おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉

文字の大きさ
上 下
163 / 205
おっさんずイフ

6.アラフィフリーマン氏の神器

しおりを挟む
「裸一貫ではないけど……」

 俺たち国に属さないことを選択した異世界人に支給されたのは一揃いの旅装と金貨が2枚。
 国に対して非協力的な俺たちに対しての支援は最低限のものだろうとは思っていたが、勝手に異世界から召喚しておいてまさか貰えるのがこれだけとは。
 金貨というのは大変に価値がある貨幣らしいけれど、わりと低所得な人でも月に10枚程度は手にする機会のあるものだとの話だ。
 そこから1枚あたりの価値を想像するに、1枚1万円くらいなのではないだろうか。
 つまり俺たちは旅に必要なものと現金2万円を支給されて放り出されたということだ。
 荷物を渡されてさっさと城からつまみ出された俺たちは立ち尽くす。

「何よ金貨2枚って。ありえないでしょ!!」

「マジでこれだけかよ……」

「でも旅の装備一揃いが貰えましたし……」

「旅の装備っつったってテントとかランプとかナイフとか、その程度じゃねえか」

「アウトドアショップで買えば数万円はしますよ」

「それは日本の高性能キャンプグッズだったらだろ?このテントなんて雨がしみ込んできそうだぜ」

「まあ僕たちには神器もありますし」

 若者たちはなんだかんだで前向きだ。
 多少の金銭とキャンプグッズしか持っていない現状だけど、俺たちには女神を名乗る女性からもらった神器なるアイテムがあるということでなんとか精神を持ち直したようだ。
 俺たちおっさんおばさん組はなかなか彼ら彼女らのように精神を上げたり下げたり激しく動かすことはできない。
 
「はて、これからどうしますかね」

「とりあえず仕事を探さないとこの資金では1週間ももたないですね」

「ええ、そのようです」

 国に所属しない組の異世界人たちは全部で12人。
 すでに気の合う者同士チームを組み始めている。
 ひとりで仕事を探して異世界で生活を始めるよりも何人かで協力し合ったほうが生活の基盤は作りやすいのだろうが、俺たち異世界人は全員3つの切り札を抱えている。
 女神様から与えられたアイテムである神器だ。
 3つの神器がこの世界における俺たちのアドバンテージである以上は、その情報はとても重要なものとなる。
 神器には明確な優劣が存在していることを女神様の口から直接聞いてしまった俺はなおさらその情報が持つ意味を重く受け取っている。
 それを仲間同士で共有することができるかといえば、今日初めて会った人とは難しいだろう。
 ここでチームを組んでつるむことは俺たちにとって諸刃の剣なのだ。
 俺だってアラフィフリーマンさんとは気が合いそうなのだが、今のところ全力で信頼することはできないと思う。
 だが、神器には優劣があるという情報くらいは明かしてもいいかもしれない。
 なにも仲間になるか口も利かないかという2択ではない。
 いつも一緒に行動しているわけではないけれどたまに一緒に酒を飲む、そのくらいの関係が一番お互いに居心地がいいということをおっさんは知っている。
 
「あの、まだ昼間ですけど少し飲みませんか?」

 昼間の酒場に、2人のおっさんが消えていった。





「なるほど、神器同士に優劣があるのですね。神器などというご大層なアイテムですからどれも同程度に素晴らしい力を秘めていると思っていましたが、そうではないと」

「ええ、どうやらあの女神様は少し性格に問題がありそうですよ。優劣がある理由が、そのほうがおもしろそうだからというんですから」

「他人よりも劣った神器を持ってしまった人の葛藤や、優れた神器を手に入れた人の調子に乗る様を見て楽しむってことでしょうかね」

 真昼間の人もまばらな酒場の一角に、向かい合って座るおっさんが2人。
 俺とアラフィフリーマン氏である。
 アラフィフリーマン氏は名を梶原さんというらしい。
 仲良くしすぎないためにも、お互いに苗字だけを名乗り合うことにしたのだ。
 アラフォーアラフィフの男同士の間にそれ以上の呼び名は必要ない。
 梶原さんは俺の事を木崎さんと呼び、俺は梶原さんのことを梶原さんと呼ぶ。
 それでいい。
 俺たちの間柄は仲間でもなくさりとて敵でもない。
 助け合う他人同士だ。
 自分のことを優先し、余力でお互いに助け合う関係。
 いわば同盟関係だ。
 お互いに行動の指針や進むべき道は別だが、道の交わる部分では一緒に行動するし助け合える部分では助け合うという無理のない関係だ。
 今日初めて会った人との関係だ、このくらいがベストだろう。
 
「それで、これからどうするのかもう予定は立てていますか?」

「そうですね。自分なりにお金を稼ぐ方法を模索してみて、無理そうなら普通に働きますかね」

「私は商人になりたいと思っています」

「商人ですか」

 梶原さんは商人としてやっていけるだけの何かを持っているのだろうか。
 この世界はざっと見たところ科学文明があちらの世界よりも遅れている。
 それはおそらく便利な魔法の道具があるからだろう。
 そんな世界だから、俺たちの持つ科学の知識や21世紀の常識はきっと金になる。
 だが俺にはなにをどうしたら知識を金にすることができるのかはっきりと道筋を立てることはできない。
 梶原さんにはそれができるのだろうか。

「私がすごく有能な人物であるとか勘違いしていませんか?」

「え?」

「私はどこにでもいる窓際を温めるだけのサラリーマンですよ。そんなに有能な人物ではない。ですが、私にはこれがあります」

 そう言って梶原さんは一つの神器を具現化する。
 手のひらに乗った小さなそれは、なんの変哲もない銀色のリングだ。
 しかし神器であるからにはなんらかの能力があるのだろう。

「これは収納の指輪といって、多くの物をこの小さな指輪に仕舞っておくことのできる神器なのです」

「え!?」

 いきなり神器を見せた梶原さんに少し驚いたが、よく考えてみたらこれから仕事で使うならば否がおうにも神器は人目につくことになる。
 今俺に対して秘密にすることにそれほどの意味はない。
 便利そうな神器で少しだけ羨ましい。
 こんなに小さな指輪にたくさんの物を仕舞うことができるのならばそれは確かに商売になりそうだ。
 行商人などは喉から手が出るほど欲しいものだろう。
 なにせこの世界に列車やトラック、飛行機があるとは思えない。
 これがあれば商品を大量に収納して自分だけが馬などで高速移動すれば大量の品物を迅速に運ぶことができる。
 足の早い海産物などを海から遠い土地で売ればぼったくり価格でも人々は買う。
 現代日本でもイカを生きたままトラックで東京まで運べるようになったのは科学技術が発達した最近になってからだ。
 なんて先進的なビジネスなんだろうか。
 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい

兎屋亀吉
ファンタジー
異世界転生にあたって、神様から提示されたスキルは4つ。1.【剣術】2.【火魔法】3.【アイテムボックス】4.【アイテムコピー】。これらのスキルの中から、選ぶことのできるスキルは一つだけ。さて、僕は何を選ぶべきか。タイトルで答え出てた。

ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない

兎屋亀吉
ファンタジー
底辺冒険者クロードは転生者である。しかしチートはなにひとつ持たない。だが救いがないわけじゃなかった。その世界にはスキルと呼ばれる力を後天的に手に入れる手段があったのだ。迷宮の宝箱から出るスキルオーブ。それがあればスキル無双できると知ったクロードはチートスキルを手に入れるために、今日も薬草を摘むのであった。

強奪系触手おじさん

兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~

春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。 冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。 しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。 パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。 そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

寝て起きたら世界がおかしくなっていた

兎屋亀吉
ファンタジー
引きこもり気味で不健康な中年システムエンジニアの山田善次郎38歳独身はある日、寝て起きたら半年経っているという意味不明な状況に直面する。乙姫とヤった記憶も無ければ玉手箱も開けてもいないのに。すぐさまネットで情報収集を始める善次郎。するととんでもないことがわかった。なんと世界中にダンジョンが出現し、モンスターが溢れ出したというのだ。そして人類にはスキルという力が備わったと。変わってしまった世界で、強スキルを手に入れたおっさんが生きていく話。※この作品はカクヨムにも投稿しています。

加護とスキルでチートな異世界生活

どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!? 目を覚ますと真っ白い世界にいた! そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する! そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる 初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです ノベルバ様にも公開しております。 ※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません

処理中です...