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おっさんずイフ
28.ボス部屋
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現在ダンジョン10層。
ここまで俺はなにもしていない。
すべての階層をグウェンが神器による魔力攻撃で焦土と化している。
丸焦げになって生きている魔物は1匹もおらず罠の位置も丸わかりになったダンジョンを素通りしてきた。
このダンジョンは分類で言えば迷宮タイプと呼ばれる種類だ。
フロアが入り組んだ迷路のようになっており、罠や魔物に対処しつつマッピングして進んでいくタイプのダンジョン。
ゆえに少し道に迷うようなことはあったが、これではただの迷路だ。
小学生レベルの迷路ゲームを解くような早さでここまでやってきた。
そんな俺たちの前にどう見てもボス部屋ですとばかりに主張する金属製の扉が現れる。
「もうボスなのね。このダンジョンはハズレかしら」
ここまでの道中で手に入れた神器はゼロだ。
ほとんどの宝箱が中身ごと燃えているが、神器はどのような攻撃でも傷一つ付かないという特性がある。
神器が宝箱に入っていれば燃えずに残っているはずなのだ。
ゆえにこのダンジョンはボス部屋までの道中に1個たりとも神器を手に入れる機会のないハズレのダンジョンではないかというのがグウェンの見解だ。
「まあこのダンジョンが初回攻略ならばボス部屋には必ず神器があるはずよ。初回攻略のボスは必ず神器を使ってくるから」
ダンジョンの魔物というのは、ボスも含めて一定時間が経過するとリポップする。
しかし初回のボスだけは倒せば次からは別の魔物に替わってしまうらしい。
ユニークモンスターのようなものだろう。
そしてその魔物は必ず神器を持っており、それを使ってくるらしい。
恐ろしく強いが、倒せばその魔物が使っていた神器を手に入れることができるというわけだ。
「たぶん相当強いと思うけど、シゲちゃんやってみる?」
「え、勝てるかな……」
「大丈夫よ。シゲちゃんはこの2週間たらずでずいぶんと強くなったわ。神器を持ったボス相手でもきっと通用するわよ。もし相性が悪くて無理そうならあたしも加勢するわ。気楽にやってみなさい」
「わかった」
もともと俺の神器を手に入れるためにここに来たのだ。
グウェンにおんぶにだっこで手に入れた神器を自分の神器だとは思えないだろう。
自分の神器は、自分で手に入れる。
この世界ではそれができなければ神器を持つ資格はないのだ。
運がいいことに俺には異世界人として神様からもらった神器がある。
ただのおっさんの俺だったら一生かかっても手に入れられなかったであろうものに、手が届く可能性を持っている。
「心の準備はいい?開けるわよ」
「ああ、いつでもいけるよ」
グウェンが金属製の扉に手をかけると、地響きと共に扉が開いていく。
扉の向こうには市民体育館くらいの広さの空間が広がっていた。
障害物は何もなく、壁に固定されている松明のようなものが煌々と燃えている。
そんなだたっ広い空間の中心に、そいつは立っていた。
色は全体的に緑。
全身にぬめぬめとした鱗が生えており、シャープなヒレが各所でギラリと光る。
歯はギザギザ、目はどこを見ているのかわからない。
一言で言い表すならば、半魚人だ。
俺の子供の時のあだ名と被るなよ。
「気をつけなさい。右手のあれが神器よ」
グウェンの言葉に促されて半魚人の右手を見ればそこには深い青色の三又矛が握られていた。
なんともあの半魚人には似合わない繊細な細工の入った美しい矛だ。
「部屋の中に1歩でも踏み入ればあの魚野郎は動き出すわ。あたしは壁際で見てるから存分にやっていらっしゃい」
俺はグウェンに頷きを返し、1歩部屋に足を踏み入れた。
どこを見ていたのかわからなかった半魚人の目がぎょろりとこちらを睨み、ペタリペタリと湿った足音を立てて歩き出す。
「キシャー!!」
「くっ……」
目でとらえきれないような速度で何かが飛んできた。
わずかな魔力の動きを感じて急所を魔力で覆っておかなかったら結構大ダメージを負ってしまっていたかもしれない。
「これは、水?」
さっきまでは濡れていなかった地面が、少しだけ濡れていることに気が付いた。
もしかしたらあの半魚人は、水を高速で飛ばしてきたのかもしれない。
なんとも半魚人らしい攻撃手段じゃないか。
俺は唯一の遠距離攻撃手段である火球の魔法を同時に12個発動し、半魚人目掛けて放つ。
「シャッ!!」
火球は1個1個違う軌道を描いて半魚人に殺到し、爆発した。
しかし半魚人は無傷。
キラキラと光る何かが半魚人を守っている。
あれもたぶん水だろうな。
神器の力なのか半魚人自身の力なのかはわからないけれど、この魔物には水を操る力があるようだ。
高い場所から水に落ちると水面はコンクリートと同じくらいの固さになるという話からもわかるように、水を操ることができる能力は結構厄介だ。
水というのは常に流動しているから柔らかく感じるのであって、流動しなければ固体と変わらない。
水を高速で飛ばせば鉛の弾丸を撃ってくるのと変わらないし、刃のように鋭く研ぎ澄ませば鋼の剣を持つ敵と変わらない。
半魚人、見た目によらず強敵だな。
ここまで俺はなにもしていない。
すべての階層をグウェンが神器による魔力攻撃で焦土と化している。
丸焦げになって生きている魔物は1匹もおらず罠の位置も丸わかりになったダンジョンを素通りしてきた。
このダンジョンは分類で言えば迷宮タイプと呼ばれる種類だ。
フロアが入り組んだ迷路のようになっており、罠や魔物に対処しつつマッピングして進んでいくタイプのダンジョン。
ゆえに少し道に迷うようなことはあったが、これではただの迷路だ。
小学生レベルの迷路ゲームを解くような早さでここまでやってきた。
そんな俺たちの前にどう見てもボス部屋ですとばかりに主張する金属製の扉が現れる。
「もうボスなのね。このダンジョンはハズレかしら」
ここまでの道中で手に入れた神器はゼロだ。
ほとんどの宝箱が中身ごと燃えているが、神器はどのような攻撃でも傷一つ付かないという特性がある。
神器が宝箱に入っていれば燃えずに残っているはずなのだ。
ゆえにこのダンジョンはボス部屋までの道中に1個たりとも神器を手に入れる機会のないハズレのダンジョンではないかというのがグウェンの見解だ。
「まあこのダンジョンが初回攻略ならばボス部屋には必ず神器があるはずよ。初回攻略のボスは必ず神器を使ってくるから」
ダンジョンの魔物というのは、ボスも含めて一定時間が経過するとリポップする。
しかし初回のボスだけは倒せば次からは別の魔物に替わってしまうらしい。
ユニークモンスターのようなものだろう。
そしてその魔物は必ず神器を持っており、それを使ってくるらしい。
恐ろしく強いが、倒せばその魔物が使っていた神器を手に入れることができるというわけだ。
「たぶん相当強いと思うけど、シゲちゃんやってみる?」
「え、勝てるかな……」
「大丈夫よ。シゲちゃんはこの2週間たらずでずいぶんと強くなったわ。神器を持ったボス相手でもきっと通用するわよ。もし相性が悪くて無理そうならあたしも加勢するわ。気楽にやってみなさい」
「わかった」
もともと俺の神器を手に入れるためにここに来たのだ。
グウェンにおんぶにだっこで手に入れた神器を自分の神器だとは思えないだろう。
自分の神器は、自分で手に入れる。
この世界ではそれができなければ神器を持つ資格はないのだ。
運がいいことに俺には異世界人として神様からもらった神器がある。
ただのおっさんの俺だったら一生かかっても手に入れられなかったであろうものに、手が届く可能性を持っている。
「心の準備はいい?開けるわよ」
「ああ、いつでもいけるよ」
グウェンが金属製の扉に手をかけると、地響きと共に扉が開いていく。
扉の向こうには市民体育館くらいの広さの空間が広がっていた。
障害物は何もなく、壁に固定されている松明のようなものが煌々と燃えている。
そんなだたっ広い空間の中心に、そいつは立っていた。
色は全体的に緑。
全身にぬめぬめとした鱗が生えており、シャープなヒレが各所でギラリと光る。
歯はギザギザ、目はどこを見ているのかわからない。
一言で言い表すならば、半魚人だ。
俺の子供の時のあだ名と被るなよ。
「気をつけなさい。右手のあれが神器よ」
グウェンの言葉に促されて半魚人の右手を見ればそこには深い青色の三又矛が握られていた。
なんともあの半魚人には似合わない繊細な細工の入った美しい矛だ。
「部屋の中に1歩でも踏み入ればあの魚野郎は動き出すわ。あたしは壁際で見てるから存分にやっていらっしゃい」
俺はグウェンに頷きを返し、1歩部屋に足を踏み入れた。
どこを見ていたのかわからなかった半魚人の目がぎょろりとこちらを睨み、ペタリペタリと湿った足音を立てて歩き出す。
「キシャー!!」
「くっ……」
目でとらえきれないような速度で何かが飛んできた。
わずかな魔力の動きを感じて急所を魔力で覆っておかなかったら結構大ダメージを負ってしまっていたかもしれない。
「これは、水?」
さっきまでは濡れていなかった地面が、少しだけ濡れていることに気が付いた。
もしかしたらあの半魚人は、水を高速で飛ばしてきたのかもしれない。
なんとも半魚人らしい攻撃手段じゃないか。
俺は唯一の遠距離攻撃手段である火球の魔法を同時に12個発動し、半魚人目掛けて放つ。
「シャッ!!」
火球は1個1個違う軌道を描いて半魚人に殺到し、爆発した。
しかし半魚人は無傷。
キラキラと光る何かが半魚人を守っている。
あれもたぶん水だろうな。
神器の力なのか半魚人自身の力なのかはわからないけれど、この魔物には水を操る力があるようだ。
高い場所から水に落ちると水面はコンクリートと同じくらいの固さになるという話からもわかるように、水を操ることができる能力は結構厄介だ。
水というのは常に流動しているから柔らかく感じるのであって、流動しなければ固体と変わらない。
水を高速で飛ばせば鉛の弾丸を撃ってくるのと変わらないし、刃のように鋭く研ぎ澄ませば鋼の剣を持つ敵と変わらない。
半魚人、見た目によらず強敵だな。
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