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おっさんずイフ
10.神樹の実
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期待していなかったと言えば嘘になるが、まさかここまで劇的な効果があるとは思わなかった。
神樹の芽に神酒を与えてから1週間、神樹はすでに若木と言っても過言ではないほど太くなった。
不思議なことに頭を切ったわけでもないのに盆栽のように背丈は小さいまま幹や枝葉だけがすくすくと育っている。
背丈が低いまま育ったのは神樹の特性かもしれないけれど、これほどまでに一気に育ったのは神酒を与えたからだろう。
神酒というのは美味しくて身体に良いだけでなく、植物に与えると成長を促進させる効果もあるということだ。
これはもはやアタリと言ってしまっていいのではないだろうか。
いや酒やタバコが無限に出てくるだけでも俺にとってはかなりアタリの神器なのだけど、他の神器と比べて能力の優位性が高いという意味でもアタリの神器と言っていいだろう。
他の神器といっても梶原さんの収納の指輪以外に神器を見たことがないのでなんともまだわからないけれど、もしこのレベルの神器がハズレなのだったら神器というのは押しなべて素晴らしい能力を持っているという証明にもなる。
僕と君の神器どっちがいいやつか勝負しようぜ、みたいなことをするつもりのないおっさんにとっては自分の中での評価こそが神器の価値だ。
神巻きタバコも神酒も俺の中ではアタリ中のアタリ、大当たり神器だ。
1つならず2つの神器がアタリだった。
残る1つもと期待してしまうのは浅ましいおっさんには仕方のないことだろう。
神樹の若木には今一つのつぼみが着いている。
これが花開き、果実を実らせたときにこの神器の真価がわかるのかもしれない。
神酒という植物の成長を促進させる効果のある神器を持っていなかったらそこまで育てるのに何年かかったかわからなかったから、神器の組み合わせという意味でも俺は非常に運がよかった。
もし神樹がつまみに最適なナッツ類が無限に実をつけるという神器だとしても俺としてはアタリの神器だと思う。
最近では生活にも余裕ができてきたので、神酒を使って野菜類の超高速家庭菜園でもやりながら気長に待つとしよう。
ああ、アスパラが食べたい。
豚バラ巻いてビール、じゅるり。
異世界に豚バラあるかな。
最悪オーク肉とかでも可。
残念ながらアスパラはこの近辺ではそれらしい野菜が栽培されていなかった。
他の野菜も見たことのないものばかりだ。
改めて異世界に来てしまったのだと実感する。
しかしあちらの世界の野菜に似たようなものが無いわけではない。
でかいトマトのようなものが成る木とジャガイモのようなものが成る木を発見した。
どちらの野菜も市場で見かけて農家の人に種を分けて欲しいと頼んだのだが、まさか木に成るとは思わなかった。
だが神酒で促成栽培するのならば、実をつけたら枯れてしまう一年性植物よりも何年も実が成る果樹のほうが効率がいいのかもしれない。
俺はさっそく2つの植木鉢に種を植えた。
普通の木はおそらく神樹のように自ずと背の低い盆栽のようにはならないと思うから小まめに剪定しなければならない。
手がかかるのもまた家庭菜園の楽しみのひとつだ。
俺のような家庭菜園玄人には放っておいたら勝手に育つような野菜よりも、手をかけなければまともに育ってくれないような野菜のほうが育て甲斐があっていい。
だったら木が順当に育つまで2年3年と時間をかければいいのかもしれないが、手間がかかるのと時間がかかるのはまた違う。
俺は早く育ってくれと願いを込めて神酒をトクトクと植木鉢に注いだ。
翌日、トマトの木とジャガイモの木の芽が出るとともに、神樹の若木が果実を実らせた。
まさか1日でつぼみから花を経て実が成るとは思わなかった。
あまりに早すぎて受粉とかさせる暇がなかったのだけれど、神樹はなぜか平然と実っている。
自然の摂理を超越しているな。
トマトとジャガイモは受粉させないとおそらくまともに実らないだろう。
花が咲いた瞬間を見逃さないようにしなくては。
なにはともあれあの小さかったどんぐりがここまで大きくなって果実を実らせたわけだ。
なぜだか誇らしい気持ちになってくる。
神樹の若木に実った果実はまるでアメリカンチェリーのような形をしており、どんぐりとは似ても似つかない。
もしかしたら果肉を食べ終わると種がどんぐりのような形をしているのかもしれないが、なんとなくそうではないような気もしている。
この樹がそんな自然の摂理に沿うような生態をしているとは思えないのだ。
木から突然ドーナツが実っても俺はたぶん驚かないだろう。
いややっぱりそれは驚くかもしれない。
だってドーナツだもの。
木から揚げ物が成るのはさすがにおかしすぎる。
よくわからないことを考えているうちに、若木に実ったアメリカンチェリーが完熟してポトリと落ちる。
「おわっと」
小さな実なので落ちても潰れてしまうようなことはないだろうが、なんとなく地面に落ちてしまう前にキャッチする。
果実は程よく弾力があり、よく色んで真っ赤だ。
顔に近づけて匂いを嗅いでみれば、甘酸っぱいいい匂いが香ってくる。
これは美味しそうだ。
説明欄に神不味いと書かれていたどんぐりから生えたとは思えない。
「やっぱりこれは食べて使用するんだろうな」
木の実なんて食べる以外に使用方法を思いつかない。
俺は一応毒とかがないか手首でパッチテストをしてから果実を口に含む。
舌に痺れなどがないことを確認してから果実を噛み潰す。
ひと噛みで芳醇な果汁が口いっぱいに広がる。
「ダースで食べたい」
ひとつだけしかないことに物足りなさを感じる。
果実には種がなく、シャインマスカットのような皮が口に中に残らない高級感溢れる果物の味がした。
めちゃくちゃ美味しかったのは良いのだが、食べてもなにも起こらないな。
もう魔法やらなんやらが使えるようになっていたりするのだろうか。
『ぴろりろりん♪シゲノブは初級魔法【火球】が使えるようになった』
時間差だったか。
神樹の芽に神酒を与えてから1週間、神樹はすでに若木と言っても過言ではないほど太くなった。
不思議なことに頭を切ったわけでもないのに盆栽のように背丈は小さいまま幹や枝葉だけがすくすくと育っている。
背丈が低いまま育ったのは神樹の特性かもしれないけれど、これほどまでに一気に育ったのは神酒を与えたからだろう。
神酒というのは美味しくて身体に良いだけでなく、植物に与えると成長を促進させる効果もあるということだ。
これはもはやアタリと言ってしまっていいのではないだろうか。
いや酒やタバコが無限に出てくるだけでも俺にとってはかなりアタリの神器なのだけど、他の神器と比べて能力の優位性が高いという意味でもアタリの神器と言っていいだろう。
他の神器といっても梶原さんの収納の指輪以外に神器を見たことがないのでなんともまだわからないけれど、もしこのレベルの神器がハズレなのだったら神器というのは押しなべて素晴らしい能力を持っているという証明にもなる。
僕と君の神器どっちがいいやつか勝負しようぜ、みたいなことをするつもりのないおっさんにとっては自分の中での評価こそが神器の価値だ。
神巻きタバコも神酒も俺の中ではアタリ中のアタリ、大当たり神器だ。
1つならず2つの神器がアタリだった。
残る1つもと期待してしまうのは浅ましいおっさんには仕方のないことだろう。
神樹の若木には今一つのつぼみが着いている。
これが花開き、果実を実らせたときにこの神器の真価がわかるのかもしれない。
神酒という植物の成長を促進させる効果のある神器を持っていなかったらそこまで育てるのに何年かかったかわからなかったから、神器の組み合わせという意味でも俺は非常に運がよかった。
もし神樹がつまみに最適なナッツ類が無限に実をつけるという神器だとしても俺としてはアタリの神器だと思う。
最近では生活にも余裕ができてきたので、神酒を使って野菜類の超高速家庭菜園でもやりながら気長に待つとしよう。
ああ、アスパラが食べたい。
豚バラ巻いてビール、じゅるり。
異世界に豚バラあるかな。
最悪オーク肉とかでも可。
残念ながらアスパラはこの近辺ではそれらしい野菜が栽培されていなかった。
他の野菜も見たことのないものばかりだ。
改めて異世界に来てしまったのだと実感する。
しかしあちらの世界の野菜に似たようなものが無いわけではない。
でかいトマトのようなものが成る木とジャガイモのようなものが成る木を発見した。
どちらの野菜も市場で見かけて農家の人に種を分けて欲しいと頼んだのだが、まさか木に成るとは思わなかった。
だが神酒で促成栽培するのならば、実をつけたら枯れてしまう一年性植物よりも何年も実が成る果樹のほうが効率がいいのかもしれない。
俺はさっそく2つの植木鉢に種を植えた。
普通の木はおそらく神樹のように自ずと背の低い盆栽のようにはならないと思うから小まめに剪定しなければならない。
手がかかるのもまた家庭菜園の楽しみのひとつだ。
俺のような家庭菜園玄人には放っておいたら勝手に育つような野菜よりも、手をかけなければまともに育ってくれないような野菜のほうが育て甲斐があっていい。
だったら木が順当に育つまで2年3年と時間をかければいいのかもしれないが、手間がかかるのと時間がかかるのはまた違う。
俺は早く育ってくれと願いを込めて神酒をトクトクと植木鉢に注いだ。
翌日、トマトの木とジャガイモの木の芽が出るとともに、神樹の若木が果実を実らせた。
まさか1日でつぼみから花を経て実が成るとは思わなかった。
あまりに早すぎて受粉とかさせる暇がなかったのだけれど、神樹はなぜか平然と実っている。
自然の摂理を超越しているな。
トマトとジャガイモは受粉させないとおそらくまともに実らないだろう。
花が咲いた瞬間を見逃さないようにしなくては。
なにはともあれあの小さかったどんぐりがここまで大きくなって果実を実らせたわけだ。
なぜだか誇らしい気持ちになってくる。
神樹の若木に実った果実はまるでアメリカンチェリーのような形をしており、どんぐりとは似ても似つかない。
もしかしたら果肉を食べ終わると種がどんぐりのような形をしているのかもしれないが、なんとなくそうではないような気もしている。
この樹がそんな自然の摂理に沿うような生態をしているとは思えないのだ。
木から突然ドーナツが実っても俺はたぶん驚かないだろう。
いややっぱりそれは驚くかもしれない。
だってドーナツだもの。
木から揚げ物が成るのはさすがにおかしすぎる。
よくわからないことを考えているうちに、若木に実ったアメリカンチェリーが完熟してポトリと落ちる。
「おわっと」
小さな実なので落ちても潰れてしまうようなことはないだろうが、なんとなく地面に落ちてしまう前にキャッチする。
果実は程よく弾力があり、よく色んで真っ赤だ。
顔に近づけて匂いを嗅いでみれば、甘酸っぱいいい匂いが香ってくる。
これは美味しそうだ。
説明欄に神不味いと書かれていたどんぐりから生えたとは思えない。
「やっぱりこれは食べて使用するんだろうな」
木の実なんて食べる以外に使用方法を思いつかない。
俺は一応毒とかがないか手首でパッチテストをしてから果実を口に含む。
舌に痺れなどがないことを確認してから果実を噛み潰す。
ひと噛みで芳醇な果汁が口いっぱいに広がる。
「ダースで食べたい」
ひとつだけしかないことに物足りなさを感じる。
果実には種がなく、シャインマスカットのような皮が口に中に残らない高級感溢れる果物の味がした。
めちゃくちゃ美味しかったのは良いのだが、食べてもなにも起こらないな。
もう魔法やらなんやらが使えるようになっていたりするのだろうか。
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