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118.新勇者の情報チート

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 転移っていうのはなかなか厄介な能力だ。
 自分でも転移の魔法が使えるから俺はそれがよく分かる。
 俺の転移は魔法だから、転移するまでに魔法陣を描くための数秒の時間が必要なのだが彼の小枝みたいな神器にはそれが必要ない。
 その代わり小枝を事前に置いた場所にしか転移できないという制限もあるようだが。
 彼はなかなか肝の据わった青年のようで、王宮から逃げてくるときに王都のあちこちに小枝をばら撒きながら逃げてきたようだ。
 小枝のある位置に一瞬で転移することのできる彼の神器の能力は実にスピーディで、追いかけている俺をあざ笑うようにタイミングよく転移した。
 おまけに座標が細かくて、神のスマホのマップ機能を併用した俺の転移では直接彼らのすぐ側に転移することはできない。
 結局近くに転移して彼らがどこに潜伏しているのか探す必要があるから、その間に3人は次の場所に転移してしまう。
 俺はいまだに3人と接触することすらできていなかった。

「はぁ、いないと思ったらもう次の場所に転移しているじゃないか。うん?この場所は……」

 かえでちゃんと隼人君を助けたあの悪人面貴族の屋敷じゃないか。
 これはちょっとまずいことになっているかもしれない。
 同じ座標にシェンロンがいるのも気になる。
 俺はすぐに屋敷に転移した。
 屋敷は一度忍び込んだことがあるから、細かい場所を指定して転移することができた。
 前にかえでちゃんと隼人君を保護した部屋に転移すると、そこには誰もいなかった。
 しかし家具なんかが酷く損傷しているところを見ると、2人がいなくなったのに気がついたあの貴族が暴れたのかもしれないな。
 
「おっと、そんなことを考えている時間は無いんだった」

 俺は廊下に繋がる扉を開け、屋敷の中を捜索した。
 無駄に広い屋敷にイライラする。
 男爵の屋敷くらいの広さだったら10分あれば全部の部屋を確認できるというのに。
 屋敷には人気が無く、姿の見えない俺が扉を開けて驚かれるようなことはなかった。
 しかし人気が無いことにいささかの不穏さを感じる。
 前に来たときはもっと使用人がうろついていたはずだ。

「ん?なんか音が聞こえた。爆竹みたいな」

 屋敷の中央部のほうからだ。
 そこにあるのはダンスホール。
 たくさんの貴族を招いてパーティなんかを開くような部屋だ。
 走って駆けつけたその部屋では、ずいぶんと血なまぐさいパーティが開かれていた。
 巨大な業務用冷蔵庫に隠れてアサルトライフルを構える中年の男、転移の神器の青年、静香さん。
 そしてそれを取り囲むように首輪を付けられた日本人顔の男たち。
 その後ろから日本人顔の男たちに槍を突きつける兵士。
 床は血まみれで死体も散乱している。
 なんだこの状況。
 
「そんなところに隠れても無駄だぞ!時間の問題だ!」

 大きな声にビクリとする。
 ああ、あの悪人面貴族か。
 片側には先日もいた用心棒のような男が、そしてもう片側にはシェンロンが盾を構えて苦虫を噛み潰したような顔で立っていた。
 シェンロン……。
 ん?用心棒の男が持っているの、スマホか?
 金髪だったからてっきりあの用心棒はこちらの世界の人間だと思っていた。
 しかし良く見ればその金髪は根元の部分が少し黒い。 
 顔も平坦で日本人顔だ。
 あいつ、勇者か。
 でも首輪をしていない。
 悪人面貴族にうまいこと取り入ったのかもしれないな。

「プロット様!これを!!」

「なんだこれは……。この部屋に、もうひとり勇者がいるだと?しかもなんだこの神器の数は!!」

 やばい、ばれた。
 あの男、用心棒じゃなくて情報チート持ちだったか。
 案の定俺の神のスマホからは見えなくても、あいつのスマホからは見えるってパターンだったみたいだ。
 だがそれで分かるのはこの場所に俺がいるということと、俺の神器がどんなものであるかってことだけ。
 隠密能力が解除されたわけじゃない。
 まずはその厄介な情報チートをいただこうか。
 俺は金髪勇者にそっと近づき、そのスマホに手を伸ばした。




 
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