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閑話10(ミタケン視点)

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「やるしかない……よね」

 一樹は竜騎士の投げ槍を具現化し、構え、投げる。
 槍はレーザービームのような速さで飛んでいき、兵士の手前の地面に激突した。
 衝撃波で吹き飛ばされた砂ぼこりが俺達にも降り注ぐ。

「ごほっごほっ、一樹、ムチャクチャ投げるんじゃねー」

「ご、ごめん、でも……」

「わかってる。無理するんじゃねえ」

 手を汚すのは若いもんの仕事じゃねえぜ。
 こんなんは、俺みてーな無駄に歳とってる奴の役目だぜ。

「くはははっ、どうした?そんなへっぴり腰で当たるわけなかろうが!!」

「「「ぎゃはははっ」」」

 周囲の兵士たちも場の空気に従って笑い声を上げる。
 腹を抱えて笑いやがって。
 人が殺せないってのがそんなに笑うようなことかよ。
 俺は三段変形銃をアサルトライフルの形に変形させる。
 つまみをフルオートに合わせ、安全装置を外す。
 心臓がうるさいくらい高鳴ってやがる。
 こんなに気持ちの悪い緊張感は生まれて初めてだぜ。
 俺はアサルトライフルの銃口を悪人面の貴族に向ける。

「その武器は銃、だったか。ふん、撃てるものなら撃ってみるがよい」

 俺は引き金に指をかけ、心を無にして引いた。
 道路工事の機械のような爆音がして、肩に当てたストックからはまるで殴られているかのような反動が伝わってくる。
 耳がキンキンして音が聞こえ難い。
 撃った感想としては、最低の気分だぜ。
 おまけに悪人面の貴族には1発たりとも当たってねえ。
 いったいどうなってやがるんだ。
 あいつの前にまるで何か見えない壁でもあるかのように弾が逸れる。

「はぁはぁ、まさか本当に撃つとはな。だが撃っても無駄だ。シェンロン、しっかりと私を守るのだぞ」

「くっ、わかっているさ……」

 悪人面の貴族の隣に、首輪の付いた勇者っぽい小太りの男が盾を構えて立っている。
 あの盾は神器か。
 となると、さっきの銃撃を防いだのはあの盾の能力か。
 厄介だぜ。
 貴族は後回しだ。
 俺はアサルトライフル周りの兵士に向け、引き金を引いた。
 兵士たちをなぞるように身体の向きを変えて銃口を動かせば、あっという間に血の海ができた。
 だがすぐに銃の弾が無くなる。
 三段変形銃は弾数無限だが、それは同じ弾倉で無限に撃ち続けられるって意味じゃねえ。
 弾を込めた弾倉も無限に具現化できるって意味だ。
 だから一つの弾倉の弾が切れたら、いちいち新しい弾倉を具現化して交換しなきゃならねえ。
 これは戦闘において、大きな隙になる。
 特に弾倉の交換に慣れてねえ俺のようなド素人は、弾倉の交換に5、6秒はかかっちまう。

「う、動くんじゃねえ!こいつらがどうなってもいいのか!!撃てばこいつらも蜂の巣になるぞ!!」

 ほらな、俺が弾倉の取替えに手間取ってる間にまずいことになっちまった。
 奴ら首輪を付けられた勇者を盾にしてやがる。
 どこまでも下衆な奴らだぜ。

「ミタケン、ど、どうするの?」

「ここは私の魔法で……」

「俺は撃つぜ」

「ミタケン!?」

「確かに首輪を付けられた勇者には罪は無い。だがな、だからって何も変わらねえぜ。俺達は悪人退治に来たわけじゃねえんだ」

 俺は涙や鼻水で顔をベトベトにしている勇者たちにアサルトライフルを向けた。
 
「ひっ、や、やめてくれっ、助けてくれっ」

「俺達が何をしたって言うんだ!」

「俺達は首輪を付けられて隷属されているだけなのに……」

「すまねえな。あんたたちには本当に悪いと思うぜ。恨むなら、殺すしか手がねえ俺を恨め」

「そんなぁぁぁっ」

 バババッという爆音と共に、血しぶきが吹き上がる。
 まるで地獄絵図だぜ。
 そしてまた弾切れだ。
 まだまだ兵士も勇者もうじゃうじゃいやがる。
 最悪の気分だぜ。
 耳はいてーし肩もいてーし、精神はもっと酷いことになってやがる。
 吐きそうだ。
 だがこの状況をどうにかするまでは、予断はゆるされねえ。

「狂ってるぞ!俺達なにも悪くないじゃないか!!」

「撃たないでくれよ!俺達は命令されているだけなんだよ!!」

「死にたくないよぉぉ」

「うるせぇぇてめえら!どいつもこいつも出されたもんバクバク食いやがって!!1000人以上もいてほぼ全員隷属されてんじゃねえぇぇぇっ!!」

 あまりに気分が悪くてつい自分のことを棚に上げて怒鳴っちまったぜ。
 出されたもんバクバク食うなとかどの口がほざいてやがるんだ。
 くそっ、もう精神が限界だぜ。

「貴様ら!何をやっておるか!!早く攻撃せんか!!奴の銃には弾を込めるときに隙ができるとわかっただろう!!」

「「「は、はっ」」」

 勇者の中にはさっきの俺の攻撃で俺たちに敵意を持った奴もいるようだ。
 ちっ、しくったかな。
 嫌々戦ってた奴らを、自分から戦うようにしちまった。
 なにもかもが最悪だぜ。
 一樹の投げ槍と同じような槍を持った奴が投擲モーションをとってやがる。
 俺には防御系の神器はねえ。
 やめさせるには銃で撃つしかねえが、アサルトライフルは今弾が空だ。
 他の形態に変形させても弾が満タンになるわけじゃねえ。
 残弾は総弾数のうちの何パーセントって感じの計算がされて引き継がれる。
 空は0パーセントだからどの形態に変形させてもゼロだ。
 絶体絶命って奴だ。
 投げ槍が放たれる。
 死んだ、そう思った。
 なにせ視界が一面銀色になったのだから。
 ズドンッ、という地響きがするまでそれが冷蔵庫だって分からなかったぜ。
 レーザービームみたいな投げ槍が冷蔵庫にガンガン当たるが、そのシルバーメタリックのボディは揺るがねえ。
 なんて心強い業務用冷蔵庫だ。

「一樹君も冷蔵庫の後ろに隠れて!」

「うん!」

 肩を寄せ合って冷蔵庫の後ろに隠れる俺達。
 なんとか命拾いはしたけれど、結局状況は変わってないんだよな。

「そんなところに隠れても無駄だぞ!時間の問題だ」

 じりじりと勇者や兵士たちがにじり寄ってきている。
 とりあえず弾倉は替えたが、向こうがやる気になったってのは痛いぜ。

「プロット様!これを!!」

「なんだこれは……」

 絶対絶命だと思っていたが、なにやら様子がおかしいな。

 
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