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おっさんずイフ

34.ガルーダ戦

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「天気が荒れてきたわね。ガルーダが冒険者たちの気配に気づいて雲を集めているのね」

 空を見上げてみればまるで台風の中心のように雲が渦巻き、集まってきているのが見えた。
 渦を巻いている空気には濃密な魔力が含まれているようだ。
 魔物には神器のように魔法陣を使わずに魔力攻撃をする特殊能力のようなものがある。
 この天候の変化はおそらくガルーダの特殊能力によるものだろう。

「冒険者たちのほうも動き出したわね」

 冒険者たちは最初に遠距離攻撃を決める気のようで、後衛組が集まって一斉に魔法陣を展開していた。
 この島に集まった冒険者は有象無象といえど雑魚ではない。
 どの魔法陣も複雑な紋様をしており、少なくとも中級以上の魔法ばかりであることがわかる。
 しかしガルーダの飛行速度は早くて遠距離攻撃は全然当たらないとグウェンから聞いているのだが、こんな攻撃に意味はあるのだろうか。
 
「それにしても、発動が遅いな」

「シゲちゃんの魔法発動速度が異常なのよ。これでも速い方よ」

 そういえば普通は魔力というのは視認できないものだった。
 俺には見えているからちゃんと描けているか確かめながら描くことができるけれど、見えない人にはそれができない。
 確実に発動することを優先して慎重に描くために少し発動が遅くなる。
 そう考えると、どの冒険者も見えずに描いているとは思えないくらい速いような気がする。
 やがてすべての後衛組が魔法陣を描き終え、指揮役の合図によって一斉に魔法を放った。
 炎槍や氷弾、岩塊や雷など色々なものがガルーダに向かって飛んでいく。
 しかし当のガルーダはといえば何事もないかのようにまだ魚を啄んでいる。
 じっくりと味わうように魚の肉をごくりと飲み込むと、じっと飛んでくる魔法の弾幕を見つめた。
 そして次の瞬間、天に向かって咆哮する。

『ピゥィィィィィ!!』

 ホイッスルのように透きとおった鋭い鳴き声だ。
 ガルーダの声と共に、空で渦を巻いていた濃密な魔力を含んだ空気が吹き下ろされる。
 強力なダウンバーストによって、すべての魔法は地に叩きつけられ攻撃力を失った。

「避ける必要もないってか」

「雑魚の攻撃なんかでは食事を中断する理由にもならないみたいね」

 タイラントサーモンの半身を食べつくしたガルーダは魚をひっくり返して反対側の身を啄み始める。
 お行儀のいい鳥だ。

「冒険者たち、諦めずに第二射を放つ気みたいね」

 とにかく攻撃あるのみということなんだろうか。
 何か考えがあって魔法を撃っているのならばいいのだが、無計画に放っているのだとしたら魔力の無駄だな。

「あの坊や、なにするつもりかしら」

 冒険者たちの先頭に、エドワードなんちゃら氏が出張っているのが見えた。
 周りには彼のパーティメンバー。
 何をするつもりなんだろうか。
 エドワード氏は仲間を引き連れて冒険者の陣形から外れ、ガルーダに近づいている。
 指揮役の慌てた顔から、作戦どおりの行動ではないことが見て取れる。
 走るエドワード氏の両手に、無骨なガントレットが具現化する。
 おそらく神器だろう。
 エドワード氏はガルーダの50メートルほど手前で立ち止まると、ガントレットで地面を殴りつけた。
 仲間たちは氏を追い越してガルーダに向かって走り続ける。
 いったい何をやっているのだろうか。

「おそらくあの坊やが足止め役なのね」

 俺と同じように、ガルーダの動きを止める役目ということか。
 しかしどうやるのだろうか。
 エドワード氏が地面に拳を押し付け続けていると、やがてゴゴゴという地響きが聞こえてきた。

「これ、エドワード氏がやってるのか?」

「たぶんね。地面に関するなんらかの能力を持った神器なのね」

 グウェンの言葉を肯定するように、ガルーダの足元の地面がぬかるみ始めた。
 まるで大きな地震で地面が液状化するようにガルーダの足元から水が染み出し、土と混ざり合って泥になっていく。
 ガルーダも気が付いたようで羽を広げて空に逃げようとするが一足遅く、あっという間に泥は焼き物のように固まってしまった。
 ガルーダの足は地面に埋まったまま固められてしまっている。
 エドワード氏は見事にガルーダの動きを止めることに成功したようだ。

「これはもしかしたらこのまま討伐できるんじゃないかな」

「どうかしらね。あたしはガルーダの本気はこんなものではない気がするけどね」

 まあ確かにそんな簡単に討伐することができたら討伐難易度S+にはなっていないかな。
 俺がガルーダの動きを止めることができたら勝てると確信しているのはグウェンには防御無視の攻撃手段があるからだ。
 しかし彼らには当たれば確実にガルーダを仕留めることのできる攻撃手段があるかわからない。

「拘束も完璧じゃないみたいだしね。攻撃を当てることができても1発が限度ね」

 ガルーダは飛ぶことを諦めていなかった。
 翼をひろげ、そこに自分で操った風を当てて揚力を発生させている。
 ああして強い風を羽にあてることで高速飛行を可能としているのだろう。
 ぴしりとガルーダの足を巻き込んで固まった地面にヒビが入った。



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