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135.厚顔の貴族共

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 ライエル侯爵だと名乗る貴族を警備隊に突き出したところ、すぐに密入領ルートは判明した。
 領内に入っていたいくつかの商会が小遣い稼ぎにルーガル王国の貴族を手引きしていたようだ。
 証拠も残していないし領内の法に触れる行為ではないからといって、やっていいことと悪いことがある。
 モラルの欠如した商会には困ったものだ。
 男爵はすぐに該当の商会による領内での商売を禁止した。
 タバコや蒸留酒の販売で飛ぶ鳥落とす勢いの男爵領だが、元がしょぼい港町なのでまだまだ舐め腐っている商人も多いんだ。
 男爵はビジネスにはシビアだ。
 普段は人の良いおじさんだからと舐めてかかると痛い目を見ることになる。
 蒸留酒もタバコも仕入れることができなくなった商人たちは泣く泣く領内から出て行った。
 貴族というのは領内では王様のようなものだ。
 高度な自治権が認められている男爵領では特に男爵の権力は大きい。
 商人たちは男爵をルーガル王国時代の小領主だと思って甘く見た。
 領内から出る船で不幸な事故が起きなければいいけどな。
 せいぜい尻には気をつけることだ。
 しかし商会の処分はそれでいいとして、困ったのは男爵領に逃げ込んだルーガル王国の貴族たちの扱いだ。
 ライエル侯爵以外にも8人の王国貴族が男爵領に逃げ込んでいた。
 それも揃いも揃って伯爵以上の上級貴族ばかりだ。
 どうやら王国内の情勢が動き、ライエル侯爵派閥は諸侯連合にほとんど吸収されてしまったようだ。
 ライエル侯爵派閥は首脳陣だけが王国内で孤立してしまった。
 だからといってなんで男爵領に逃げてくるのかって話になるけどね。
 言っておくが男爵は君たちが勇者召喚のときに旗の大きさについての連絡事項を男爵にだけ伝えなかったことを根に持っている。
 よくもあれだけ馬鹿にしていた男爵の領内に逃げ込めたものだ。
 正直殺してしまってもいいのだけれど、貴族ともなれば血縁関係も多岐に渡る。
 貴族たちは苦し紛れに男爵とは先祖が同じくする親戚同士だとか抜かし始めた。
 嘘か本当か確かめるために男爵家の家系図を見てみると、確かに僅かながら捕らえた貴族の数人と男爵には血縁関係があったのだ。
 なんとも面倒なことながら、外聞というものを思いのほか重要視するのが貴族というもの。
 血縁を処刑するのは男爵としてもかなり外聞が悪い。
 不本意ながら密入領してきた貴族たちには男爵が少なくない金を持たせて男爵領から追放するということになった。
 
「はぁ、なんだか疲れましたね」

「ええ、久しく忘れていた王国貴族との社交の不快感を思い出しました」

 王国貴族が集まってパーティなんか開いた日には普通の神経では参加できそうにない。
 あんなのがたくさん集まって派閥を形成しているというのだから、ルーガル王国というところは最初から終わっていたような国だ。

「結局リゼさんのお店で遊ぶ予定も飛んでしまいましたし、今度ゆっくり遊びにいかなければ」

「羨ましいです。私はまだ少し忙しそうなので」

 週2日勤務となった俺達と違って男爵には日々の政務がある。
 気軽に夜のお店などに遊びにも行けないだろうし、貴族というのも大変だ。
 せめてもの労いにと、俺がかつて飲んだ中で一番高いワインを男爵のグラスに注ぐ。

「ああ、これはすみません」

「こういうときは呑んで寝るのが一番ですからね」

 俺は自分のグラスにもワインを注ぎ、男爵と乾杯する。
 ワインというのは細かい好みはあるものの、高ければとりあえず不味いということは無い酒だ。
 高ければ高いほど美味いといっても過言ではない。
 その点1本数十万円もしたこのワインが不味いはずはない。
 絶対に自分の金では飲めないような酒だ。
 グラスを傾けるとまるで花畑にいるかのように香しい香りに包まれる。
 口に含めば複雑な味わいが舌の上に広がり、幸せな気分になれる。

「美味いですね」

「ええ、美味いという言葉しか出てこないほどに」

 つまみはオーク肉のベーコンでも出すとしよう。
 異空間収納に入っていたベーコンの塊をナイフで厚切りにして魔法で少しだけ炙る。
 スモーキーでスパイシーな香りがワインの香りを混ざり合い、男爵の喉がゴクリと鳴る。

「オーク肉ですか、いいですね。いただきます」

 魔法による高火力のバーナーで表面をカリっと焼かれたベーコンから肉汁が滴る。
 口に入れただけで美味いと分かる。
 噛めば噛むほどオーク肉の甘い脂があふれ出る。
 やはり食材の味ではこちらの世界のほうが勝っている。
 オークの肉は豚肉の旨味が薄く感じられるほどに旨味に溢れている。
 二足歩行なので少し食べるのに抵抗はあったが、美味ければ人間は気にしなくなるものだ。
 俺もいつしか美味しいオークの肉を食べるのに何の躊躇も無くなった。
 男爵は元々抵抗などなかったようだ。
 こちらではオークの肉といえば高級食材。
 あちらの世界でいうところのイベリコ豚みたいなものだ。
 イベリコ片手に高級ワインなんて俺も偉くなったものだ。



 
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