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134.馬鹿貴族(侯爵)
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護衛の男は抜き放った剣を正眼に構える。
あれ、なんか意外に隙が無い。
存外いい腕だ。
これだけの護衛を雇うことができるということは、この馬鹿みたいに偉そうな貴族は名前も知らない木っ端貴族というわけでもないのだろうか。
「あんた、名前はなんて言う?結構有名だったりする?」
「なんという無礼な口の利き方じゃ!ワシは四大貴族の一角、ライエル侯爵であるぞ!!頭が高いわひれふせ!!」
「は?」
ライエル侯爵だと?
なんでそんな人物がこんなところで女遊びをしているんだ。
シェンロンの話によればルーガル王国は3つの派閥に分かれて争っていたはずだろ。
王家派閥と辺境伯アンド諸侯連合、そしてこいつが名乗っているライエル侯爵の派閥だ。
ライエル侯爵は辺境伯を除いたルーガル王国四大貴族の派閥を飲み込んで一大派閥としてまだ王国内で戦っていたはずだ。
俺がシェンロンから聞いた情報は数ヶ月前のものだからそれから何か情勢が動いていれば分からないが、どう動いたって派閥のリーダーがこんなところで女遊びしているようなことになるはずがない。
ここは元はルーガル王国の領地だが、今は他国だぞ?
ライエル侯爵を騙る詐欺師か何かのほうがまだ可能性は高いかな。
しかしこの護衛の構えがな。
どう見ても在野で磨かれた技術ではない。
洗練された正統派の騎士の剣術だ。
腕のいい騎士なんぞを詐欺師が雇えるとも思えない。
「ちょっと俺には何がなんだか分からないな。本物なのかな」
「本物に決まっておるだろうが!!ワシ以外にワシがおるか!!」
「そんなの証明できないじゃないか。何か侯爵本人であるという身の証は?」
「そんなものは無い」
話にならないな。
貴族なら俺の腰にぶら下がっている男爵家の宝剣のように家紋の入った剣の1本や2本持っていてもおかしくは無い。
それもないとは、この貴族が本物のライエル侯爵だったとしても着の身着のままで逃げてきたような有様だ。
いったいどんな状況で女遊びに来ているんだ。
もっと他にやることがあるだろうに。
「これじゃあ話が平行線だ。どのみちあんたが本物のライエル侯爵だったとしてもどうやって男爵領に入ったのかを詳しく聞く必要がある。警備隊の詰め所まで同行してもらおうか」
「なんだと!?私は貴族だぞ?なんの権限があってそのようなことを抜かしておるのだ!!」
「その貴族の権力が通用するのはルーガル王国の中だけの話だ。ここはすでにルーガル王国リザウェル男爵領ではなく、エルカザド連合国リザウェル自治区だ」
「ふざけるな!!魔族共が勝手にそう呼んでおるだけでここはまだ王国の領土に決まっておろうが!!」
「はぁ……」
馬鹿と話すのは疲れる。
しかしこの馬鹿度はおそらく本物のライエル侯爵だ。
そんな気がする。
これ以上の話し合いは無駄だろう。
俺にとって肝心なのはこの貴族がどうやって領内に入ってきたかであって、ルーガル王国の男爵領の領有権の主張などは俺に言われてもって感じだ。
とりあえず俺はこの貴族が誰かは聞かなかったことにして、とっ捕まえて牢屋にでも放り込んでおくか。
警備隊のみんなには悪いが、密入領ルートの聞き出しは警備隊に任せよう。
ネバネバ魔法!
貴族の胸倉を掴む俺の腕から大量のネバネバが湧き出し、貴族をネバネバのネチャネチャにして拘束する。
べチャリと汚らしい音を立てて貴族は地に倒れ、大量のネバネバによって身動きができなくなった。
「のわぁっ、なんじゃこれは!!クラーク助けよ!!」
「お館様!!貴様!何をした!!」
「ただの拘束魔法だよ。命の危険は無い。あんたも抵抗するならこうなる」
「くそがっ!!」
護衛の男は鋭い剣閃を放つ。
しかし強いとはいってもしょせんは冒険者ランクでいえばBの中くらい。
中途半端な強さだ。
俺は剣筋にそっと手を沿え、剣をネバネバにしてやる。
「ぐっ、重たい……」
「ネバネバを追加すればまだまだ重くなる。このへんで降参しておいたほうが身のためだ」
「なんのっ」
男は健気にも貴族の男を救い出そうと俺に挑みがかってくる。
しかし男にネバネバは切れない。
ネバネバ魔法は物質的にはただの水だ。
粘度を高めた水。
その性質は水に片栗粉を溶いたものに似ている。
理科の実験で作ったあれだ。
ダイラタンシー現象とかいうやつの実験だったかな。
男の剣速は速い。
しかし剣速が速ければ速いほどネバネバは硬度を増す。
物を斬ることだけを念頭に置いて何十年も修行した達人ならばまだしも、剣速が速いだけの中途半端に強いこの男では俺のネバネバ魔法は絶対に斬れないだろう。
男の剣には無残にもネバネバがどんどん付着していき、とうとう男は持っていることすらできなくなった。
「くっ、殺せ……」
「男のくっころとかいらないんだよ。大人しくお縄につけ」
「クラーク、貴様そのような男に負けおって!貴様などクビだ!!」
「はいはい、あんたも部下をクビにしている場合じゃないからね」
俺は2人のネバネバを解除してびしょ濡れになった野郎2人を虚しく縛り上げていく。
女の子に癒されにこの店に来たというのに、なんでおっさんを2人縛っているんだろうか。
それもこれも金も持たずに女遊びに来たこのアホ貴族のせいだな。
侯爵だか講釈だか知らないけど、ホント勘弁してくれよ。
でも今日はリゼさんのピンチをかっこよく救ったし、ワンチャンあるかもな。
あれ、なんか意外に隙が無い。
存外いい腕だ。
これだけの護衛を雇うことができるということは、この馬鹿みたいに偉そうな貴族は名前も知らない木っ端貴族というわけでもないのだろうか。
「あんた、名前はなんて言う?結構有名だったりする?」
「なんという無礼な口の利き方じゃ!ワシは四大貴族の一角、ライエル侯爵であるぞ!!頭が高いわひれふせ!!」
「は?」
ライエル侯爵だと?
なんでそんな人物がこんなところで女遊びをしているんだ。
シェンロンの話によればルーガル王国は3つの派閥に分かれて争っていたはずだろ。
王家派閥と辺境伯アンド諸侯連合、そしてこいつが名乗っているライエル侯爵の派閥だ。
ライエル侯爵は辺境伯を除いたルーガル王国四大貴族の派閥を飲み込んで一大派閥としてまだ王国内で戦っていたはずだ。
俺がシェンロンから聞いた情報は数ヶ月前のものだからそれから何か情勢が動いていれば分からないが、どう動いたって派閥のリーダーがこんなところで女遊びしているようなことになるはずがない。
ここは元はルーガル王国の領地だが、今は他国だぞ?
ライエル侯爵を騙る詐欺師か何かのほうがまだ可能性は高いかな。
しかしこの護衛の構えがな。
どう見ても在野で磨かれた技術ではない。
洗練された正統派の騎士の剣術だ。
腕のいい騎士なんぞを詐欺師が雇えるとも思えない。
「ちょっと俺には何がなんだか分からないな。本物なのかな」
「本物に決まっておるだろうが!!ワシ以外にワシがおるか!!」
「そんなの証明できないじゃないか。何か侯爵本人であるという身の証は?」
「そんなものは無い」
話にならないな。
貴族なら俺の腰にぶら下がっている男爵家の宝剣のように家紋の入った剣の1本や2本持っていてもおかしくは無い。
それもないとは、この貴族が本物のライエル侯爵だったとしても着の身着のままで逃げてきたような有様だ。
いったいどんな状況で女遊びに来ているんだ。
もっと他にやることがあるだろうに。
「これじゃあ話が平行線だ。どのみちあんたが本物のライエル侯爵だったとしてもどうやって男爵領に入ったのかを詳しく聞く必要がある。警備隊の詰め所まで同行してもらおうか」
「なんだと!?私は貴族だぞ?なんの権限があってそのようなことを抜かしておるのだ!!」
「その貴族の権力が通用するのはルーガル王国の中だけの話だ。ここはすでにルーガル王国リザウェル男爵領ではなく、エルカザド連合国リザウェル自治区だ」
「ふざけるな!!魔族共が勝手にそう呼んでおるだけでここはまだ王国の領土に決まっておろうが!!」
「はぁ……」
馬鹿と話すのは疲れる。
しかしこの馬鹿度はおそらく本物のライエル侯爵だ。
そんな気がする。
これ以上の話し合いは無駄だろう。
俺にとって肝心なのはこの貴族がどうやって領内に入ってきたかであって、ルーガル王国の男爵領の領有権の主張などは俺に言われてもって感じだ。
とりあえず俺はこの貴族が誰かは聞かなかったことにして、とっ捕まえて牢屋にでも放り込んでおくか。
警備隊のみんなには悪いが、密入領ルートの聞き出しは警備隊に任せよう。
ネバネバ魔法!
貴族の胸倉を掴む俺の腕から大量のネバネバが湧き出し、貴族をネバネバのネチャネチャにして拘束する。
べチャリと汚らしい音を立てて貴族は地に倒れ、大量のネバネバによって身動きができなくなった。
「のわぁっ、なんじゃこれは!!クラーク助けよ!!」
「お館様!!貴様!何をした!!」
「ただの拘束魔法だよ。命の危険は無い。あんたも抵抗するならこうなる」
「くそがっ!!」
護衛の男は鋭い剣閃を放つ。
しかし強いとはいってもしょせんは冒険者ランクでいえばBの中くらい。
中途半端な強さだ。
俺は剣筋にそっと手を沿え、剣をネバネバにしてやる。
「ぐっ、重たい……」
「ネバネバを追加すればまだまだ重くなる。このへんで降参しておいたほうが身のためだ」
「なんのっ」
男は健気にも貴族の男を救い出そうと俺に挑みがかってくる。
しかし男にネバネバは切れない。
ネバネバ魔法は物質的にはただの水だ。
粘度を高めた水。
その性質は水に片栗粉を溶いたものに似ている。
理科の実験で作ったあれだ。
ダイラタンシー現象とかいうやつの実験だったかな。
男の剣速は速い。
しかし剣速が速ければ速いほどネバネバは硬度を増す。
物を斬ることだけを念頭に置いて何十年も修行した達人ならばまだしも、剣速が速いだけの中途半端に強いこの男では俺のネバネバ魔法は絶対に斬れないだろう。
男の剣には無残にもネバネバがどんどん付着していき、とうとう男は持っていることすらできなくなった。
「くっ、殺せ……」
「男のくっころとかいらないんだよ。大人しくお縄につけ」
「クラーク、貴様そのような男に負けおって!貴様などクビだ!!」
「はいはい、あんたも部下をクビにしている場合じゃないからね」
俺は2人のネバネバを解除してびしょ濡れになった野郎2人を虚しく縛り上げていく。
女の子に癒されにこの店に来たというのに、なんでおっさんを2人縛っているんだろうか。
それもこれも金も持たずに女遊びに来たこのアホ貴族のせいだな。
侯爵だか講釈だか知らないけど、ホント勘弁してくれよ。
でも今日はリゼさんのピンチをかっこよく救ったし、ワンチャンあるかもな。
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