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87.醤油
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「しょうゆってなんだ?」
「味噌と同じように豆から作る調味料ですよ。ちょっと味見してみてください」
木の匙でちょっとずつ勘九郎君や殿、河尻さんの皿にしょうゆを垂らしていく。
この醤油はガチャから出た醤油を作ってみたいと言い出した雪さんが作ったものだ。
ここまでの醤油が出来上がるまでには、かなりの数の失敗品があった。
だけど雪さんは持ち前の多才さと凝り性な性格を発揮して、本業の醤油職人さながらに研究をし続けここまでの醤油を作り出した。
俺も味見してみたけれど、かなりバランスがよくて未来の既製品の醤油と遜色がないくらいの味だった。
スケルトンさんたちの作る米を本土に流して食料の値段を下げる際には、醤油の製法も味噌蔵や酒蔵なんかに流して食文化を開花させるつもりだ。
出汁のとり方なんかも流せば、未来の和食のベースとなる味が大体揃うことになる。
そこから食文化が発展して美味しい料理を庶民でも食べられるようになってくれれば俺は満足だ。
その第一段階として、そろそろ醤油を誰かに試食してもらおうと思っていたところだ。
丁度良い機会だろう。
「ほう、これはまた複雑な味わいの調味料じゃの」
「塩辛いだけじゃないですな。味噌のように豆の味がほんのりとして」
「美味いな。普通に飯にかけて食うだけでもこの料理よりも美味いと思う」
醤油ご飯ですね。
しかし織田の次期当主との呼び声も高い勘九郎君に醤油ご飯を食わせるわけにもいかない。
何かこの次期の野菜や保存食だけで少しだけ豪華に見える料理はできないだろうか。
季節は冬、あまり新鮮な野菜は期待できない季節だ。
明智城から武田軍を追い払ってから、一度周辺の村まで野菜の調達に行ったのだけれど干からびかけの大根くらいしか売るものは無いと言われてしまった。
だから手持ちの食料って保存食の他には大根くらいしか無いんだよな。
しょうがないから大根おろしでもするかな。
俺はおろし金を取り出し、大根を優しく摩りおろしていく。
「善次郎何をやっておる?」
「大根をおろしております」
「大根をおろす?変わった大根の食い方だのう」
「まあ見ていてください」
大根おろしは怒りながらおろすと辛くなると田舎の婆さんが言っていた。
それはきっと怒っておろすと大根の粒子が粗くなって辛くなるという意味だと思う。
だから、逆に優しくおろしてやれば甘味の強い大根おろしができるはずだ。
田舎の爺さんなんかは辛いほうが好きだからとわざわざ大根おろしのときは婆さんを怒らせるようなことを言っていたが、俺は甘い大根おろしが好きなんだ。
そして大根おろしを初めて食べる人にも、甘い大根おろしのほうが受け入れられやすいと思う。
出来上がったふんわりとしたきめ細かい大根おろしの水分を軽く絞り、小皿に盛り付けて上にちりめんじゃこをかけていく。
そして最後に醤油をかける。
未来では大して豪華でもない定食の小鉢で付いてきそうなおかずだが、この時代ではかなり豪華な料理なのではないだろうか。
「どうぞ、お召し上がりください」
「ほう、大根を摩り下ろしたものに干した小魚をかけたのか。そして先ほどの醤油。なるほど、これは美味そうだ」
「ではさっそく食べてみましょう」
「まあ間違いなく美味いと思いますがね。善次郎の持ってくる料理は大体美味い」
まず勘九郎君が食べる。
大根おろしとじゃこをよく混ぜ、まずは一口。
目を見開き米をかきこむ。
「美味い。大根の風味と小魚の味、しょうゆの塩味が混然となって飯に良く合う」
俺からしてみたらただのじゃこおろしだが、この時代では流行の最先端料理。
未来でいえば原宿のなんだかよくわからないチーズがびょんびょんしている料理のようなものだ。
勘九郎君が感想を述べると家臣の皆がじゃこおろしに箸をつける。
口々に美味いと聞こえてくる。
醤油の評判はなかなか良い。
この調子なら、醤油の製造に誰か協力してくれるかもしれない。
製法を流すといっても、見ず知らずの奴が持ってきた製法と自分の住んでいる領地の領主の持ってきた製法では信頼性が全く違ってくるからね。
俺が侍に製法を売って、それを侍自身が自分の領地で作らせるという方法が一番手っ取り早い。
「これは酒にも合いますな」
「お、いいですな」
戦時だというのに取り巻き連中がじゃこおろしをつまみに1杯やりだした。
君たちはそんなんだから勘九郎君に重用されないんだよ。
まあ彼らも勘九郎君の取り巻きをやっているくらいだから、そこそこ家柄のいい侍なわけだ。
醤油を広めるには少しでも多くの侍に協力してもらう必要がある。
普段俺や殿に成り上がり成り上がりとうるさく言ってくるのには目を瞑ってあげよう。
大体信長だって十分成り上がり者じゃないのさ。
信長のお父さんの代まで織田家は主家じゃなかった。
そもそも信長のお父さんだって織田の本家じゃなかった。
本家を倒して成り上がり、主家を倒して成り上がったのが今の織田家だ。
君たち成り上がりって言葉を信長の前でも使えるのかな。
俺は怖くて使えないけどな。
「善次郎、もっと醤油をよこせ。この料理全部を醤油味にするのだ」
「喉が渇いても知りませんよ」
勘九郎君は嬉しそうに他の料理にもジャバジャバと醤油をかけている。
将来高血圧になりそうだ。
高血圧といえば、醤油を信長にも献上したほうがいいんだろうか。
「善次郎、醤油は父上には献上するな。父上などは不味い飯の後に飴玉でも舐めて口直しをしておれば良いのだ」
どうやら勘九郎君は信長に飴玉をすべて持っていかれたことを根に持っているようだ。
勘九郎君が怒り狂った信長から俺を守ってくれるならそれでもいいんだけどね。
「味噌と同じように豆から作る調味料ですよ。ちょっと味見してみてください」
木の匙でちょっとずつ勘九郎君や殿、河尻さんの皿にしょうゆを垂らしていく。
この醤油はガチャから出た醤油を作ってみたいと言い出した雪さんが作ったものだ。
ここまでの醤油が出来上がるまでには、かなりの数の失敗品があった。
だけど雪さんは持ち前の多才さと凝り性な性格を発揮して、本業の醤油職人さながらに研究をし続けここまでの醤油を作り出した。
俺も味見してみたけれど、かなりバランスがよくて未来の既製品の醤油と遜色がないくらいの味だった。
スケルトンさんたちの作る米を本土に流して食料の値段を下げる際には、醤油の製法も味噌蔵や酒蔵なんかに流して食文化を開花させるつもりだ。
出汁のとり方なんかも流せば、未来の和食のベースとなる味が大体揃うことになる。
そこから食文化が発展して美味しい料理を庶民でも食べられるようになってくれれば俺は満足だ。
その第一段階として、そろそろ醤油を誰かに試食してもらおうと思っていたところだ。
丁度良い機会だろう。
「ほう、これはまた複雑な味わいの調味料じゃの」
「塩辛いだけじゃないですな。味噌のように豆の味がほんのりとして」
「美味いな。普通に飯にかけて食うだけでもこの料理よりも美味いと思う」
醤油ご飯ですね。
しかし織田の次期当主との呼び声も高い勘九郎君に醤油ご飯を食わせるわけにもいかない。
何かこの次期の野菜や保存食だけで少しだけ豪華に見える料理はできないだろうか。
季節は冬、あまり新鮮な野菜は期待できない季節だ。
明智城から武田軍を追い払ってから、一度周辺の村まで野菜の調達に行ったのだけれど干からびかけの大根くらいしか売るものは無いと言われてしまった。
だから手持ちの食料って保存食の他には大根くらいしか無いんだよな。
しょうがないから大根おろしでもするかな。
俺はおろし金を取り出し、大根を優しく摩りおろしていく。
「善次郎何をやっておる?」
「大根をおろしております」
「大根をおろす?変わった大根の食い方だのう」
「まあ見ていてください」
大根おろしは怒りながらおろすと辛くなると田舎の婆さんが言っていた。
それはきっと怒っておろすと大根の粒子が粗くなって辛くなるという意味だと思う。
だから、逆に優しくおろしてやれば甘味の強い大根おろしができるはずだ。
田舎の爺さんなんかは辛いほうが好きだからとわざわざ大根おろしのときは婆さんを怒らせるようなことを言っていたが、俺は甘い大根おろしが好きなんだ。
そして大根おろしを初めて食べる人にも、甘い大根おろしのほうが受け入れられやすいと思う。
出来上がったふんわりとしたきめ細かい大根おろしの水分を軽く絞り、小皿に盛り付けて上にちりめんじゃこをかけていく。
そして最後に醤油をかける。
未来では大して豪華でもない定食の小鉢で付いてきそうなおかずだが、この時代ではかなり豪華な料理なのではないだろうか。
「どうぞ、お召し上がりください」
「ほう、大根を摩り下ろしたものに干した小魚をかけたのか。そして先ほどの醤油。なるほど、これは美味そうだ」
「ではさっそく食べてみましょう」
「まあ間違いなく美味いと思いますがね。善次郎の持ってくる料理は大体美味い」
まず勘九郎君が食べる。
大根おろしとじゃこをよく混ぜ、まずは一口。
目を見開き米をかきこむ。
「美味い。大根の風味と小魚の味、しょうゆの塩味が混然となって飯に良く合う」
俺からしてみたらただのじゃこおろしだが、この時代では流行の最先端料理。
未来でいえば原宿のなんだかよくわからないチーズがびょんびょんしている料理のようなものだ。
勘九郎君が感想を述べると家臣の皆がじゃこおろしに箸をつける。
口々に美味いと聞こえてくる。
醤油の評判はなかなか良い。
この調子なら、醤油の製造に誰か協力してくれるかもしれない。
製法を流すといっても、見ず知らずの奴が持ってきた製法と自分の住んでいる領地の領主の持ってきた製法では信頼性が全く違ってくるからね。
俺が侍に製法を売って、それを侍自身が自分の領地で作らせるという方法が一番手っ取り早い。
「これは酒にも合いますな」
「お、いいですな」
戦時だというのに取り巻き連中がじゃこおろしをつまみに1杯やりだした。
君たちはそんなんだから勘九郎君に重用されないんだよ。
まあ彼らも勘九郎君の取り巻きをやっているくらいだから、そこそこ家柄のいい侍なわけだ。
醤油を広めるには少しでも多くの侍に協力してもらう必要がある。
普段俺や殿に成り上がり成り上がりとうるさく言ってくるのには目を瞑ってあげよう。
大体信長だって十分成り上がり者じゃないのさ。
信長のお父さんの代まで織田家は主家じゃなかった。
そもそも信長のお父さんだって織田の本家じゃなかった。
本家を倒して成り上がり、主家を倒して成り上がったのが今の織田家だ。
君たち成り上がりって言葉を信長の前でも使えるのかな。
俺は怖くて使えないけどな。
「善次郎、もっと醤油をよこせ。この料理全部を醤油味にするのだ」
「喉が渇いても知りませんよ」
勘九郎君は嬉しそうに他の料理にもジャバジャバと醤油をかけている。
将来高血圧になりそうだ。
高血圧といえば、醤油を信長にも献上したほうがいいんだろうか。
「善次郎、醤油は父上には献上するな。父上などは不味い飯の後に飴玉でも舐めて口直しをしておれば良いのだ」
どうやら勘九郎君は信長に飴玉をすべて持っていかれたことを根に持っているようだ。
勘九郎君が怒り狂った信長から俺を守ってくれるならそれでもいいんだけどね。
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