇猛果敢、すべてを兼ね備えた騎士の中の騎士だ。
かといって真面目一辺倒で頭の中カッチカチの騎士ではなく、柔軟な考え方をすることもできる。
ウィルは長年の親友であるクラウスに弱い。
私は絶対この2人デキてると思う。
貴族のご婦人方愛読の恋愛小説にそういう男同士のアレやコレやが書いてあって、私はそういうことに詳しいのだ。
きっとこの2人はできてる。
だからたまに実体化させて自由時間を与えているのだけれど、未だに2人が乳繰り合う気配はない。
契約者の私にまで気取らせないとは、隠すのが上手いね。
私は少しだけニヤけながら足早に屋敷の前を去った。
とにかく動いて身体温めよう。
『4人、付いてきている』
『ええ、そこまでする?』
ムラクモが後ろを向きながら私に追跡者がいることを伝えてくれる。
どうやら妹たちは私が惨めに震えながら家を追い出されただけでは満足しないらしい。
とはいえ私は本当に屋敷からは何も持ち出していないので、死霊術のことを知らない奴らが私から奪えると思っている物など限られている。
犯されるか殺されるかのどちらか、もしくはそのどちらもかもしれない。
さすがにそこまでされたら私だって死霊術を使わない選択はない。
まあ一般人相手だったら別に英霊の誰かに戦ってもらうほどのことでもないし、モブ霊に足でも引っかけてもらってそのうちに逃げてもいい。
さて、どうしたものか。
偶然私が恨みを静めて契約することができた霊で、私に死霊術のなんたるかを教えてくれた人でもある。
ウィルの親友で、竜騎士のクラウス。
彼はウィルが死んだことの真相を調べるうちに彼の弟に勘づかれて同じく殺されてしまった青年だ。
愛竜フラウの霊も彼の傍らを決して離れずに現世に留まっていた。
闘技場の英雄ムラクモ、彼女は女性の身でありながら剣闘士として最強の地位に登りつめた女傑。
身の丈を超える大剣を振るう怪力無双の女性だ。
自分が戦って大金を稼げば弟は売らないという奴隷商との約束を守ったが、すでに弟は売られてしまっており彼女は発狂した。
その怒りから奴隷商を虐殺したが自身も隷属の魔術の影響で死亡した。
元宮廷魔導士のSランク冒険者エレナ、彼女は宮廷魔導士のドロドロの政治闘争に嫌気がさして冒険者になった変わり者だ。
しかし冒険者にも同じように人間関係のしがらみは存在し、それが原因で仲間に裏切られて死亡した。
彼女の仲間だった冒険者たちはまだどこかで生きているらしいので、復讐を手伝うことを条件に私と契約した。
そして最後に魔導士の卵のルーク。
この5人が私の契約している守護霊になる。
ああフラウがいるから5人と1匹か。
正確には自分の人格を保っていられる霊が彼ら彼女らだけなのだ。
基本的に死霊というのはこの世にあるだけで狂っている。
狂ったような怒りや悲しみ、恨みなどの強い未練がなければ魂だけの状態でこの世に留まることなどできはしないのだ。
だけどそんな狂ったような感情の渦の中に精神を置けば、通常であればすぐに摩耗して自分が誰なのかすらわからなくなってしまう。
だから普通は死霊術で荒ぶる感情を鎮め、契約してみても、ほとんど意思のないただの人形のような霊になってしまうことがほとんどなのだ。
5人と1匹がそうならなかったのは、各々強い意思を持っていたからだ。
狂ったような感情に苛まれながらも、決して自分を失わない意思の強さこそがこの人たちの人格を繋ぎとめていたのだ。
私は意思の無い霊のことをモブ霊と呼び、意思のある霊を英霊と呼び分けている。
モブ霊は本当に融通が利かないし簡単な命令しかこなせないので契約している数には入れていない。
人の魂であることには変わりないからあまり粗雑に扱うわけにはいかないのだけど、寝転がったときに物を取ってもらったりするのについ使っちゃうんだよね。
私は死んだらモブ霊じゃなく英霊になりたいな。
そうなれるように頑張らないと。
まあ無理かもしれないけど。
「うう、さむい……」
季節は冬だ。
上着を着ることも許されず、室内着のワンピース1枚で屋敷の外に放り出された私は寒さに震えていた。
毛皮のコートなんてルークの収納には売るほど入っているが、屋敷の前で着るのはまずい。
きっと私が室内着のまま放り出されてみじめに震えている様を笑いながら見物している奴らが屋敷にはいるから、まずはここから早く離れることを考えなくては。
『アリシア様、もうコート着ましょうよ』
『そうだぞアリシア、多少能力を見せたところで誰も死霊術だなんて思わんぞ』
私が寒さに震えていることに耐えかねたのか、ルークとウィルがあれやこれやと言ってくる。
ルークは可愛いけど、ウィルはうるさい。
5人と1匹の守護霊の中で一番口うるさいのがウィルなのだ。
ご先祖様だから血も繋がっているし、孫のような感覚なのかもしれない。
大体こんな門番の目もあるようなところで話しかけて私の挙動がおかしくなったら怪しまれると思わないのかな。
私は念話で2人に伝える。
『ルーク、ありがとうね。でももう少し待って。ウィルはちょっと黙ってて。面倒だから死霊術師だって知られたくないの』
『だがな……』
『ウィル、そこまでにしておけ。アリシア様とて色々と考えておられるはずだ。屋敷から離れればコートくらい着られるのだし、それからゆっくり話せばいい』
ウィルを諫めてくれたのは竜騎士のクラウスだ。
彼は冷静沈着勇猛果敢、すべてを兼ね備えた騎士の中の騎士だ。
かといって真面目一辺倒で頭の中カッチカチの騎士ではなく、柔軟な考え方をすることもできる。
ウィルは長年の親友であるクラウスに弱い。
私は絶対この2人デキてると思う。
貴族のご婦人方愛読の恋愛小説にそういう男同士のアレやコレやが書いてあって、私はそういうことに詳しいのだ。
きっとこの2人はできてる。
だからたまに実体化させて自由時間を与えているのだけれど、未だに2人が乳繰り合う気配はない。
契約者の私にまで気取らせないとは、隠すのが上手いね。
私は少しだけニヤけながら足早に屋敷の前を去った。
とにかく動いて身体温めよう。
『4人、付いてきている』
『ええ、そこまでする?』
ムラクモが後ろを向きながら私に追跡者がいることを伝えてくれる。
どうやら妹たちは私が惨めに震えながら家を追い出されただけでは満足しないらしい。
とはいえ私は本当に屋敷からは何も持ち出していないので、死霊術のことを知らない奴らが私から奪えると思っている物など限られている。
犯されるか殺されるかのどちらか、もしくはそのどちらもかもしれない。
さすがにそこまでされたら私だって死霊術を使わない選択はない。
まあ一般人相手だったら別に英霊の誰かに戦ってもらうほどのことでもないし、モブ霊に足でも引っかけてもらってそのうちに逃げてもいい。
さて、どうしたものか。
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