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チートをもらえるけど平安時代に飛ばされるボタン 押す/押さない

16.招かれざる客

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 耐えがたい寒さによって目を覚ます。
 布団代わりの毛皮は温かいが、布団のように全てを包み込んでくれるような安心感が無い。
 横にできた隙間から外気が入り込んでとても寒い。
 ガチャから敷布団が出たので前よりは良くなったが、早く掛布団も出てくれんものか。
 できれば羽毛布団を希望。
 俺は万感の祈りを込め、ガチャを回す。

 Sランク
  なし

 Aランク
  ・万能薬

 Bランク
  ・黒壇のちゃぶ台

 Cランク
  ・海苔×10
  ・昆布×10
  ・りんごジュース×10
  ・一味唐辛子×10
  ・座布団×10

 Dランク
  ・歯ブラシ
  ・飴玉×10 
  ・毛抜き

 久しぶりにAランクのアイテムが出た。
 Aランクの演出はゴージャスな金色で、なんとなく満足感がある。
 出たアイテムの万能薬は以前試してみた結果、病気や毒に効く薬ではないかと予想している。
 万能薬という名前なくらいだからおそらく身体の中の異常すべてに対して効果があるのだろう。
 Aランクのアイテムはファンタジーに片足を突っ込んでいるので期待値は高い。
 もし本当に万病に効く薬だとすればすごい価値のあるものだ。
 この時代、日本でも海外から入ってきたマラリアや天然痘なんかが流行っていたらしいから病気に効く薬はありがたい。
 仙人が病気に罹るかどうかはわからないが、用心に越したことはないからね。
 見ず知らずの人のために無償で薬を使うというようなことはする気が起きないが、もし金太郎さんや八重さんがそういった死ぬ危険性のある病気に罹ったとしたら俺は迷う事なく使うだろう。
 いざという時のために収納の指輪の中にストックしておくとしよう。
 今日はAランクだけでなく、Bランクのアイテムまで出ている。
 黒檀のちゃぶ台は高級感のある焦げ茶色のちゃぶ台だ。
 古しきゆかしき足が4本の丸い座卓。
 しかしその材質はこの上なく上質。
 確か黒檀ってすごい高い木材じゃなかったかな。
 Bランクのアイテムに家具が出るのは初めてだが、これはこれでいいものだ。
 みんなでご飯を食べるときとかに使わせてもらうとしよう。
 ちょうど座布団も10枚出たことだし。
 それにしても羽毛布団が出るように祈ったのに座布団を出すとは、俺をこの時代に送った神様は結構意地悪だな。






 朝の冷え込んだ空気の中、深呼吸をして大地の気を取り込めば身体がふわりと温かくなって寒さを感じなくなる。
 最初からこうすればよかった。
 明日からは起きたらすぐやろう。
 俺は欠伸をしながら大斧を振りかぶり、太い丸太に振り下ろす。
 これから雪が降れば外で薪割りをするのは大変になる。
 それまでに薪をたくさん割って蓄えておかなければならない。

「何度見ても信じられないな、そのようなひょろい身体で俺でも持ち上がらん大斧を振れるとは。それに、腕が生えてきたことも。お前本当に人ならざる者ではないのか?」

「そのはずなんですけどね」

 仙人になりだいぶ人間離れしてきている俺だが、一応まだ人間のつもりだ。
 ちなみに父親や母親が幼い頃に失踪した謎の人物だったりもしない。
 祖父母も妖怪だったりはしない。
 みんな普通の人間だった。
 俺の身に起こっていることはすべてこの時代にトリップさせた神と、もらったスマホの力に起因するものだ。
 現代に生きていてそういった人以外の存在なんか感じたこともないからな。
 でもこの時代にはいるんだよな、本当に人ではない存在が。
 現に金太郎さんたちはその血を受け継いでいるという。
 俺の隣で普通の斧で薪を割っている金太郎さんからは、微かに霊力以外のなんらかのエネルギーを感じた。
 仮に妖力と呼んでおこう。
 別に邪悪さを感じたりもしないから、悪いものではないのだろう。
 ただ、妖力は霊力と違って生きてるもののエネルギーって感じがしないんだよな。
 電気分解によって作り出された水素のような、もっと無機質なエネルギー源のような気がする。
 しかしその分純度が高く、高出力なのだろう。
 金太郎さんの肉体がハイスペックなのはおそらくそのせいもある。
 八重さんの身体能力はわからないけど、妖力の大きさでいったら八重さんのほうが大きいんだよな。
 八重さんのほうが血が濃いってことなのかな。
 あまり話題に出たことがないけど、金太郎さんのお父さんは人間なのだろうか。
 普通に考えて人ならざる者がそんなにたくさんいるわけないのだから人間なんだろうけど、なんとなく聞くのを躊躇してしまう話題だ。
 一緒に暮らしていないということは何かあったってことだからね。
 坂田金時のお父さんは宮中で働く坂田蔵人という人だったとか、はたまた龍神だったとか言われている。
 そもそも坂田金時自身が存在していたことが確かではない人物なのだからその出自が謎なのも当然の話だ。
 気になるし一度聞いてみようかな。
 八重さんに直接聞くよりもまずは金太郎さんに聞いてみたほうが心理的抵抗が少ないかもしれない。

「あの、金太郎さん……」

「待て、どうやら客みたいだ」

「えぇ……」

 なんというタイミングの悪さだ。
 というかこんないつ雪が降り始めるかわからないような時期に足柄山に登ってくる人なんているのだろうか。
 しばらくすると馬の蹄の音が聞こえてきた。
 馬に乗ってる人って普通の農民とかではないよな。
 なんだかろくなことが起こる予感がしない。
 見た目からしてファンタジーな武器の戦斧は指輪にしまっておくことにしよう。
 俺と金太郎さんは並んで立ち、そのお客さんとやらを待った。
 5分ほどすると馬に乗った大勢の人が家の前までたどり着く。
 見るからにいい着物を着た人たちだ。
 たしか狩衣というのだっただろうか、平安時代といえばこの恰好というような服装だ。
 全員男で、弓を持ち日本刀ではない直剣を腰にぶら下げている。
 鉄を鍛えて作った刀は高価なものなはずだから、腰から提げているのは青銅の剣かもしれない。
 なんにせよ剣やら弓やら持った人に囲まれるというのはかなり怖い。
 俺がビビッて固まっていると、隣の金太郎さんが口を開く。

「お前ら、何だ」

「我らは泣く子も黙る大貴族、藤原家に連なる一団だ。これより狼を狩る。山を案内せい」

 藤原家に連なる人って、星の数ほどいる気がするけどね。

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