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119.透明な触手の恐怖
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『ぴろりろりん♪神のスマホEXはシゲノブのものになった』
神のスマホEX、それが新勇者に与えられた情報チートか。
「なっ、し、しまった!プロット様っ、神の苦無威の能力です!!やられました!神のスマホEXを奪われました!!」
「なにをしておる馬鹿者が!!」
俺はさっと神のスマホEXの具現化を解除した。
光の粒になって消えるスマホ。
こうなってしまえばもう俺を殺す以外に神器を取り戻す方法は無い。
「ええい!姿が見えないだけでこの部屋の中には存在しておるのだろうが!!何もない空間を無差別に攻撃せよ!!あの忌々しい冷蔵庫もろとも吹き飛ばしてくれるわ!!」
神器による遠距離攻撃や、魔法攻撃の勢いが強くなった。
静香さんたちは大きな業務用冷蔵庫に隠れていて今のところは無事だが、遠距離攻撃は直線攻撃ばかりではない。
曲線を描く攻撃や、爆発する攻撃の余波が3人を襲っている。
このままだとまずいな。
まずはあの3人を男爵領に転移させることが先決だ。
俺は腰の剣を抜き、魔法攻撃を切り裂きながら静香さんの神の冷蔵庫を目指す。
「うわぁぁぁっ!」
大砲の発射音のような爆音とともに、勇者や兵士の悲鳴が響き渡る。
どうやらアサルトライフルを構えていた中年男性の神器の能力みたいだ。
先ほどまで構えていたアサルトライフルは、今は長大な銃身を持つ対戦車ライフルへと変貌を遂げている。
重すぎて立ったまま撃つことはできないようで、三脚を立てて寝そべって撃っている。
その銃身が火を噴くたび、壁や天井が破壊されて建物全体が揺れているような錯覚を覚える。
なかなか無茶苦茶する人だな。
どうやら対戦車ライフルで壁を破壊できることに気が付いたようで、今度は自分たちの後ろ側の壁を攻撃して大穴を開けている。
あれだけ大きな穴が開けば、人が通ることもできるだろう。
このまま逃げてくれるのであれば、接触して男爵領に転移させることも容易いだろう。
しかしそう簡単にもいきそうにないか。
見えない俺を攻撃するために散発的だった攻撃が、3人の背中に集中する。
見ていられないので俺は結界魔法で3人を援護する。
魔法は防げるけれど、やはり神器により攻撃は発動速度重視の中級の結界魔法では防げないか。
結界を破った神器は3人の背中に命中しそうになる。
俺は剣でその神器を弾こうと走るが、その前に静香さんの冷蔵庫が具現化されて攻撃を防いだ。
静香さんの冷蔵庫は確かに防御力に優れた神器だ。
しかし機動力が全くない。
重すぎて持って攻撃を防ぎながら逃げるということができないのだ。
撤退戦には向いていない。
静香さんの性格からして、私のことはいいから先に行ってくださいとか言いそうだな。
「先に行ってください!」
やっぱりそうなるのか。
しかし他の2人も立ち止まって神器を構える。
誰も先にはいかないか、いい人たちじゃないか。
先に行けという静香さんと仲間たちの話し合いは、静香さんのほうが勝った。
やっぱり仲間の一人が高校生くらいの年齢ということが決め手となったのだろう。
まだ成人もしていないような若者が、ここで自分と骸を共にするのを承服することができなかったんだろう。
しかし驚いたことに、その中年男性は自分の神器を3つとも静香さんに渡して去っていった。
なんて人だ。
俺は胸の奥が熱くなるような感動を覚えた。
同じことは俺にはできないだろうな。
自分が神器を一つたりとも持たない無力な存在になり果てようとも、仲間のために神器をすべて渡す。
それができるあの人に、心の底から敬意が湧いてくる。
俺はシャツを脱ぎ捨て、背中から触腕を生やす。
必ず、あの人の神器を返せるように静香さんを守って見せる。
「ひっ」
あれ?なんか静香さんの顔が引きつっているような気が。
おかしいな、見えてないよね?
俺は触腕をゆらりと動かしてみる。
「ひぃぃっ」
やっぱりこれ見えてない?
いやいやしかし神の苦無威は神の名前を冠する神器だ。
触れてない人にその隠密能力が破られたことは無い。
たとえあの丸メガネが見ることに特化した神器であったとしても、完璧に見えているということはないはずだ。
しかし輪郭くらいは見えている可能性はあるな。
神の苦無威は俺にとって切り札と言っても過言ではない。
それを捉えることができる神器が存在しているとは。
隠密しているからといって油断してはいけないといういい教訓になった。
「し、繁信さん、ですか?」
「ええ、そうです」
「何か言ってください」
どうやら声は聞こえていないようだ。
本当に影だけとか輪郭だけ見えているとか、そんなものなのかもしれない。
俺は土壁の魔法を発動し、兵士や隷属勇者たちの視界を遮る。
腐竜との戦闘で使った強固な土壁なので、少しは時間が稼げるだろう。
俺は触手をひっこめ、服を着て隠密能力を解除した。
「お久しぶりですね。静香さん」
「繁信さん……。よかった、なぜか繁信さんの背後にグロテスクな触手が見えたので焦りました」
幻覚でもなんでもないのだが、神の触腕の存在は女性には内緒にしておいたほうがいいかもしれない。
とても便利だけど、ちょっとショッキングな神器だからね。
「今のうちに2人を追いかけましょう」
「はい」
今もガンガンと神器や魔法が土壁にぶつかる音が聞こえてくる。
壁が破壊されるのも時間の問題だろう。
俺は神のスマホEXで先に行った2人の場所を調べる。
「静香さん、手を」
「ありがとうございます」
俺が差し出した手のひらに、静香さんが自分の手をそっと乗せた。
俺は静香さんの指先をきゅっと握り、2人の近くに転移した。
神のスマホEX、それが新勇者に与えられた情報チートか。
「なっ、し、しまった!プロット様っ、神の苦無威の能力です!!やられました!神のスマホEXを奪われました!!」
「なにをしておる馬鹿者が!!」
俺はさっと神のスマホEXの具現化を解除した。
光の粒になって消えるスマホ。
こうなってしまえばもう俺を殺す以外に神器を取り戻す方法は無い。
「ええい!姿が見えないだけでこの部屋の中には存在しておるのだろうが!!何もない空間を無差別に攻撃せよ!!あの忌々しい冷蔵庫もろとも吹き飛ばしてくれるわ!!」
神器による遠距離攻撃や、魔法攻撃の勢いが強くなった。
静香さんたちは大きな業務用冷蔵庫に隠れていて今のところは無事だが、遠距離攻撃は直線攻撃ばかりではない。
曲線を描く攻撃や、爆発する攻撃の余波が3人を襲っている。
このままだとまずいな。
まずはあの3人を男爵領に転移させることが先決だ。
俺は腰の剣を抜き、魔法攻撃を切り裂きながら静香さんの神の冷蔵庫を目指す。
「うわぁぁぁっ!」
大砲の発射音のような爆音とともに、勇者や兵士の悲鳴が響き渡る。
どうやらアサルトライフルを構えていた中年男性の神器の能力みたいだ。
先ほどまで構えていたアサルトライフルは、今は長大な銃身を持つ対戦車ライフルへと変貌を遂げている。
重すぎて立ったまま撃つことはできないようで、三脚を立てて寝そべって撃っている。
その銃身が火を噴くたび、壁や天井が破壊されて建物全体が揺れているような錯覚を覚える。
なかなか無茶苦茶する人だな。
どうやら対戦車ライフルで壁を破壊できることに気が付いたようで、今度は自分たちの後ろ側の壁を攻撃して大穴を開けている。
あれだけ大きな穴が開けば、人が通ることもできるだろう。
このまま逃げてくれるのであれば、接触して男爵領に転移させることも容易いだろう。
しかしそう簡単にもいきそうにないか。
見えない俺を攻撃するために散発的だった攻撃が、3人の背中に集中する。
見ていられないので俺は結界魔法で3人を援護する。
魔法は防げるけれど、やはり神器により攻撃は発動速度重視の中級の結界魔法では防げないか。
結界を破った神器は3人の背中に命中しそうになる。
俺は剣でその神器を弾こうと走るが、その前に静香さんの冷蔵庫が具現化されて攻撃を防いだ。
静香さんの冷蔵庫は確かに防御力に優れた神器だ。
しかし機動力が全くない。
重すぎて持って攻撃を防ぎながら逃げるということができないのだ。
撤退戦には向いていない。
静香さんの性格からして、私のことはいいから先に行ってくださいとか言いそうだな。
「先に行ってください!」
やっぱりそうなるのか。
しかし他の2人も立ち止まって神器を構える。
誰も先にはいかないか、いい人たちじゃないか。
先に行けという静香さんと仲間たちの話し合いは、静香さんのほうが勝った。
やっぱり仲間の一人が高校生くらいの年齢ということが決め手となったのだろう。
まだ成人もしていないような若者が、ここで自分と骸を共にするのを承服することができなかったんだろう。
しかし驚いたことに、その中年男性は自分の神器を3つとも静香さんに渡して去っていった。
なんて人だ。
俺は胸の奥が熱くなるような感動を覚えた。
同じことは俺にはできないだろうな。
自分が神器を一つたりとも持たない無力な存在になり果てようとも、仲間のために神器をすべて渡す。
それができるあの人に、心の底から敬意が湧いてくる。
俺はシャツを脱ぎ捨て、背中から触腕を生やす。
必ず、あの人の神器を返せるように静香さんを守って見せる。
「ひっ」
あれ?なんか静香さんの顔が引きつっているような気が。
おかしいな、見えてないよね?
俺は触腕をゆらりと動かしてみる。
「ひぃぃっ」
やっぱりこれ見えてない?
いやいやしかし神の苦無威は神の名前を冠する神器だ。
触れてない人にその隠密能力が破られたことは無い。
たとえあの丸メガネが見ることに特化した神器であったとしても、完璧に見えているということはないはずだ。
しかし輪郭くらいは見えている可能性はあるな。
神の苦無威は俺にとって切り札と言っても過言ではない。
それを捉えることができる神器が存在しているとは。
隠密しているからといって油断してはいけないといういい教訓になった。
「し、繁信さん、ですか?」
「ええ、そうです」
「何か言ってください」
どうやら声は聞こえていないようだ。
本当に影だけとか輪郭だけ見えているとか、そんなものなのかもしれない。
俺は土壁の魔法を発動し、兵士や隷属勇者たちの視界を遮る。
腐竜との戦闘で使った強固な土壁なので、少しは時間が稼げるだろう。
俺は触手をひっこめ、服を着て隠密能力を解除した。
「お久しぶりですね。静香さん」
「繁信さん……。よかった、なぜか繁信さんの背後にグロテスクな触手が見えたので焦りました」
幻覚でもなんでもないのだが、神の触腕の存在は女性には内緒にしておいたほうがいいかもしれない。
とても便利だけど、ちょっとショッキングな神器だからね。
「今のうちに2人を追いかけましょう」
「はい」
今もガンガンと神器や魔法が土壁にぶつかる音が聞こえてくる。
壁が破壊されるのも時間の問題だろう。
俺は神のスマホEXで先に行った2人の場所を調べる。
「静香さん、手を」
「ありがとうございます」
俺が差し出した手のひらに、静香さんが自分の手をそっと乗せた。
俺は静香さんの指先をきゅっと握り、2人の近くに転移した。
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