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おっさんずイフ
42.ルーガル王国
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「おっさんずるいぞ、もうCランクなんて。俺たちまだFランクで薬草採集やおつかいみたいな依頼ばかりなのに」
「世の中のおっさんはみんなずるいものなんだよ。悔しかったらマルスも早くおっさんになるんだな」
「えー、おっさんにはなりたくない」
「じゃあ地道に頑張るんだ。おっさんになる前にはCに上がれるんじゃないか」
「ちぇっ、しょうがないな」
週に1回ほど定期的に深海魚の依頼を受ける俺は、冒険者ギルドから優遇されてあっという間にCランク冒険者となった。
ここから先は昇格に試験があるそうなのでギルドのほうで勝手に上げるわけにはいかないそうだ。
Cより上は本物の実力が必要ってことだな。
まだ冒険者になったばかりなので俺には色々な知識や経験が足りていない。
Bランクに挑戦するのはもう少しグウェンに色々なことを教えてもらってからにしておこう。
「それでグウェン、そろそろ冒険者としての活動を再開するんだろ?」
「うーん、それなんだけどね。シゲちゃんには申し訳ないけど、ちょっと国がらみのお仕事が入っちゃいそうなのよね」
「国がらみか。おじいさんの関係かな」
グウェンのおじいさんはこの街の冒険者ギルドの支部長をしている。
国を跨いだ独立機関である冒険者ギルドだけれど、支部を各国に置く以上はある程度その国からの指図を受けてしまうのだ。
時には先日の出向職員のような人材の受け入れもしなければならない。
そのへんは国とギルドの力関係にもよるようだが、ヌルバ王国は大国と言ってもいいくらいの規模の国で、ギルドはヌルバ王国に対してある程度の配慮をする必要がある。
しかしあまりずかずかと物を言ってほしくないというのがギルドの本音で、そこでこの街のギルド支部長に選ばれたのがヌルバの貴族家出身であるグウェンの祖父リンカーベル氏だった。
ヌルバ王国としては自分たちの思い通りになるような人材を送り込みたかったようだが、リンカーベル氏は冒険者ギルド本部総帥と懇意にしていたために選出されたようだ。
リンカーベル氏の立場としては基本は中立。
ヌルバ王国の意向もある程度受け入れるが、冒険者ギルドの利益を損なうようなことは避ける。
それができるくらいには彼の家の家格は高く、ヌルバ国内での発言権は強かった。
だがリンカーベル氏は、冒険者ギルドの支部長であるのと同時にニコライゾフ家という貴族家も背負っている。
グウェンが頼まれたというのはその貴族家としての仕事だろう。
「あたしはおじいちゃん子でね。小さい頃からおじいちゃんにはとっても可愛がってもらったのよ。だからおじいちゃんの頼みはできる限り聞いてあげたいのよ。冒険したいなんてシゲちゃんを誘っておいて、ごめんね」
「いや、俺のいた世界には親孝行したいときに親はないって言葉はある。おじいさんならもっと一緒にいられる時間は少ないだろう。よかったら俺も手伝おうか」
「ふふっ、ありがとう。そうね、シゲちゃんの影泳ぎの腕輪なら情報収集にはうってつけかもしれないわね。お願いしようかしら。とりあえずおじいちゃんから頼まれたことを伝えるわね」
グウェンの話によれば、おじいちゃんから頼まれたのはルーガル王国の内部調査なのだという。
ルーガル王国といえばグウェンの生家であるスクアード家があり、俺たち異世界人を300人ばかり獣人たちとの戦争のために呼び出した国だ。
現在その獣人たちの国との戦争は終焉に近づいており、獣人たちの国はそのほとんどがルーガル王国を含めた三国の領土となってしまったようだ。
なにせ三国同盟は単純計算で900個近くの神器を手に入れた計算になるのだ。
しょぼくれたおっさんがたった3つの神器を手に入れたくらいで超人のような力を発揮するのが神器というもの。
いかに屈強な獣人たちであろうとそんなに大量の神器を持った国に勝てる道理はない。
問題は三国同盟が獣人たちの国を併合した後、そこで止まるのかということだ。
人間の欲望というのは限りがない。
殊更に勝利の記憶というものは強い快感となって人間の脳を支配する。
俗にいうギャンブル脳というやつだ。
もし三国同盟の首脳部がこのギャンブル脳に陥って大日本帝国のごとく領土欲を抑えられなくなったとしたら、ルーガル王国に国境を接するこのヌルバ王国もまた侵略対象に入ってしまうのではないだろうか。
それを危惧したヌルバ王国はルーガル王国の内部調査をすることになったのだという。
裏では工作員のような人を潜り込ませたりもしているそうだが、表からもルーガル王国の内情を探る必要がある。
娘がルーガル王国の大貴族に嫁いでおり孫とも良好な関係を築いているリンカーベル氏はヌルバ王国の中でもルーガル王国の内情に最も通じた人間であると言えるだろう。
「あたしもルーガル王国の貴族家の人間だから本当はおじいちゃんとはいえ他国の貴族に情報を流すのはいけないことなんだけどね。あたしルーガル王国ってなんか嫌いなのよね。パパはよくやってると思うけど、他の貴族とかもう最低最悪のクズばっか」
まあそれはわかる。
王都から出ようとする旅人から食料を奪って牢屋にぶち込んでいたのを思い出す。
あの旅人たちはどうなってしまったのだろうか。
「世の中のおっさんはみんなずるいものなんだよ。悔しかったらマルスも早くおっさんになるんだな」
「えー、おっさんにはなりたくない」
「じゃあ地道に頑張るんだ。おっさんになる前にはCに上がれるんじゃないか」
「ちぇっ、しょうがないな」
週に1回ほど定期的に深海魚の依頼を受ける俺は、冒険者ギルドから優遇されてあっという間にCランク冒険者となった。
ここから先は昇格に試験があるそうなのでギルドのほうで勝手に上げるわけにはいかないそうだ。
Cより上は本物の実力が必要ってことだな。
まだ冒険者になったばかりなので俺には色々な知識や経験が足りていない。
Bランクに挑戦するのはもう少しグウェンに色々なことを教えてもらってからにしておこう。
「それでグウェン、そろそろ冒険者としての活動を再開するんだろ?」
「うーん、それなんだけどね。シゲちゃんには申し訳ないけど、ちょっと国がらみのお仕事が入っちゃいそうなのよね」
「国がらみか。おじいさんの関係かな」
グウェンのおじいさんはこの街の冒険者ギルドの支部長をしている。
国を跨いだ独立機関である冒険者ギルドだけれど、支部を各国に置く以上はある程度その国からの指図を受けてしまうのだ。
時には先日の出向職員のような人材の受け入れもしなければならない。
そのへんは国とギルドの力関係にもよるようだが、ヌルバ王国は大国と言ってもいいくらいの規模の国で、ギルドはヌルバ王国に対してある程度の配慮をする必要がある。
しかしあまりずかずかと物を言ってほしくないというのがギルドの本音で、そこでこの街のギルド支部長に選ばれたのがヌルバの貴族家出身であるグウェンの祖父リンカーベル氏だった。
ヌルバ王国としては自分たちの思い通りになるような人材を送り込みたかったようだが、リンカーベル氏は冒険者ギルド本部総帥と懇意にしていたために選出されたようだ。
リンカーベル氏の立場としては基本は中立。
ヌルバ王国の意向もある程度受け入れるが、冒険者ギルドの利益を損なうようなことは避ける。
それができるくらいには彼の家の家格は高く、ヌルバ国内での発言権は強かった。
だがリンカーベル氏は、冒険者ギルドの支部長であるのと同時にニコライゾフ家という貴族家も背負っている。
グウェンが頼まれたというのはその貴族家としての仕事だろう。
「あたしはおじいちゃん子でね。小さい頃からおじいちゃんにはとっても可愛がってもらったのよ。だからおじいちゃんの頼みはできる限り聞いてあげたいのよ。冒険したいなんてシゲちゃんを誘っておいて、ごめんね」
「いや、俺のいた世界には親孝行したいときに親はないって言葉はある。おじいさんならもっと一緒にいられる時間は少ないだろう。よかったら俺も手伝おうか」
「ふふっ、ありがとう。そうね、シゲちゃんの影泳ぎの腕輪なら情報収集にはうってつけかもしれないわね。お願いしようかしら。とりあえずおじいちゃんから頼まれたことを伝えるわね」
グウェンの話によれば、おじいちゃんから頼まれたのはルーガル王国の内部調査なのだという。
ルーガル王国といえばグウェンの生家であるスクアード家があり、俺たち異世界人を300人ばかり獣人たちとの戦争のために呼び出した国だ。
現在その獣人たちの国との戦争は終焉に近づいており、獣人たちの国はそのほとんどがルーガル王国を含めた三国の領土となってしまったようだ。
なにせ三国同盟は単純計算で900個近くの神器を手に入れた計算になるのだ。
しょぼくれたおっさんがたった3つの神器を手に入れたくらいで超人のような力を発揮するのが神器というもの。
いかに屈強な獣人たちであろうとそんなに大量の神器を持った国に勝てる道理はない。
問題は三国同盟が獣人たちの国を併合した後、そこで止まるのかということだ。
人間の欲望というのは限りがない。
殊更に勝利の記憶というものは強い快感となって人間の脳を支配する。
俗にいうギャンブル脳というやつだ。
もし三国同盟の首脳部がこのギャンブル脳に陥って大日本帝国のごとく領土欲を抑えられなくなったとしたら、ルーガル王国に国境を接するこのヌルバ王国もまた侵略対象に入ってしまうのではないだろうか。
それを危惧したヌルバ王国はルーガル王国の内部調査をすることになったのだという。
裏では工作員のような人を潜り込ませたりもしているそうだが、表からもルーガル王国の内情を探る必要がある。
娘がルーガル王国の大貴族に嫁いでおり孫とも良好な関係を築いているリンカーベル氏はヌルバ王国の中でもルーガル王国の内情に最も通じた人間であると言えるだろう。
「あたしもルーガル王国の貴族家の人間だから本当はおじいちゃんとはいえ他国の貴族に情報を流すのはいけないことなんだけどね。あたしルーガル王国ってなんか嫌いなのよね。パパはよくやってると思うけど、他の貴族とかもう最低最悪のクズばっか」
まあそれはわかる。
王都から出ようとする旅人から食料を奪って牢屋にぶち込んでいたのを思い出す。
あの旅人たちはどうなってしまったのだろうか。
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