おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉

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おっさんずイフ

41.深海魚

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 トーガを脱ぎ捨て、軽く準備運動。
 身体が温まったところで、俺は息を肺いっぱいに吸い込み海に飛び込んだ。
 右手には水妖の三又矛。
 目の周りに薄い水の膜を張ることにより、視界をクリアに保つ。
 目的の魔物は海底1000メートル近くの深海に住んでいるらしいので急がなくては。
 当然そんな深海に素潜りで向かうなんて普通の人間にできることではない。
 肺活量や耐水圧性を神器によって強化されたおっさんの強みだ。
 そして水を操る神器を得たことによって更に速く水の中を移動することができるようになったからこそ、それほどまでに深いところまで潜ることができるのだ。
 グウェンいわく冒険者ギルドはある一定の冒険者を優遇することはないと謳ってはいるが、それは建前らしい。
 単純に強くて依頼達成率の高い冒険者は優遇される。
 そしてそれ以上に、その冒険者にしか達成することのできない依頼があるような特殊な冒険者はもっと優遇される。
 つまりは、俺にしか達成できないような依頼が存在していれば俺は優遇され早くランクを上げてもらうことができるかもしれないのだ。
 そしておあつらえ向きに俺にしか達成できないような依頼が存在していた。
 それが今受けている依頼。
 深海1000メートル近くに生息しているらしい深海魚の魔物の討伐。
 この魔物、深海魚らしくグロテスクな見た目ながらも非常に美味。
 いかに多種多様な人種が暮らしているヌルバ王国でも、深海まで行ける種族というのは限られる。
 この依頼はその限られた種族向けの依頼なのだ。
 現在ヌルバスタにいる深海に潜れる種族の冒険者は魚人族のおじいちゃん冒険者が一人だけ。
 しかも数カ月に1度ほど気が向いたら依頼を受けるという悠々自適の隠居生活に足を突っ込みかけている。
 これは俺という人間を冒険者ギルドに高く売りつけるチャンスだ。
 俺は魔女が箒で空を飛ぶように三又矛にまたがると、矛の先端から高速で水を噴射させて深海に真っ逆さまにぶっ飛んでいった。
 おそらく時速100キロは出ているだろう。
 スピードが速すぎて身体の前面がかなり圧迫されて苦しい。
 地上だって70キロで走るだけで風がおっぱいのように感じるのだ。
 水中で100キロなんて出そうものならもう横綱級おっぱいだ。
 圧迫されて死んでしまう。
 俺は水を操作して矛の柄頭の先に流線形のバリアを張り、水の抵抗を和らげる。
 幾分かよくなった。
 俺の身体ほどんどん暗い深海に運ばれていく。
 ちょっと怖くなってきた。
 深海の何が怖いってやっぱりこの闇だよな。
 光が届かないほどの深海はまるで宇宙のようで、矮小な人間なんかはあっという間に飲み込んでしまいそうだ。
 何も見えないと怖いのでつい先日神樹の若木から手に入れた魔法を使う。
 魔法の名前は【閃光球】、中級魔法だ。
 本来は目つぶしに使ったり打ち上げて信号弾として使ったりするようだが、深海ではいい灯りとなってくれるだろう。
 魔力によって魔法陣を描き、閃光球を発動させれば強力な光によって暗い深海が照らされていく。
 やはりこの光の強さは暗闇では便利だな。
 直接見るとちょっと目の奥が痛むくらいに強い光だけれど、離れた場所に浮遊させておけばちょうどいい。
 光に興味を持ったのか、異世界の海の巨大な魚たちが俺に集まってくる。
 それを俺は水の刃で貫き絶命させ、後で引き上げられるように水のロープを通しておく。
 便利で強い神器のおかげで海の中でも魚に遅れをとることはない。
 海中で水の刃なんて全然見えないし、魚たちも避ける間もなく貫かれて死んでいく。
 光でおびき寄せて魚を仕留めるなんて、まるでそういう漁のようだ。
 あっという間に魚の魔物が数珠つなぎになってしまった。
 しかしお目当ての深海魚らしき魚は見かけない。
 もう少し深くまで行ってみるとしよう。
 また3、400メートルほど進むと、さっきまでとは明らかに生態系が変わった。
 普通の魚の姿をしている魔物はほとんどおらず、皆一様にエイリアンのような恐ろしい姿をしている。
 鳥肌が立ちっぱなしだ。
 暗いし寒いし、水圧もすごいし、おまけに生き物が気持ち悪い。
 この世の地獄かここは。
 おっさんでなければ耐えられなかった。
 もし俺がJKだったら、いや、そんな想定は気持ち悪いのでやめておく。
 エイリアンズの中にお目当ての深海魚らしき姿を発見したので近づき、水の刃の一撃で仕留める。
 海中では無類の強さだ。
 しかし血の匂いを嗅ぎ取ったのか、周りのエイリアンズが興奮して暴れ始めた。
 深海の魔物は光にはあまり寄ってこないが、匂いに敏感なようだ。
 俺は仕留めた魚を水の膜に包んでロープに通し、全速力で深海を離れる。
 急浮上は絶対ダメって聞いたことがあるが、そもそも1000メートルの深海まで生身で潜っているのだから今更だろう。
 後で身体に不調が出たら神酒を飲めばいい。
 浮力も合わさった帰り道は行きよりも数倍の速さが出た。
 襲ってくる魚の魔物を置き去りにして数十秒ほどで海面に浮上する。

「ぶはぁっ、はぁはぁ、空気が美味しい」

 潜航と浮上によって少し位置がずれてしまって海岸からは100メートルほど。
 俺はそのまま神器の水流ジェット噴射によって岸まで戻った。
 岸に上がると神器に繋がっている水のロープを引っ張り、魚を引き上げていく。
 大漁大漁。


 
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