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おっさんずイフ
12.王都の現実
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王都を出るために第二城壁の城門に並ぶ。
やはり誰でも戦争は嫌なようで王都を出る人はかなり多い。
この国の生まれではない人などは特に関わりたくないというのが本音だろう。
列は長く伸び、昼までに王都を出ることができるかはわからない。
仕方がないので前の人と軽く話でもしながら時間をつぶす。
「いやぁ、ほんと乱世は嫌ですね」
「大きな声では言えませんがそのとおりですな。商品も国軍に安く買いたたかれてしまうし、戦争なんていいことないですよ」
前の人はどうやら商人のようだが、値上がりする食料をもう少し上がったら放出するつもりで持っていたところ軍にほとんど強制徴収のような形で安く買い取られてしまったようだ。
商人に対してそのような強権を振るったためにいまや商人のほとんどが店じまいをして王都から出ていこうとしている。
この大渋滞はそういった背景もあるようだ。
治安の悪化のみならず経済を回す商人も逃げてしまっては完全に王都は終了だ。
やはりもう少し早く出て行っておけばよかった。
1時間ほど商人氏と話していると列が大分進み城門が視認できるようになった。
「次の者」
「は、はい!」
「この荷物はなんだ」
「そ、それは旅の食料です」
「王都からの食料の持ち出しは禁止されている。これは没収させてもらうぞ」
「そ、そんな横暴な……」
「貴様、さては魔族の間者だな。この者を捕らえよ!!」
「ち、違う!!俺はただ……」
「口をふさげ!!こらっ、大人しくしないか!!」
「た、助け……」
なんていうやりとりが列の先頭では繰り広げられていた。
どうやらこの国は本当に末期の末期なところまで突っ走ってしまっているらしい。
荷物をすべて異空間に仕舞えばなんとかいちゃもんをつけられずに門を通過できるかもしれないが、俺は異世界人だからな。
なんとなくどうぞお通りくださいというわけにはいかない気がする。
そうこうしている間にも列に並んでいた人たちは門に行く前で引き返していく。
列の進みがやけに早いと思ったらこういうわけだったのか。
俺と商人氏は顔を見合わせ、回れ右をする。
門から出るのは危険だ。
小走りで門から離れ、適当な店に転がり込む。
銅貨と引き換えに温いエールを飲み干してやっと人心地がついた。
「はぁはぁ、参りましたな」
「ええ、まさかこの国がここまでするとは」
戦時中だから人の出入りが制限されるというのはわかるが、あれはさすがに横暴すぎる。
食料や財産を供出させるためにやっているとしか思えない。
捕まってしまった人はどうなるのだろうか。
食料を供出させるために捕まえた人を牢屋に入れて無駄飯を食わせるとは思えない。
そこから先は怖くて想像したくないな。
「さて、これからどうしますかな」
「陸路がダメなら海路しかないですかね」
「それしかないようです。これも何かの縁ですし、お互い無事に王都を脱出できるといいですな」
「ええ、どうかご無事で」
それだけを言い残し、商人氏と俺は店を出て別々の方向へ歩いて行った。
ルーガル王国の王都1番街には、小さいが河川港が存在している。
1番街に港が存在していることから分かるようにここ王都において船に乗ることができる存在は選ばれた存在だけだ。
王侯貴族やその息のかかった商人だけが船で人や物を運ぶことが許されている。
2番外壁の門から王都を出ることができなくなった今、王都を出る方法はこの河川港に泊まる船に密航するしかない。
国に所属することを断った俺はこの国における身分制度において平民となっている。
そのため1番街に入るのは難しいが、何も1番街の荷物だけが船で運ばれるわけではない。
2番街の倉庫から1番街に運び込まれ、船で川を下る荷物というものも存在している。
俺が船に密航するためにはその荷物に紛れ込むのが一番成功確率が高い。
幸いにもどの荷物が船に運ばれるのかはわかっている。
伊達に3か月以上も荷運びの仕事をしていない。
船に密航するために荷運びの仕事をしていたわけでもないが、人生何が役に立つかわからないものだ。
俺は強化された身体能力で天井に張り付き、ヤモリのようにそっと移動して誰にも見つからないようにそっと木箱の箱を開ける。
中身はどうやら果物らしい。
紫色のリンゴのような果実が木箱いっぱいに詰まっていた。
俺はそれらすべてを魔法で異空間に収納し、身体を丸めて箱に入り込んだ。
あとは蓋を閉め、収納した果物で隙間を埋めておけばたとえ箱を開けられたとしてもおっさんが一人紛れ込んでいるなんて気が付かないだろう。
しばしの間果物に埋もれることになるので少し辛いけど。
「おーい、休憩終わりだ!こっちの荷物運びこむぞ!!」
「「「へいっ」」」
馴染みのあるダミ声が聞こえてきた。
荷運び人のバイトリーダー的なポジションのゴリマッチョの声だ。
おっさんなんか運ばせて申し訳ない。
あと早く逃げたほうがいいよ。
彼は責任感が強いから、バイトリーダーとして自分の職務になんらかの責任感を感じているのかもしれない。
これからこの国は大変なことになるだろうけれど、願わくば元職場の同僚たちには無事でいて欲しいな。
世界の平和を祈りながらおっさん入りの木箱は運ばれていった。
やはり誰でも戦争は嫌なようで王都を出る人はかなり多い。
この国の生まれではない人などは特に関わりたくないというのが本音だろう。
列は長く伸び、昼までに王都を出ることができるかはわからない。
仕方がないので前の人と軽く話でもしながら時間をつぶす。
「いやぁ、ほんと乱世は嫌ですね」
「大きな声では言えませんがそのとおりですな。商品も国軍に安く買いたたかれてしまうし、戦争なんていいことないですよ」
前の人はどうやら商人のようだが、値上がりする食料をもう少し上がったら放出するつもりで持っていたところ軍にほとんど強制徴収のような形で安く買い取られてしまったようだ。
商人に対してそのような強権を振るったためにいまや商人のほとんどが店じまいをして王都から出ていこうとしている。
この大渋滞はそういった背景もあるようだ。
治安の悪化のみならず経済を回す商人も逃げてしまっては完全に王都は終了だ。
やはりもう少し早く出て行っておけばよかった。
1時間ほど商人氏と話していると列が大分進み城門が視認できるようになった。
「次の者」
「は、はい!」
「この荷物はなんだ」
「そ、それは旅の食料です」
「王都からの食料の持ち出しは禁止されている。これは没収させてもらうぞ」
「そ、そんな横暴な……」
「貴様、さては魔族の間者だな。この者を捕らえよ!!」
「ち、違う!!俺はただ……」
「口をふさげ!!こらっ、大人しくしないか!!」
「た、助け……」
なんていうやりとりが列の先頭では繰り広げられていた。
どうやらこの国は本当に末期の末期なところまで突っ走ってしまっているらしい。
荷物をすべて異空間に仕舞えばなんとかいちゃもんをつけられずに門を通過できるかもしれないが、俺は異世界人だからな。
なんとなくどうぞお通りくださいというわけにはいかない気がする。
そうこうしている間にも列に並んでいた人たちは門に行く前で引き返していく。
列の進みがやけに早いと思ったらこういうわけだったのか。
俺と商人氏は顔を見合わせ、回れ右をする。
門から出るのは危険だ。
小走りで門から離れ、適当な店に転がり込む。
銅貨と引き換えに温いエールを飲み干してやっと人心地がついた。
「はぁはぁ、参りましたな」
「ええ、まさかこの国がここまでするとは」
戦時中だから人の出入りが制限されるというのはわかるが、あれはさすがに横暴すぎる。
食料や財産を供出させるためにやっているとしか思えない。
捕まってしまった人はどうなるのだろうか。
食料を供出させるために捕まえた人を牢屋に入れて無駄飯を食わせるとは思えない。
そこから先は怖くて想像したくないな。
「さて、これからどうしますかな」
「陸路がダメなら海路しかないですかね」
「それしかないようです。これも何かの縁ですし、お互い無事に王都を脱出できるといいですな」
「ええ、どうかご無事で」
それだけを言い残し、商人氏と俺は店を出て別々の方向へ歩いて行った。
ルーガル王国の王都1番街には、小さいが河川港が存在している。
1番街に港が存在していることから分かるようにここ王都において船に乗ることができる存在は選ばれた存在だけだ。
王侯貴族やその息のかかった商人だけが船で人や物を運ぶことが許されている。
2番外壁の門から王都を出ることができなくなった今、王都を出る方法はこの河川港に泊まる船に密航するしかない。
国に所属することを断った俺はこの国における身分制度において平民となっている。
そのため1番街に入るのは難しいが、何も1番街の荷物だけが船で運ばれるわけではない。
2番街の倉庫から1番街に運び込まれ、船で川を下る荷物というものも存在している。
俺が船に密航するためにはその荷物に紛れ込むのが一番成功確率が高い。
幸いにもどの荷物が船に運ばれるのかはわかっている。
伊達に3か月以上も荷運びの仕事をしていない。
船に密航するために荷運びの仕事をしていたわけでもないが、人生何が役に立つかわからないものだ。
俺は強化された身体能力で天井に張り付き、ヤモリのようにそっと移動して誰にも見つからないようにそっと木箱の箱を開ける。
中身はどうやら果物らしい。
紫色のリンゴのような果実が木箱いっぱいに詰まっていた。
俺はそれらすべてを魔法で異空間に収納し、身体を丸めて箱に入り込んだ。
あとは蓋を閉め、収納した果物で隙間を埋めておけばたとえ箱を開けられたとしてもおっさんが一人紛れ込んでいるなんて気が付かないだろう。
しばしの間果物に埋もれることになるので少し辛いけど。
「おーい、休憩終わりだ!こっちの荷物運びこむぞ!!」
「「「へいっ」」」
馴染みのあるダミ声が聞こえてきた。
荷運び人のバイトリーダー的なポジションのゴリマッチョの声だ。
おっさんなんか運ばせて申し訳ない。
あと早く逃げたほうがいいよ。
彼は責任感が強いから、バイトリーダーとして自分の職務になんらかの責任感を感じているのかもしれない。
これからこの国は大変なことになるだろうけれど、願わくば元職場の同僚たちには無事でいて欲しいな。
世界の平和を祈りながらおっさん入りの木箱は運ばれていった。
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