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おっさんずイフ
20.島に巣食う巨鳥
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まるで島に入る者を待ち構える門番のように俺たちの前に立ちはだかるオネエさん。
ド迫力の割れアゴから発せられたその言葉遣いに少しだけ緊張感をゆるめた俺たちだったが、いまだオネエさんが何者なのかはわからない。
油断しないようにしなくては。
「ていうかなんであんた裸なの?後ろにいるのは獣人?ふーん、大体あんたたちの事情はわかったわ」
そういえば俺はまだ裸だったな。
布類もあの船から持ち出していたのだが、それほど寒さも感じなかったし魔物を退治するために海に潜るには邪魔だったから俺はいまだ衣服を身に着けていなかった。
文明社会では中年男性が裸で歩いていたら通報されて官憲のお世話になるということをすっかり忘れていた。
ここのところ文明とは少し距離を取っていたからな。
その弊害がこんなところで出てしまうとは。
俺はオネエさんの怪しく光る青い目から股間を隠す。
「あら残念。でもあたしのタイプはもうちょっと若い子だから安心していいわよ」
「は、はぁ」
まあオネエさんにも自分の好みがあるか。
俺だって女を捨てている感じのおばちゃんには欲情できない。
一応股間は隠しておくけど。
「あんたたち、獣人と戦争をしているあの三国のどこかから逃げてきたんでしょ」
「まあ似たようなものです」
獣人と三国同盟の戦いが激化する中で着の身着のままの男が獣人の子供を2人連れて島に上陸したのだ、察しのいい人には何があったのか予想がつくだろう。
「この島に偶然たどり着いたんだとしたら運が悪いわね。この島は今異常事態が発生しているのよ。島民はほとんど逃げ出してもぬけのからよ」
「え、いったい何が……」
「鳥よ」
「鳥?」
「この島には今、巨鳥ガルーダが住み着いてしまっているの」
巨鳥ガルーダ、荷運びの仕事をしているときに噂は聞いたことがある。
その身の丈はルーガル王国の王城ほどもあり、大気を自由自在に操り天候すらも支配する。
冒険者ギルドが定めた討伐難易度はS+。
Sランク冒険者が4人パーティを組んでも少し及ばないくらいの強さなのだという。
冒険者という職業の中でもSランクは人間を超越した力を持つ存在だ。
そんな雲の上の存在が4人集まっても倒せないのがガルーダという魔物だ。
運よくこの島にたどり着いたと思っていたが、どうやら逆だったようだな。
「移動手段があるならこの島から離れたほうがいいわ」
「どうするんだよおっさん」
「また救命ボート?」
「うーん……」
正直これ以上救命ボートで船旅を続けるのは無理がある。
3人で交代で漕ぎ、夜も交代で眠る、そんな生活をずっと続けていくのは体力的にも精神的にももう限界だろう。
せめて近くに大きな陸地があればいいのだが。
「ここから一番近い陸地はどこですか?」
「そうねぇ、アズレン大陸のディオールという港町かしら。あの船で2週間くらいの場所よ」
そう言ってオネエさんは沖に停泊している外洋船を指し示す。
あの大きさの船で2週間の距離か。
かなり遠いな。
その距離を小舟で移動しようと思ったらいったい何週間、いや何か月海の上を彷徨わなければならないのか。
やはりこれ以上救命ボートで移動するのは無理だ。
「あの船に乗せてもらうことはできないのでしょうか」
「無理よ。あの船はあたしたち冒険者が乗ってきた船だもの。帰りもあれに乗って帰るつもりよ。ガルーダを倒してからならともかく今は出航しないわ」
「そうですか」
そうなるとやはり移動手段がない。
ガルーダは怖いけれど、この島で少し滞在するしかなさそうだ。
この目の前の強そうなオネエさんも冒険者らしいし、この島にはガルーダを討伐するために冒険者がやってきているということだ。
そのうちに討伐されて安全になるかもしれない。
「この島で少し滞在させてもらえないでしょうか。できれば帰りにあの船に一緒に乗せていってもらえるとありがたいのですが」
「まあいいんじゃない?あの船は船員に銀貨の数枚でも渡せば乗せてもらえるはずよ。冒険者ギルドの貸し切りだからね。船員はチップに飢えてんのよ」
「わかりました」
「まあガルーダはあの山の天辺に巣くって滅多に下りてこないからそんなに怯えなくてもいいわ。それよりも、冒険者のほうに気をつけなさい。今回の討伐はとにかく数をかき集めた烏合の衆なのよ。冒険者だか盗賊だかわからないような連中がたくさん紛れ込んでるわ」
「わかりました。気を付けます」
「一応冒険者ギルドの責任者に報告しておきましょう。案内するからついてらっしゃい」
「何からなにまですみませんね」
「いいのよ。暇なんだから」
オネエさんはどうやら顔が怖いだけでとてもいい人のようだ。
まあ油断はしないが、なんとなく信用はしてもいいような気がする。
大股で歩きだしたその背中に慌ててついていく。
歩幅広いな。
「そういえば名前を名乗ってなかったわね。あたしはグウェン・スクアード。冒険者よ」
「私は木崎と申します。この子たちはマルスとマルクル」
「ふーん、キザキって変な響きね。ファーストネームなの?」
「い、いえ……」
「なによ、ファミリーネームなの?水臭い男ねぇ。早くファーストネームを教えなさいよ」
「えぇ、おっさんキザキってファミリーネームなのかよ。俺たちにもファーストネーム教えてくれてなかったのか」
「壁を感じます」
なぜだか獣人兄弟までもが混ざって袋叩きだ。
確かに親しくなった人間のファーストネームをずっと知らなかったことが判明したら少し悲しい気持ちになるかもしれない。
これは俺が悪かったな。
「ごめん、2人とも今までずっとファーストネームを隠していたことは謝るよ。おじさんの名前は繁信っていうんだ」
「シゲノブ?変な名前だな」
「兄さん、人の名前を変だとか言ったらダメだよ」
「シゲノブね。いい名前じゃない。シゲちゃんって呼ぶわね。あたしのこともグウェンちゃんって呼んでもいいわよ」
グウェンちゃん。
うん、やめよう。
ド迫力の割れアゴから発せられたその言葉遣いに少しだけ緊張感をゆるめた俺たちだったが、いまだオネエさんが何者なのかはわからない。
油断しないようにしなくては。
「ていうかなんであんた裸なの?後ろにいるのは獣人?ふーん、大体あんたたちの事情はわかったわ」
そういえば俺はまだ裸だったな。
布類もあの船から持ち出していたのだが、それほど寒さも感じなかったし魔物を退治するために海に潜るには邪魔だったから俺はいまだ衣服を身に着けていなかった。
文明社会では中年男性が裸で歩いていたら通報されて官憲のお世話になるということをすっかり忘れていた。
ここのところ文明とは少し距離を取っていたからな。
その弊害がこんなところで出てしまうとは。
俺はオネエさんの怪しく光る青い目から股間を隠す。
「あら残念。でもあたしのタイプはもうちょっと若い子だから安心していいわよ」
「は、はぁ」
まあオネエさんにも自分の好みがあるか。
俺だって女を捨てている感じのおばちゃんには欲情できない。
一応股間は隠しておくけど。
「あんたたち、獣人と戦争をしているあの三国のどこかから逃げてきたんでしょ」
「まあ似たようなものです」
獣人と三国同盟の戦いが激化する中で着の身着のままの男が獣人の子供を2人連れて島に上陸したのだ、察しのいい人には何があったのか予想がつくだろう。
「この島に偶然たどり着いたんだとしたら運が悪いわね。この島は今異常事態が発生しているのよ。島民はほとんど逃げ出してもぬけのからよ」
「え、いったい何が……」
「鳥よ」
「鳥?」
「この島には今、巨鳥ガルーダが住み着いてしまっているの」
巨鳥ガルーダ、荷運びの仕事をしているときに噂は聞いたことがある。
その身の丈はルーガル王国の王城ほどもあり、大気を自由自在に操り天候すらも支配する。
冒険者ギルドが定めた討伐難易度はS+。
Sランク冒険者が4人パーティを組んでも少し及ばないくらいの強さなのだという。
冒険者という職業の中でもSランクは人間を超越した力を持つ存在だ。
そんな雲の上の存在が4人集まっても倒せないのがガルーダという魔物だ。
運よくこの島にたどり着いたと思っていたが、どうやら逆だったようだな。
「移動手段があるならこの島から離れたほうがいいわ」
「どうするんだよおっさん」
「また救命ボート?」
「うーん……」
正直これ以上救命ボートで船旅を続けるのは無理がある。
3人で交代で漕ぎ、夜も交代で眠る、そんな生活をずっと続けていくのは体力的にも精神的にももう限界だろう。
せめて近くに大きな陸地があればいいのだが。
「ここから一番近い陸地はどこですか?」
「そうねぇ、アズレン大陸のディオールという港町かしら。あの船で2週間くらいの場所よ」
そう言ってオネエさんは沖に停泊している外洋船を指し示す。
あの大きさの船で2週間の距離か。
かなり遠いな。
その距離を小舟で移動しようと思ったらいったい何週間、いや何か月海の上を彷徨わなければならないのか。
やはりこれ以上救命ボートで移動するのは無理だ。
「あの船に乗せてもらうことはできないのでしょうか」
「無理よ。あの船はあたしたち冒険者が乗ってきた船だもの。帰りもあれに乗って帰るつもりよ。ガルーダを倒してからならともかく今は出航しないわ」
「そうですか」
そうなるとやはり移動手段がない。
ガルーダは怖いけれど、この島で少し滞在するしかなさそうだ。
この目の前の強そうなオネエさんも冒険者らしいし、この島にはガルーダを討伐するために冒険者がやってきているということだ。
そのうちに討伐されて安全になるかもしれない。
「この島で少し滞在させてもらえないでしょうか。できれば帰りにあの船に一緒に乗せていってもらえるとありがたいのですが」
「まあいいんじゃない?あの船は船員に銀貨の数枚でも渡せば乗せてもらえるはずよ。冒険者ギルドの貸し切りだからね。船員はチップに飢えてんのよ」
「わかりました」
「まあガルーダはあの山の天辺に巣くって滅多に下りてこないからそんなに怯えなくてもいいわ。それよりも、冒険者のほうに気をつけなさい。今回の討伐はとにかく数をかき集めた烏合の衆なのよ。冒険者だか盗賊だかわからないような連中がたくさん紛れ込んでるわ」
「わかりました。気を付けます」
「一応冒険者ギルドの責任者に報告しておきましょう。案内するからついてらっしゃい」
「何からなにまですみませんね」
「いいのよ。暇なんだから」
オネエさんはどうやら顔が怖いだけでとてもいい人のようだ。
まあ油断はしないが、なんとなく信用はしてもいいような気がする。
大股で歩きだしたその背中に慌ててついていく。
歩幅広いな。
「そういえば名前を名乗ってなかったわね。あたしはグウェン・スクアード。冒険者よ」
「私は木崎と申します。この子たちはマルスとマルクル」
「ふーん、キザキって変な響きね。ファーストネームなの?」
「い、いえ……」
「なによ、ファミリーネームなの?水臭い男ねぇ。早くファーストネームを教えなさいよ」
「えぇ、おっさんキザキってファミリーネームなのかよ。俺たちにもファーストネーム教えてくれてなかったのか」
「壁を感じます」
なぜだか獣人兄弟までもが混ざって袋叩きだ。
確かに親しくなった人間のファーストネームをずっと知らなかったことが判明したら少し悲しい気持ちになるかもしれない。
これは俺が悪かったな。
「ごめん、2人とも今までずっとファーストネームを隠していたことは謝るよ。おじさんの名前は繁信っていうんだ」
「シゲノブ?変な名前だな」
「兄さん、人の名前を変だとか言ったらダメだよ」
「シゲノブね。いい名前じゃない。シゲちゃんって呼ぶわね。あたしのこともグウェンちゃんって呼んでもいいわよ」
グウェンちゃん。
うん、やめよう。
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