133 / 205
121.シェンロン救出
しおりを挟む
いやいや何やってるのシェンロン。
こっちは君が気の毒で助けにきたというのに、今となっては羨ましいよ。
「このっこのっ、死ねっ死んでしまえっ」
「や、やめてくれダリア、痛いっ、痛いからっ」
「うるさいっ。気安く名前を呼ばないでください!私はもうあなたのハーレム要員ではないんですから!!」
どこかで見たことがあるメイドさんだと思っていたら、最初にシェンロンを誑し込んだメイドさんだったか。
シェンロンが勇者として地位を保っていたときには甘えた声でにゃんにゃん言っていたメイドさんが、今では足蹴にして死ねときた。
人の心というのは恐ろしいものだ。
そう考えると、ムルガ共和国のハーレム勇者長道健人のハーレムは凄かったな。
神器を失っても、筋肉モリモリマッチョメンと成り果ててもあの3人が長道の側を離れていくことはなかった。
いったい長道の何が彼女らをそこまで駆り立てるのかは分からないけれど、長道と彼女らの間には確かに愛が存在していた。
しかしシェンロンとメイドの彼女との間にあったのは、愛ではなかったということなのだろう。
男と女が一緒になるのに、必ずしも愛が必要だとは思わない。
打算でもいいし、情けでもいい、それは決して間違ってはいないと思う。
だけど打算で一緒にいて、男が落ちぶれればその男に当たるのは違うだろう。
打算で男を選んだのならば、それは投資のようなものだ。
自分を投資し、男の手に入れる地位や金、権力を一緒に享受する。
それは自己責任で行なうべき投資の一種だ。
まあシェンロンも色々できることできないこと口走ってメイドさんに夢を見せてしまったという責任があるかもしれないけどね。
調子に乗りまくった絶頂期のシェンロンだったら貴族になって豪邸に住むとかマヨネーズで大儲けとかいらんことを口から垂れ流していそうだ。
助けたほうがいいのか、もう少し待ったほうがいいのか迷うところだ。
「あ、あんたのせいでっ、あたしの人生はぁ、ふーふー……」
メイドさんは鬼のような形相で部屋の隅にあった銅像を引きずり、鼻息を荒くする。
これはまずい。
シェンロン殺人事件が起こる前に助けたほうが良さそうだ。
「こんにちは」
「ふぁっ!!」
神の苦無威の隠密能力を解除して後ろから声をかければ、メイドさんは腰を抜かして気絶しそうなほど驚いた。
口をパクパクしているが、なんの言葉も出てこない。
それもそのはず、シェンロンは悪人面貴族にとって強気の源といってもいい。
彼がいるから王国内ででかい顔をしていられる。
そんなシェンロンを殺そうとしているのだから、屋敷の人間に見つかれば自分もどうなるか分からないだろう。
俺は屋敷の人間ではないので彼女に何かするつもりはないけどね。
「悪いんだけど、シェンロンは貰っていきます」
「え……」
俺は倒れ伏すシェンロンの肩に触れると、男爵領に転移した。
「お、おっさん誰?というか俺、こんなところに来たら、首輪が!」
シェンロンは慌てて首輪に触れるが、首輪はパカリと開いて地面に落ちた。
「は?首輪が、取れた……」
「ああ、屋敷から出たら無条件に締まるようになっていると思ったから転移する直前に外しておいたよ」
「首輪が……あ、あ、あぁぁぁぁぁぁ」
シェンロンはよほど辛い生活を送っていたのか、首輪が取れたとたんに号泣し始めた。
あのメイドさんからの暴言と暴力のようなことを日常的に受けていたのだとすれば、それはさぞ辛い生活だったことだろう。
精神が落ち着く香りのするハーブティでも淹れてあげるとしよう。
異空間収納からティーセットを取り出し、お湯を沸かす。
グツグツと湧いたお湯でカップを温め、ティーポットにも熱々のお湯を注ぐ。
紅茶や緑茶はあまり高い温度のお湯を注ぐと雑味が出てしまうといわれているが、ハーブティは高めのお湯で淹れたほうがハーブの成分がお湯に溶け出しやすい。
4分ほど蒸らせばいい香りのするハーブティの出来上がりだ。
温めておいたカップに注ぎ、シェンロンの前に置く。
俺は椅子に腰掛け一口飲んだ。
思ったとおり、素人の淹れたハーブティって感じの味だ。
「あまり美味くないけど、よかったら飲んで落ち着いて」
「あ、ありがとう……」
まだ泣き足りない様子のシェンロンは、鼻水を啜りながらも俺の淹れたハーブティに口をつけた。
味は微妙だが、成分は玄人の淹れたものと大差ないはずだ。
シェンロンの肩から力が抜けていくのが分かる。
「まずは自己紹介しようか。俺は木崎繁信。ピエール・リザウェル男爵に雇われている勇者だよ。シゲさんとか、おっさんとかって呼ばれているから君も好きなように呼ぶといい」
「わ、わかった。じゃあシゲさんって呼ばせてもらうよ。俺は、や、山田神龍。ちょっと恥ずかしいんだけど、本名だよ」
「ああ、申し訳ないんだけど俺は君のことを知っているんだ。この神器、神のスマホで情報を見させてもらった。なんで勇者が隷属なんてされているのか分からなかったからね」
「そっか、あの金髪みたいな神器をシゲさんも持っていたのか」
「その金髪が持っていた神のスマホEXを盗んだのも俺だ」
「ははっ、ざまねえや。あいつの焦った顔、すっげえ見ものだった」
シェンロンは暗い顔で笑う。
おそらくあの金髪にもなんらかのいじめ的なものを受けていたのだろう。
勇者が全員首輪をしている中で、あの金髪の情報チート野郎だけは首輪をしていなかった。
同じ勇者の中でもヒエラルキーがあったのかもしれない。
「シェンロン。俺が君を悪人面の貴族から遠ざけたのは気の毒だったっていう理由もあるんだけれど、一番の理由はあの貴族を王国内で失脚させて王国内を混乱させるためなんだよ。君の知っている限りの情報を、俺に教えてくれないか?」
「シゲさんは恩人だ。なんでも答えるから聞いて欲しい」
シェンロンは滔々と、王国内のことや悪人面の貴族のことを話した。
こっちは君が気の毒で助けにきたというのに、今となっては羨ましいよ。
「このっこのっ、死ねっ死んでしまえっ」
「や、やめてくれダリア、痛いっ、痛いからっ」
「うるさいっ。気安く名前を呼ばないでください!私はもうあなたのハーレム要員ではないんですから!!」
どこかで見たことがあるメイドさんだと思っていたら、最初にシェンロンを誑し込んだメイドさんだったか。
シェンロンが勇者として地位を保っていたときには甘えた声でにゃんにゃん言っていたメイドさんが、今では足蹴にして死ねときた。
人の心というのは恐ろしいものだ。
そう考えると、ムルガ共和国のハーレム勇者長道健人のハーレムは凄かったな。
神器を失っても、筋肉モリモリマッチョメンと成り果ててもあの3人が長道の側を離れていくことはなかった。
いったい長道の何が彼女らをそこまで駆り立てるのかは分からないけれど、長道と彼女らの間には確かに愛が存在していた。
しかしシェンロンとメイドの彼女との間にあったのは、愛ではなかったということなのだろう。
男と女が一緒になるのに、必ずしも愛が必要だとは思わない。
打算でもいいし、情けでもいい、それは決して間違ってはいないと思う。
だけど打算で一緒にいて、男が落ちぶれればその男に当たるのは違うだろう。
打算で男を選んだのならば、それは投資のようなものだ。
自分を投資し、男の手に入れる地位や金、権力を一緒に享受する。
それは自己責任で行なうべき投資の一種だ。
まあシェンロンも色々できることできないこと口走ってメイドさんに夢を見せてしまったという責任があるかもしれないけどね。
調子に乗りまくった絶頂期のシェンロンだったら貴族になって豪邸に住むとかマヨネーズで大儲けとかいらんことを口から垂れ流していそうだ。
助けたほうがいいのか、もう少し待ったほうがいいのか迷うところだ。
「あ、あんたのせいでっ、あたしの人生はぁ、ふーふー……」
メイドさんは鬼のような形相で部屋の隅にあった銅像を引きずり、鼻息を荒くする。
これはまずい。
シェンロン殺人事件が起こる前に助けたほうが良さそうだ。
「こんにちは」
「ふぁっ!!」
神の苦無威の隠密能力を解除して後ろから声をかければ、メイドさんは腰を抜かして気絶しそうなほど驚いた。
口をパクパクしているが、なんの言葉も出てこない。
それもそのはず、シェンロンは悪人面貴族にとって強気の源といってもいい。
彼がいるから王国内ででかい顔をしていられる。
そんなシェンロンを殺そうとしているのだから、屋敷の人間に見つかれば自分もどうなるか分からないだろう。
俺は屋敷の人間ではないので彼女に何かするつもりはないけどね。
「悪いんだけど、シェンロンは貰っていきます」
「え……」
俺は倒れ伏すシェンロンの肩に触れると、男爵領に転移した。
「お、おっさん誰?というか俺、こんなところに来たら、首輪が!」
シェンロンは慌てて首輪に触れるが、首輪はパカリと開いて地面に落ちた。
「は?首輪が、取れた……」
「ああ、屋敷から出たら無条件に締まるようになっていると思ったから転移する直前に外しておいたよ」
「首輪が……あ、あ、あぁぁぁぁぁぁ」
シェンロンはよほど辛い生活を送っていたのか、首輪が取れたとたんに号泣し始めた。
あのメイドさんからの暴言と暴力のようなことを日常的に受けていたのだとすれば、それはさぞ辛い生活だったことだろう。
精神が落ち着く香りのするハーブティでも淹れてあげるとしよう。
異空間収納からティーセットを取り出し、お湯を沸かす。
グツグツと湧いたお湯でカップを温め、ティーポットにも熱々のお湯を注ぐ。
紅茶や緑茶はあまり高い温度のお湯を注ぐと雑味が出てしまうといわれているが、ハーブティは高めのお湯で淹れたほうがハーブの成分がお湯に溶け出しやすい。
4分ほど蒸らせばいい香りのするハーブティの出来上がりだ。
温めておいたカップに注ぎ、シェンロンの前に置く。
俺は椅子に腰掛け一口飲んだ。
思ったとおり、素人の淹れたハーブティって感じの味だ。
「あまり美味くないけど、よかったら飲んで落ち着いて」
「あ、ありがとう……」
まだ泣き足りない様子のシェンロンは、鼻水を啜りながらも俺の淹れたハーブティに口をつけた。
味は微妙だが、成分は玄人の淹れたものと大差ないはずだ。
シェンロンの肩から力が抜けていくのが分かる。
「まずは自己紹介しようか。俺は木崎繁信。ピエール・リザウェル男爵に雇われている勇者だよ。シゲさんとか、おっさんとかって呼ばれているから君も好きなように呼ぶといい」
「わ、わかった。じゃあシゲさんって呼ばせてもらうよ。俺は、や、山田神龍。ちょっと恥ずかしいんだけど、本名だよ」
「ああ、申し訳ないんだけど俺は君のことを知っているんだ。この神器、神のスマホで情報を見させてもらった。なんで勇者が隷属なんてされているのか分からなかったからね」
「そっか、あの金髪みたいな神器をシゲさんも持っていたのか」
「その金髪が持っていた神のスマホEXを盗んだのも俺だ」
「ははっ、ざまねえや。あいつの焦った顔、すっげえ見ものだった」
シェンロンは暗い顔で笑う。
おそらくあの金髪にもなんらかのいじめ的なものを受けていたのだろう。
勇者が全員首輪をしている中で、あの金髪の情報チート野郎だけは首輪をしていなかった。
同じ勇者の中でもヒエラルキーがあったのかもしれない。
「シェンロン。俺が君を悪人面の貴族から遠ざけたのは気の毒だったっていう理由もあるんだけれど、一番の理由はあの貴族を王国内で失脚させて王国内を混乱させるためなんだよ。君の知っている限りの情報を、俺に教えてくれないか?」
「シゲさんは恩人だ。なんでも答えるから聞いて欲しい」
シェンロンは滔々と、王国内のことや悪人面の貴族のことを話した。
78
お気に入りに追加
8,868
あなたにおすすめの小説
スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい
兎屋亀吉
ファンタジー
異世界転生にあたって、神様から提示されたスキルは4つ。1.【剣術】2.【火魔法】3.【アイテムボックス】4.【アイテムコピー】。これらのスキルの中から、選ぶことのできるスキルは一つだけ。さて、僕は何を選ぶべきか。タイトルで答え出てた。
強奪系触手おじさん
兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。
寝て起きたら世界がおかしくなっていた
兎屋亀吉
ファンタジー
引きこもり気味で不健康な中年システムエンジニアの山田善次郎38歳独身はある日、寝て起きたら半年経っているという意味不明な状況に直面する。乙姫とヤった記憶も無ければ玉手箱も開けてもいないのに。すぐさまネットで情報収集を始める善次郎。するととんでもないことがわかった。なんと世界中にダンジョンが出現し、モンスターが溢れ出したというのだ。そして人類にはスキルという力が備わったと。変わってしまった世界で、強スキルを手に入れたおっさんが生きていく話。※この作品はカクヨムにも投稿しています。
チートをもらえるけど戦国時代に飛ばされるボタン 押す/押さない
兎屋亀吉
ファンタジー
チートはもらえるけど戦国時代に強制トリップしてしまうボタン。そんなボタンが一人の男の元にもたらされた。深夜に。眠気で正常な判断のできない男はそのボタンを押してしまう。かくして、一人の男の戦国サバイバルが始まる。『チートをもらえるけど平安時代に飛ばされるボタン 押す/押さない』始めました。ちなみに、作中のキャラクターの話し方や人称など歴史にそぐわない表現を使う場面が多々あります。フィクションの物語としてご理解ください。
ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない
兎屋亀吉
ファンタジー
底辺冒険者クロードは転生者である。しかしチートはなにひとつ持たない。だが救いがないわけじゃなかった。その世界にはスキルと呼ばれる力を後天的に手に入れる手段があったのだ。迷宮の宝箱から出るスキルオーブ。それがあればスキル無双できると知ったクロードはチートスキルを手に入れるために、今日も薬草を摘むのであった。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜
ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった!
謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。
教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。
勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。
元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。
力を持っていても順応できるかは話が別だった。
クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。
※ご注意※
初投稿、試作、マイペース進行となります。
作品名は今後改題する可能性があります。
世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。
旅に出るまで(序章)がすごく長いです。
他サイトでも同作を投稿しています。
更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。
月が導く異世界道中extra
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
こちらは月が導く異世界道中番外編になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる