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おっさんずイフ
29.ご褒美部屋
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俺には遠距離攻撃の手段が初級魔法の火球しかない。
あの弾丸みたいに飛んでくる水滴と撃ち合っても勝ち目はない。
ならば近距離で決めるしかない。
俺は水弾の狙いが逸れるように斜めに走り始める。
右に走って方向転換、左に走って方向転換とギザギザに走って半魚人に少しずつ近づいていった。
水の弾丸が俺の走った後を追うように地面を削る。
走りに緩急をつけることにより、先読みもしづらくさせる。
「キシャッ!!」
ついには武器が届く距離にまで近づくことに成功する。
半魚人は水を操り、透明な刃を何本も形作り攻撃してくる。
水の厄介なところは武器を打ち合わせても意味がないところだ。
操ることによって固形化しているが、水は本来流動体だ。
案の定武器を打ち合わせてもすり抜けてしまった。
避けそこなった一撃が俺の肩を浅く切り裂いた。
魔力を纏って防御しても肌を切り裂かれてしまうとはな。
神器を得て強化人間となった俺のお肌は並大抵の武器では切り裂くことはできない。
この半魚人が操る水の刃はそれほどに鋭いということだ。
半魚人は右手に持っていた矛に左手を添え、近接戦の構えをとる。
水を操りながら近接戦もできるのか。
厄介な。
お互いに、裂ぱくの気合を込めて踏み込む。
半魚人の振るう三又矛を紙一重で避け、その脇腹目掛けて銛を突き出す。
手ごたえはあったが、突き刺さったような感触ではなかった。
硬い鱗とぬるぬるの粘液で突き刺す力が逸らされてしまったようだ。
全裸のくせに防御力が高いな。
俺と半魚人はその後も紙一重の攻防を続ける。
「はぁはぁはぁ……」
「キシャシャ……」
まるで1秒が1時間に引き伸ばされたかのような感覚だ。
息はきれ、筋肉には乳酸が溜まる。
しかしいつまでも戦っていられるような、そんな気がした。
俺と半魚人の攻防が唐突に終わりを告げる。
俺の使っていた中型魔物用の三又矛がその耐久性をすり減らし、折れてしまったのだ。
俺の手には武器が無い。
だが、まだ拳がある。
俺は魔力を込めた拳を思い切り半魚人の醜悪な顔面に叩き込んだ。
「ギジャッッ!!」
拳が顔面の骨を破壊する嫌な感触。
半魚人は吹き飛び、壁に叩きつけられる。
「あれ、拳のほうが効くの……」
よく考えてみれば船から盗んできたボロボロの銛よりも、岩を砕くような拳のほうが威力は高いに決まっている。
今まで銛を壊さないようにセーブしていたが、拳はそんなことをする必要もない。
それにあのヌルヌルの半魚人の身体だ。
尖ったもので突き刺したり刃物で切り付けたりするよりも殴ったほうがダメージは入るのかもしれない。
これは反省ポイントだな。
敵の特性を見て攻撃手段も変えていかなければならない。
よし、覚えた。
「キシャー!!」
半魚人はふらつきながらも立ち上がり、怒りの気勢をあげる。
遠距離攻撃をされると厄介なので俺はすぐに距離を詰め、鬼のようなボディを叩きこんでやる。
「ギジャッ、ギッ、グベッ、ゲ……」
何度も何度もボディを執拗に打ちまくり、ついには半魚人が膝をついた。
カランと金属音を響かせて半魚人は青い三又矛を手放してしまう。
まだ戦っている途中だけど、これって拾えるのかな。
俺はそっと三又矛に触れ、持ち上げてみた。
『ぴろりろりん♪【水妖の三又矛】はシゲノブのものになった』
あっさり手に入れてしまった。
矛の使い方は先ほどの半魚人の動きを見ていればなんとなくわかる。
一度見た武芸をすぐに自分のものとできるのも、神巻きタバコの能力で脳の働きが強化されているからだろう。
俺は矛をクルリと一回転させると、ぐっと腰を落として横一文字に振るう。
ひゅんと風を切る音がして、次にぐちゃっと水っぽいものが血に落ちる音。
そして最後にべちゃりと汚らしい音を立て、首から上の無くなった半魚人が崩れ落ちる。
さすがは神器だ。
銛で何度刺しても刺さらなかったヌメヌメの鱗をあっさりと切り裂いてしまった。
「どうやら終わったようね」
「まあ反省は残る結果になったけどね」
「そんなことないわ。シゲちゃんはダンジョン初挑戦なのよ。上出来よ。さあ、ご褒美部屋に行きましょう」
ご褒美部屋というのはダンジョンのボスを討伐すると開く財宝がざっくざっくの部屋のことだ。
大抵はその部屋に入口まで戻るための階段も設置されており、財宝を頂いたらすぐにダンジョンの入り口まで戻ることができるそうだ。
先ほど半魚人が倒れたとき、ボス部屋の奥にあった扉がひとりでに開いたのが見えた。
きっとあそこがご褒美部屋なのだろう。
グウェンは半魚人の死体をマジックアイテムのバッグに収めると、扉に向かって歩き始めた。
「そこ、罠があるわ。気を付けて」
「へー、これが罠か」
ご褒美部屋といってもダンジョンの中だ。
当然罠はある。
グウェンもさすがにご褒美部屋まで燃やし尽くす気はないようで、地道に罠を回避して進む。
今まではすべて焼き尽くされてどのような構造をしているのか予想するしかできなかった罠だが、ここにはまだ焼かれていない罠があるので俺はじっくりと観察しながら進んだ。
「ちっ、宝箱にも罠が仕掛けられているわね。あたし罠の解除は得意じゃないのよね」
ご褒美部屋の中には大きな宝箱が3つも置かれていた。
しかしそのすべてに凶悪な罠が仕掛けられており、グウェンは開けるのを躊躇している。
「でもこれって、さっきの入り口に仕掛けられていた罠と同じタイプだよね?」
「シゲちゃんわかるの?あたしはこういうのさっぱりよ。今までは全部燃やすか専門の人に頼んでいたから」
罠の仕掛けはまるでピタゴラ〇イッチのようで好きな人は好きだけどさっぱりという人はさっぱりだろうな。
俺は意外とこういうの好きかも。
「ちょっと解除に挑戦してみるよ。もし俺が死にそうになったらこの神酒を飲ませて回復してもらってもいいかな」
「わかったわ。頑張って」
俺はもしものときのために神酒の入った小瓶をグウェンに渡し、罠をいじり始める。
あの弾丸みたいに飛んでくる水滴と撃ち合っても勝ち目はない。
ならば近距離で決めるしかない。
俺は水弾の狙いが逸れるように斜めに走り始める。
右に走って方向転換、左に走って方向転換とギザギザに走って半魚人に少しずつ近づいていった。
水の弾丸が俺の走った後を追うように地面を削る。
走りに緩急をつけることにより、先読みもしづらくさせる。
「キシャッ!!」
ついには武器が届く距離にまで近づくことに成功する。
半魚人は水を操り、透明な刃を何本も形作り攻撃してくる。
水の厄介なところは武器を打ち合わせても意味がないところだ。
操ることによって固形化しているが、水は本来流動体だ。
案の定武器を打ち合わせてもすり抜けてしまった。
避けそこなった一撃が俺の肩を浅く切り裂いた。
魔力を纏って防御しても肌を切り裂かれてしまうとはな。
神器を得て強化人間となった俺のお肌は並大抵の武器では切り裂くことはできない。
この半魚人が操る水の刃はそれほどに鋭いということだ。
半魚人は右手に持っていた矛に左手を添え、近接戦の構えをとる。
水を操りながら近接戦もできるのか。
厄介な。
お互いに、裂ぱくの気合を込めて踏み込む。
半魚人の振るう三又矛を紙一重で避け、その脇腹目掛けて銛を突き出す。
手ごたえはあったが、突き刺さったような感触ではなかった。
硬い鱗とぬるぬるの粘液で突き刺す力が逸らされてしまったようだ。
全裸のくせに防御力が高いな。
俺と半魚人はその後も紙一重の攻防を続ける。
「はぁはぁはぁ……」
「キシャシャ……」
まるで1秒が1時間に引き伸ばされたかのような感覚だ。
息はきれ、筋肉には乳酸が溜まる。
しかしいつまでも戦っていられるような、そんな気がした。
俺と半魚人の攻防が唐突に終わりを告げる。
俺の使っていた中型魔物用の三又矛がその耐久性をすり減らし、折れてしまったのだ。
俺の手には武器が無い。
だが、まだ拳がある。
俺は魔力を込めた拳を思い切り半魚人の醜悪な顔面に叩き込んだ。
「ギジャッッ!!」
拳が顔面の骨を破壊する嫌な感触。
半魚人は吹き飛び、壁に叩きつけられる。
「あれ、拳のほうが効くの……」
よく考えてみれば船から盗んできたボロボロの銛よりも、岩を砕くような拳のほうが威力は高いに決まっている。
今まで銛を壊さないようにセーブしていたが、拳はそんなことをする必要もない。
それにあのヌルヌルの半魚人の身体だ。
尖ったもので突き刺したり刃物で切り付けたりするよりも殴ったほうがダメージは入るのかもしれない。
これは反省ポイントだな。
敵の特性を見て攻撃手段も変えていかなければならない。
よし、覚えた。
「キシャー!!」
半魚人はふらつきながらも立ち上がり、怒りの気勢をあげる。
遠距離攻撃をされると厄介なので俺はすぐに距離を詰め、鬼のようなボディを叩きこんでやる。
「ギジャッ、ギッ、グベッ、ゲ……」
何度も何度もボディを執拗に打ちまくり、ついには半魚人が膝をついた。
カランと金属音を響かせて半魚人は青い三又矛を手放してしまう。
まだ戦っている途中だけど、これって拾えるのかな。
俺はそっと三又矛に触れ、持ち上げてみた。
『ぴろりろりん♪【水妖の三又矛】はシゲノブのものになった』
あっさり手に入れてしまった。
矛の使い方は先ほどの半魚人の動きを見ていればなんとなくわかる。
一度見た武芸をすぐに自分のものとできるのも、神巻きタバコの能力で脳の働きが強化されているからだろう。
俺は矛をクルリと一回転させると、ぐっと腰を落として横一文字に振るう。
ひゅんと風を切る音がして、次にぐちゃっと水っぽいものが血に落ちる音。
そして最後にべちゃりと汚らしい音を立て、首から上の無くなった半魚人が崩れ落ちる。
さすがは神器だ。
銛で何度刺しても刺さらなかったヌメヌメの鱗をあっさりと切り裂いてしまった。
「どうやら終わったようね」
「まあ反省は残る結果になったけどね」
「そんなことないわ。シゲちゃんはダンジョン初挑戦なのよ。上出来よ。さあ、ご褒美部屋に行きましょう」
ご褒美部屋というのはダンジョンのボスを討伐すると開く財宝がざっくざっくの部屋のことだ。
大抵はその部屋に入口まで戻るための階段も設置されており、財宝を頂いたらすぐにダンジョンの入り口まで戻ることができるそうだ。
先ほど半魚人が倒れたとき、ボス部屋の奥にあった扉がひとりでに開いたのが見えた。
きっとあそこがご褒美部屋なのだろう。
グウェンは半魚人の死体をマジックアイテムのバッグに収めると、扉に向かって歩き始めた。
「そこ、罠があるわ。気を付けて」
「へー、これが罠か」
ご褒美部屋といってもダンジョンの中だ。
当然罠はある。
グウェンもさすがにご褒美部屋まで燃やし尽くす気はないようで、地道に罠を回避して進む。
今まではすべて焼き尽くされてどのような構造をしているのか予想するしかできなかった罠だが、ここにはまだ焼かれていない罠があるので俺はじっくりと観察しながら進んだ。
「ちっ、宝箱にも罠が仕掛けられているわね。あたし罠の解除は得意じゃないのよね」
ご褒美部屋の中には大きな宝箱が3つも置かれていた。
しかしそのすべてに凶悪な罠が仕掛けられており、グウェンは開けるのを躊躇している。
「でもこれって、さっきの入り口に仕掛けられていた罠と同じタイプだよね?」
「シゲちゃんわかるの?あたしはこういうのさっぱりよ。今までは全部燃やすか専門の人に頼んでいたから」
罠の仕掛けはまるでピタゴラ〇イッチのようで好きな人は好きだけどさっぱりという人はさっぱりだろうな。
俺は意外とこういうの好きかも。
「ちょっと解除に挑戦してみるよ。もし俺が死にそうになったらこの神酒を飲ませて回復してもらってもいいかな」
「わかったわ。頑張って」
俺はもしものときのために神酒の入った小瓶をグウェンに渡し、罠をいじり始める。
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