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45.ハーレムアドバイザー

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「盗賊団【地獄の火蜥蜴】は無事捕縛することができた。協力に感謝する」

「はぁ」

 後日、ナリキン氏のお兄さんだという人が僕の屋敷を尋ねてきた。
 だるんだるんのナリキン氏とは違い、ガッチリとした骨太のおじさんだ。
 銀色のキラキラした全身鎧を身に纏っている。
 まさにエリート騎士といった風貌の人だ。
 今日は盗賊団を捕縛することができたことへのお礼を言いにきたのだという。
 というかあの盗賊団、地獄の火蜥蜴っていう名前だったのか。
 中二臭いけど不覚にも少しかっこいいと思ってしまった。
 確かにサラマンダーが21匹出てきたときは地獄だと思ったからぴったりのネーミングかもしれない。

「背後関係はこれから調査するが、どうやら迷宮都市の上層部と盗賊が繋がっていたようだ。私の父は迷宮都市の統括官でな、私はこの街の騎士団で団長をしている。盗賊が罠に嵌めたかったのはおそらく私だろう」

「なるほどですね」

 よくわからん。
 ナリキン氏がめちゃくちゃいいとこの坊ちゃんだということしかわからなかった。
 盗賊がお兄さんを罠に嵌めたらなぜか誰かが得をするということなのだろうか。
 勝手にやって欲しいな。
 正直あの盗賊が強すぎただけの問題な気がする。
 いくら騎士団が裏切ろうが、Sランク冒険者であるナリキン氏のパーティは総合的な戦力では通常の盗賊などに負けることはない。
 
「この街の騎士団長としての話はこのへんにして、ここからは私個人の話だ。弟たちを助けてくれたこと、心から礼を言う。これは弟が使わせてもらったという転移アイテムの代金だ。受け取って欲しい」

 お兄さんは金貨のぎっしり詰まった重たい袋を僕に差し出す。
 金貨を毎日見ている僕は重さで大体の枚数を予想することができる。
 僕のみたところ、この袋には800枚くらいの金貨が入っている。
 残り転移回数が1回しか残っていない品だったとしても転移アイテムは高い。
 ナリキン氏たちのために使った転移アイテムは4個だから1個金貨200枚として、この金額はそれほど多くはないということが分かる。
 妥当な金額だ。
 案外ケチだな。
 僕はサラマンダーを1匹倒すのに転移アイテムを10個使っちゃったぞ。

「すまないがすぐに用意できる金額はこれだけだった。後日ナリキンが残りの金額を持ってくることになっている。この金額の3倍は用意することができる予定なのでそちらもできれば受け取って欲しい」

 純粋培養お金持ちを舐めていた。
 まさかこれが手付金程度に過ぎなかったとは。
 お金には別に困っていないけれど、あっても困るものではないのでもらっておこう。
 いや、困ることもあるか。
 僕のコピーした金貨と分けておかなければまた器だけコピーされることになってしまう。
 ザックスたちが毎日のようにダンジョンに潜って宝箱を見つけるので、最近はアイテムコピー以外の収入も増えてきた。
 金貨の管理はきちんとするように気を付けなければ。

「それでは私はそろそろお暇させてもらう。改めて、ナリキンたちの件と盗賊捕縛の件に深い感謝を。この街で困ったことがあったら当家を尋ねてくれ。必ず力になることを約束しよう」

 おお、すごい権力者の家系とコネクションができた。
 情けは人のためならずということだね。
 情けは人のためならず(ゲス顔)。





 最近、僕の屋敷で働く奴隷たちの間でカップルが続々と誕生している。
 奴隷といってもこの国には永続的な身分制度としての奴隷はいない。
 奴隷は身分をはく奪されてなるものであって、生まれたときから奴隷という人は存在していないのだ。
 ゆえに奴隷同士が結婚しても生まれてくる子供は平民である。
 奴隷同士の結婚や奴隷と平民の結婚なども主人の許しがあれば普通に行うことができる。
 僕は自由恋愛推奨派なのでもちろん奴隷同士だろうが平民と恋に落ちようが結婚は自由にしていいと明言している。
 それゆえ、自然と接する機会の多いこの屋敷の奴隷同士でくっつく人たちが急増しているのだ。

「はぁ、僕も奴隷の誰かと付き合いたいな」

「命令すればいいじゃねえか」

 ハーレムアドバイザーのザックスは結構それを推す。
 おそらくザックスたちの価値観では性奴隷として買ってるんだから、夜伽を命じてもなんの問題もないという感覚なのだろう。
 しかし僕は違う。
 性奴隷というのはそもそも存在が非現実的なのだ。
 あれは二次元だからいいのであって、現実ではちょっと引いてしまう。
 現実で可哀そうなのはだめだよね。
 僕にメロメロでさすがご主人様ですとか言ってくれなければ。
 
「命令がだめなら、地道に口説くしかねえな」

 口説くならばやはり他の奴隷たちよりも付き合いが少しだけ長いアリシアたち7人の誰かということになるだろう。
 短い間だったけれど苦楽を共にしてお互い裸も見ているからなのか、彼女らとの距離感は少しだけ他の女性奴隷たちよりも近い。
 僕の身の回りの世話を主にしてくれているのも彼女たちだしね。
 そのせいか、すでに僕が彼女たち7人を囲っていると思われて男性奴隷たちはあの7人に手を出さない。
 じっくり口説いても横から掻っ攫われる心配がないということは大きなメリットではある。

「おじさんからのアドバイスだ。坊ちゃんはあわよくば7人全員とやりたい。誰でもいいって思ってるんだろうがな、女はそういうのに敏感なんだ。一人の女を口説くときには、お前だけだ、お前意外見えないって顔して口説くといいぜ」

「へぇ、そうなんだ」

 そんなことしていいのかな。
 だってそれは嘘をつくってことになるのではなかろうか。
 しかしハーレムアドバイザーのザックスが言うことに間違いがあるとも思えない。
 今はザックスを信じよう。




「あの、レン様」

「ん?リンダ、どうしたの?」

 元村娘のリンダが珍しく自分から僕に話しかけてきた。
 この子は内気だからあまり話したことがないんだよね。
 まさか、僕に惚れたかな。

「お願いがあります。ライトニングエッジの魔導印を1枚頂けないでしょうか。あれがとても高価なものだとは存じております。私の一生をかけてでも代金をお支払いしますので、なにとぞ」

「え、別にいいけど。一生とか怖いから。たくさんあるから1枚くらい持っていってもいいよ」

「ありがとうございます。ありがとうございます」

 リンダは深く頭を下げ、去っていった。
 いったいなんだったんだ。
 ライトニングエッジの魔導印なんて何に使うんだろう。
 固いかぼちゃでも切るのかな。




「きゃぁぁぁぁっ、ざ、ザックスさんが、ザックスさんが死んでる!!」

「し、死んでねえ……えりくさーもってきてくれ……」

「エリクサーエリクサーを早く!」

「いったい何が……」

「リンダ、あなたその血……」

「ザックスさんが悪いんです!私だけっ、私だけって言ったのに!!」

 僕はザックスのハーレムアドバイザーの地位をはく奪することにした。


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