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94.つまずく商売
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「もう無理だ。やっぱりこれを使うしかないかな……」
俺は前々から用意していた計画書を取り出す。
A4くらいの和紙に建物の見取り図のようなものが描かれ、注釈がびっしり書かれている。
それが30枚くらい束になった計画書。
あまり未来に影響するようなことはしたくなかったけれど、食糧事情が良くなるのを何十年も待ってはいられないしな。
そもそも、ことの発端は最近始めた交易だ。
交易が全く上手くいかない。
未来ではビジネスなんて簡単に始められるイメージだった。
1円起業って言葉が流行り、女子高生社長がテレビでもてはやされた。
平成の時代に起業するのなんて簡単なんだなって思ったものだ。
だけど新会社法が施行されたのは案外最近で、それまではビジネスっていうのは資本金がたくさん必要だったりして敷居の高いものだった。
時代は繰り返すと言うけれど、この時代も古い既得権益や凝り固まった考えを取り払って信長や他の侍が楽市楽座をやり始めた時代だ。
商売に自由を与え、経済を回そうって時代だ。
正直俺はビジネスを舐めていた。
今は資本金1円で起業できて社長になるなんて簡単なんだぜって大学の同級生が在学中に社長になったから、あんな馬鹿な奴でも会社経営できるんだと思ったものだ。
だけど新会社法で起業は簡単になっても、会社経営が馬鹿でもできるようになったわけではない。
大学卒業後たまたま街でばったり会ったその同級生はフリーターになっていたよ。
今の俺はあのときの同級生と似た状況なのかもしれないな。
ビジネスを舐めてかかってはいけない。
でも戦国時代にチートやダンジョン、AIまであればビジネスなんて簡単だと思うじゃん。
そう思って意気揚々と南蛮船で尾張に上陸したさ。
もちろん反重力エンジンなんてハイテクなものが積まれたわけわからん船だ。
乗り心地は最高だったさ。
我が物顔で熱田に降り立って商売を始めた俺。
だけどビジネスに必要なのはチートやダンジョン、AI、反重力船でもなかったということだ。
コネとか、人を見る目とか、信用とか、そういうものがビジネスには必要だったんだね。
特にこの時代は商人も普通に金を持ち逃げするし支払いを踏み倒す。
物の値段に決まりなんて無いから買い叩きやぼったくりも多い。
信用できる取引先っていうのを見極める目がなければまともに商売をするのも難しい状況だ。
中国で一からビジネスを始めると思ってくれたらいい。
ボケッとしてたら何もかも毟り取られそうでしょ。
才能とセンスと度胸と勇気と運、その他色々が必要だ。
それでも南蛮船で乗り付ければ少しはビビッてまともな取引をしてくれるところもあったさ。
だけど南蛮船に乗ってきて商売しているのが俺のようなひょろっとした生粋の日本人だと知れ渡るとたちまち舐められて商売にならなくなった。
誰の許可をもらって商売しているって強面が出てきた回数も数え切れない。
楽市楽座じゃねーのかよ。
俺はちゃんと勘九郎君から商売の許可をもらっているというのに、誰も信じてくれない。
許可証の署名がビッグネームすぎて逆に偽物を疑われる状態だ。
織田家がバックにいるんだぜって言っておけば少しは商売がやりやすくなるかもしれないと思って勘九郎君の名前を借りたのだけど、俺の考えが甘かったようだ。
こんなことなら木っ端侍コミュニティの出世頭である殿の署名でももらってこればよかった。
殿の知名度はビッグすぎず木っ端すぎずちょうどいい。
ああ、あの人くらいならお前みたいなもんにも名前貸してくれるかもなみたいないい信憑性がある。
しかしそんなことを思いつく頃には、俺の豆腐メンタルは豆板醤で炒められていい匂いになっていた。
もう尾張嫌い。
尾張嫌い、滅ぼす。
やろうと思ったらできてしまうのがチート野郎の怖いところだ。
誰だ豆腐メンタルの奴にこんなもの与えたの。
そして冒頭の計画書に繋がる。
この計画書は、日本列島ダンジョン化計画の計画書だ。
こんな時代に、商売で大量の食料を日本列島に流すのは不可能だと俺は判断した。
俺は食料の値段を下げたいと思って大量の食料を流すのだけれど、絶対に誰かが買い占めるに決まっている。
食糧難の時代に食料の買い占めで相場を釣り上げるなんてこと、さすがにやらないだろうって思っていた。
でも実際に商人と接してみて確信したよ。
あいつら絶対やる。
というかすでにやってる。
食料の値段が下がらないように少しずつ少しずつ市場に流して大儲けしているんだ。
最悪だよ。
そういえば戦後の米騒動も同じような原因で起きたんだったと思った。
スケルトンさんたちの頑張りで膨大な米が取れそうだから売り浴びせで無理矢理暴落させることもできるけれど、それでは本当に金が必要で米を売りに来た人に迷惑がかかってしまう。
AIの演算でどうすれば米の値段を下げられるのか計算できないかと雪斎に聞いてみたりもしたが……。
『日本全国の米相場のデータとかあるのでござるか?拙者、算術は得意でござるがデータもなしに演算は無理でござるよ。AIだからなんでも計算できるとかそんなのは二次元の中だけでござるよ』
悔しいが正論だ。
やはり商売で食糧難を脱するのは難しい。
だけどタダで配るってのも愚策だ。
タダより高いものは無いって言うし、米屋が困る。
そこで俺は考えたんだ。
米でも鉄でも、金貨でも、なんでも手に入る塔があったらと。
必要なのは勇気と知恵、そして力。
命がけで隣の村の米を盗みに行くこの時代だ。
そんなことしなくても、塔で命をかければいい。
そこにはすべてがあるのだ。
ダンジョンで食い詰め者が食べ物を求めるのは間違っているのだろうか。
俺は前々から用意していた計画書を取り出す。
A4くらいの和紙に建物の見取り図のようなものが描かれ、注釈がびっしり書かれている。
それが30枚くらい束になった計画書。
あまり未来に影響するようなことはしたくなかったけれど、食糧事情が良くなるのを何十年も待ってはいられないしな。
そもそも、ことの発端は最近始めた交易だ。
交易が全く上手くいかない。
未来ではビジネスなんて簡単に始められるイメージだった。
1円起業って言葉が流行り、女子高生社長がテレビでもてはやされた。
平成の時代に起業するのなんて簡単なんだなって思ったものだ。
だけど新会社法が施行されたのは案外最近で、それまではビジネスっていうのは資本金がたくさん必要だったりして敷居の高いものだった。
時代は繰り返すと言うけれど、この時代も古い既得権益や凝り固まった考えを取り払って信長や他の侍が楽市楽座をやり始めた時代だ。
商売に自由を与え、経済を回そうって時代だ。
正直俺はビジネスを舐めていた。
今は資本金1円で起業できて社長になるなんて簡単なんだぜって大学の同級生が在学中に社長になったから、あんな馬鹿な奴でも会社経営できるんだと思ったものだ。
だけど新会社法で起業は簡単になっても、会社経営が馬鹿でもできるようになったわけではない。
大学卒業後たまたま街でばったり会ったその同級生はフリーターになっていたよ。
今の俺はあのときの同級生と似た状況なのかもしれないな。
ビジネスを舐めてかかってはいけない。
でも戦国時代にチートやダンジョン、AIまであればビジネスなんて簡単だと思うじゃん。
そう思って意気揚々と南蛮船で尾張に上陸したさ。
もちろん反重力エンジンなんてハイテクなものが積まれたわけわからん船だ。
乗り心地は最高だったさ。
我が物顔で熱田に降り立って商売を始めた俺。
だけどビジネスに必要なのはチートやダンジョン、AI、反重力船でもなかったということだ。
コネとか、人を見る目とか、信用とか、そういうものがビジネスには必要だったんだね。
特にこの時代は商人も普通に金を持ち逃げするし支払いを踏み倒す。
物の値段に決まりなんて無いから買い叩きやぼったくりも多い。
信用できる取引先っていうのを見極める目がなければまともに商売をするのも難しい状況だ。
中国で一からビジネスを始めると思ってくれたらいい。
ボケッとしてたら何もかも毟り取られそうでしょ。
才能とセンスと度胸と勇気と運、その他色々が必要だ。
それでも南蛮船で乗り付ければ少しはビビッてまともな取引をしてくれるところもあったさ。
だけど南蛮船に乗ってきて商売しているのが俺のようなひょろっとした生粋の日本人だと知れ渡るとたちまち舐められて商売にならなくなった。
誰の許可をもらって商売しているって強面が出てきた回数も数え切れない。
楽市楽座じゃねーのかよ。
俺はちゃんと勘九郎君から商売の許可をもらっているというのに、誰も信じてくれない。
許可証の署名がビッグネームすぎて逆に偽物を疑われる状態だ。
織田家がバックにいるんだぜって言っておけば少しは商売がやりやすくなるかもしれないと思って勘九郎君の名前を借りたのだけど、俺の考えが甘かったようだ。
こんなことなら木っ端侍コミュニティの出世頭である殿の署名でももらってこればよかった。
殿の知名度はビッグすぎず木っ端すぎずちょうどいい。
ああ、あの人くらいならお前みたいなもんにも名前貸してくれるかもなみたいないい信憑性がある。
しかしそんなことを思いつく頃には、俺の豆腐メンタルは豆板醤で炒められていい匂いになっていた。
もう尾張嫌い。
尾張嫌い、滅ぼす。
やろうと思ったらできてしまうのがチート野郎の怖いところだ。
誰だ豆腐メンタルの奴にこんなもの与えたの。
そして冒頭の計画書に繋がる。
この計画書は、日本列島ダンジョン化計画の計画書だ。
こんな時代に、商売で大量の食料を日本列島に流すのは不可能だと俺は判断した。
俺は食料の値段を下げたいと思って大量の食料を流すのだけれど、絶対に誰かが買い占めるに決まっている。
食糧難の時代に食料の買い占めで相場を釣り上げるなんてこと、さすがにやらないだろうって思っていた。
でも実際に商人と接してみて確信したよ。
あいつら絶対やる。
というかすでにやってる。
食料の値段が下がらないように少しずつ少しずつ市場に流して大儲けしているんだ。
最悪だよ。
そういえば戦後の米騒動も同じような原因で起きたんだったと思った。
スケルトンさんたちの頑張りで膨大な米が取れそうだから売り浴びせで無理矢理暴落させることもできるけれど、それでは本当に金が必要で米を売りに来た人に迷惑がかかってしまう。
AIの演算でどうすれば米の値段を下げられるのか計算できないかと雪斎に聞いてみたりもしたが……。
『日本全国の米相場のデータとかあるのでござるか?拙者、算術は得意でござるがデータもなしに演算は無理でござるよ。AIだからなんでも計算できるとかそんなのは二次元の中だけでござるよ』
悔しいが正論だ。
やはり商売で食糧難を脱するのは難しい。
だけどタダで配るってのも愚策だ。
タダより高いものは無いって言うし、米屋が困る。
そこで俺は考えたんだ。
米でも鉄でも、金貨でも、なんでも手に入る塔があったらと。
必要なのは勇気と知恵、そして力。
命がけで隣の村の米を盗みに行くこの時代だ。
そんなことしなくても、塔で命をかければいい。
そこにはすべてがあるのだ。
ダンジョンで食い詰め者が食べ物を求めるのは間違っているのだろうか。
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