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チートをもらえるけど平安時代に飛ばされるボタン 押す/押さない
6.足柄山の金太郎
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「いっぱい食べてね」
「いただきます」
八重さんが持ってきてくれたのは、乳白色の雑穀粥だった。
ミルク粥だろうか。
『よくわかる平安時代』で検索したこの時代の料理とは少し異なっているな。
なんの乳で煮込んだお粥かはわからないけど、この時代だったらまだヤギとか飼ってる人はほとんどいないと思うから牛乳くらいしかないんじゃないかな。
しかし牛も乳をとるために飼っているわけではなく、貴族が乗るための牛車を牽くためのものだ。
牛乳は副次的な産物でしかなく、買うとしたらとんでもなく高いのではなかろうか。
食べて大丈夫なのかな。
「心配するな。牛の乳はおかあが牛飼いから薬の対価に貰ったものだ。俺とおかあだけでは腐らせてしまうだけの代物ゆえ、遠慮することはない」
「そうよ、牛の乳は滋養がいっぱいだからね。食べれば早く傷がよくなるの」
じゃあ遠慮なく、とはいかんでしょ。
薬もまた、確かな効能があるならばこの時代では高いものだろう。
その対価としてもらったのならばその牛乳はやはり高いものだ。
しかし出されたものを遠慮しますと言って返すのも失礼だ。
何か対価を支払いたいな。
俺の持っているものといえば、何があるだろうか。
そういえばガチャから出た物の検証中にあんなことになってしまったんだったな。
収納の指輪はどこにいったのかと探すと、枕元に置いてあった。
これもまた綺麗な細工の入った値打ち物には違いない。
黙って自分たちのものとしてしまえば俺には知りようがないものを、律儀なことだ。
確か米俵が10個くらいあったはずだからいくらかあげたいところだけど、収納の指輪からいきなり取り出したら驚くだろうな。
かといってズボンのポケットから取り出したように見えるくらい小さいものといえば、Sランクの仙丹かAランクの傷薬、Dランクのたわしくらいしか無い。
また極端なラインナップだ。
SランクとAランクは良いアイテムなんだろうけど、神槍グングニルの前科があるからな。
検証してないアイテムはやめとこう。
たわしはランクの低いアイテムだが、検証の必要もなくまごうことなくたわしだろう。
だが、逆に言えばたわしでしかないからな。
それほど価値があるとは思えない。
たわしだろうがなんだろうが、タダ飯を食うよりはマシかもしれんけどな。
俺は仕方なく、たわしを差し出した。
「あの、この指輪はどうしても渡すことができなくて。それ以外だと今はこんなものしか持ってなくて……」
「そんなのいいってのに。しかしこりゃあ、いったい何に使うもんだ?」
「食べ終わった器とか、洗うのに便利ですよ」
「なるほどな。おかあ、貰っとけ」
八重さんはたわしを受け取り、物珍し気に眺めている。
どうやらこの時代には似たようなものはないようだ。
丸い亀の甲羅のような形のたわしは意外に新しい時代の発明品なのかもしれない。
少しだけこのミルク粥を食べる心苦しさが紛れた。
温かいうちに頂くとしよう。
しかし、左腕1本で食べるのは難しいな。
少し行儀が悪いが器に口を付けて啜るか。
木の椀に入った湯気の出る粥に息を吹きかけて冷まし、一口頂く。
ミルクの優しい甘みと粥の塩味が身体に染みわたるようだ。
「美味い……」
「そう、よかった。おかわりもあるからね」
「ありがとうございます」
一口、また一口と俺は粥を啜った。
時には八重さんに手助けされながら、結局粥を2杯も食べた。
たわし1個では対価が少なすぎるよな。
なんらかの形で米の1俵でも渡せないものか。
次の日、金太郎さんと八重さんはふもとの村に薬を届けるために出かけて行った。
八重さんの作る薬がよく効くことは俺自身が実感している。
この時代、効果の高い薬は高く売れることだろう。
そのおかげか金太郎さんと八重さんはこの時代の庶民にしては裕福な暮らしをしているらしい。
しかしふもとと言ったように2人の家は人里離れた山の中にあり、何やら訳あり感を醸し出している。
そしてこの山の名前は足柄山。
なんか聞いたことのある話だ。
足柄山の金太郎といえば現代でも有名人だろう。
源頼光の四天王のうちでもその出自が謎に包まれ、存在すら疑問視されている武将の一人坂田金時。
まさかり担いだ金太郎のモデルは彼だと言われている。
金太郎さんは坂田金時その人なのだろうか。
それにしても、足柄山といえば俺の暮らしていたマンションから直線距離ではそれほど離れていたわけではなかった。
もしかしたら2人が薬を届けに向かったふもとの村というのが未来の俺の地元かもしれない。
神奈川県側かもしれないけどな。
この家に住んでいる金太郎さんがもし坂田金時だったとしたら、まだ源頼光には仕えていないということになる。
それだけ分かれば今が何年なのか大体予想することが可能だ。
よくわかる平安時代で坂田金時を検索してみれば、何年に源頼光と出会ったのかがわかる。
歴史に絶対はないが、976年という説が有力なようだ。
坂田金時の生まれは推定956年頃。
ということは金時は20歳くらいのときに頼光と出会ったことになる。
悪役レスラーみたいな見た目の金太郎さんの現在の年齢はぱっと見ではわからないけれど、15、6ではないことは確かだろう。
ということはもう頼光と出会う直前である可能性が高い。
ならば現在は西暦976年前後だろう。
なかなかに大変そうな時代だ。
「いただきます」
八重さんが持ってきてくれたのは、乳白色の雑穀粥だった。
ミルク粥だろうか。
『よくわかる平安時代』で検索したこの時代の料理とは少し異なっているな。
なんの乳で煮込んだお粥かはわからないけど、この時代だったらまだヤギとか飼ってる人はほとんどいないと思うから牛乳くらいしかないんじゃないかな。
しかし牛も乳をとるために飼っているわけではなく、貴族が乗るための牛車を牽くためのものだ。
牛乳は副次的な産物でしかなく、買うとしたらとんでもなく高いのではなかろうか。
食べて大丈夫なのかな。
「心配するな。牛の乳はおかあが牛飼いから薬の対価に貰ったものだ。俺とおかあだけでは腐らせてしまうだけの代物ゆえ、遠慮することはない」
「そうよ、牛の乳は滋養がいっぱいだからね。食べれば早く傷がよくなるの」
じゃあ遠慮なく、とはいかんでしょ。
薬もまた、確かな効能があるならばこの時代では高いものだろう。
その対価としてもらったのならばその牛乳はやはり高いものだ。
しかし出されたものを遠慮しますと言って返すのも失礼だ。
何か対価を支払いたいな。
俺の持っているものといえば、何があるだろうか。
そういえばガチャから出た物の検証中にあんなことになってしまったんだったな。
収納の指輪はどこにいったのかと探すと、枕元に置いてあった。
これもまた綺麗な細工の入った値打ち物には違いない。
黙って自分たちのものとしてしまえば俺には知りようがないものを、律儀なことだ。
確か米俵が10個くらいあったはずだからいくらかあげたいところだけど、収納の指輪からいきなり取り出したら驚くだろうな。
かといってズボンのポケットから取り出したように見えるくらい小さいものといえば、Sランクの仙丹かAランクの傷薬、Dランクのたわしくらいしか無い。
また極端なラインナップだ。
SランクとAランクは良いアイテムなんだろうけど、神槍グングニルの前科があるからな。
検証してないアイテムはやめとこう。
たわしはランクの低いアイテムだが、検証の必要もなくまごうことなくたわしだろう。
だが、逆に言えばたわしでしかないからな。
それほど価値があるとは思えない。
たわしだろうがなんだろうが、タダ飯を食うよりはマシかもしれんけどな。
俺は仕方なく、たわしを差し出した。
「あの、この指輪はどうしても渡すことができなくて。それ以外だと今はこんなものしか持ってなくて……」
「そんなのいいってのに。しかしこりゃあ、いったい何に使うもんだ?」
「食べ終わった器とか、洗うのに便利ですよ」
「なるほどな。おかあ、貰っとけ」
八重さんはたわしを受け取り、物珍し気に眺めている。
どうやらこの時代には似たようなものはないようだ。
丸い亀の甲羅のような形のたわしは意外に新しい時代の発明品なのかもしれない。
少しだけこのミルク粥を食べる心苦しさが紛れた。
温かいうちに頂くとしよう。
しかし、左腕1本で食べるのは難しいな。
少し行儀が悪いが器に口を付けて啜るか。
木の椀に入った湯気の出る粥に息を吹きかけて冷まし、一口頂く。
ミルクの優しい甘みと粥の塩味が身体に染みわたるようだ。
「美味い……」
「そう、よかった。おかわりもあるからね」
「ありがとうございます」
一口、また一口と俺は粥を啜った。
時には八重さんに手助けされながら、結局粥を2杯も食べた。
たわし1個では対価が少なすぎるよな。
なんらかの形で米の1俵でも渡せないものか。
次の日、金太郎さんと八重さんはふもとの村に薬を届けるために出かけて行った。
八重さんの作る薬がよく効くことは俺自身が実感している。
この時代、効果の高い薬は高く売れることだろう。
そのおかげか金太郎さんと八重さんはこの時代の庶民にしては裕福な暮らしをしているらしい。
しかしふもとと言ったように2人の家は人里離れた山の中にあり、何やら訳あり感を醸し出している。
そしてこの山の名前は足柄山。
なんか聞いたことのある話だ。
足柄山の金太郎といえば現代でも有名人だろう。
源頼光の四天王のうちでもその出自が謎に包まれ、存在すら疑問視されている武将の一人坂田金時。
まさかり担いだ金太郎のモデルは彼だと言われている。
金太郎さんは坂田金時その人なのだろうか。
それにしても、足柄山といえば俺の暮らしていたマンションから直線距離ではそれほど離れていたわけではなかった。
もしかしたら2人が薬を届けに向かったふもとの村というのが未来の俺の地元かもしれない。
神奈川県側かもしれないけどな。
この家に住んでいる金太郎さんがもし坂田金時だったとしたら、まだ源頼光には仕えていないということになる。
それだけ分かれば今が何年なのか大体予想することが可能だ。
よくわかる平安時代で坂田金時を検索してみれば、何年に源頼光と出会ったのかがわかる。
歴史に絶対はないが、976年という説が有力なようだ。
坂田金時の生まれは推定956年頃。
ということは金時は20歳くらいのときに頼光と出会ったことになる。
悪役レスラーみたいな見た目の金太郎さんの現在の年齢はぱっと見ではわからないけれど、15、6ではないことは確かだろう。
ということはもう頼光と出会う直前である可能性が高い。
ならば現在は西暦976年前後だろう。
なかなかに大変そうな時代だ。
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