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136.旅の再開

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 王国内の情勢は辺境伯率いる諸侯連合優勢で動いている。
 鍵開けに特化した神器を持つ勇者がたまたま連合国内で冒険者をしていたとかで、諸侯連合軍はその勇者の力を借りて王国内の隷属勇者を片っ端から解放して回っているようだ。
 戦場に出ても相手が首輪の鍵を開けられる手段を有していると分かれば隷属勇者たちはまともに戦いはしない。
 おそらくこのまま推移すればルーガル王国という国は滅びるだろう。
 連合国の助力があってこその今の情勢なので、おそらくルーガル王国は連合国に併合されることとなるだろう。
 そのあと待ち構えているのは戦争に協力した諸侯連合所属の木っ端貴族たちの論功アピール大会だ。
 男爵領は結局俺が少し暗躍したくらいで、領としては小競り合い程度で終わった。
 数人の勇者を得ることができたので、おそらく男爵はそれ以上は何も求めることは無いだろう。
 戦争の論功争いに参加するよりも領内の開発を進めたほうが建設的だ。
 そんなわけで男爵領ももうすぐ戦闘配備を解く。
 馬鹿げた勇者召喚が行なわれる以前の賑やかで平和な港町の雰囲気に戻れば、俺もまた週0日勤務に戻ることだろう。
 前は勇者が俺一人だったので週0勤務でも月に1回くらいは出番もあった。
 しかしながら今の男爵領には勇者がたくさんいる。
 戦闘は言わずもがな、魔法での工作や土木作業までも神器の力なのかすごい勢いで魔法を覚えつつあるミタケンさんに奪われてきている。
 それでいて俺のほうが早く男爵領に就職したから給料が良い。
 少し前までカールと近隣のゴブリンやオークなどの領民に被害を与える魔物を狩りに行ったりと自分で仕事を探してなんとか充実感を維持していたものの、ゴブリンもオークもすでに狩り尽くしてしまった。
 ゴキブリみたいに増える常時依頼の魔物でもさすがに半年か1年くらいは森に入っても探すのが大変なくらいだと思う。
 さらにはおっさんの暇潰しにも快く付き合ってくれていた少年カールが船に乗ってキムリアナに帰ってしまった。
 さすがに冒険者として独り立ちするには速すぎる年齢だから、もう少し孤児院を拠点に金を貯めるそうだ。
 金貨10枚に加えて高い船賃までも溜めておっさんに会いにきてくれた少年が去ってしまって少し寂しいのと、すごく暇だ。
 働かずに他より高い給料を貰うというのもなかなかに心苦しい。

「旅を再開するかな……」

 ドラゴニアで止まっていた旅を再開するにはいい頃合だろう。
 勇者が増えて前よりも留守にすることに安心感が増している。
 機銃の抑止力でちょっかいをかけてくる貴族や海賊も減ったし、俺などに高い給料を払っているのは無駄だろう。
 ここらで休職させてもらい、ドラゴニアに転移で戻るとしよう。




「どうも、お久しぶりです。その後どうですか?家には入れてもらえましたか?」

「お久しぶりです。お恥ずかしながらあと少しのところでまだ宿暮らしです」

 久しぶりに会った梶原さんの顔色は少し不健康そうだった。
 おそらく外食ばかりで栄養バランスが崩れてしまっているのだろう。
 後でそっと養〇酒を差し入れしておこう。
 それで体調のほうは元どおりだろう。
 体調は戻っても夫婦の関係はそう簡単には戻らない。
 奥さんの性格によっては、一生戻らないこともあるかもしれない。

「ドノバンさんはどうなんですかね」

「ドノバンさんは10日くらいで家に入れてもらえたみたいです。奥さんも慣れてますからね」

 さすがはドノバンさんの奥さんだけあって心が広い。
 呆れ果てているだけかもしれないが。
 梶原さんの奥さんはまだ若いから少し潔癖なところがあるのだろう。
 キャバクラや風俗が浮気に入るのかっていうのは夫婦間によって認識が違うからね。
 ドノバンさんのところは激怒はするもしょうがないって言って最後には許してくれるタイプだろう。
 ドノバンさんの下半身のだらしなさを知っていて結婚した奥さんなのだからそれは覚悟の上みたいな感じだ。
 梶原さんのところは今後一切そういった店には行かないと誓わない限りは無理な気がするな。
 しかしそんなことを誓いたくないのも男の性だ。
 梶原さんも意外にムッツリなところがあるからな。
 俺がいなくなればあんな金のかかったドンチャン騒ぎはできないと思うけど、自腹で女遊びにハマってしまわないか心配だ。
 奥さんもそろそろ意地を張るのをやめて梶原さんの手綱をしっかりと握っておかなければこういうところから人間って堕落するものだからね。
 梶原さんが借金とかに身をやつしたら俺も責任を感じてしまうよ。
 ドノバンさんはたぶんなんとも思わないと思うけどな。
 まあ夫婦間のことはどのみち俺にできることは何も無い。
 梶原さんがあと少しだと言っているのだからあと少しなのだろう。
 今度来たときにバツが増えていないことを祈るよ。

「それで、今日はどういったご用で?」

「旅を再開しようと思いまして、半島方面への護衛依頼なんかあったら受けて行こうかと」

「そうですか、寂しくなりますね。またドラゴニアに寄った際には一緒に飲みましょう」

 梶原さんは口には出さなかったが、おそらく女の子のいるお店でという意味なのだろう。
 奥さんにまた追い出されても俺は責任を持てないよ。


 
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