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13.城下とトラブル

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 戦国時代にトリップしてから、早1ヶ月と数日の月日が経過した。
 なにはともあれ朝起きたらガチャだ。
 演出は緑。
 Cランク以下のアイテムしかないときの演出だ。

 Sランク
  なし

 Aランク
  なし

 Bランク
  なし

 Cランク
  ・塩鮭(甘口)×10
  ・茶葉(緑茶)×10

 Dランク
  ・ティッシュ
  ・トランプ
  ・スリッパ
  ・テニスボール
  ・ラケット(卓球)
  ・洗濯ばさみ
  ・しゃもじ
  ・ボールペン

 ガチャは先日からこの調子だ。
 以前はBランクのアイテムは必ず1つは入っていたし、週に1回くらいはAランクのアイテムも出た。
 しかしこの時代に飛ばされて1ヶ月が経過した次の日くらいから、ガチャのレアリティが一気に下がったような気がする。
 少し長めの運の低迷期ということも考えられるが、初月レアリティブーストが終わったと考えるのが自然か。
 もうAランク以上のアイテムが簡単には手に入らないと考えると、初月にもっと運気を上げる努力をしておけばよかったような気がしてくる。
 しかし終わってしまったものはしょうがない。
 切り替えていこう。
 悪いことばかりではないんだ。
 魔法の使えるようになるスクロールなんかよりも、洗濯ばさみやティッシュのほうが役に立つことは間違いない。
 しかしなんとなくテンションが上がらない。
 殿は姉川の戦いに行っちゃったしな。
 俺も来たければ来いと言われたけれど、断った。
 元々俺は薬師として雇われているのであって、戦働きをするような家臣じゃないんだよ。
 他所の武将だったら腰抜けとか言われるんだろうけど、殿はそうかと笑っていた。
 吉兵衛さんの弟の吉蔵君にはちょっときつく睨まれちゃったけどね。
 彼は吉兵衛さんの7つ下の弟なので、今15歳。
 年頃ゆえに少し尖っている。
 この時代ではただでさえ戦に出て戦うことが美徳とされている時代だ。
 武士の家系に生まれた年頃の男子には、臆病者の俺がかっこ悪く見えるのだろう。
 しょうがないね。
 いつか分かってくれる日も来るさ。
 まあそんなわけで、みんな留守だから暇なんだ。
 善住坊さんも戦に出たいとかで殿に付いて行っちゃったし。
 俺から盗んだ剣技を試してみたいとか言っていた。
 本当に見ただけで真似できるのかな。
 それって俺なんかよりもよほど凄いと思うんだけど。
 まあ頑張って戦功を稼いできて欲しい。
 殿のお給料アップのために。
 殿が出世すれば俺達家臣にも屋敷くらいもらえるかもしれないし。
 まあ史実では殿が出世するのは3年後くらいだが。
 善住坊さんが寝返るという史実には無いことが起こってしまっているからには、史実どおりとは限らないだろう。
 もう少し早く出世することができる可能性もある。
 頑張って敵将とかを討ち取って欲しいと思う。
 たとえ手柄なんて上げられなくても、無事に戻ってきてくれればいいんだけどね。
 殿の奥さんの千代さんにお赤飯でも炊いてもらって、残念会でも開こう。
 最近では千代さんに文字を教えてもらって、お礼に食材などを渡しているので山内家の食卓はそこそこ充実してきているはずだ。
 俺は日本語は読み書きできるが、この時代の文字は本当に同じ言語かと思うほど難解だ。
 とてもではないが、独力では読み解けない。
 そこで読み書きのできる千代さんに教えてもらっているというわけだ。
 もっと位の高い武士の家だったら家臣と主の妻なんて組み合わせはスキャンダルになっちゃうんだろうが、殿はのほほんとして笑っている。
 俺も別に千代さんを寝取ってやろうなどとは思ってないのだが、武家ってこんな感じで本当に大丈夫なのだろうか。
 まあ千代さんは結構しっかりしているので大丈夫だと思うけど。
 殿は少し心配になるときがある。
 普通に考えて武士とか向いてない人だよな。
 そんなことを考えながら長屋の部屋でゴロゴロしていると、あっという間にお昼になる。
 お昼ご飯にしよう。
 戦国時代の風習は知らんけど、俺はお昼食べないと落ち着かないからね。
 今日は城下にでも出かけて外食でもしようかな。
 織田信長は楽市楽座という政策を行ったことで有名だ。
 この時代の商売は一般的に座と呼ばれる商業組合のようなものが幅を利かせている。
 何をするにも座に許可を貰う必要があって、自由にできるわけじゃなかった。
 簡単に言えば既得権益に配慮が必要だったわけだ。
 それを壊したのが織田信長。
 座を廃止して、誰でも自由に商売ができるようになった。
 良いことばかりでもなかった政策だったようだけれど、とりあえず城下は賑わっている。
 戦国時代なんで食材は限られているが、食べ物屋が無いわけでもない。
 ほとんどは雑穀の雑炊や白湯みたいなお粥を食べさせるような店だけれど、俺は先日ご飯とおかず、味噌汁が付いた定食のようなものを食べさせてくれるお店を発見したんだ。
 現代ならばどこにでもあるような定食屋だけど、戦国時代にそんな店を発見したときの喜びはひとしおだった。
 コンロも炊飯器も無い戦国時代の自炊のめんどうさに辟易していた俺にとってはまさに天の采配。
 ガチャでよく出る米を売ったりすれば銭に困ることも無い。
 毎食外食でもいいくらいだ。
 さすがに店の人に怪しまれるのでやらないが。
 俺はいつものように城下を作務衣にビーサンで歩く。
 左手には刀。
 戦国時代は治安も良くないからね。
 さすがにAランクのぶっ壊れ性能の刀ではなくBランクの普通の名刀だが。
 鞘は艶やかな漆塗りで、めちゃくちゃ値打ち物だと主張している。
 刀目当てに襲われても本末転倒なので、鞘にはボロ布を巻いてカモフラージュしている。
 あの定食屋はたしか、この先の辻を怪しげな方へ少し入り込んだあたりに地味な看板を出していたはずだ。
 俺は辻を曲がった。

「いやっ、離して下さい!」

「いいじゃねえかよ。ちっと遊んでいこうぜ」

「無礼者っ、このお方を誰と心得るっ。織田軍、山内伊右衛門様の奥方様であるぞ!」

「山内伊右衛門だあ?誰だそりゃ。知らねーよ。ばばあはどっか行ってろ。俺達はこっちのお嬢ちゃんに用があるんだよ」

 辻の先では浪人風の男たちと千代さん、それに勘左衛門さんの奥さんの清さんがすったもんだしていた。
 さすがに見てみぬ振りはできないよね。
 千代さんも清さんも知り合いだし。
 人としてね。
 俺は溜息を吐き、2人の元へと急いだ。
 
「ちょっとあんたたち、なにしてんの」

「あんだ?てめぇ。ひょろっとした野朗だぜ」

「なんか用か?兄ちゃん」

「善次郎殿!」

「この通り、俺はこの人たちの知り合いなんだ」

「へー、それで?」

 話の分からない人たちだな。

「だから、ちょっと絡むのやめてくれないかと」

「ほう、それは俺達に頼んでんのか?」

「だったら頼み方ってもんがあるだろうが」

「誠意ってもんを見せてみろよ」

 なんで俺が誠意を見せないといけないんだ。
 さすがにそこまで言われてへらへらしていられるほど俺も大人じゃない。
 俺は1本の紐を取り出す。
 綺麗な組紐だ。
 これは以前市で買ったもの。
 京都の公家の間で流行っている組紐だとか言って買わされた。

「なんだ?その紐は。そんな紐一本で俺達に頼み事しようってか?」

「これはこうするんですよ」

 俺は組紐で刀の鍔と鞘を縛りつけ、抜けないようにする。
 きゅっと結び、鞘の付いた刀を構える。

「はっ、刀も抜けねえ腰抜けがっ」

「人も斬ったことのない童貞野朗か」

「腰抜けは大人しく道場で木刀でも振っておけってんだ」

 浪人風の男たちは、躊躇することなく刀を抜き放った。
 

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