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44.織田家三兄弟の元服
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奇妙丸君が元服した。
少し前に勝三君が元服して織田信長の長の字をもらって長可と名乗っているから、奇妙丸君は自分も早く元服したいとこぼしていたのだ。
しかし戦国時代は14、5歳でもう大人として扱われるんだな。
15といえばまだ身体の成長だって終わっていない頃だ。
まあ殿の奥さんの千代さんだってまだ20にはなっていないし、女の人がそのくらいの歳で嫁ぐことは結構多いようだ。
雪さんも今年で20歳だし、この時代では20までに結婚することは普通のことだ。
身分の高い人になればなるほどね。
武家なら男も15になれば刀を腰に指してちょんまげ結うのは当然か。
俺はちょんまげはちょっと遠慮しておくけど。
あんなのは兜被るような大将クラスの侍だけでいいんだ。
殿もあと10年やそこらはぱっとしない予定だし、髷は結わないだろう。
でも勝三君と奇妙丸君は家格的にもちょんまげ武士だ。
特に元服などの儀礼のときは綺麗に月代を剃りあげなければならない。
この時代の人でも多少気恥ずかしいと感じるらしく、稽古に来たとき少し顔を赤らめていた。
ちょんまげが似合う渋い侍はまだまだ2人には遠そうだ。
「そういえば、私が居なくなった後は誰が織田の馬鹿息子に嫁入りするんでしょうか」
朝ごはんを食べながら、雪さんとそんな話になった。
そういえばそうだ。
雪さんの実家である北畠家の養嗣子となる織田信雄もまた、奇妙丸君と一緒に元服したのだ。
他にもう一人の子供である信孝も元服したらしい。
こちらも確かどこかの家に養子に出していたはずだ。
信長は下した家を乗っ取るために結構自分の子供を養子に出している。
家名はそのままだけど、そこからは実質織田家の分家みたいな扱いにしますよってことだ。
結構大きな武家が降伏したりすると、信長はその程度の慈悲はくれる。
滅ぼすよりも吸収合併したほうが家が大きくなって信長にも得があるっていうことだ。
そんなわけで他家に出している子供だけれど、信長は子供たちが他家の人間ではなく織田家の人間であると示すかのように岐阜城で元服式を行ったわけだ。
信雄は後の名前だから今は確か北畠具豊だ。
一応北畠家現当主である具房さんをリスペクトして具の文字を貰っているあたり、信長も北畠家には一応の配慮をしているとみえる。
まあ雪さんの話では具房さんはちょっと武士っぽくない人で信長には軽く馬鹿にされているらしいので、信長が配慮しているのは元当主の具教さんに対してかもしれないけど。
その具豊だが、本来ならば雪さんと結婚するはずだったんだ。
織田家の子息が当主となり、嫁も他所から貰ったのでは北畠家の血が途絶えてしまう。
具豊の嫁は北畠家の姫でなければならないだろう。
だけど北畠具房には娘がいない。
だからこそ妹である雪さんが嫁ぐはずだったんだ。
となると、具豊の相手は少しお歳を召した人か結構年下になってしまうわけだ。
まあこの時代の行き遅れなんて、せいぜい20代だけどね。
ただ、北畠家ほどの家の姫が行き遅れるには何か理由がある。
「奇妙丸君に聞いてみるのが一番早いかな」
「善次郎さん、元服したんですから奇妙丸君なんて呼んだら怒られてしまいますよ」
「そうだね、勘九郎って呼ばないと怒るんだよね。俺は奇妙丸って名前も結構面白いと思うんだけどね。信長の名付けの感性だけは好きだな」
付けられたほうはたまったもんじゃないと思うけどね。
現代に生まれなくてよかったね。
現代だったら改名には面倒な手続きが必要だったよ。
「茶筅丸の妻?なんでそんなこと……ん?お主の妻、雪……。よし、大体分かった」
まずった。
織田信長をして、天下を任せられるとまで言われた織田信忠を舐めていた。
だってまだ子供だし。
しかし子供といえどもその頭の切れは侮るべきじゃなかったらしい。
「まあそう怖い顔をするでない。私とて、もうあんな怖い思いをするのはごめんだ。お主に敵対しようとなんて思わん」
奇妙丸君は刀が顔すれすれを通過した恐怖を思い出しているのか、軽く顔を青ざめさせて後ずさる。
俺も斬るつもりは無いから別にそんなに怖がることは無いのに。
今はテレポートもあるし、何かあったらみんな引き連れて島に逃げるよ。
「お主の妻のことは誰にも言わんと約束する。それで、茶筅丸の妻だったな。たしか雪姫があんなことになって、他を探したのだが一番年が近かったのは北畠家当主の具房の叔父にあたる木造具政の娘7歳だった」
7歳はちょっとまだ結婚には早いよね。
子供を生める年齢になるにも少し時間がかかる。
いかに早婚の武家であっても7歳は正式な結婚とはならないだろう。
「さすがに7歳は早いのでな、正室として婚約するだけとなった。側室も選んでおるようだが、行き遅れか遠縁になってしまうようだ。織田家としても正室と側室の2人くらいは北畠から選んでやりたいようだが、肝心の姫がおらんでな。しょうがないだろう」
家が結婚相手を用意してくれる世の中でも、運が悪くて相手がいないとかってことがあるんだな。
信雄の場合は北畠家からお嫁さんを貰わなければ意味が無いから余計に条件が限られてくる。
まあ3人目のお嫁さんは自由に選べば良いさ。
「茶筅丸の妻の話はこんなところでいいか?今日は一手試合うてもらいに来たのだ。早く始めるぞ」
いい情報が聞けた。
帰ったら雪さんに話してあげよう。
奇妙丸君はすでに木刀入れから木刀を取り出し、構えている。
まったく、織田家のボンボンは木刀ひとつとっても高級木工細工みたいな奴使ってるからな。
俺は殿の屋敷の壁に立てかけてあった流木を雑に削っただけの木刀を取り、構えた。
まあ木刀の値段で剣は上手くならないよ。
少し前に勝三君が元服して織田信長の長の字をもらって長可と名乗っているから、奇妙丸君は自分も早く元服したいとこぼしていたのだ。
しかし戦国時代は14、5歳でもう大人として扱われるんだな。
15といえばまだ身体の成長だって終わっていない頃だ。
まあ殿の奥さんの千代さんだってまだ20にはなっていないし、女の人がそのくらいの歳で嫁ぐことは結構多いようだ。
雪さんも今年で20歳だし、この時代では20までに結婚することは普通のことだ。
身分の高い人になればなるほどね。
武家なら男も15になれば刀を腰に指してちょんまげ結うのは当然か。
俺はちょんまげはちょっと遠慮しておくけど。
あんなのは兜被るような大将クラスの侍だけでいいんだ。
殿もあと10年やそこらはぱっとしない予定だし、髷は結わないだろう。
でも勝三君と奇妙丸君は家格的にもちょんまげ武士だ。
特に元服などの儀礼のときは綺麗に月代を剃りあげなければならない。
この時代の人でも多少気恥ずかしいと感じるらしく、稽古に来たとき少し顔を赤らめていた。
ちょんまげが似合う渋い侍はまだまだ2人には遠そうだ。
「そういえば、私が居なくなった後は誰が織田の馬鹿息子に嫁入りするんでしょうか」
朝ごはんを食べながら、雪さんとそんな話になった。
そういえばそうだ。
雪さんの実家である北畠家の養嗣子となる織田信雄もまた、奇妙丸君と一緒に元服したのだ。
他にもう一人の子供である信孝も元服したらしい。
こちらも確かどこかの家に養子に出していたはずだ。
信長は下した家を乗っ取るために結構自分の子供を養子に出している。
家名はそのままだけど、そこからは実質織田家の分家みたいな扱いにしますよってことだ。
結構大きな武家が降伏したりすると、信長はその程度の慈悲はくれる。
滅ぼすよりも吸収合併したほうが家が大きくなって信長にも得があるっていうことだ。
そんなわけで他家に出している子供だけれど、信長は子供たちが他家の人間ではなく織田家の人間であると示すかのように岐阜城で元服式を行ったわけだ。
信雄は後の名前だから今は確か北畠具豊だ。
一応北畠家現当主である具房さんをリスペクトして具の文字を貰っているあたり、信長も北畠家には一応の配慮をしているとみえる。
まあ雪さんの話では具房さんはちょっと武士っぽくない人で信長には軽く馬鹿にされているらしいので、信長が配慮しているのは元当主の具教さんに対してかもしれないけど。
その具豊だが、本来ならば雪さんと結婚するはずだったんだ。
織田家の子息が当主となり、嫁も他所から貰ったのでは北畠家の血が途絶えてしまう。
具豊の嫁は北畠家の姫でなければならないだろう。
だけど北畠具房には娘がいない。
だからこそ妹である雪さんが嫁ぐはずだったんだ。
となると、具豊の相手は少しお歳を召した人か結構年下になってしまうわけだ。
まあこの時代の行き遅れなんて、せいぜい20代だけどね。
ただ、北畠家ほどの家の姫が行き遅れるには何か理由がある。
「奇妙丸君に聞いてみるのが一番早いかな」
「善次郎さん、元服したんですから奇妙丸君なんて呼んだら怒られてしまいますよ」
「そうだね、勘九郎って呼ばないと怒るんだよね。俺は奇妙丸って名前も結構面白いと思うんだけどね。信長の名付けの感性だけは好きだな」
付けられたほうはたまったもんじゃないと思うけどね。
現代に生まれなくてよかったね。
現代だったら改名には面倒な手続きが必要だったよ。
「茶筅丸の妻?なんでそんなこと……ん?お主の妻、雪……。よし、大体分かった」
まずった。
織田信長をして、天下を任せられるとまで言われた織田信忠を舐めていた。
だってまだ子供だし。
しかし子供といえどもその頭の切れは侮るべきじゃなかったらしい。
「まあそう怖い顔をするでない。私とて、もうあんな怖い思いをするのはごめんだ。お主に敵対しようとなんて思わん」
奇妙丸君は刀が顔すれすれを通過した恐怖を思い出しているのか、軽く顔を青ざめさせて後ずさる。
俺も斬るつもりは無いから別にそんなに怖がることは無いのに。
今はテレポートもあるし、何かあったらみんな引き連れて島に逃げるよ。
「お主の妻のことは誰にも言わんと約束する。それで、茶筅丸の妻だったな。たしか雪姫があんなことになって、他を探したのだが一番年が近かったのは北畠家当主の具房の叔父にあたる木造具政の娘7歳だった」
7歳はちょっとまだ結婚には早いよね。
子供を生める年齢になるにも少し時間がかかる。
いかに早婚の武家であっても7歳は正式な結婚とはならないだろう。
「さすがに7歳は早いのでな、正室として婚約するだけとなった。側室も選んでおるようだが、行き遅れか遠縁になってしまうようだ。織田家としても正室と側室の2人くらいは北畠から選んでやりたいようだが、肝心の姫がおらんでな。しょうがないだろう」
家が結婚相手を用意してくれる世の中でも、運が悪くて相手がいないとかってことがあるんだな。
信雄の場合は北畠家からお嫁さんを貰わなければ意味が無いから余計に条件が限られてくる。
まあ3人目のお嫁さんは自由に選べば良いさ。
「茶筅丸の妻の話はこんなところでいいか?今日は一手試合うてもらいに来たのだ。早く始めるぞ」
いい情報が聞けた。
帰ったら雪さんに話してあげよう。
奇妙丸君はすでに木刀入れから木刀を取り出し、構えている。
まったく、織田家のボンボンは木刀ひとつとっても高級木工細工みたいな奴使ってるからな。
俺は殿の屋敷の壁に立てかけてあった流木を雑に削っただけの木刀を取り、構えた。
まあ木刀の値段で剣は上手くならないよ。
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