おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉

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閑話9(ミタケン視点)

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「やっぱこれは便利だぜ」

 対戦車ライフルの形態に変形させた銃のスコープを覗き込むと、自動で目標との距離を測ってスコープの角度が動いた。
 ライフルのスコープの調整っていうのは、俺みてーな素人じゃ何やっていいかわからねえからな。
 弾道とか弾速とかエネルギーとか、けっこう難しいこと計算しながらスコープカチカチやんねーと銃ってのはちゃんと当たってくれねえらしいぜ。
 それをこのライフルは自動でやってくれるっていうんだからありがたいぜ。
 俺は何も考えずバッテンの中心を標的に向ければいいってわけだ。
 もちろん風やらなんやらで少し狙いが狂うこともあるだろうがな。

「どうです?2人はいましたか?」

「ちょっと待ってろ、今全部の部屋を調べてる」

 俺は銃口を動かし、一部屋一部屋窓を覗いていく。
 なんか女の着替えでも覗いているみてえで嫌だな。
 ちっホントに着替えているメイドがいやがった。
 しょうがねえ、少し観察するぜ。
 ほう、この世界の下着っていうのはあまり色気がねーな。

「ミタケンさん、さっきから銃口が動いてませんが」

「いや、なんでもねえ。ちょっと気になることがあったんでな」

「真面目にやってくださいよ。2人を隷属している貴族は本当に嫌な奴なんです。何をされているかわかったものじゃありませんよ」

「わかってる。すぐに探すさ」

 もう少しゆっくりと眺めていたいところだったが、同胞の2人のことも心配だしな。
 聞けばまだ高校生くらいの歳だっていうじゃねえか。
 早く助けてやりてえな。
 俺は大きな屋敷の部屋を一部屋一部屋覗いていった。
 だが同胞の2人はいねえ。

「こっち側の部屋にはいねえみてーだ。一樹、反対側に飛んでくれるか?」

「わかった」

 一樹が俺と篠原の肩に手を触れ、転移と呟く。
 視界が移り変わり、さっきまでの古ぼけた商会の倉庫は消えて教会の屋根裏のホコリっぽい壁が目に入る。
 歩くとホコリが舞う最低のハウスダスト空間だな。
 一樹の転身棒は人に触れていれば一緒に転移することができた。
 俺と一樹が組めば無敵のスナイパーだ。
 そうと分かれば狙撃ポイントが重要になってくる。
 俺達は王都中に一樹の転身棒をばら撒いた。
 転身棒の子機のようなものであるこの棒は、一樹以外にはただの棒でしかない。
 圧し折られてしまえばその場所には転移できなくなってしまうが、小枝を拾い上げてわざわざ折る奴はそんなにいないだろう。
 王都は小枝で満ちている。
 俺達は狙撃ポイントを転々としながら、篠原の知り合いだという同胞の2人を探しているわけだ。
 篠原の話では、軍閥貴族の中でも飛び切り評判が悪くて性格が悪くて悪人面の伯爵家の関係施設のどこかにいるだろうということだ。
 金持ち貴族ともなると王都の中にも無駄にたくさん建物を持っていやがる。
 だがその伯爵の所有する建物も、この巨大な屋敷が最後だ。
 他はもう調べ尽くしたから、ここにいなければお手上げとなる。
 屋敷は広大で、外から覗ける部屋ばかりではない。
 こちら側の窓から捜索していなければ屋敷の内部を調べなければならなくなる。
 いて欲しいがな。

「いましたか?」

「ちょっと待ってろって」

 あらかた見たが、それらしい2人組はいなかった。
 こりゃあ屋敷の中を調べないとダメか。

「いねえな。だが、屋敷の内部をどう調べるか」

「また僕の転移でこそこそ忍びこむ?」

「一回捕まりかけたじゃねーか。俺はもうこりごりだぜ」

「私が正面から乗り込んで……」

「いや無理だろ。どう考えても。あんた無関係の人を殺す覚悟あるのか?隷属された勇者もだぜ?」

 あの屋敷にはそれなりの数の警備の兵もいるし、さっき首輪を付けた奴も何人か見かけたぜ。
 おそらくあれは勇者だ。
 雰囲気が日本人だったからな。
 この世界には奴隷って奴もいるみてーだが、あの現実を受け入れきれてねえ雰囲気は日本人に間違いねえ。
 なよなよしてとても戦えるようには見えねえが、あいつらも一人3つふざけたおもちゃを確実に持っているんだ。
 俺はごめんだぜ、知り合いの知り合いを助けるために人を殺すなんてよ。
 殺さなきゃ殺されるって状況じゃなきゃ、人なんぞ殺したくねえ。
 他人を理由にした殺しなんて後で思い返したら精神がおかしくなるに決まってるぜ。
 その証拠に、安い正義のヒーローってのは頭がおかしい奴が多いだろ?
 あれは精神やられちまってんだよ。
 人のために戦ってるなんてクソアホらしくてやってられねえから、本物のヒーローは戦う理由を他人に求めねえんだ。
 そして俺達はヒーローじゃねえ。

「もう少し屋敷を外から監視して……」

 バタンッ、扉が蹴破られる音がした。
 バタバタと何人もの人間が屋根裏部屋になだれ込んでくる。

「貴様ら!ここで何をしている!!」

「やべっ、一樹!」

「了解。転移!」

 どうしてか分からないが、俺達の行動は勘付かれていたらしい。
 狙撃ポイントの屋根裏部屋になだれ込んだ兵士たちがぱっと消える。
 いや、消えたのは俺達のほうか。
 一樹が転移を発動したのだ。
 視界が移り変わり、そして多くの兵士に囲まれた。

「は!?なんで!!転移したのに!!」

「くははははっ、君たちこれのある場所にしか転移できないんじゃないかな」

 でっぷり肥えて悪人面の男が転身棒の子機である小枝をつまみ上げる。
 その足元には、木箱にたくさん小枝が入れられていた。

「そんな……王都中に撒いた棒が……」

 そういうことかよ。
 棒のある位置に転移するという一樹の神器の能力を、逆に利用されてしまった。
 王都中にばら撒いた小枝を拾って一箇所に集めれば、高確率で一樹は同じ場所に転移する。
 だが、この戦法を実行するには一樹の神器の能力をよく知っていなければならないはずだ。
 いったいどうなっていやがる。

「ふふふ、なにか不思議かね。ミタケンゾウ君。君の神器は神コーヒー、賢者の丸メガネ、三段変形銃だったかね」

 こいつ、俺の神器をすべて知っていやがる。
 いや俺だけってことはないだろう。
 一樹のも、もしかしたら篠原のも。


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