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おっさんずイフ

38.ヌルバ王国首都ヌルバスタ

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 ガルーダに住み着かれてしまった不運な島から船に乗ること2週間ほど、グウェンが拠点としているヌルバ王国首都ヌルバスタに到着した。
 ヌルバ王国はルーガル王国の西に位置する国だが、三国同盟とは全く違う立場を表明している国だ。
 ヌルバ王国は多民族国家なので人間や獣人など人種によって差別するようなことをしていては国が立ち行かなくなってしまう。
 それゆえに様々な民族の価値観が混然と存在している割とゆるい国なのだ。
 人種とか以前に性別を超越してしまっているグウェンにとっては過ごしやすい国なのかもしれない。
 なにはともあれ俺たちにとっては2か月ぶりくらいの大きな陸地だ。
 島には住民がおらず雨風凌げる屋根はあったけれど暮らしぶりはキャンプとそう違わなかった。
 久しぶりの文明社会だ。
 風呂にも入りたいし美味しいものを食べたい。
 あと女の子のいるお店にもいきたい。
 身体を鍛えた影響なのか神酒の効果なのか、寄る年波によって減衰していたおっさんのおっさんが若い頃のヤンチャボーイに戻りつつある。
 このままではヤンチャボーイを通り越して半グレボーイになってしまう。
 若い頃のように適度に発散してやらなければならないだろう。
 子供たちが寝静まったら夜のお店に繰り出すか。
 幸いにも金はある。
 ちょっとハイクラスのお姉さんに一晩お願いすることができるだろう。

「はぁ、やっと着いたわね。まずは冒険者ギルドね。ついてらっしゃい」

 グウェンの後ろについてヌルバスタの街を歩く。
 街には多くの人がいて子供たちははぐれないように俺が身に纏うボロボロのトーガの裾を掴んでついてきている。
 それにしてもたくさんの見たことない人種がいるな。
 マルスやマルクルのようにオーソドックスな獣人から普通の人族、頭から触角が生えた虫顔の人、背中から羽が生えている頭に輪っかが浮いている人、二足歩行する猫みたいな人。
 この雑多な種族がみんな違う価値観を持ち寄ってこの国ができたのだとすれば、ここでは単一の価値観がなんの意味も持たないのは当たり前か。
 10分ほど人混みを歩くと、グウェンは3階建ての立派な建物の前で立ち止まる。
 ドラゴンと剣の意匠が刻まれた看板のかかった建物だ。
 ここが冒険者ギルドなのか。

「これから冒険者ギルドに入るけど、絶対にあたしから離れないで」

「わかった。マルスとマルクルもいいね?」

「ああ」

「わかった」

 きっとグウェンから離れて冒険者ギルドに入ると異世界モノでは定番となっているイベントが発生してしまうのだろう。
 冒険者なんていう職業の人間は大半は荒くれものでゴロツキと大差ない。
 暴力がものを言う世界で理性的で紳士的な人格を求めるのは難しいのだ。
 これからその巣窟へと入るのだから、洗礼を受けないようにとのグウェンの気づかいだろう。
 無用な争いは寿命を縮める。
 たとえ見当違いの逆恨みであっても余計な恨みは買わないことに越したことはない。
 遠慮なく虎の威を借りまくっておこう。
 俺たちはグウェンの背中にピッタリとくっつくように冒険者ギルドに突入した。
 扉が開き中に入ると、多くの視線が突き刺さる。
 そのほとんどがグウェンに向けられたものだ。
 大きくて目立つからね。
 しかし入ってきたのがグウェンだとわかると鋭い目つきをした荒くれものの冒険者たちはすぐに視線を下し、グウェンと決して目を合わせないように自分の足元ばかりを見るようになってしまった。
 グウェンは礼をもって接すれば気のいいオネエだが、無礼者には少し厳しいからな。
 きっと今目を逸らした人たちは過去に礼を失した対応をしてしまい、痛い目にあったことがあるのだろう。
 グウェンはうつむく冒険者たちを一瞥してウィンクを一つ放つと真っすぐカウンターに向かった。
 息を飲むような小さな悲鳴が聞こえた気がした。

「戻ったわよ」

「お疲れ様です、グウェンさん。支部長がお待ちです」

 受付の綺麗系な人族のお姉さんはグウェンのことを待ち構えていたようで、よどみなく言葉を発する。
 その支部長というのがグウェンが今回の依頼を受けた人物なのだろうか。
 
「ああ、それとあたし彼とパーティを組むことにしたから。後で登録お願いね」

「え、パーティですか?弟子とかではなく?」

「そうよ。なんか文句あるの?」

「い、いえ。少し驚いたものですから。わかりました。後ほど登録します。とりあえず支部長の元へ案内しますね。後ろの方々もご一緒にどうぞ」

 グウェンがパーティを組むという話に受付嬢は少し動揺したようだが、すぐに冷静さを取り戻し俺たちを支部長のもとへと案内し始める。
 できるキャリアウーマンみたいな感じでかっこいいな。

「こちらに支部長がお待ちです」

「ありがと。お茶お願いね。子供たちにはお菓子も」

「かしこまりました」

 応接室みたいな部屋の前まで案内すると受付嬢はお茶を淹れるために去っていった。
 お構いなく。

「おじいちゃん、入るわよ」

 おじいちゃん?
 グウェンはガチャリと扉を開けてずかずかと入っていってしまう。
 俺たちは慌てて後を追った。
 部屋の中で待っていたのは真っ白な髭を長く伸ばした仙人みたいな老人。
 椅子も大きいのでぱっと見気が付かなかったが、よく見るとずいぶん大柄だ。
 グウェンと同じくらいの背丈はあるのではないだろうか。
 身体つきもよぼよぼした感じは全くなく、がっしりとしている。

「ふぉっふぉっふぉっ。グウェン、よく戻ったな。小遣いをやるぞ?」

「もう、おじいちゃん。あたしもう三十路よ?お小遣いなんて子供じゃないのよ」

「すまんすまん、いくつになろうと孫は可愛いくてな」

 孫?
 ということはこの人はスクアード辺境伯か、もしくは奥さんのお父さんということなのだろうか。
 奥さんのお父さんだった場合でも辺境伯の奥さんなんだから並みの身分の人ではないだろう。
 ちょっとへこへこしておくか。


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