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67.イビルアイ

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 眼下で逃げ惑う人々と燃え盛る町。
 朝倉家の本城、一乗谷城の城下町だ。
 追撃戦で無事三段崎勘右衛門の首を取ることに成功した俺達。
 戦は織田軍の大勝利なのだが、信長はそれだけでは止まらなかった。
 朝倉軍を本領である越前まで押し込め、さらに攻め込んだ。
 どうやら本格的に滅ぼしてしまうつもりらしい。
 
「酷いことをする……」

「織田信長は、あの頃と何も変わらんな。ワシの生家を滅ぼしたあの頃から……」

 殿は燃え盛る一乗谷城下の様子に、滅ぼされた自分の実家が重なって見えるようだ。
 はぁ、乱世はこれだから嫌なんだ。
 逃げる人々を追い掛け回して荷物を奪う織田の足軽たち。
 この時代では普通のことだ。
 乱妨取りといって、敵の治めていた町では正々堂々と略奪が行われる。
 足軽たちは命を賭けても雇い主からはそれほど高い報酬を貰うことができない。
 最初から略奪で利益を得ることを考えて足軽として戦働きをしているのだ。
 それを悪いことだと断じることなどこの時代の誰にもできやしない。
 だがやはり、こんなことは人間のやることではないと思ってしまうんだよな。

「善次郎。ワシらはなぜこんなことをせねば生きていけぬのだろうか。田畑を耕すだけでは全員の人間が生きることはできんのだろうか」

「そりゃあ互いに戦っているからでしょう。侍も農民も商人も、皆が皆田畑に専念したらすぐに全員食えるようになりますよ」

「そうか、やはり乱世は嫌じゃの。まったく、ワシらはいったいどこに向かっておるのだろうな……」

「わかりません。でも、この戦の先にきっとありますよ。そんな誰も奪い合わずに生きられる世が」

「そうか。そのような世が来たらいいな」

 俺はぎゅっと拳を握り締める。
 きっと、そんな世が来るはずなんだ。
 織田、豊臣、徳川、そしてその先に。
 たとえ戦は終わらずとも、奪わなくても飢えない世は近い。
 結局、殿は俺達に乱取りに参加しろとは命令しなかった。
 武士は食わねど高楊枝というやつだ。
 こういう時のこの言葉は、少しだけ好きだな。






 織田軍vs浅井・朝倉の戦は無事に織田の勝利で終わった。
 ただ、なぜか殿は配置換えになった。
 史実ではこのまま秀吉の与力として領地をもらって活躍していくはずだったのだが、何を思ったのか信長は殿を奇妙丸君の直臣とした。
 これは大出世といってもいいのではないだろうか。
 領地はもらえなかったがその代わり禄が大幅に上がり、いきなり4000石となった。
 やはりコツコツ飴玉を送ってご機嫌をとっておいたのが効いたのだろうか。
 あちこちで一向宗の一揆が往生際悪く蜂起したりして織田家の重臣が対処したりしているが、わけがわからないうちにいきなり大出世した殿は岐阜でしばらく待機だそうだ。
 俺もしばらくは島に専念できそうでほっとした。

「さて、こいつらを移動させるか」

 先日オーガたちの警備を突破した子供が牢屋エリアに入り込むという事件があった。
 怖い鬼に見張らせておけば子供たちも入り込まないだろうと高をくくっていた俺は見事にしてやられてしまったわけだ。
 正直子供を舐めていた。
 オーガが真面目で案外良い奴だと子供たちは見抜いていたのだ。
 そして絶対に近づいてはならんと言われれば何がなんでも近づいてやろうと思うわけで。
 そんなこんなで今回の事故が起きてしまったわけだ。
 幸いにも子供は異国の言葉で罵倒されて大泣きしたくらいで無事だったのだが、これはちょっと危ないんじゃないかと平蔵さんたちを話し合い牢屋エリアを移動させることにした。
 新しい牢屋エリアは南極大陸だ。
 昨日クソ寒いあの大地に行ってサブコアを埋め込み、ダンジョンの入り口を作ってきたところだ。
 あそこならあと数世紀は誰も入り込まないだろうし、万が一捕虜が逃げ出したとしてもどこにも逃げられずに凍えて死ぬだけだ。
 島から転移罠を使ったゲートで移動できるようにしてある。
 あとは捕虜たちを移動させるだけなのだが……。
 俺は思念伝達の魔法を発動し、捕虜たちに話しかける。

『侵略者の諸君、今から君たちを極寒の大地にある流刑地に移送する。君たちが素直に従ってくれるのであれば待遇を改善する用意がある』

『ふざけるなぁ!』

『こんなことをして本国が黙っていないぞ!』

『死ね!極東の蛮族が!!』

 たしかに今の時代の日本人は奪って生きる蛮族そのものだけど、自分たちだって変わらないだろうに。
 海の向こう側まで奪いに来たような征服者たちが何を言っているのか。
 もう少し殊勝な態度であれば、こんな酷いことはしないで済んだのにな。
 俺はスマホを操作し、悪魔型のモンスターの中から1種類のモンスターを選択する。
 それをとりあえず2000匹ほど生み出す。

『キヒヒッ』

 生理的嫌悪感を感じるような笑い声が響き渡り、小さな芋虫のような生き物が大量に生み出された。
 ヌメヌメと光る粘液に覆われた真っ赤な芋虫。
 その顔の部分には、人間のような大きさの目玉が一つぎょろりと光っていた。
 うっすらと金色に光るその瞳は、見ていると気が狂ってしまいそうになる。
 このモンスターの名前はイビルアイ。
 人に寄生する悪魔型のモンスターだ。
 本当はこんなことはしたくないのだけれど、素直に従ってくれないのだから仕方が無い。
 俺はすべてのイビルアイに命令する。
 寄生しろ、と。
 グロテスクな目玉芋虫たちは怖気がするような素早い動きで捕虜たちに襲い掛かった。

『な、なんだよこれ!やめろっ、やめろっ』

『ぎゃぁぁぁっ、離れろっ離れろよぉぉっ』

『なんだこれ、取れない、取れないぃぃっ』

『やめてくれぇっ、入ってくるなっ、入ってくるなぁぁぁっ』

『んぐぅぅっ、がぐぐぐぐっ』

『あばばばばばっ』

『ぐぺぺぺぺぺぺっ』

 イビルアイたちに寄生されて狂ったように痙攣する捕虜たち。
 大人しく言うことを聞いてくれれば船乗りとして高待遇で働かせることも考えたのに。
 捕虜たちは初めの頃オーガにビビッてみんな震えながら眠っていたのだけど、オーガが理性的で俺の命令を聞くと分かるとこの態度だ。
 征服者なんてろくなものじゃないな。

『よし、全員人間に寄生できたみたいだね』

『『『寄生完了』』』

『じゃあ寄生されてない捕虜を一人ずつ引き連れてついてきて』

『『『了解しました』』』

 イビルアイに寄生された人たちは皆一様に生気の無い無表情だが、言葉は明瞭だ。
 イビルアイは人間の脳に寄生し、意識を乗っ取るモンスターだ。
 倫理を考えなければ寄生された人間の持っていた技能や知識などを利用するには最適なわけだ。
 これで2000人の船乗りができた。
 船もあることだし、交易でも始めようかな。


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