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おっさんずイフ

36.ガルーダ戦2

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 グウェンとガルーダの戦いはお互い全く近づかず、遠距離攻撃の撃ち合いになっていた。
 その余波を受けた山の頂上は酷いあり様になってしまっている。
 だが地面がデコボコになっているおかげで影がたくさんできており、俺にとっては好都合だ。
 俺は影からグウェンが置いていった双眼鏡の魔道具をにょっきりと生やし、影の外の様子を伺う。
 ガルーダはやはり空中か。
 影の世界は空には続いてないんだよな。
 空にも影はある。
 雲にできた影や、ガルーダの身体にできた影などだ。
 しかしそこからにょっきり出現してガルーダの動きを止めるということはできないのだ。
 ではガルーダの動きを止めるにはどうしたらいいのか。
 罠を仕掛けるのだ。
 俺は水妖の三又矛を右手に具現化させる。
 少しだけ魔力を込めると、矛の先端から水道の蛇口をひねったかのように水がジャージャーと溢れ出す。
 ガルーダが啄んでいたタイラントサーモンの周りにその水をまき散らし、性質を変化させた。
 最後に空に向かって火球を打ち上げ、影に潜った。
 グウェンも今頃一時撤退しているはずだ。
 俺は影の中を泳ぎ、グウェンとの合流ポイントへと向かった。

「お疲れ様、罠は仕掛けられた?」

「ああ、タイラントサーモンを食べに戻るだろうからその周りにべったりと」

「あとは罠にかかるのを待つだけね」

 古来より、鳥にはトリモチと決まっている。
 俺が半魚人を倒して手に入れた神器【水妖の三又矛】には、出した水の性質を変化させる力があった。
 それは物質の三態のような科学的な意味だけではなく、ただの水をヌルヌルのローション状にしたりネバネバのトリモチ状にしたりと全く原理が理解できない現象も引き起こすことが可能だったのだ。
 トリモチなんて鳥を捕まえるのにちょうどいいと今回の作戦が決まった。
 多少でかいがガルーダだって鳥畜生に他ならない。
 ただの水を警戒して美味しい魚を諦めるなんてことはしないだろう。
 俺たちは地上から堂々とガルーダの元へ向かった。

『ピェェェェェェェッ!!』

 おお、怒っている。
 かつてないほどに怒り狂っている。
 バタバタと大きな翼をはためかせて暴れるガルーダの足には、ネバネバのトリモチがしっかりと纏わりついていた。

「鳥畜生め、人間の知恵を知れ」

「知恵っていうか神器の力だけどね」

 確かに本物のトリモチだったらさすがにガルーダは踏まなかったかもしれない。

「まああれでもSランクの魔物だからね。最後まで油断せずにとどめを刺してくるわ」

 グウェンはそう言うと両手に神器を具現化させる。
 左手には竜神の牙剣(光)。
 右手には幽鬼の巨剣だ。
 左手の剣を肩に担ぐように構え、右手の剣は真っすぐ右下に伸ばしてガルーダに走り寄っていく。
 激高しているガルーダはグウェンが10メートルくらいの距離に近づくまで気が付かなかった。
 しかし気が付いた時にはすでに遅い。
 そこはもはやグウェンの一足一刀の距離だ。
 
「ぐぉりゃぁぁぁっっっ!!!」

 まるで野獣の鳴き声のような裂ぱくの気合と共に恐ろしく速い剣速で振りぬかれた剣が、2条の傷を刻み込む。
 一瞬遅れて血が噴き出し、辺り一面に血の雨が降る。
 完全に動きの止まったガルーダの身体がぐらりと揺れ、ゆっくりと地に伏した。
 
「ふぅ、終わったわね」

 グウェンの声と共に、びりびりとした緊張感が霧散する。
 やっぱりこのオネエはすごいな。
 まるで居合の偉い先生の試し切りみたいだった。

「疲れたわね。帰りましょう」

「ガルーダの死体はどうする」

「あとでギルドに頼んで解体してもらうわ。丸ごとだとあたしのマジックバックにもシゲちゃんの異空間収納にも入りきらないでしょ」

 ガルーダの大きさは羽を広げた横幅で大型トラック5、6台分くらいはありそうだ。
 たしかにとても持って帰れる大きさではないか。
 惨敗した冒険者たちがどれだけ回復しているかにもよるが、報酬を出せば解体に協力してくれる人もいるだろう。
 俺たちは影には潜らず地上を歩いて帰った。



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