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おっさんずイフ
48.困った客 ※前半名もなき勇者視点
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「なんか最近、メイドが綺麗になってないか?」
「そうなのよね。なんか秘密がありそうなんだけど、聞いても教えてくれないのよね」
私たち勇者にはこの王宮内において役職持ちの貴族並みの権限が与えられている。
たかだかメイドの分際で私たちの質問に答えないなんて生意気ね。
こちらの世界の化粧品は肌に合わず、最近ろくなスキンケアができていない。
それだけではなく肌荒れを化粧で隠してその化粧品で更に肌荒れするという悪循環が起きてしまっている。
メイドたちの間で何か美容に関する秘密があるのは確実なのに、じれったいわね。
私だってあんなたまご肌になりたいのに。
「どうやら使われていなかった西側の離宮に、妙な客が逗留しているようだぜ。王宮の女どもはこぞってそこに通っているみたいだ」
他陣営の勇者が私たちの会話に混ざってくる。
いつもなら鬱陶しいだけの奴だけれど、今日は気になることを言っているので会話を続ける。
「離宮ってあの昔王子が自殺したっていういわくつきの?」
「そうだ。どうやらそこに逗留しているっていうのは男らしい。そこに女どもが通ってツヤツヤして帰ってくる。中でいったいナニをやってるんだろうな。ひひひっ」
「うわキモッ。セクハラで訴えるわよ」
「おお怖い」
キモ男は妙な動きで去っていく。
本当鬱陶しい奴。
それにしても、離宮か。
ちょっと怖いけど、行ってみようかな。
もうお肌が限界なのよね。
王都の歓楽街で3日間のリフレッシュ休暇をとった俺は、再び王宮で仕事を開始する。
女の人にオイルを塗りたくるとても楽しいお仕事だ。
「では今日の施術を始めます」
「ナミコシ様。3日もどこに行っていらっしゃったのですか。寂しかったですわ」
「申し訳ありません。少し調べたいことがありましたので」
「まあ、勤勉でいらっしゃるのね」
嘘は言っていない。
俺は勤勉な人間だ。
勤勉に、女性の身体について調べ事をしていたのだ。
「この3日のおかげで完璧な施術ができそうです」
「まあ、今まで以上に完璧な施術が?素晴らしいわ。さっそくお願いしますわね」
一番最初に並んでいた妙齢のメイドさんがバサリと服を脱ぎ去る。
わお、最初から下着を付けていないとはなかなか上級者だ。
「ナミコシ様、わたくしの身体はどうかしら」
「ええ、とても綺麗で……」
「ちょっとあんたたち、どいて!!」
「「「きゃっ」」」
なんだ?割り込みか?
誰かが統率しているのか、王宮の女性たちは不思議と秩序だってきっちり並ぶ。
それを押しのけてずんずんと順番抜かししてくる一人の女性。
困った人だ。
「うわっ、なんであんた全裸なのよ。まあいいわ。あんたもどいて」
「きゃっ」
今まさに施術を受けようと服を脱いでいた妙齢のメイドさんもどかされてしまった。
順番抜かしの困った女性が俺のすぐ目の前にまで迫る。
どこからどう見ても日本人だからさらに困る。
勇者に接触するつもりはなかったんだがな。
「あんた、何者なの?最近王宮の女たちが綺麗になってるのと関係あるの?」
「私はしがないマッサージ師ですよ。少しばかり美容に効果のあるオイルマッサージをさせていただいております」
「オイルマッサージ!?エステってこと!?」
エステという言葉はこちらの世界にはない。
だからそれを認めてしまうと俺が異世界人だということがばれてしまうのだが、どのみちナミコシなんて知っている人は知っている名前だ。
俺が異世界人だということはばれてもさほど問題はないか。
「そうですよ?美容成分たっぷりのオイルで全身をマッサージし、特殊な魔法で血流を促します。痩身効果もありますね」
「痩身効果!!すごいわ!!私も受けたい!!」
「申し訳ありませんが、私の施術を受けたいのならば順番は守っていただけませんか?」
「わかったわ。私も並ぶわね」
案外聞き分けはよく、日本人女性は列の最後尾に向かって歩いて行った。
少し強引な性格をしているだけでそれほどひねくれてはいないらしい。
順番さえ守ってもらえれば、彼女もしっかりとオイルを塗りたくってあげよう。
「ナミコシ、私の家臣にしてやろう。うれしかろう?どう見ても平民の卑しいお前が、貴族である私に仕えることができるのだぞ?」
また困ったお客さんが来てしまった。
最近この手の輩が多くて困っている。
最初は美容マッサージなどと馬鹿にしていたこの国の貴族たちだったが、俺が女性たちの人気者になり始めるとさすがに彼らも無視しきれなくなったようでちょっかいをかけてくる。
前時代的な男尊女卑を貫くルーガル王国の貴族社会だが、女性の力というのもなかなか馬鹿にはできないからな。
俺を部下にすれば王宮で働く女性たちの力を利用することができるし、単純に金が儲かる。
日本でも美容というものに多額の費用を投じる女性が多いように、この世界でもまた美を求める女性の財布の紐は緩い。
特にこの王宮にいるのはある程度裕福な家の出身者ばかりだ。
美しくなれるのであればどれだけでも金を払うという人が多い。
俺はそこまでぼったくりの料金を取ってはいないが、それでも銀座の美容サロンくらいの金額はいただいている。
がめつい貴族はきっと俺を部下にしてもっとぼったくった金額を吹っ掛けさせて荒稼ぎしようという算段なのだろう。
面倒だな。
殴ってご退場いただくわけにもいかないものな。
「申し訳ありませんが、私は誰にも仕える気はございません」
「なんだと貴様!この私がわざわざ直接声をかけてやっておるのだぞ!!」
「申し訳ありません。お引き取りください」
「無礼な!!であえ!であえ!!」
時代劇の悪役のごとく部下を呼び寄せる馬鹿貴族。
俺が暴れん坊な将軍だったら全員死刑だ。
俺は暴れん坊じゃないから少々ネバネバにするだけで許してやるがな。
「そうなのよね。なんか秘密がありそうなんだけど、聞いても教えてくれないのよね」
私たち勇者にはこの王宮内において役職持ちの貴族並みの権限が与えられている。
たかだかメイドの分際で私たちの質問に答えないなんて生意気ね。
こちらの世界の化粧品は肌に合わず、最近ろくなスキンケアができていない。
それだけではなく肌荒れを化粧で隠してその化粧品で更に肌荒れするという悪循環が起きてしまっている。
メイドたちの間で何か美容に関する秘密があるのは確実なのに、じれったいわね。
私だってあんなたまご肌になりたいのに。
「どうやら使われていなかった西側の離宮に、妙な客が逗留しているようだぜ。王宮の女どもはこぞってそこに通っているみたいだ」
他陣営の勇者が私たちの会話に混ざってくる。
いつもなら鬱陶しいだけの奴だけれど、今日は気になることを言っているので会話を続ける。
「離宮ってあの昔王子が自殺したっていういわくつきの?」
「そうだ。どうやらそこに逗留しているっていうのは男らしい。そこに女どもが通ってツヤツヤして帰ってくる。中でいったいナニをやってるんだろうな。ひひひっ」
「うわキモッ。セクハラで訴えるわよ」
「おお怖い」
キモ男は妙な動きで去っていく。
本当鬱陶しい奴。
それにしても、離宮か。
ちょっと怖いけど、行ってみようかな。
もうお肌が限界なのよね。
王都の歓楽街で3日間のリフレッシュ休暇をとった俺は、再び王宮で仕事を開始する。
女の人にオイルを塗りたくるとても楽しいお仕事だ。
「では今日の施術を始めます」
「ナミコシ様。3日もどこに行っていらっしゃったのですか。寂しかったですわ」
「申し訳ありません。少し調べたいことがありましたので」
「まあ、勤勉でいらっしゃるのね」
嘘は言っていない。
俺は勤勉な人間だ。
勤勉に、女性の身体について調べ事をしていたのだ。
「この3日のおかげで完璧な施術ができそうです」
「まあ、今まで以上に完璧な施術が?素晴らしいわ。さっそくお願いしますわね」
一番最初に並んでいた妙齢のメイドさんがバサリと服を脱ぎ去る。
わお、最初から下着を付けていないとはなかなか上級者だ。
「ナミコシ様、わたくしの身体はどうかしら」
「ええ、とても綺麗で……」
「ちょっとあんたたち、どいて!!」
「「「きゃっ」」」
なんだ?割り込みか?
誰かが統率しているのか、王宮の女性たちは不思議と秩序だってきっちり並ぶ。
それを押しのけてずんずんと順番抜かししてくる一人の女性。
困った人だ。
「うわっ、なんであんた全裸なのよ。まあいいわ。あんたもどいて」
「きゃっ」
今まさに施術を受けようと服を脱いでいた妙齢のメイドさんもどかされてしまった。
順番抜かしの困った女性が俺のすぐ目の前にまで迫る。
どこからどう見ても日本人だからさらに困る。
勇者に接触するつもりはなかったんだがな。
「あんた、何者なの?最近王宮の女たちが綺麗になってるのと関係あるの?」
「私はしがないマッサージ師ですよ。少しばかり美容に効果のあるオイルマッサージをさせていただいております」
「オイルマッサージ!?エステってこと!?」
エステという言葉はこちらの世界にはない。
だからそれを認めてしまうと俺が異世界人だということがばれてしまうのだが、どのみちナミコシなんて知っている人は知っている名前だ。
俺が異世界人だということはばれてもさほど問題はないか。
「そうですよ?美容成分たっぷりのオイルで全身をマッサージし、特殊な魔法で血流を促します。痩身効果もありますね」
「痩身効果!!すごいわ!!私も受けたい!!」
「申し訳ありませんが、私の施術を受けたいのならば順番は守っていただけませんか?」
「わかったわ。私も並ぶわね」
案外聞き分けはよく、日本人女性は列の最後尾に向かって歩いて行った。
少し強引な性格をしているだけでそれほどひねくれてはいないらしい。
順番さえ守ってもらえれば、彼女もしっかりとオイルを塗りたくってあげよう。
「ナミコシ、私の家臣にしてやろう。うれしかろう?どう見ても平民の卑しいお前が、貴族である私に仕えることができるのだぞ?」
また困ったお客さんが来てしまった。
最近この手の輩が多くて困っている。
最初は美容マッサージなどと馬鹿にしていたこの国の貴族たちだったが、俺が女性たちの人気者になり始めるとさすがに彼らも無視しきれなくなったようでちょっかいをかけてくる。
前時代的な男尊女卑を貫くルーガル王国の貴族社会だが、女性の力というのもなかなか馬鹿にはできないからな。
俺を部下にすれば王宮で働く女性たちの力を利用することができるし、単純に金が儲かる。
日本でも美容というものに多額の費用を投じる女性が多いように、この世界でもまた美を求める女性の財布の紐は緩い。
特にこの王宮にいるのはある程度裕福な家の出身者ばかりだ。
美しくなれるのであればどれだけでも金を払うという人が多い。
俺はそこまでぼったくりの料金を取ってはいないが、それでも銀座の美容サロンくらいの金額はいただいている。
がめつい貴族はきっと俺を部下にしてもっとぼったくった金額を吹っ掛けさせて荒稼ぎしようという算段なのだろう。
面倒だな。
殴ってご退場いただくわけにもいかないものな。
「申し訳ありませんが、私は誰にも仕える気はございません」
「なんだと貴様!この私がわざわざ直接声をかけてやっておるのだぞ!!」
「申し訳ありません。お引き取りください」
「無礼な!!であえ!であえ!!」
時代劇の悪役のごとく部下を呼び寄せる馬鹿貴族。
俺が暴れん坊な将軍だったら全員死刑だ。
俺は暴れん坊じゃないから少々ネバネバにするだけで許してやるがな。
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