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91.刀の話
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「いいですか?ここに目釘というものがあります。この目釘抜きという道具をこの目釘に当て、槌かなにかで軽く叩くと抜けます。刀の柄をとめているのはこの目釘だけなので、これが抜けると柄が簡単に抜けます。柄を持って、手首のあたりをもう片方の手でこつんと叩くだけです。危ないですので刀を振るときには、この目釘がちゃんと入っているかを確認するようにしてくださいね」
「へー、こんな重たい刀の柄をとめているのがこんな金属製でもないクギなんだ」
久しぶりに暇になったので、俺は雪さんに刀の手入れのしかたを習っている。
武士たるもの、刀の手入れのしかたも知らないのはどういうことだと勘九郎君に言われたのもある。
今まで俺は刀の手入れを鍛冶屋さんや雪さんに任せきりだったんだけど、まあ自分でもちょっとは覚えたほうがいいかなとは前々から思っていたところだ。
他の侍と話していても、刀の話とか全然ついていけないからね。
「刀身を柄から外したら次にセッパやツバ、ハバキなど全部簡単に取れますから全て外していきます。あとは研ぐだけです。まあ研ぎは普段は研ぎ師の方に任せておいたほうがいいかもしれませんね。難しいですから」
「砥石に刀身を当てて擦ればいいんじゃないの?簡単そうに見えるけど」
「研ぎを舐めないでください」
「はい、すみません……」
「刃物の研ぎで重要なのは、角度です。ずっと同じ角度で刀身を砥石に押しつけ続けなければ刃の表面が丸くなってしまいます。丸くなった刃では何も切れませんよ。真っ直ぐ鋭く刀を研げるようになるには、それなりの期間の修行が必要だと聞きます。刀を駄目にしてしまわぬためにも、本格的な研ぎは研ぎ師の方に任せたほうが良いのです」
研ぎってそんなに難しいんだな。
プロに任せるのが無難か。
でも研ぎがないなら、刀の手入れって他に何をするのかな。
「軽く錆を落とす程度の研ぎだったら自分でもできると思いますから、表面に錆が浮いていたときにはこのまま研ぎます。この目釘の抜き方だけは覚えておいてください」
「わかった。それで、研がないときはどんな手入れが必要なの?」
「基本的に、刀の手入れは表面に塗った油を新しいものに変えるだけですね」
「油なんて塗ってあるんだ」
「当然です。刀は鉄でできていますから、油が塗ってなかったらあっという間に錆びてしまいますよ」
そっか、この時代に錆止め加工なんて無いよね。
つるつるとした鏡面仕上げもメッキを吹き付けているわけではなく、金属を長時間かけて磨いて作った本物の鏡面仕上げなんだ。
当然タングステンやクロムを含んだ合金なんて無いから、鉄オンリーなんだよな。
だから手入れを怠ると錆びてしまうんだな。
「まずは下拭いです。古い油や汚れなどをふき取ります。拭うときに使うのはこの拭い紙と呼ばれる紙です。これは奉書紙です。いわゆるいい紙です。コウゾ紙の中でも、この紙が刀の手入れに一番適しているといわれています。善次郎さん、普段懐紙とか持ち歩いていませんよね。色々使い道がありますから、懐に何枚か入れておくといいですよ?」
「ティッシュでよくない?」
「あの紙は確かに便利ですが、懐紙は別に鼻水を拭いたり刀の血糊を拭ったりするためだけのものではないのですよ?たとえばお菓子をいただくときにお皿の代わりにしたり、文字を書いたり、人に銭を渡すときに軽く包んだり。ティッシュで同じことができますか?」
なるほど確かに懐から懐紙を取り出して色々なことに使うというのはスマートでちょっとかっこいいかもしれない。
侍同士で金銭のやり取りをするような身分になってきた最近では、やっぱ銭を裸で渡すのってなんかスマートじゃないなとか思いはじめたところだ。
「奉書紙は買い置きがありますから、外出する際には持っていってくださいね。刀の手入れの話に戻ります。奉書紙を一度くしゃくしゃに丸めます。適度に柔らかくなって拭きやすくなります。こうして、手を切らないように気を付けて拭ってくださいね」
「了解」
柔らかくなった紙で根本のほうから切っ先に向けて拭っていく。
何度か拭うと、刀身に塗ってあった油がとれて刀身のツヤが少し曇ったように思える。
「表面の油や汚れが落ちたら、この打ち粉というものを刀の刀身に振りかけます。中に入っているのは砥石の粉ですね。それを紙で包んで、更に布で包んだものになります。この棒の部分を持って、トントンと刀身に当ててやれば適量の粉が刀身に付着します」
「ああ、これは見たことがある。何してるんだろうと思ってたんだけど、粉を付けてたんだ」
時代劇なんかでよく見るやつだ。
白い布玉みたいなやつの付いた棒で刀身をパフパフしてるやつ。
砥石の粉を刀身にまぶしていたんだな。
「あまり粉をつけすぎないように気を付けてくださいね。砥石の粉ですから、表面が削れてしまいます」
「わかった」
「適量の粉がついたら、また拭い紙で拭います。綺麗になりましたね。表面に錆などが浮かんでいて、軽く研ぐ必要がある場合でもここまでの作業は同じですので覚えておいてくださいね。今回は綺麗ですので、また油を塗って柄をはめて終了です」
なるほど、結構簡単でよかった。
これなら俺ひとりでもできそうだ。
やるかどうかは別として。
できるけどやらないとできないは大違いだからね。
「へー、こんな重たい刀の柄をとめているのがこんな金属製でもないクギなんだ」
久しぶりに暇になったので、俺は雪さんに刀の手入れのしかたを習っている。
武士たるもの、刀の手入れのしかたも知らないのはどういうことだと勘九郎君に言われたのもある。
今まで俺は刀の手入れを鍛冶屋さんや雪さんに任せきりだったんだけど、まあ自分でもちょっとは覚えたほうがいいかなとは前々から思っていたところだ。
他の侍と話していても、刀の話とか全然ついていけないからね。
「刀身を柄から外したら次にセッパやツバ、ハバキなど全部簡単に取れますから全て外していきます。あとは研ぐだけです。まあ研ぎは普段は研ぎ師の方に任せておいたほうがいいかもしれませんね。難しいですから」
「砥石に刀身を当てて擦ればいいんじゃないの?簡単そうに見えるけど」
「研ぎを舐めないでください」
「はい、すみません……」
「刃物の研ぎで重要なのは、角度です。ずっと同じ角度で刀身を砥石に押しつけ続けなければ刃の表面が丸くなってしまいます。丸くなった刃では何も切れませんよ。真っ直ぐ鋭く刀を研げるようになるには、それなりの期間の修行が必要だと聞きます。刀を駄目にしてしまわぬためにも、本格的な研ぎは研ぎ師の方に任せたほうが良いのです」
研ぎってそんなに難しいんだな。
プロに任せるのが無難か。
でも研ぎがないなら、刀の手入れって他に何をするのかな。
「軽く錆を落とす程度の研ぎだったら自分でもできると思いますから、表面に錆が浮いていたときにはこのまま研ぎます。この目釘の抜き方だけは覚えておいてください」
「わかった。それで、研がないときはどんな手入れが必要なの?」
「基本的に、刀の手入れは表面に塗った油を新しいものに変えるだけですね」
「油なんて塗ってあるんだ」
「当然です。刀は鉄でできていますから、油が塗ってなかったらあっという間に錆びてしまいますよ」
そっか、この時代に錆止め加工なんて無いよね。
つるつるとした鏡面仕上げもメッキを吹き付けているわけではなく、金属を長時間かけて磨いて作った本物の鏡面仕上げなんだ。
当然タングステンやクロムを含んだ合金なんて無いから、鉄オンリーなんだよな。
だから手入れを怠ると錆びてしまうんだな。
「まずは下拭いです。古い油や汚れなどをふき取ります。拭うときに使うのはこの拭い紙と呼ばれる紙です。これは奉書紙です。いわゆるいい紙です。コウゾ紙の中でも、この紙が刀の手入れに一番適しているといわれています。善次郎さん、普段懐紙とか持ち歩いていませんよね。色々使い道がありますから、懐に何枚か入れておくといいですよ?」
「ティッシュでよくない?」
「あの紙は確かに便利ですが、懐紙は別に鼻水を拭いたり刀の血糊を拭ったりするためだけのものではないのですよ?たとえばお菓子をいただくときにお皿の代わりにしたり、文字を書いたり、人に銭を渡すときに軽く包んだり。ティッシュで同じことができますか?」
なるほど確かに懐から懐紙を取り出して色々なことに使うというのはスマートでちょっとかっこいいかもしれない。
侍同士で金銭のやり取りをするような身分になってきた最近では、やっぱ銭を裸で渡すのってなんかスマートじゃないなとか思いはじめたところだ。
「奉書紙は買い置きがありますから、外出する際には持っていってくださいね。刀の手入れの話に戻ります。奉書紙を一度くしゃくしゃに丸めます。適度に柔らかくなって拭きやすくなります。こうして、手を切らないように気を付けて拭ってくださいね」
「了解」
柔らかくなった紙で根本のほうから切っ先に向けて拭っていく。
何度か拭うと、刀身に塗ってあった油がとれて刀身のツヤが少し曇ったように思える。
「表面の油や汚れが落ちたら、この打ち粉というものを刀の刀身に振りかけます。中に入っているのは砥石の粉ですね。それを紙で包んで、更に布で包んだものになります。この棒の部分を持って、トントンと刀身に当ててやれば適量の粉が刀身に付着します」
「ああ、これは見たことがある。何してるんだろうと思ってたんだけど、粉を付けてたんだ」
時代劇なんかでよく見るやつだ。
白い布玉みたいなやつの付いた棒で刀身をパフパフしてるやつ。
砥石の粉を刀身にまぶしていたんだな。
「あまり粉をつけすぎないように気を付けてくださいね。砥石の粉ですから、表面が削れてしまいます」
「わかった」
「適量の粉がついたら、また拭い紙で拭います。綺麗になりましたね。表面に錆などが浮かんでいて、軽く研ぐ必要がある場合でもここまでの作業は同じですので覚えておいてくださいね。今回は綺麗ですので、また油を塗って柄をはめて終了です」
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