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129.少年とおっさんの再会

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 静香さんと隼人君、かえでちゃんはマリステラ卿について辺境伯領に行ってしまった。
 マリステラ卿は人望があるタイプではないけれど、なぜか放っておけないような危なっかしい雰囲気がある。
 ダメ男キャッチャーなお姉さんとかにはモテそうなタイプだ。
 静香さんたちはキャッチャー気質があるわけではないだろうが付き合いも長いし放っておけなかったのだろう。
 隼人君やかえでちゃんとはスマホの電話番号を交換したのでいつでも連絡を取ることができる。
 何かあれば連絡してくることだろう。
 静香さんたち以外の男爵領に残った勇者はミタケンさん、一樹君、シェンロン、グラサン、悠馬君の5人だ。
 貿易船で必死に働いて罪を償っている最中の元海賊娘を入れれば男爵領の勇者は6人になった計算だ。
 王国が行なった今回の大量勇者召喚は非常に悪辣だが、男爵領の視点で見てみればプラスになったのではないだろうか。
 まだ大量の勇者を擁する王国を退けることができてからでなければわからないが、おそらくそれほど悪い結果にはならないのではないかと思っている。
 転移魔法によって無事辺境伯領に送り届けられたスクアード辺境伯は、その手腕によってすでに諸侯連合を立て直していると聞く。
 領土の安堵を条件にエルカザド連合国に下って助力を請うことも視野に入れているらしい。
 大量の獣人奴隷を連れて早い段階で連合国に下った男爵と違って、おそらく辺境伯たちは少し厳しい条件を突きつけられるだろう。
 しかしこのまま王家派閥が勇者の力ごり押しで王国内を纏めるよりはマシな結果に落ち着くのかもしれない。
 愛国心の強い辺境伯としては苦渋の決断になると思うが、そのくらいしなければ今の王国内で辺境伯率いる諸侯連合が王家派閥を打ち破るのは難しい。
 微妙な立地と立場の男爵領のためにも、辺境伯には頑張って連合国と交渉してもらわなくては。

「シゲノブさん、お客さんですよ」

「お客さんですか……」

 昼間からウィスキーをストレートでキューッとやりながら難しいことを考えて悦に浸っていた俺に、男爵の屋敷の中年メイドさんが来客を告げる。
 はて、お客さんが来るという予定は無かったのだけれど誰だろうか。
 客間に通されているというわけでもないようで、メイドさんが案内してくれたのは玄関ホールだった。
 玄関ホールで待たせているとは、なんか扱いの微妙なお客さんだ。
 中年メイドさんは肝っ玉おっかさんみたいにたまに無神経なところがあるので、お客さんに失礼をしていないか心配になる。

「おっさんっ!!」

「カール!!」

 玄関ホールで待っていたのは、エルカザド連合国の港町キムリアナで出会った孤児の少年カールだった。
 港町では色々と偉そうなことを言った記憶がある。
 少年に向かって説教した記憶とか後から思い出すと恥ずかしいな。
 確か金貨を10枚貯めたら初級魔法の神樹の実を売ってやるって約束したんだっけな。
 孤児が金貨10枚貯めようと思ったらかなり時間がかかると思っていたのだが、ここにいるってことは貯まったんだろうな。
 なんだかあのときよりも背が伸びているような気もするし、子供の成長っていうのは本当に早い。
 俺はカールの頭に手を乗せて金貨のことについて聞く。
 会って最初に金のことを聞くのもなんだが、約束だからな。

「金貨10枚貯まったのかい?」

「ああ、貯まった!」

 カールは小さな皮袋を差し出す。
 チャリンチャリンと純度の高い金同士がぶつかり合う音。
 差し出してきたそれを手に持ってみれば確かに金貨10枚分の重さだ。
 
「確かに」

「中確かめなくてもいいの?」

「おっさんくらい金にがめつくなると、中を見なくても音と重さだけで本物の金貨10枚だって分かるんだよ」

「すげー」

 適当なことを言ってしまったけどカールが金にがめつくなったら俺のせいだな。
 まあそのときはまた説教でもしてやるさ。
 俺は異空間収納からどんぐりのような木の実をひとつ取り出す。

「これが約束の物だよ。先に言っておくけど、味はめちゃくちゃマズイから」

「いいよ味なんてどうでも。さっそく食うぞ!」

「本当にマズイのに……」

 カールは興奮した様子でどんぐりをパクリと口に放り投げた。
 俺は口直しのカルアミルクでも用意してやるか。
 アルコール分を減らせばただのコーヒー牛乳だ。

「んんんんぅぅぅぅぅぅっっ!!」

「だから言ったのに。ほら、これで味をリセットするんだ」

 すぐに悶絶しだしたカールの口にカルアミルクを流し込む。
 カールとカルアミルクってなんか似てるかも。

「ふふっ」

「何がおかしいんだよおっさんっ!!こんなマズイなんて聞いてねーよ!!」

「いや、言ったでしょ。カールが味なんてどうでもいいって口に入れたんじゃないか。それで、魔法は使えるようになった?」

「あ、そうだっ、魔法!!」

 カールは頭の中を整理するかのように目を瞑り、すぐに目を開く。
 そして人差し指の先に小さな水の玉を浮かべて見せた。

「すげー、初級魔法ってこんなに種類があったんだ!!これがあれば戦いとか野営とかめちゃくちゃ便利になる!!」

「そうか。よかったな」

「おっさん、ありがとう」

「急にどうした」

「いや、たぶんこの木の実って普通は金貨10枚じゃあ買えないんだろうなって思って……」

 やはりカールは頭のいい子だ。
 全ての初級魔法が使えるようになる木の実なんていう代物は当然普通は金貨10枚では買えない。
 買えたらみんな買っているだろう。
 なにせあの木の実を食べた男爵領警備隊は田舎の警備兵から一気に精鋭の工兵になったのだ。
 小さいが異空間収納が使えるから荷物をたくさん持てるし、水は魔法で出せるために持っていかなくても済む。
 そんな便利な木の実が金貨10枚で売っていたらみんなが買い求め、自軍の兵に食べさせることだろう。
 カールはそのことが分かったのだろう。
 全く、悪ガキが突然お礼を言うものだからおっさんちょっと涙腺にきてしまったよ。



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