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128.救出
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ここまで来るのに、ずいぶんと時間がかかってしまった気がする。
ダンジョンみたいな防衛機構に悪辣な神器を持った子供、グラサン。
いろいろいたな。
「すみません、助けに来るのが遅くなりました」
「シゲノブ殿、来てくれると信じておりましたよ」
マリステラ卿はゴツイ鉄格子の中に閉じ込められていた。
神経質そうな細面は獄中生活で少しやつれているが、まだまだ元気そうだ。
お隣の房には地下牢にはいないかもしれないと思っていた辺境伯が収監されていた。
勇者をたくさん手に入れたから、もう辺境伯なんか関係ないってことなのだろうか。
なんにせよ手間が省けた。
「辺境伯、お久しぶりです。私のことを覚えていらっしゃいますか?」
「おお、神酒の勇者シゲノブキザキだったか。私も一緒に助けてくれるのか?」
「ええ、あのときの借りは今お返しします」
「そうか。対価にはちゃんと神酒をもらったから私は貸しとは思っていなかったが、義理深い男だな」
あのとき神酒は確かに払ったが、だからといって借りは返したから知らんふりというというのも薄情だろう。
隣の房なのだし、助けない理由もない。
俺は表の兵士から奪った鍵の中からこの鉄格子の扉を開けるための鍵を探す。
「あれ、全部回らない……」
用心深いことに、兵士隊長の持っていた鍵束の中にはこの鉄格子を開ける鍵は無かった。
だとしたらプロットが持っていた可能性が高いか。
戻って探してくるのも面倒だ。
「少し下がっていてください」
「わ、わかった」
俺は腰にぶら下がった男爵家の宝剣を抜き、魔力を込める。
久しぶりの魔力に歓喜するかのように、剣は甲高い音で応える。
耳鳴りを大音量にしたような音が刀身から響き渡り、宝剣は鉄格子を鉄くずに変えた。
「そ、それは……リザウェル男爵家の……なぜ……」
代を重ねたことでほとんど力を失ったはずの古い時代の勇者が持っていた神器が、なぜこのような力を持っているのか。
マリステラ卿の疑問はそんなところだろう。
しかし俺もそれについては何がなんだか分からない。
強い魔物と戦ったら途中で宝剣が勝手に魔法を食って変な剣になったとしか言いようがない。
まあ今はそんなことを話しているときでもない。
「話は後にしましょう。とりあえず出てください。リザウェル男爵領に向かいます」
「わ、わかった」
「頼む」
俺はマリステラ卿とスクアード辺境伯の肩に手を置き、男爵領へと転移した。
「男爵、君のところの勇者には大変世話になった」
「いえいえ、御無事でなによりです」
「リザウェル男爵、私からもお礼を言いたい。シゲノブ殿には感謝してもしきれない」
「マリステラ卿も御無事でなによりです。少しお痩せになられましたかな」
男爵の屋敷の談話室。
そこには3人の貴族が顔を突き合わせていた。
これからの各陣営の動きを話し合うためだ。
男爵は今はエルカザド連合国の自治領を治める貴族ではあるものの、元は辺境伯の寄り子だった王国貴族だ。
辺境伯とも数回は会って話をしたことのある仲。
はっきり言って微妙な関係だ。
そしてマリステラ卿。
マリステラ卿は元王国騎士団幹部。
元国王派閥ではあるものの、今の立場はこれまた微妙。
話の中心となるのは必然的に辺境伯となる。
「私が捕らえられた後、諸侯連合はどうなっておるのだろうか」
「少し足並みがそろえられなくなっているようですな。辺境伯以外は目くそ鼻くその貴族の集まりですから」
「そうだろうな。私は領地に戻って諸侯連合を纏めるとするか」
「私もお手伝いさせていただけないでしょうか」
「君がか?」
辺境伯領に戻り王国と戦うつもりだという辺境伯に、マリステラ卿が付いていくと言い出した。
辺境伯はまあまあ迷惑そうだ。
まあ元国王派閥のマリステラ卿に領地をうろうろされたら色々言い出す人もいるだろう。
だが悪いことばかりでもない。
元騎士団の士官なだけあって、マリステラ卿は用兵がそこらの貴族よりかは上手い。
「必ず、お役にたってみせます」
「好きにしたまえ」
「ありがたく」
マリステラ卿からはまた貸しが返却されそうにない。
貴族は貸し借りを大事にしないとダメだよ。
いつか倍返しで返してもらえるといいのだけど。
「お話が纏まったようですな。明日、辺境伯領へと送っていきます。狭い屋敷ですがどうか今夜はお寛ぎください」
貴族は切り替えが早くてついていけん。
さて、勇者はどうなるかな。
「すみません、シゲノブさん。私たちはマリステラ卿に付いていきたいと思います」
「シゲさん、助けてくれてありがとう。俺、強くなっていつか絶対この恩を返すからな」
「シゲさん、私は隼人君のお嫁さんになるから身体では返せないけれど、絶対何かお返しするからね」
静香さんと隼人君、かえでちゃんの元王国騎士団陣営の勇者3人組はマリステラ卿に付いて辺境伯領に行くようだ。
寂しくなるな。
まあ会いたければ転移魔法でいつでも会いに行くことはできる。
人生に別れはつきものだ。
笑顔で見送ってあげよう。
「恩返しなんて考えなくてもいい。友達だから助けた、それだけだ」
「シゲノブさん……」
「「シゲさん!!」
ぎゅっと俺の腰に手を回して抱きつく3人。
俺は静香さんの腰のあたりに手を添えてその柔らかさを堪能する。
役得役得。
「シゲノブ殿、私たち、ずっ友……」
目元の涙をぬぐって俺に握手を求めるマリステラ卿。
いや、あんたは別に友達ってほどでは……。
返してよ、いつか貸し、絶対。
ダンジョンみたいな防衛機構に悪辣な神器を持った子供、グラサン。
いろいろいたな。
「すみません、助けに来るのが遅くなりました」
「シゲノブ殿、来てくれると信じておりましたよ」
マリステラ卿はゴツイ鉄格子の中に閉じ込められていた。
神経質そうな細面は獄中生活で少しやつれているが、まだまだ元気そうだ。
お隣の房には地下牢にはいないかもしれないと思っていた辺境伯が収監されていた。
勇者をたくさん手に入れたから、もう辺境伯なんか関係ないってことなのだろうか。
なんにせよ手間が省けた。
「辺境伯、お久しぶりです。私のことを覚えていらっしゃいますか?」
「おお、神酒の勇者シゲノブキザキだったか。私も一緒に助けてくれるのか?」
「ええ、あのときの借りは今お返しします」
「そうか。対価にはちゃんと神酒をもらったから私は貸しとは思っていなかったが、義理深い男だな」
あのとき神酒は確かに払ったが、だからといって借りは返したから知らんふりというというのも薄情だろう。
隣の房なのだし、助けない理由もない。
俺は表の兵士から奪った鍵の中からこの鉄格子の扉を開けるための鍵を探す。
「あれ、全部回らない……」
用心深いことに、兵士隊長の持っていた鍵束の中にはこの鉄格子を開ける鍵は無かった。
だとしたらプロットが持っていた可能性が高いか。
戻って探してくるのも面倒だ。
「少し下がっていてください」
「わ、わかった」
俺は腰にぶら下がった男爵家の宝剣を抜き、魔力を込める。
久しぶりの魔力に歓喜するかのように、剣は甲高い音で応える。
耳鳴りを大音量にしたような音が刀身から響き渡り、宝剣は鉄格子を鉄くずに変えた。
「そ、それは……リザウェル男爵家の……なぜ……」
代を重ねたことでほとんど力を失ったはずの古い時代の勇者が持っていた神器が、なぜこのような力を持っているのか。
マリステラ卿の疑問はそんなところだろう。
しかし俺もそれについては何がなんだか分からない。
強い魔物と戦ったら途中で宝剣が勝手に魔法を食って変な剣になったとしか言いようがない。
まあ今はそんなことを話しているときでもない。
「話は後にしましょう。とりあえず出てください。リザウェル男爵領に向かいます」
「わ、わかった」
「頼む」
俺はマリステラ卿とスクアード辺境伯の肩に手を置き、男爵領へと転移した。
「男爵、君のところの勇者には大変世話になった」
「いえいえ、御無事でなによりです」
「リザウェル男爵、私からもお礼を言いたい。シゲノブ殿には感謝してもしきれない」
「マリステラ卿も御無事でなによりです。少しお痩せになられましたかな」
男爵の屋敷の談話室。
そこには3人の貴族が顔を突き合わせていた。
これからの各陣営の動きを話し合うためだ。
男爵は今はエルカザド連合国の自治領を治める貴族ではあるものの、元は辺境伯の寄り子だった王国貴族だ。
辺境伯とも数回は会って話をしたことのある仲。
はっきり言って微妙な関係だ。
そしてマリステラ卿。
マリステラ卿は元王国騎士団幹部。
元国王派閥ではあるものの、今の立場はこれまた微妙。
話の中心となるのは必然的に辺境伯となる。
「私が捕らえられた後、諸侯連合はどうなっておるのだろうか」
「少し足並みがそろえられなくなっているようですな。辺境伯以外は目くそ鼻くその貴族の集まりですから」
「そうだろうな。私は領地に戻って諸侯連合を纏めるとするか」
「私もお手伝いさせていただけないでしょうか」
「君がか?」
辺境伯領に戻り王国と戦うつもりだという辺境伯に、マリステラ卿が付いていくと言い出した。
辺境伯はまあまあ迷惑そうだ。
まあ元国王派閥のマリステラ卿に領地をうろうろされたら色々言い出す人もいるだろう。
だが悪いことばかりでもない。
元騎士団の士官なだけあって、マリステラ卿は用兵がそこらの貴族よりかは上手い。
「必ず、お役にたってみせます」
「好きにしたまえ」
「ありがたく」
マリステラ卿からはまた貸しが返却されそうにない。
貴族は貸し借りを大事にしないとダメだよ。
いつか倍返しで返してもらえるといいのだけど。
「お話が纏まったようですな。明日、辺境伯領へと送っていきます。狭い屋敷ですがどうか今夜はお寛ぎください」
貴族は切り替えが早くてついていけん。
さて、勇者はどうなるかな。
「すみません、シゲノブさん。私たちはマリステラ卿に付いていきたいと思います」
「シゲさん、助けてくれてありがとう。俺、強くなっていつか絶対この恩を返すからな」
「シゲさん、私は隼人君のお嫁さんになるから身体では返せないけれど、絶対何かお返しするからね」
静香さんと隼人君、かえでちゃんの元王国騎士団陣営の勇者3人組はマリステラ卿に付いて辺境伯領に行くようだ。
寂しくなるな。
まあ会いたければ転移魔法でいつでも会いに行くことはできる。
人生に別れはつきものだ。
笑顔で見送ってあげよう。
「恩返しなんて考えなくてもいい。友達だから助けた、それだけだ」
「シゲノブさん……」
「「シゲさん!!」
ぎゅっと俺の腰に手を回して抱きつく3人。
俺は静香さんの腰のあたりに手を添えてその柔らかさを堪能する。
役得役得。
「シゲノブ殿、私たち、ずっ友……」
目元の涙をぬぐって俺に握手を求めるマリステラ卿。
いや、あんたは別に友達ってほどでは……。
返してよ、いつか貸し、絶対。
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