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20.宴
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「いやぁ、めでたい!めでたいのう!兜首は上げるわ、善次郎は嫁をもらうわ。まことにめでたいのお!!」
俺と雪さんの結婚を祝って、殿の屋敷では宴が開かれている。
しかしみんな連日連夜の宴なものだから、ぐでんぐでんで何言ってるのかよく分からない。
殿はさっきから同じことばかり繰り返しているし、吉兵衛さんは寝ているし、まともなのは勘左衛門さんだけだ。
「善次郎殿。嫁を貰ったからには、もっとしっかりしなければなりませんよ。お雪さんの生活もあなたが背負っていかねばならないのですからね。聞いていますか?」
「は、はい……」
「清、そのへんにしておきなさい。善次郎殿はお前が思っておるよりもずっとしっかりしておる。ああ、お前はまたこんなに飲んで……」
酔っ払って説教が止まらなくなる清さんを止めてくれる勘左衛門さん。
さすがは清さんと長年連れ添っているだけはある。
殿は弱小武士だから、女の人も宴に参加するくらいには家臣やその家族との距離が近いんだ。
だけど酒を飲んだ清さんの説教は山内家の家臣みんなが恐れている。
その矛先は時に殿にまで向けられるというのだから恐ろしい人だ。
今までは大体吉兵衛さんが目をつけられていたそうなのだが、俺という新たな標的ができて吉兵衛さんは安堵している。
俺も後輩ができたら解放されるのだろうか。
そんな未来は見えないな。
今でも吉兵衛さんの弟の吉蔵君とか勘左衛門さんの息子の新太郎君とか、俺よりも年下はたくさんいるのに清さんは俺に真っ先に説教をするからな。
こうして勘左衛門さんが助けてくれるまで俺は頭を縦に振り相槌を打つだけの置物になるしかない。
酷い目にあったので少し外の空気が吸いたいな。
俺は酒臭い座敷を抜け、縁側に逃げ込んだ。
そこには同じように逃げてきた雪さんがいた。
「お酒、飲まなかったんですか?」
「俺は一滴も酒が飲めない体質なんだよ」
「そんなことで武士が務まりますか?」
「雪さんだってお酒は飲めないじゃないか」
「名前、呼び捨てにしてください」
「人の名前呼び捨てにするの、苦手なんだよね」
「しょうがない人ですね。妻のことをさん付けで呼ぶ人なんてこの時代にはいませんよ?」
そう言ってくすりと笑う雪さんの横顔にしばし見惚れる。
月明かりに照らされた雪さんの横顔は幻想的で美しい。
「織田の馬鹿息子……なんて俺が言っちゃいけないんだろうけど。彼には悪いことをしちゃったかな。こんなに綺麗なお嫁さんを、攫っちゃったんだから」
「そんなことを、女人みんなに言ってるんですか?」
「言うわけないじゃないか。第一俺の知り合いの女の人はみんな旦那さんがいるよ」
「そうですか。それなら安心、なのですかね」
2人の間には穏やかな沈黙の時間が流れる。
沈黙が心地いいと思ったのは初めてだ。
ずっとこうしていたくなる。
「私こそ、織田の馬鹿息子から逃げてしまってよかったのでしょうか……」
「北畠家のことが心配?」
「はい。どんな形でも家が残ればいいのですが……」
「まあ君のお父さんによれば北畠家の家督を継ぐ織田の子息は相当ダメだそうだからね」
北畠家の養嗣子となったのは後の織田信雄だ。
彼は織田信長の息子の中でもできが悪かったのではないかと後の世では言われている人物だ。
北畠家をダメにする可能性は十分にある。
「でもさ、君だって北畠家の人間だろ。もし本家がダメになっても、俺達の子孫が北畠家を名乗ればいいんだよ」
「それもどうかと思うのですが。まあ今の世では、それもありですかね」
「そうだよ。家名なんて勝手に名乗ってる人ばかりじゃないか。それに比べて俺達の場合は本当に北畠家の血を引いているんだから問題ないさ」
「そうですね。善次郎さん、早く子供が欲しいです」
「え……」
雪さんは俺の肩に頭を乗せてもたれかかる。
伊勢から岐阜への帰り道、俺に記憶を失わせた体温だ。
今度無くなったのは理性だった。
「キャンキャンキャンッ」
昨日はゆきまるにお酒をあげるのを忘れて朝帰りしてしまった。
俺は小さな子犬相手に頭を下げて謝る。
「すまなかった。ゆきまる、機嫌を直してくれよ」
「キャンキャンッ」
ゆきまるはぷいっとそっぽを向く。
しかし俺が酒を木皿に注ぎ始めるとそわそわしだす。
そしてついには我慢できなくなって木皿に顔を突っ込んだ。
ぴちゃぴちゃと酒を舐める音が響く。
頭を撫でても怒らない。
なんとか機嫌は直ったようだ。
「ご飯ができましたよ」
「ああ、いつもありがとう」
俺は雪さんと向かい合ってご飯を食べる。
昨日の今日だから少し気恥ずかしい。
気分を紛らわすためにガチャでも引こう。
俺はご飯を手早く食べると手を合わせてご馳走様と言い、スマホを取り出す。
最近ガチャではろくなものが出てないんだよな。
いや食料とか日用品とか、ありがたいことはありがたいんだけどね。
なんとなく以前出ていたAランク以上のものが出ないことに不満を感じてしまう。
たとえそれが一生涯使うことの無いものであろうと、レアリティが高いものを求めてしまうのが人間というものだ。
俺は今日もどこにいるともしれない神様に祈りを捧げ、ガチャを回す。
演出は金。
歓喜に胸が震える。
金ということはAランクのものが出たということだ。
震える手でスマホの画面に触れる。
Sランク
なし
Aランク
・よく切れる日本刀
・スクロール(テレポート)
Bランク
なし
Cランク
・厚揚げ×10
・イチゴ大福×10
・蜂蜜×10
・作務衣上下×3
・フライパン
Dランク
・下駄
・トイレットペーパー
・桃の缶詰
Aランクが2つ!と思ったら一つはダブり。
なんとも複雑な心境だ。
しかもよく切れる日本刀は、何に使っても危ないので最近は収納の指輪の奥底に仕舞われたまま出されることは皆無の品だ。
指輪の肥やしが一つ増えたな。
もうひとつのAランク、スクロール(テレポート)が気になるところ。
テレポートってあのテレポートだよね。
瞬間移動するやつ。
本当だったらかなり凄いじゃないか。
無人島にテレポートしてバカンスとかを楽しみたい。
俺はスクロールを即座に開いた。
俺と雪さんの結婚を祝って、殿の屋敷では宴が開かれている。
しかしみんな連日連夜の宴なものだから、ぐでんぐでんで何言ってるのかよく分からない。
殿はさっきから同じことばかり繰り返しているし、吉兵衛さんは寝ているし、まともなのは勘左衛門さんだけだ。
「善次郎殿。嫁を貰ったからには、もっとしっかりしなければなりませんよ。お雪さんの生活もあなたが背負っていかねばならないのですからね。聞いていますか?」
「は、はい……」
「清、そのへんにしておきなさい。善次郎殿はお前が思っておるよりもずっとしっかりしておる。ああ、お前はまたこんなに飲んで……」
酔っ払って説教が止まらなくなる清さんを止めてくれる勘左衛門さん。
さすがは清さんと長年連れ添っているだけはある。
殿は弱小武士だから、女の人も宴に参加するくらいには家臣やその家族との距離が近いんだ。
だけど酒を飲んだ清さんの説教は山内家の家臣みんなが恐れている。
その矛先は時に殿にまで向けられるというのだから恐ろしい人だ。
今までは大体吉兵衛さんが目をつけられていたそうなのだが、俺という新たな標的ができて吉兵衛さんは安堵している。
俺も後輩ができたら解放されるのだろうか。
そんな未来は見えないな。
今でも吉兵衛さんの弟の吉蔵君とか勘左衛門さんの息子の新太郎君とか、俺よりも年下はたくさんいるのに清さんは俺に真っ先に説教をするからな。
こうして勘左衛門さんが助けてくれるまで俺は頭を縦に振り相槌を打つだけの置物になるしかない。
酷い目にあったので少し外の空気が吸いたいな。
俺は酒臭い座敷を抜け、縁側に逃げ込んだ。
そこには同じように逃げてきた雪さんがいた。
「お酒、飲まなかったんですか?」
「俺は一滴も酒が飲めない体質なんだよ」
「そんなことで武士が務まりますか?」
「雪さんだってお酒は飲めないじゃないか」
「名前、呼び捨てにしてください」
「人の名前呼び捨てにするの、苦手なんだよね」
「しょうがない人ですね。妻のことをさん付けで呼ぶ人なんてこの時代にはいませんよ?」
そう言ってくすりと笑う雪さんの横顔にしばし見惚れる。
月明かりに照らされた雪さんの横顔は幻想的で美しい。
「織田の馬鹿息子……なんて俺が言っちゃいけないんだろうけど。彼には悪いことをしちゃったかな。こんなに綺麗なお嫁さんを、攫っちゃったんだから」
「そんなことを、女人みんなに言ってるんですか?」
「言うわけないじゃないか。第一俺の知り合いの女の人はみんな旦那さんがいるよ」
「そうですか。それなら安心、なのですかね」
2人の間には穏やかな沈黙の時間が流れる。
沈黙が心地いいと思ったのは初めてだ。
ずっとこうしていたくなる。
「私こそ、織田の馬鹿息子から逃げてしまってよかったのでしょうか……」
「北畠家のことが心配?」
「はい。どんな形でも家が残ればいいのですが……」
「まあ君のお父さんによれば北畠家の家督を継ぐ織田の子息は相当ダメだそうだからね」
北畠家の養嗣子となったのは後の織田信雄だ。
彼は織田信長の息子の中でもできが悪かったのではないかと後の世では言われている人物だ。
北畠家をダメにする可能性は十分にある。
「でもさ、君だって北畠家の人間だろ。もし本家がダメになっても、俺達の子孫が北畠家を名乗ればいいんだよ」
「それもどうかと思うのですが。まあ今の世では、それもありですかね」
「そうだよ。家名なんて勝手に名乗ってる人ばかりじゃないか。それに比べて俺達の場合は本当に北畠家の血を引いているんだから問題ないさ」
「そうですね。善次郎さん、早く子供が欲しいです」
「え……」
雪さんは俺の肩に頭を乗せてもたれかかる。
伊勢から岐阜への帰り道、俺に記憶を失わせた体温だ。
今度無くなったのは理性だった。
「キャンキャンキャンッ」
昨日はゆきまるにお酒をあげるのを忘れて朝帰りしてしまった。
俺は小さな子犬相手に頭を下げて謝る。
「すまなかった。ゆきまる、機嫌を直してくれよ」
「キャンキャンッ」
ゆきまるはぷいっとそっぽを向く。
しかし俺が酒を木皿に注ぎ始めるとそわそわしだす。
そしてついには我慢できなくなって木皿に顔を突っ込んだ。
ぴちゃぴちゃと酒を舐める音が響く。
頭を撫でても怒らない。
なんとか機嫌は直ったようだ。
「ご飯ができましたよ」
「ああ、いつもありがとう」
俺は雪さんと向かい合ってご飯を食べる。
昨日の今日だから少し気恥ずかしい。
気分を紛らわすためにガチャでも引こう。
俺はご飯を手早く食べると手を合わせてご馳走様と言い、スマホを取り出す。
最近ガチャではろくなものが出てないんだよな。
いや食料とか日用品とか、ありがたいことはありがたいんだけどね。
なんとなく以前出ていたAランク以上のものが出ないことに不満を感じてしまう。
たとえそれが一生涯使うことの無いものであろうと、レアリティが高いものを求めてしまうのが人間というものだ。
俺は今日もどこにいるともしれない神様に祈りを捧げ、ガチャを回す。
演出は金。
歓喜に胸が震える。
金ということはAランクのものが出たということだ。
震える手でスマホの画面に触れる。
Sランク
なし
Aランク
・よく切れる日本刀
・スクロール(テレポート)
Bランク
なし
Cランク
・厚揚げ×10
・イチゴ大福×10
・蜂蜜×10
・作務衣上下×3
・フライパン
Dランク
・下駄
・トイレットペーパー
・桃の缶詰
Aランクが2つ!と思ったら一つはダブり。
なんとも複雑な心境だ。
しかもよく切れる日本刀は、何に使っても危ないので最近は収納の指輪の奥底に仕舞われたまま出されることは皆無の品だ。
指輪の肥やしが一つ増えたな。
もうひとつのAランク、スクロール(テレポート)が気になるところ。
テレポートってあのテレポートだよね。
瞬間移動するやつ。
本当だったらかなり凄いじゃないか。
無人島にテレポートしてバカンスとかを楽しみたい。
俺はスクロールを即座に開いた。
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