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おっさんずイフ
25.修業
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おっさんの朝は早い。
まだ朝日も昇りきらない早朝から、おっさんはここ数日の日課である砂浜マラソンを始める。
神器によって強化された超人的な身体能力ではなく、神器の効果を一時的にオフにした素の39歳の身体能力でだ。
強化系の神器はオンオフができないはずがないというオネエの助言によって発見した神巻きタバコの新しい一面だ。
どうやら俺は今まで無意識のうちに神器の出力調節をうまいこと行って日常生活を送っていたようだ。
でなければいかに力加減の調節がうまくても海の中を魚雷のように高速で移動することのできる脚力で普通に生活なんかできるはずがない。
この神器の出力をコントロールする能力を使って意識的に神器の出力をゼロにし、中年の身体に負荷をかけていじめぬくことでだるんだるんボディをバッキバキのシックスパックにすることがグウェンから課せられた午前中の訓練メニューなのだ。
強化系の神器というのは素の自分×神器の強化率という掛け算の神器であり、同じ神器でもだるんだるんのおっさんが使った場合とグウェンのようなゴリマッチョが使った場合では後者のほうが格段に強くなる。
素の自分を鍛えあげることは全く無駄ではないとのことだ。
期限は後発組の冒険者たちが到着するまでの1か月ほど。
普通ならばビール腹からやっと脱したばかりのだるんだるんボディをそこまで鍛え上げるには最短でも3カ月程度はかかるだろう。
意思の弱い俺ならばきっと半年かかっても難しい。
しかし俺には神に与えられしダイエット器具……じゃなかった、神器がある。
グウェンに喧嘩を売ってボコボコにされたチンピラ冒険者を実験台にして神酒の検証を行ってみたのだが、この神器はアタリというどころの話ではないようなぶっ壊れ性能を秘めた神器だった。
その性能は全身の骨が折れて身体を動かすことすらままならないような瀕死の重傷であっても、神酒を一口飲ませればたちどころに完治してしまうほどだ。
まだ試したことはないが、グウェンによればもしかしたら死んですぐの人間ならば生き返る可能性すらあるらしい。
こんなぶっ壊れ性能の神器の説明欄に身体に良いとしか書かない女神様はやはり性格が悪い。
まあこれのおかげで疲れてすぐに立ち止まってしまうおっさんであってもトレーニングを続けることができている。
なにせ疲れて倒れそうになるたびに酒が飲めるのだ。
楽しいトレーニングだ。
さすがに酔いすぎるとまっすぐに走れなくなるので度数の高い酒は飲めないが。
まだトレーニングを始めて数日にも関わらず、短時間に破壊と再生を繰り返した筋肉はうっすらとおっさんの腹を割りつつある。
コンビニで立ち読みした女性誌に女性の理想の男子とかいって眼鏡かけた生白い細もやしみたいな男性像が描かれていたが、なんだかんだ言って女性は筋肉が好きだと俺は思うんだよ。
頑張って女性が触りたくなるようなバッキバキボディを目指そう。
おじさん脱いだらすごいんだよとか言いたいからね。
マッチョ系オネエ監修のたんぱく質多めのバランス食を腹に収め、午後からは魔力の扱いの訓練となる。
「いい、こうして……」
グウェンはなぜか上着を脱ぎ、上半身裸になる。
何万年もかけて雨風に削られた勇壮な大岩のような筋肉があらわになる。
ボディビル選手のような丸くて黒光りした筋肉ではなく、筋繊維がみっしりと詰まっていることが一目でわかるようなゴツゴツとした筋肉だ。
人間離れした肉体だな。
「こうよ」
グウェンが右手で握りこぶしを作ると、グウェンの体中から立ち上るモヤのようなものがその拳に集まっていく。
グウェンはその拳を振りかぶって目の前の大岩に叩きつける。
大地を揺らすような轟音がして、大岩にひびが入る。
「痛くないの?」
「痛くないわ。完全に魔力をコントロールできるようになればね。魔力は何も魔法を使うだけのものではないのよ」
魔法陣を描けば摩訶不思議な現象が起こる魔力というエネルギーが、そのままでもなんらかの力を持っていないわけはないか。
俺はグウェンの真似をして魔力を拳に集めてみる。
少しぎこちないが、なんとか形にはなるな。
「うまいじゃないの。もしかして魔力が感じられるの?」
「感じられるっていうか。見える。モヤモヤって」
「うそでしょ。普通は見えないのよ。あたしでもなんとなく感じ取れるくらいの感覚よ。だから普通は魔法陣を描くのは難しいの」
心あたりといえば異世界人であることと神器くらいしかない。
異世界人は全員魔力が見えるのか、神巻きタバコによって魔力を感知する能力が強化されているのか。
「異世界人でも魔法を覚えるのは一般人とそう大差ない時間かかるみたいだから、たぶん神器の力ね。さすがは神の名を冠する神器だわ。でもこれならすぐにあたしと同じレベルまでいけそうね」
グウェンはそう言うと魔力を高速で左右の拳に集中させて大岩を連打しはじめた。
腕が何本にも見えるほどに素早いラッシュによってあっという間に大岩は粉々になってしまった。
すぐには無理かな。
まだ朝日も昇りきらない早朝から、おっさんはここ数日の日課である砂浜マラソンを始める。
神器によって強化された超人的な身体能力ではなく、神器の効果を一時的にオフにした素の39歳の身体能力でだ。
強化系の神器はオンオフができないはずがないというオネエの助言によって発見した神巻きタバコの新しい一面だ。
どうやら俺は今まで無意識のうちに神器の出力調節をうまいこと行って日常生活を送っていたようだ。
でなければいかに力加減の調節がうまくても海の中を魚雷のように高速で移動することのできる脚力で普通に生活なんかできるはずがない。
この神器の出力をコントロールする能力を使って意識的に神器の出力をゼロにし、中年の身体に負荷をかけていじめぬくことでだるんだるんボディをバッキバキのシックスパックにすることがグウェンから課せられた午前中の訓練メニューなのだ。
強化系の神器というのは素の自分×神器の強化率という掛け算の神器であり、同じ神器でもだるんだるんのおっさんが使った場合とグウェンのようなゴリマッチョが使った場合では後者のほうが格段に強くなる。
素の自分を鍛えあげることは全く無駄ではないとのことだ。
期限は後発組の冒険者たちが到着するまでの1か月ほど。
普通ならばビール腹からやっと脱したばかりのだるんだるんボディをそこまで鍛え上げるには最短でも3カ月程度はかかるだろう。
意思の弱い俺ならばきっと半年かかっても難しい。
しかし俺には神に与えられしダイエット器具……じゃなかった、神器がある。
グウェンに喧嘩を売ってボコボコにされたチンピラ冒険者を実験台にして神酒の検証を行ってみたのだが、この神器はアタリというどころの話ではないようなぶっ壊れ性能を秘めた神器だった。
その性能は全身の骨が折れて身体を動かすことすらままならないような瀕死の重傷であっても、神酒を一口飲ませればたちどころに完治してしまうほどだ。
まだ試したことはないが、グウェンによればもしかしたら死んですぐの人間ならば生き返る可能性すらあるらしい。
こんなぶっ壊れ性能の神器の説明欄に身体に良いとしか書かない女神様はやはり性格が悪い。
まあこれのおかげで疲れてすぐに立ち止まってしまうおっさんであってもトレーニングを続けることができている。
なにせ疲れて倒れそうになるたびに酒が飲めるのだ。
楽しいトレーニングだ。
さすがに酔いすぎるとまっすぐに走れなくなるので度数の高い酒は飲めないが。
まだトレーニングを始めて数日にも関わらず、短時間に破壊と再生を繰り返した筋肉はうっすらとおっさんの腹を割りつつある。
コンビニで立ち読みした女性誌に女性の理想の男子とかいって眼鏡かけた生白い細もやしみたいな男性像が描かれていたが、なんだかんだ言って女性は筋肉が好きだと俺は思うんだよ。
頑張って女性が触りたくなるようなバッキバキボディを目指そう。
おじさん脱いだらすごいんだよとか言いたいからね。
マッチョ系オネエ監修のたんぱく質多めのバランス食を腹に収め、午後からは魔力の扱いの訓練となる。
「いい、こうして……」
グウェンはなぜか上着を脱ぎ、上半身裸になる。
何万年もかけて雨風に削られた勇壮な大岩のような筋肉があらわになる。
ボディビル選手のような丸くて黒光りした筋肉ではなく、筋繊維がみっしりと詰まっていることが一目でわかるようなゴツゴツとした筋肉だ。
人間離れした肉体だな。
「こうよ」
グウェンが右手で握りこぶしを作ると、グウェンの体中から立ち上るモヤのようなものがその拳に集まっていく。
グウェンはその拳を振りかぶって目の前の大岩に叩きつける。
大地を揺らすような轟音がして、大岩にひびが入る。
「痛くないの?」
「痛くないわ。完全に魔力をコントロールできるようになればね。魔力は何も魔法を使うだけのものではないのよ」
魔法陣を描けば摩訶不思議な現象が起こる魔力というエネルギーが、そのままでもなんらかの力を持っていないわけはないか。
俺はグウェンの真似をして魔力を拳に集めてみる。
少しぎこちないが、なんとか形にはなるな。
「うまいじゃないの。もしかして魔力が感じられるの?」
「感じられるっていうか。見える。モヤモヤって」
「うそでしょ。普通は見えないのよ。あたしでもなんとなく感じ取れるくらいの感覚よ。だから普通は魔法陣を描くのは難しいの」
心あたりといえば異世界人であることと神器くらいしかない。
異世界人は全員魔力が見えるのか、神巻きタバコによって魔力を感知する能力が強化されているのか。
「異世界人でも魔法を覚えるのは一般人とそう大差ない時間かかるみたいだから、たぶん神器の力ね。さすがは神の名を冠する神器だわ。でもこれならすぐにあたしと同じレベルまでいけそうね」
グウェンはそう言うと魔力を高速で左右の拳に集中させて大岩を連打しはじめた。
腕が何本にも見えるほどに素早いラッシュによってあっという間に大岩は粉々になってしまった。
すぐには無理かな。
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