チートをもらえるけど戦国時代に飛ばされるボタン 押す/押さない

兎屋亀吉

文字の大きさ
上 下
91 / 131

91.刀の話

しおりを挟む
「いいですか?ここに目釘というものがあります。この目釘抜きという道具をこの目釘に当て、槌かなにかで軽く叩くと抜けます。刀の柄をとめているのはこの目釘だけなので、これが抜けると柄が簡単に抜けます。柄を持って、手首のあたりをもう片方の手でこつんと叩くだけです。危ないですので刀を振るときには、この目釘がちゃんと入っているかを確認するようにしてくださいね」

「へー、こんな重たい刀の柄をとめているのがこんな金属製でもないクギなんだ」

 久しぶりに暇になったので、俺は雪さんに刀の手入れのしかたを習っている。
 武士たるもの、刀の手入れのしかたも知らないのはどういうことだと勘九郎君に言われたのもある。
 今まで俺は刀の手入れを鍛冶屋さんや雪さんに任せきりだったんだけど、まあ自分でもちょっとは覚えたほうがいいかなとは前々から思っていたところだ。
 他の侍と話していても、刀の話とか全然ついていけないからね。

「刀身を柄から外したら次にセッパやツバ、ハバキなど全部簡単に取れますから全て外していきます。あとは研ぐだけです。まあ研ぎは普段は研ぎ師の方に任せておいたほうがいいかもしれませんね。難しいですから」

「砥石に刀身を当てて擦ればいいんじゃないの?簡単そうに見えるけど」

「研ぎを舐めないでください」

「はい、すみません……」

「刃物の研ぎで重要なのは、角度です。ずっと同じ角度で刀身を砥石に押しつけ続けなければ刃の表面が丸くなってしまいます。丸くなった刃では何も切れませんよ。真っ直ぐ鋭く刀を研げるようになるには、それなりの期間の修行が必要だと聞きます。刀を駄目にしてしまわぬためにも、本格的な研ぎは研ぎ師の方に任せたほうが良いのです」

 研ぎってそんなに難しいんだな。
 プロに任せるのが無難か。
 でも研ぎがないなら、刀の手入れって他に何をするのかな。

「軽く錆を落とす程度の研ぎだったら自分でもできると思いますから、表面に錆が浮いていたときにはこのまま研ぎます。この目釘の抜き方だけは覚えておいてください」

「わかった。それで、研がないときはどんな手入れが必要なの?」

「基本的に、刀の手入れは表面に塗った油を新しいものに変えるだけですね」

「油なんて塗ってあるんだ」

「当然です。刀は鉄でできていますから、油が塗ってなかったらあっという間に錆びてしまいますよ」

 そっか、この時代に錆止め加工なんて無いよね。
 つるつるとした鏡面仕上げもメッキを吹き付けているわけではなく、金属を長時間かけて磨いて作った本物の鏡面仕上げなんだ。
 当然タングステンやクロムを含んだ合金なんて無いから、鉄オンリーなんだよな。
 だから手入れを怠ると錆びてしまうんだな。

「まずは下拭いです。古い油や汚れなどをふき取ります。拭うときに使うのはこの拭い紙と呼ばれる紙です。これは奉書紙です。いわゆるいい紙です。コウゾ紙の中でも、この紙が刀の手入れに一番適しているといわれています。善次郎さん、普段懐紙とか持ち歩いていませんよね。色々使い道がありますから、懐に何枚か入れておくといいですよ?」

「ティッシュでよくない?」

「あの紙は確かに便利ですが、懐紙は別に鼻水を拭いたり刀の血糊を拭ったりするためだけのものではないのですよ?たとえばお菓子をいただくときにお皿の代わりにしたり、文字を書いたり、人に銭を渡すときに軽く包んだり。ティッシュで同じことができますか?」

 なるほど確かに懐から懐紙を取り出して色々なことに使うというのはスマートでちょっとかっこいいかもしれない。
 侍同士で金銭のやり取りをするような身分になってきた最近では、やっぱ銭を裸で渡すのってなんかスマートじゃないなとか思いはじめたところだ。
 
「奉書紙は買い置きがありますから、外出する際には持っていってくださいね。刀の手入れの話に戻ります。奉書紙を一度くしゃくしゃに丸めます。適度に柔らかくなって拭きやすくなります。こうして、手を切らないように気を付けて拭ってくださいね」

「了解」

 柔らかくなった紙で根本のほうから切っ先に向けて拭っていく。
 何度か拭うと、刀身に塗ってあった油がとれて刀身のツヤが少し曇ったように思える。

「表面の油や汚れが落ちたら、この打ち粉というものを刀の刀身に振りかけます。中に入っているのは砥石の粉ですね。それを紙で包んで、更に布で包んだものになります。この棒の部分を持って、トントンと刀身に当ててやれば適量の粉が刀身に付着します」

「ああ、これは見たことがある。何してるんだろうと思ってたんだけど、粉を付けてたんだ」

 時代劇なんかでよく見るやつだ。
 白い布玉みたいなやつの付いた棒で刀身をパフパフしてるやつ。
 砥石の粉を刀身にまぶしていたんだな。

「あまり粉をつけすぎないように気を付けてくださいね。砥石の粉ですから、表面が削れてしまいます」

「わかった」

「適量の粉がついたら、また拭い紙で拭います。綺麗になりましたね。表面に錆などが浮かんでいて、軽く研ぐ必要がある場合でもここまでの作業は同じですので覚えておいてくださいね。今回は綺麗ですので、また油を塗って柄をはめて終了です」

 なるほど、結構簡単でよかった。
 これなら俺ひとりでもできそうだ。
 やるかどうかは別として。
 できるけどやらないとできないは大違いだからね。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

処理中です...