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31.宝箱の中身

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 ダンジョンの中でモンスターを倒した場合、速やかに素材や装備の剥ぎ取りを行わなければならない。
 なぜならダンジョンの中に放置された物は1時間ほどでダンジョンに取り込まれてしまうからだ。
 全員で協力して大量のゴブリンから魔石を取り出した。
 金属製の装備品も持って帰れば多少のお金にはなるのだけれど、僕たちは金銭を目的としてダンジョンに潜っているわけではない。
 面倒なので装備品は剥ぎ取らず、そのままダンジョンに吸収させた。
 こうしたモンスターが使っていた装備もダンジョンの宝箱の中身になるのかもしれない。
 全員が集めたゴブリンの魔石を水の魔道具で洗い、数を数えると全部で322個あった。
 ずいぶんとたくさん倒したものだ。
 一人当たり46匹くらいか。
 いや、僕は1匹たりとも自力で倒してはいないのでもう少したくさんかもしれない。
 それほど苦戦していた印象はないけれど、みんな疲れた顔をしている。
 これだけのモンスターを倒せば精霊力上げという目的は果たしているし、今日はもう宝箱を開けたら帰ることにしよう。

「宝箱を開けようか。宝箱にも罠があったりすることもあるんだよね?」

「ああ。だから迂闊に開けないほうがいいぜ。今罠を調べる」

 ザックスは宝箱に近づき、念入りに罠を調べた。
 大きな宝箱だから大きな物が出てくるとは限らないようだけれど、やはり期待はしてしまう。
 いったい何が入っているのだろうか。

「罠はないみたいだ。開けるぜ」

「頼むよ」

 宝箱には鍵などもかかっていないようで、ザックスが蓋を持ち上げると簡単に開いた。
 中にはぎっしりと木屑のようなものが詰まっており、その中に銀貨や色々なアイテムが埋もれていた。

「なにこれ」

「ちっ、生臭クズだ。付いてねえな。たまに宝箱の中が木屑で覆われていることがあるんだよ。そんでこの木屑は海の魚みてえな生臭い匂いがしやがる。他のアイテムにもその匂いが移って布製品なんかが臭くなっちまうことがあるんだよ」

「へぇ、そんなハズレみたいなものもあるんだ」

 なんの嫌がらせだろうか。
 それにしても生臭い木屑っていったい……。
 うん、それ僕の知っているものかもしれない。
 僕は大きな宝箱いっぱいに詰まっているカンナクズのような薄い木屑を少し掬い、匂いを嗅いでみる。
 魚の旨味が凝縮されたような芳醇な香りがした。
 生臭いというよりも魚臭い。
 これは、どこからどう見ても鰹節だ。
 僕は鰹節をひとつまみ口に入れる。

「坊ちゃん!なにしてんだよ!!ガキじゃねえんだからなんでもかんでも口に入れて……」

「おいしい」

「は?」

「だから、美味しいって」

 全員僕の頭がとうとう狂ってしまったという顔をしている。
 そんな可哀そうな人を見るような目で見られる筋合いはない。
 僕は狂ってなどいない。
 鰹節は日本が誇る旨味の最先端食材だ。
 鰹と微生物が生み出す奇跡だ。
 土佐藩が徳川家康にだって胸を張って献上した素晴らしい土佐の名産だ。
 まあでも、何の説明もなかったら確かにただの魚臭いおが屑にしか見えないだろう。
 僕はこれが僕の世界の食材であることを説明する。
 奴隷たちは僕が異世界からの転生者であることやアイテムコピーのスキルのことを知っている。
 裏切りようがない奴隷だからこその信頼関係というやつだ。
 
「なるほどな。まさか生臭クズが坊ちゃんの世界の食い物だったとはな。全部回収するか?」

「そうだね。手を洗ってからできるだけ清潔な入れ物に入れてくれる?箱に直接触れていた部分とか他のアイテムに触れていた部分とかは回収しなくてもいいよ」

 衛生的に問題がありそうだからね。
 ダンジョン側もなんで箱に直接入れるのか。
 何か清潔な入れ物に入れてくれればいいのに。
 この宝箱に中身を詰めている人ももしかしたら鰹節が食べ物だって知らないんじゃないかな。
 緩衝材代わりに詰められても困るよ。
 要望書を出したい。
 どこに出したらいいのかわからないけど。
 ダンジョンを作っている人が僕たちの活動を見てくれていたらいいのだけど。

「お、こいつは……」

 鰹節を布袋に詰めていたザックスが何かに気付いて手を止める。
 何かいいアイテムでも入っていたのだろうか。
 僕はザックスの手元を覗き込む。
 ザックスは何か黒いアイテムを手に持っていた。
 よく見るとそれは銃だった。
 アメリカの警察官とかが装備しているようなゴツい拳銃だ。
 なんでダンジョンから鰹節とか拳銃とかが出てくるんだろう。

「やっぱりついてるのかもな。こいつは銃だ」

「え、知ってるの?」

「ああ。ダンジョンからごく稀に出る強力な武器だ。ただ何回か撃つと使えなくなるみたいだけどな」

 なんだか断片的な情報だ。
 ザックスの話ではダンジョンで出るマジックアイテムのような扱いになっているようだ。
 銃という武器がこの世界にも根付いているわけではないということかな。
 まあ銃が武器屋で普通に売られていたら僕がわざわざ近接武器なんかを腰にぶら下げるはめにはなっていないか。

「銃を武器として製造している国というのはないの?」

「ないな。銃ってのは分解してみると魔力を使わない純粋な武器だってことが分かるらしいんだが、構造が複雑すぎて模造することに成功したって話は聞いたことがねえ。特にこいつの中に込める弾丸ってやつがどうなってんのかわからんらしいぜ」

 なるほど、確かに銃の構造は難しいよね。
 弾を打ち出すための装置は頑張れば作れるかもしれない。
 なにせ撃鉄で雷管を叩けばいいんだから簡単だ。
 でもその雷管や弾薬を作るのが難しい。
 黒色火薬なら単純だから何が含まれているのかある程度予想ができたかもしれないけれど、最近の無煙火薬っていうのは結構難しい科学薬品でできていると聞いたことがある。
 魔法世界で魔力を使わずに同じようなものを作ることはできないだろう。
 そもそも作る意味もない。
 弾丸なんか飛ばさなくても魔法を飛ばせばいいのだから。
 精霊力を上げて物理で殴ってもいい。
 この世界には銃は少し非効率的な武器だ。
 弾も限られているようだし、主に護身用の切り札なのだろう。
 しかし、使えないわけではない。
 僕のスキルを使えば弾も無限だ。
 これはとてもいいものを手に入れたかもしれない。
 さっそく明日からコピーしまくろう。



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