上 下
197 / 205
おっさんずイフ

40.冒険者ランク

しおりを挟む
「ん、あれ、ここは……」

 見たこともない豪華なシャンデリアが天井からぶら下がる豪邸の冷たい床で目を覚ます。
 なんで俺、床で寝ているんだろうか。
 おまけに頭が割れるように痛い。
 そういえば昨日はグウェンの一緒に女の子のいるお店をはしごしたような記憶があるな。
 3軒目くらいから記憶が無いが。
 周りを見回すと大きな天蓋付きベッドが部屋の中央に鎮座していた。
 そこには素っ裸でグウェンが死んだように眠っていた。
 どうやらここはグウェンの部屋らしい。
 俺はなんとなく自分の服を確認するが、襤褸切れみたいなトーガは変わりなく俺の身を外気から守ってくれている。
 少しだけ安心した。
 カラカラに渇いた喉にアルコール分を少なく調整した神酒を流し込み、頭痛を癒して立ち上がる。
 汗と埃とおっさんの色々なエキスで身体がべたべたして気持ちが悪い。
 女の子とも昨夜なんか色々あったような気がするし、風呂に入りたいな。
 しかし初めて入った屋敷で勝手がわからない。
 俺は仕方がなく裸のグウェンに近づき声をかける。

「グウェン、起きてくれ。風呂に入りたいんだけど」

「うーん、死ぬぅ」

 グウェンはマッパの身体を悩ましくくねらせて二日酔いに苦しんでいる。
 でかいな。
 何がとは言わないけど。

「ほら、これ飲んで。二日酔いがすぐによくなる」

 グウェンは白目を剥いたまま無言で神酒を嚥下していく。
 怖い。
 3口4口と飲み込んだ後、突如として白目がグルンと回って黒目が現れた。
 怖すぎてちびるかと思った。

「あぁ、生き返ったわ。頭がすっきりした。シゲちゃんおはよ。いい朝ね」

「あ、ああ。おはよう。朝っていうかもう昼みたいだけど」

「そうなのね。やだ、身体がべとべとね。夕べは2人で女の子を何人も泣かせたものね」

「そうなんだ。俺は途中から記憶があまりないんだけど」

「もったいないわね。シゲちゃん夕べは凄かったのよ。もうぐっちゃんぐっちゃんのトロントロンになるまで……」

 どうやら昨日は魅惑の夜があったようだがR15ではこのへんが限界だ。

「グウェン、こんな時間だけど風呂って入れるかな」

「あたしもお風呂入りたいわ。ちょっとミモザに聞いてみるわね」

 グウェンはサイドテーブルに置かれていたハンドベルみたいなやつを手に取り、軽く鳴らす。
 心に響くような不思議な音色がして、数秒後に扉がノックされた。
 早いな。
 扉の外で待機していたのだろうか。

「失礼します。坊ちゃま、お客様、入りますよ」

「どうぞ」

 昨日見た初老の女性メイドさん、ミモザさんが入ってくる。
 背筋がすっと伸びてこの人もかっこいい女性だ。

「坊ちゃま、またそのような恰好で。何かお召しになってください。はしたないですよ」

「わかってるわよ」

 なんかこういうのいいな。
 2人の関係性がよくわかる。
 グウェンはベッドでくちゃくちゃになっていた黒いガウンを羽織って前を閉める。
 劣等感を刺激される巨大な聖剣が隠れてくれた。

「それで、お風呂は沸いてるかしら」

「はい、いつでも入れるようにご用意してございます」

「だって。シゲちゃん、一緒に入りましょう。男同士ですもの。裸の付き合いよ」

「まあ男同士だけどね……」

 素直には受け取れない男同士だ。
 俺はグウェンの好みとは違うらしいから問題はないんだろうがな。
 クラスに一人くらいの割合でLGBTは存在しているとか聞いたことがあるし、どのみち温泉で一緒に風呂に浸かっている人の中にも一人くらいはそういう嗜好の人というのはいる計算になる。
 オネエと風呂に浸かるくらいはなんの問題もないか。

「わかった。風呂に行こう」

「案内するわ。こっちよ」

 ガウンを脱ぎ捨て、グウェンは歩き出した。
 今着たばかりなのにな。





 グウェンの家の風呂はホテルの大浴場のように広くて素晴らしかった。
 それだけだ。
 おっさんとオネエの混浴描写なんぞいらないだろ。
 俺とグウェンは昼食を兼ねた朝食を食べながら今後のことを話し合う。

「あたしはしばらくヌルバスタでのんびりしようと思うんだけど、シゲちゃんはどうする?」

「とりあえず俺は冒険者ランクを少し上げたいかな」

 昨日一応マルスとマルクルと一緒に冒険者登録は済ませたけれど、登録したばかりだからランクは当然最低ランクのFだ。
 俺たちがグウェンの知り合いであることはすでに知れ渡っていてテンプレイベントは起きなかったが、冒険者たちの顔にはおっさんがFランク冒険者とか笑わせるぜはっはーと書いてあった。
 SランクやAランクというランクになって羨望を集めるのはすぐには無理だろうが、せめておっさんがそのランクでも笑われないくらいのランクにまでは早く上がりたいものだ。
 冒険者ランクを上げるには地道に依頼を達成して冒険者ギルドからの信頼を得るしかない。
 マルスとマルクルに負けないように頑張らなくては。

「ふーん、冒険者ランクを早く上げるための裏技教えてあげましょうか?」

「裏技?」

 そんなのあるのか。
 ちょっとダーティな匂いがするような気がするけれど、嫌いじゃないなそういうの。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

【旧作改訂】イレギュラー召喚で神器をもらえませんでした。だけど、勝手に付いてきたスキルがまずまず強力です

とみっしぇる
ファンタジー
途中で止まった作品のリメイクです。 底辺冒険者サーシャは、薬草採取中に『神器』を持つ日本人と共に危険な国に召喚される。 サーシャには神器が見当たらない。増えていたのは用途不明なスキルがひとつだけ。絶体絶命のピンチを切り抜けて、生き延びられるのか。

生産性厨が異世界で国造り~授けられた能力は手から何でも出せる能力でした~

天樹 一翔
ファンタジー
 対向車線からトラックが飛び出してきた。  特に恐怖を感じることも無く、死んだなと。  想像したものを具現化できたら、もっと生産性があがるのにな。あと、女の子でも作って童貞捨てたい。いや。それは流石に生の女の子がいいか。我ながら少しサイコ臭して怖いこと言ったな――。  手から何でも出せるスキルで国を造ったり、無双したりなどの、異世界転生のありがちファンタジー作品です。  王国? 人外の軍勢? 魔王? なんでも来いよ! 力でねじ伏せてやるっ!  感想やお気に入り、しおり等々頂けると幸甚です!    モチベーション上がりますので是非よろしくお願い致します♪  また、本作品は小説家になろう、エブリスタ、カクヨムで公開している作品となります。  小説家になろうの閲覧数は170万。  エブリスタの閲覧数は240万。また、毎日トレンドランキング、ファンタジーランキング30位以内に入っております!  カクヨムの閲覧数は45万。  日頃から読んでくださる方に感謝です!

強奪系触手おじさん

兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

処理中です...