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43.人脈と島の今

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 柴田勝家とその奥さんのお凜さんを治療した。
 さすがの神酒ソーマでも死んだ人は生き返らせることはできないから、早めにうちに頼みに来てくれてよかったよ。
 奥さんの病気は素人目でもかなり危険なものだった。
 目が黄色くなっていたから、たぶん肝臓系の病気だと思う。
 黄疸っていうんだっけな。
 そんな現代ではテレビ番組で普通に流されているような情報を軽く口走ったら、なんか尊敬された。
 万能薬を飲ませて奥さんが治ったら、神のように崇められた。
 悪い感情を抱かれるよりはいいけどね。
 これで森家に続いて柴田家にも繋がりができた。
 こんな時代だから、人脈というのは本当に自分の命を救ってくれるからね。
 殿と俺達家臣のためにも、織田家の重臣たちと少しずつ繋がりを作っていかなければ。
 ただ、柴田勝家は清洲会議の後豊臣秀吉と対立するんだよな。
 変につながりがあると、陣営に引き込まれる可能性もある。
 勝三君は池田恒興つねおきの娘と結婚するはずだから、史実では清洲会議の後は池田恒興と一緒に豊臣秀吉に味方する予定だ。
 森家と柴田家では家格的に森家が一歩劣る。
 両家から誘いがあったら殿は柴田家を選んでしまうかもしれない。
 でも正直柴田勝家でも織田信孝でも、天下を取れるとは思えないんだよね。
 悔しいがあの山賊面は天下の器だ。
 織田信長亡き後は豊臣秀吉に任せるのが泰平の世への最短ルートなんだよ。
 たぶんいきなり徳川家康が天下をとってもそんなにうまくはいかないはず。
 というかたぶん天下は取れない。
 たしか清須会議の後秀吉に味方するのは、織田家五大将の中では丹羽長秀と池田恒興だったかな。
 勇者ミツヒデは秀吉に討たれるし、滝川一益は柴田勝家に味方する。
 秀吉派の丹羽長秀と池田恒興、どっちかの家に繋がりが欲しいところだ。
 だけど結局池田恒興も徳川家康に敗れて死んじゃうしな。
 確か史実だと勝三君も一緒の戦場で死んじゃうんだ。
 そうなると丹羽長秀かな。
 彼の武将は本能寺の変後に没落レースを逃れた数少ない織田家家臣だ。
 殿の早期出世を望むのなら積極的に営業を行っていったほうがいいのだろうが、なんとなく釈然としない気持ちになった。
 やっぱり今しがた治療した人や曲がりなりにも自分の弟子が、後の世で天寿を全うせずに死んでしまうからだろうか。
 できることなら、みんな仲良く大団円で終わって欲しい気持ちはある。
 でも世の中そんなにうまくはいかないよね。
 特に今は戦国時代だから。
 俺の脳みそでは全部丸く収まる結末なんて到底思い浮かばないけれど、足りなければ雪さんの知恵も借りればいい。
 少しでも良い未来になるように精一杯努力してみよう。





 またひとつ年が明けた。
 島造りで忙しかったせいか、今年はなんだかあっという間だった気がする。
 そういえば織田信長による比叡山焼き討ちはあったよ。
 もうお坊さんへの怒りがマックスになってやっちゃったみたいだ。
 ここのところうまくいかないことばかりだったから、鬱憤が溜まっていたというのもあるのかもしれない。
 一向宗はあちこちで一揆を煽るし、比叡山は浅井・朝倉と組むし。
 戦国武将たちの戦にお坊さんが入るともうメチャクチャだ。
 自分たちは武装して攻めて来るくせに寺領に攻め入ると罰当たりだとか神罰仏罰が下るとか言われるんだから、そりゃあ信長じゃなくてもキレたくなるというもの。
 まあ焼き討ちはちょっとやりすぎかもとか思うけどね。
 寺領や城下を焼くっていうのは、一般人をたくさん殺すってことだ。
 戦は侍や坊さん同士でやってりゃいいのにね。
 実際、今回の比叡山焼き討ちでも非戦闘員がたくさんいたはずだ。
 後の世でも比叡山焼き討ちのときに秀吉が非戦闘員を逃がしたとかいうエピソードが残っていて、美談として語り継がれていたりする。
 逆に我らが勇者ミツヒデは一般人だろうが関係なく切り捨てたみたいだけどね。
 そのへんがもう、要領のいい人と悪い人って感じがする。
 まあ本心ではみんなこんなことはしたくなかったはずなんだ。
 そんなこんなで今年の正月は少し沈んだ雰囲気だった。
 殿のところの正月の酒宴はいつも通りのようだったけど、みんな少しだけ酒の進みが悪い気がした。
 この時代の人にとって、寺社っていうのは結構大きな存在だ。
 比叡山焼き討ちは織田軍に属する武士にとっては、少しへこむ出来事だったみたいだ。
 雪さんもちょっと動揺していた。
 雪さんはこの時代の人らしくお寺へのお参りも欠かさない熱心な仏教徒だからね。
 元々織田が嫌いだったのが、もっと嫌いになったようだ。
 俺は気分転換も兼ねて、雪さんを沖ノ鳥島へ連れて行くことにした。
 現在の沖ノ鳥島はすでに男だらけの島では無い。
 元野伏せりをしていた彼らだけど、本土には当然親族がいる。
 中には奥さんや子供がいる人もいるそうだ。
 今のところ台風対策も何重にも重ねた石壁が功を奏しているし、食料は島での労働の対価として俺から支給される。
 食っていくには困らなくなった彼らは、本土に残してきた親族を島に呼びたがった。
 俺も人が増えるのは大歓迎なので許可した。
 許可といっても連れてくるのは俺だけど。
 島に行ったらそうそう本土には戻してやれないと何度も確認したが、大体の人は食える場所があるなら行きたいと返答した。
 そんなわけで島には今、男女合わせて60人ほどが住んでいる。
 一気に賑やかになったね。
 ダンジョンも今では長椅子4つほどになり、島民の憩いのスペースとなっている。
 ダンジョンポイントもどんどん貯まっていく。
 島全体をダンジョン化する日も近いかもしれないな。
 俺と雪さんはダンジョン(椅子)の近くにテレポートし、椅子(ダンジョン)に腰掛ける。

「人工の島と聞きましたけど、結構しっかりとした島ですね」

「元々岩礁があった場所だからね。俺達は岩や土で肉付けしただけなんだ」

「そうなんですか」

 耳をすませばざざぁ、ざざぁとざざ波の音が聞こえてくる。 
 落ち着くな。
 みんなの憩いの場所になるのも頷ける。
 織田信長もこんな時間を過ごせたら、比叡山を焼き討ちなんてしなかったのかな。
 いや、したか。
 魔王だもんな。


 
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