152 / 205
140.獣人の領域
しおりを挟む
「ここから先は獣人の領域に入ります。彼らと戦うのは最後の手段だと思ってください。彼らと戦えば必ず少なくない被害が出ます。穏便に済ませられるように努力しますので皆さんもどうか理性的な行動を心がけてください」
ベラール氏は冒険者やリーベル通商専属護衛の人たちを集め、そう注意を促す。
獣人は種族にもよるが概ね人間よりも身体能力に優れている。
金角族の角から発せられる電撃のように特殊能力を持った種族も存在している。
もし戦いになれば大勢の人が犠牲になることだろう。
獣人は全員が生まれながらの戦士であるのに比べて、こちらは商人のキャラバン。
戦闘員よりも非戦闘員のほうが人数が多いこちらが圧倒的に不利だ。
真っ向勝負で戦っても獣人には勝てるかわからないというのに、不利な状況で戦えば勝てるはずがない。
なのでここから先は商人が中心となり、この地を通らせてもらえるように交渉するようだ。
獣人たちは単細胞だが馬鹿ではない。
自分たちに利があることに対して感情だけで戦いを吹っ掛けたりということは……あまりない。
まあベラール氏が平和的にこの地を通りたいと言うのだから俺はそのために行動するのみだ。
俺は少しの間だが獣人たちと過ごして彼らのことを多少は知っている。
連合国の獣人とこの地に住む獣人が同じような性質かはわからないが、神巻きタバコによって強化された俺の第六感がなんとなく獣人とはみんなあんな感じだと訴えている。
あんな感じの彼らとの付き合い方は学習済みだ。
世の中何が役に立つのかわからないものだな。
「それでは、これより獣人の領域に入ります」
「「「了解」」」
止まっていた馬車列が動き出し、ついには獣人たちが住まうという森の小道に入る。
鬱蒼と生い茂る森は、獣人たちにとって有利なフィールドだ。
この環境が天然の砦となり、彼らを守っているのだろう。
「不気味な森だぜ」
「あちこちに獣人が潜んでいる気がしちまうな」
Cランクのベテラン冒険者2人がそんな話をしている。
だが彼らの感覚は間違っていない。
なぜならすでに、俺たちは獣人たちに囲まれてしまっているのだから。
獣人たちは気配を消して森に潜んでいる。
数は23だな。
どことなく銀狼族と似たような匂いがする。
おそらく狼系の獣人だ。
経験から言って、狼系の獣人はかなり血の気が多い傾向にある。
面倒だな。
犬人族とかだったら話し合いでも解決できたかもしれないのに。
よりにもよって獣人の中で最も面倒な狼系とは。
俺はベラール氏の近くに寄り、小声で話しかける。
「ベラールさん、すみませんが獣人たちとの交渉は私に任せてもらえませんか?」
「え?どうしてですか?先生は博識でいらっしゃいますが、交渉ならさすがに我々のほうが……」
「ええ。理性的な相手に対しての交渉は確かに商人の皆さんの得意とする戦場だと思うのですが、どうにも話の通じない相手の可能性がありまして」
「どういうことです?」
俺はすでに自分たちが囲まれていること、相手が狼系の獣人であること、自分が以前狼系の獣人たちと接したことがあり対処法を心得ていることをベラール氏に伝える。
「なるほど、さすが先生です。わかりました、すべてお任せいたします。もちろん今回も特別報酬をご用意いたします」
そんなつもりで申し出たわけではないが、くれるというのならばもらっておこうか。
護衛依頼っていうのは儲かるものなんだな。
「じゅ、獣人です!!」
「囲まれています!!」
獣人たちはようやく姿を現したようで、馬車列はまた停止する。
護衛たちはあらかじめ言い含められていたために武器は抜いていない。
「では、行ってきます」
「ええ、お気をつけて」
俺は馬車から降りて獣人たちの中で一番強そうな相手を探す。
獣人たちの性質から言って、一番強いやつが一番偉いやつだ。
馬車列の最前列、正面に躍り出て馬車を止めている獣人がおそらく一番強いと俺は判断した。
その獣人の元へ向かう。
「貴様ら、どこの者だ!!なぜ我らの領域に無断で立ち入った!!」
まずは誰何から入るか。
獣人にしてはなかなかに理性的だな。
銀狼族のルークさんのように話の分かる人物だといいのだけどな。
「失礼、あなた方の領域に勝手に入ってしまったことは謝ります。ですが、我々には害意はありません。ただこの森を通らせてほしいだけなのです」
「ほう、貴殿は?」
「私はシゲノブ・キザキ。冒険者です。このキャラバンの護衛の中で一番の戦士であると自負するものです」
獣人に対して謙遜は禁物だ。
いえいえ私なんて弱いですよなんて言った日には自分の力に誇りが無いのかと怒鳴られるに決まっている。
俺にだって誇りはあるさ。
神器は貰い物だが、それだけでは決して腐竜と互角に戦うことなどはできなかっただろう。
俺がこの世界にきて積み上げてきたものは多くはないが、決して存在していないわけではない。
それが俺の誇りだ。
「なるほど、どうやら貴殿は我らの流儀を心得ているらしい。では参ろうか、俺はムリクラの里の戦士長ヴィランだ」
そう言うとヴィランさんは手に持っていた槍を捨て、上着を脱いだ。
出てきたのは傷だらけのムキムキ細マッチョボディ。
俺も対抗するように腰の剣帯を外し、刺突剣を地面に置く。
そして皮鎧とシャツを脱いで捨てた。
「え?何?先生!なんで脱いでるんですか?あっちの獣人さんも!」
「いったい何が始まるんだ」
なんてことはない、ただの殴り合いだよ。
まったく、獣人は面倒だ。
ベラール氏は冒険者やリーベル通商専属護衛の人たちを集め、そう注意を促す。
獣人は種族にもよるが概ね人間よりも身体能力に優れている。
金角族の角から発せられる電撃のように特殊能力を持った種族も存在している。
もし戦いになれば大勢の人が犠牲になることだろう。
獣人は全員が生まれながらの戦士であるのに比べて、こちらは商人のキャラバン。
戦闘員よりも非戦闘員のほうが人数が多いこちらが圧倒的に不利だ。
真っ向勝負で戦っても獣人には勝てるかわからないというのに、不利な状況で戦えば勝てるはずがない。
なのでここから先は商人が中心となり、この地を通らせてもらえるように交渉するようだ。
獣人たちは単細胞だが馬鹿ではない。
自分たちに利があることに対して感情だけで戦いを吹っ掛けたりということは……あまりない。
まあベラール氏が平和的にこの地を通りたいと言うのだから俺はそのために行動するのみだ。
俺は少しの間だが獣人たちと過ごして彼らのことを多少は知っている。
連合国の獣人とこの地に住む獣人が同じような性質かはわからないが、神巻きタバコによって強化された俺の第六感がなんとなく獣人とはみんなあんな感じだと訴えている。
あんな感じの彼らとの付き合い方は学習済みだ。
世の中何が役に立つのかわからないものだな。
「それでは、これより獣人の領域に入ります」
「「「了解」」」
止まっていた馬車列が動き出し、ついには獣人たちが住まうという森の小道に入る。
鬱蒼と生い茂る森は、獣人たちにとって有利なフィールドだ。
この環境が天然の砦となり、彼らを守っているのだろう。
「不気味な森だぜ」
「あちこちに獣人が潜んでいる気がしちまうな」
Cランクのベテラン冒険者2人がそんな話をしている。
だが彼らの感覚は間違っていない。
なぜならすでに、俺たちは獣人たちに囲まれてしまっているのだから。
獣人たちは気配を消して森に潜んでいる。
数は23だな。
どことなく銀狼族と似たような匂いがする。
おそらく狼系の獣人だ。
経験から言って、狼系の獣人はかなり血の気が多い傾向にある。
面倒だな。
犬人族とかだったら話し合いでも解決できたかもしれないのに。
よりにもよって獣人の中で最も面倒な狼系とは。
俺はベラール氏の近くに寄り、小声で話しかける。
「ベラールさん、すみませんが獣人たちとの交渉は私に任せてもらえませんか?」
「え?どうしてですか?先生は博識でいらっしゃいますが、交渉ならさすがに我々のほうが……」
「ええ。理性的な相手に対しての交渉は確かに商人の皆さんの得意とする戦場だと思うのですが、どうにも話の通じない相手の可能性がありまして」
「どういうことです?」
俺はすでに自分たちが囲まれていること、相手が狼系の獣人であること、自分が以前狼系の獣人たちと接したことがあり対処法を心得ていることをベラール氏に伝える。
「なるほど、さすが先生です。わかりました、すべてお任せいたします。もちろん今回も特別報酬をご用意いたします」
そんなつもりで申し出たわけではないが、くれるというのならばもらっておこうか。
護衛依頼っていうのは儲かるものなんだな。
「じゅ、獣人です!!」
「囲まれています!!」
獣人たちはようやく姿を現したようで、馬車列はまた停止する。
護衛たちはあらかじめ言い含められていたために武器は抜いていない。
「では、行ってきます」
「ええ、お気をつけて」
俺は馬車から降りて獣人たちの中で一番強そうな相手を探す。
獣人たちの性質から言って、一番強いやつが一番偉いやつだ。
馬車列の最前列、正面に躍り出て馬車を止めている獣人がおそらく一番強いと俺は判断した。
その獣人の元へ向かう。
「貴様ら、どこの者だ!!なぜ我らの領域に無断で立ち入った!!」
まずは誰何から入るか。
獣人にしてはなかなかに理性的だな。
銀狼族のルークさんのように話の分かる人物だといいのだけどな。
「失礼、あなた方の領域に勝手に入ってしまったことは謝ります。ですが、我々には害意はありません。ただこの森を通らせてほしいだけなのです」
「ほう、貴殿は?」
「私はシゲノブ・キザキ。冒険者です。このキャラバンの護衛の中で一番の戦士であると自負するものです」
獣人に対して謙遜は禁物だ。
いえいえ私なんて弱いですよなんて言った日には自分の力に誇りが無いのかと怒鳴られるに決まっている。
俺にだって誇りはあるさ。
神器は貰い物だが、それだけでは決して腐竜と互角に戦うことなどはできなかっただろう。
俺がこの世界にきて積み上げてきたものは多くはないが、決して存在していないわけではない。
それが俺の誇りだ。
「なるほど、どうやら貴殿は我らの流儀を心得ているらしい。では参ろうか、俺はムリクラの里の戦士長ヴィランだ」
そう言うとヴィランさんは手に持っていた槍を捨て、上着を脱いだ。
出てきたのは傷だらけのムキムキ細マッチョボディ。
俺も対抗するように腰の剣帯を外し、刺突剣を地面に置く。
そして皮鎧とシャツを脱いで捨てた。
「え?何?先生!なんで脱いでるんですか?あっちの獣人さんも!」
「いったい何が始まるんだ」
なんてことはない、ただの殴り合いだよ。
まったく、獣人は面倒だ。
31
お気に入りに追加
8,850
あなたにおすすめの小説
異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜
ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった!
謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。
教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。
勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。
元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。
力を持っていても順応できるかは話が別だった。
クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。
※ご注意※
初投稿、試作、マイペース進行となります。
作品名は今後改題する可能性があります。
世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。
旅に出るまで(序章)がすごく長いです。
他サイトでも同作を投稿しています。
更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。
転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~
hisa
ファンタジー
受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。
自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。
戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?
教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!!
※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく!
※第5章に突入しました。
※小説家になろう96万PV突破!
※カクヨム68万PV突破!
※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました
【旧作改訂】イレギュラー召喚で神器をもらえませんでした。だけど、勝手に付いてきたスキルがまずまず強力です
とみっしぇる
ファンタジー
途中で止まった作品のリメイクです。
底辺冒険者サーシャは、薬草採取中に『神器』を持つ日本人と共に危険な国に召喚される。
サーシャには神器が見当たらない。増えていたのは用途不明なスキルがひとつだけ。絶体絶命のピンチを切り抜けて、生き延びられるのか。
スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜
櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。
パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。
車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。
ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!!
相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム!
けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!!
パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!
生産性厨が異世界で国造り~授けられた能力は手から何でも出せる能力でした~
天樹 一翔
ファンタジー
対向車線からトラックが飛び出してきた。
特に恐怖を感じることも無く、死んだなと。
想像したものを具現化できたら、もっと生産性があがるのにな。あと、女の子でも作って童貞捨てたい。いや。それは流石に生の女の子がいいか。我ながら少しサイコ臭して怖いこと言ったな――。
手から何でも出せるスキルで国を造ったり、無双したりなどの、異世界転生のありがちファンタジー作品です。
王国? 人外の軍勢? 魔王? なんでも来いよ! 力でねじ伏せてやるっ!
感想やお気に入り、しおり等々頂けると幸甚です!
モチベーション上がりますので是非よろしくお願い致します♪
また、本作品は小説家になろう、エブリスタ、カクヨムで公開している作品となります。
小説家になろうの閲覧数は170万。
エブリスタの閲覧数は240万。また、毎日トレンドランキング、ファンタジーランキング30位以内に入っております!
カクヨムの閲覧数は45万。
日頃から読んでくださる方に感謝です!
強奪系触手おじさん
兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。
月が導く異世界道中extra
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
こちらは月が導く異世界道中番外編になります。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる