おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉

文字の大きさ
上 下
125 / 205

閑話9(ミタケン視点)

しおりを挟む
「やっぱこれは便利だぜ」

 対戦車ライフルの形態に変形させた銃のスコープを覗き込むと、自動で目標との距離を測ってスコープの角度が動いた。
 ライフルのスコープの調整っていうのは、俺みてーな素人じゃ何やっていいかわからねえからな。
 弾道とか弾速とかエネルギーとか、けっこう難しいこと計算しながらスコープカチカチやんねーと銃ってのはちゃんと当たってくれねえらしいぜ。
 それをこのライフルは自動でやってくれるっていうんだからありがたいぜ。
 俺は何も考えずバッテンの中心を標的に向ければいいってわけだ。
 もちろん風やらなんやらで少し狙いが狂うこともあるだろうがな。

「どうです?2人はいましたか?」

「ちょっと待ってろ、今全部の部屋を調べてる」

 俺は銃口を動かし、一部屋一部屋窓を覗いていく。
 なんか女の着替えでも覗いているみてえで嫌だな。
 ちっホントに着替えているメイドがいやがった。
 しょうがねえ、少し観察するぜ。
 ほう、この世界の下着っていうのはあまり色気がねーな。

「ミタケンさん、さっきから銃口が動いてませんが」

「いや、なんでもねえ。ちょっと気になることがあったんでな」

「真面目にやってくださいよ。2人を隷属している貴族は本当に嫌な奴なんです。何をされているかわかったものじゃありませんよ」

「わかってる。すぐに探すさ」

 もう少しゆっくりと眺めていたいところだったが、同胞の2人のことも心配だしな。
 聞けばまだ高校生くらいの歳だっていうじゃねえか。
 早く助けてやりてえな。
 俺は大きな屋敷の部屋を一部屋一部屋覗いていった。
 だが同胞の2人はいねえ。

「こっち側の部屋にはいねえみてーだ。一樹、反対側に飛んでくれるか?」

「わかった」

 一樹が俺と篠原の肩に手を触れ、転移と呟く。
 視界が移り変わり、さっきまでの古ぼけた商会の倉庫は消えて教会の屋根裏のホコリっぽい壁が目に入る。
 歩くとホコリが舞う最低のハウスダスト空間だな。
 一樹の転身棒は人に触れていれば一緒に転移することができた。
 俺と一樹が組めば無敵のスナイパーだ。
 そうと分かれば狙撃ポイントが重要になってくる。
 俺達は王都中に一樹の転身棒をばら撒いた。
 転身棒の子機のようなものであるこの棒は、一樹以外にはただの棒でしかない。
 圧し折られてしまえばその場所には転移できなくなってしまうが、小枝を拾い上げてわざわざ折る奴はそんなにいないだろう。
 王都は小枝で満ちている。
 俺達は狙撃ポイントを転々としながら、篠原の知り合いだという同胞の2人を探しているわけだ。
 篠原の話では、軍閥貴族の中でも飛び切り評判が悪くて性格が悪くて悪人面の伯爵家の関係施設のどこかにいるだろうということだ。
 金持ち貴族ともなると王都の中にも無駄にたくさん建物を持っていやがる。
 だがその伯爵の所有する建物も、この巨大な屋敷が最後だ。
 他はもう調べ尽くしたから、ここにいなければお手上げとなる。
 屋敷は広大で、外から覗ける部屋ばかりではない。
 こちら側の窓から捜索していなければ屋敷の内部を調べなければならなくなる。
 いて欲しいがな。

「いましたか?」

「ちょっと待ってろって」

 あらかた見たが、それらしい2人組はいなかった。
 こりゃあ屋敷の中を調べないとダメか。

「いねえな。だが、屋敷の内部をどう調べるか」

「また僕の転移でこそこそ忍びこむ?」

「一回捕まりかけたじゃねーか。俺はもうこりごりだぜ」

「私が正面から乗り込んで……」

「いや無理だろ。どう考えても。あんた無関係の人を殺す覚悟あるのか?隷属された勇者もだぜ?」

 あの屋敷にはそれなりの数の警備の兵もいるし、さっき首輪を付けた奴も何人か見かけたぜ。
 おそらくあれは勇者だ。
 雰囲気が日本人だったからな。
 この世界には奴隷って奴もいるみてーだが、あの現実を受け入れきれてねえ雰囲気は日本人に間違いねえ。
 なよなよしてとても戦えるようには見えねえが、あいつらも一人3つふざけたおもちゃを確実に持っているんだ。
 俺はごめんだぜ、知り合いの知り合いを助けるために人を殺すなんてよ。
 殺さなきゃ殺されるって状況じゃなきゃ、人なんぞ殺したくねえ。
 他人を理由にした殺しなんて後で思い返したら精神がおかしくなるに決まってるぜ。
 その証拠に、安い正義のヒーローってのは頭がおかしい奴が多いだろ?
 あれは精神やられちまってんだよ。
 人のために戦ってるなんてクソアホらしくてやってられねえから、本物のヒーローは戦う理由を他人に求めねえんだ。
 そして俺達はヒーローじゃねえ。

「もう少し屋敷を外から監視して……」

 バタンッ、扉が蹴破られる音がした。
 バタバタと何人もの人間が屋根裏部屋になだれ込んでくる。

「貴様ら!ここで何をしている!!」

「やべっ、一樹!」

「了解。転移!」

 どうしてか分からないが、俺達の行動は勘付かれていたらしい。
 狙撃ポイントの屋根裏部屋になだれ込んだ兵士たちがぱっと消える。
 いや、消えたのは俺達のほうか。
 一樹が転移を発動したのだ。
 視界が移り変わり、そして多くの兵士に囲まれた。

「は!?なんで!!転移したのに!!」

「くははははっ、君たちこれのある場所にしか転移できないんじゃないかな」

 でっぷり肥えて悪人面の男が転身棒の子機である小枝をつまみ上げる。
 その足元には、木箱にたくさん小枝が入れられていた。

「そんな……王都中に撒いた棒が……」

 そういうことかよ。
 棒のある位置に転移するという一樹の神器の能力を、逆に利用されてしまった。
 王都中にばら撒いた小枝を拾って一箇所に集めれば、高確率で一樹は同じ場所に転移する。
 だが、この戦法を実行するには一樹の神器の能力をよく知っていなければならないはずだ。
 いったいどうなっていやがる。

「ふふふ、なにか不思議かね。ミタケンゾウ君。君の神器は神コーヒー、賢者の丸メガネ、三段変形銃だったかね」

 こいつ、俺の神器をすべて知っていやがる。
 いや俺だけってことはないだろう。
 一樹のも、もしかしたら篠原のも。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい

兎屋亀吉
ファンタジー
異世界転生にあたって、神様から提示されたスキルは4つ。1.【剣術】2.【火魔法】3.【アイテムボックス】4.【アイテムコピー】。これらのスキルの中から、選ぶことのできるスキルは一つだけ。さて、僕は何を選ぶべきか。タイトルで答え出てた。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

スキルを得られない特殊体質の少年。祠を直したらユニークスキルもらえた(なんで??)

屯神 焔
ファンタジー
 魔法が存在し、魔物が跋扈し、人々が剣を磨き戦う世界、『ミリオン』  この世界では自身の強さ、もしくは弱さを知られる『ステータス』が存在する。  そして、どんな人でも、亜人でも、動物でも、魔物でも、生まれつきスキルを授かる。  それは、平凡か希少か、1つか2つ以上か、そういった差はあれ不変の理だ。  しかし、この物語の主人公、ギル・フィオネットは、スキルを授からなかった。  正確には、どんなスキルも得られない体質だったのだ。  そんな彼は、田舎の小さな村で生まれ暮らしていた。  スキルを得られない体質の彼を、村は温かく迎え・・・はしなかった。  迫害はしなかったが、かといって歓迎もしなかった。  父親は彼の体質を知るや否や雲隠れし、母は長年の無理がたたり病気で亡くなった。  一人残された彼は、安い賃金で雑用をこなし、その日暮らしを続けていた。  そんな彼の唯一の日課は、村のはずれにある古びた小さな祠の掃除である。  毎日毎日、少しずつ、汚れをふき取り、欠けてしまった所を何とか直した。  そんなある日。  『ありがとう。君のおかげで私はここに取り残されずに済んだ。これは、せめてものお礼だ。君の好きなようにしてくれてかまわない。本当に、今までありがとう。』  「・・・・・・え?」  祠に宿っていた、太古の時代を支配していた古代龍が、感謝の言葉と祠とともに消えていった。  「祠が消えた?」  彼は、朝起きたばかりで寝ぼけていたため、最後の「ありがとう」しか聞こえていなかった。  「ま、いっか。」  この日から、彼の生活は一変する。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

処理中です...