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115.ゴッドプリンター

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「どうも、初めましてではないですね。ピエール・リザウェルです。お久しぶりです」

「「お、お久しぶりです」」

「そんなに固くならなくてもいいですよ。お2人とも、自分の家だと思って寛いでください」

 2人はながらく王国で生活していたので、貴族というのは偉ぶってふんぞり返っているものというのが常識になってしまっているのだろう。
 思いのほか腰の低い男爵に目を丸くしている。
 以前戦場で会ったときは2人はそれほど男爵と話したことが無かったから無理もない。
 元とはいえ男爵も王国の貴族だった人だ。
 ドクズばかりの王国貴族の中にあって、マリステラ卿以外にもまともに話ができる人がいたのかと驚いている。
 
「それで、いったい王国で何があったんだい?」

「俺達にわかる範囲しか説明はできないんだけど、たぶん勇者を隷属するなんて発想が出てきたのは一つの神器のせいだよ」

「神器の?王国に所属している勇者の持つ神器の中に、何か危険な神器があったということかい?」

 ろくでもないことをしでかしそうな王国陣営の勇者の神器は一通り確認してある。
 そんなに危険な神器は無かったけどな。
 隷属アイテムの作成となれば生産系のアイテムなのだろうけど、怪しいのは名匠のハンマーあたりか。
 しかしあれは鍛冶仕事のアシストをしてくれる程度のアイテムで、魔道具をカスタマイズするような能力は無いはずだ。

「その神器の名前はゴッドプリンター。あれを王国の勇者の一人が他陣営の勇者から奪ったことがすべての発端なんじゃないかな」

「ゴッドプリンター?ちょっと前までステルシア聖王国陣営にあった神器だね」

 その能力はアイテムのスキャンと複製。
 アイテムの情報をスキャンしてデータとして取り込み、材料を元にして複製することのできる神器だ。
 だけどこの神器には2つの制限があった。
 1つは神器だけはスキャンも複製もできないということ。
 もう1つはスマホが無ければスキャンしたデータを保存しておけないということだ。
 原物があれば魔道具や魔剣などを材料の限りコピーすることのできる強力な神器ではあるけれど、同時にその制限も強い神器だった。
 そんなアイテムが、勇者隷属アイテムの製造には関わっているという。
 確かに、ゴッドプリンターを使えば勇者を隷属するアイテムを1つ作り出すだけで大量に生産が可能になる。

「大量生産の難しい勇者隷属アイテムを、神器の力で大量生産したということ?」

「そうじゃない。ゴッドプリンターで、あの忌々しい首輪を作ったんだよ」

「え?でも……」

 ゴッドプリンターの能力はスキャンと複製だ。
 アイテムを一から作り出すことは能力の範疇外だと思うのだが。

「なんでか分からないけど、今のゴッドプリンターはアイテムのスキャンと複製以外にアイテムのカスタマイズができるみたいなんだ」

 そんなことがありえるのか?
 神が定めたその神器の能力を逸脱して、新たな能力を獲得する?
 
「俺達にもよくは分からないんだ。でも勇者隷属アイテムの他にも元になったアイテムを強化したアイテムが王国ではたくさん作られてる。それに俺達を隷属させていたあの分かりやすい悪党がいただろ?あいつが言ってたんだ。ゴッドプリンターのおかげで俺達を隷属させることができたって」

 ゴッドプリンターをステルシア聖王国の勇者から奪った奴が、勇者隷属アイテムに絡んでいるのは間違いなさそうだ。
 こういうときこそ神のスマホの出番かな。
 ゴッドプリンターを持っている勇者のことを調べてみよう。
 名前は、山田神龍。
 なんて読むんだ。
 え?シェンロン?
 ずいぶんと頭がファンシーな親の元に生まれてしまったんだな。
 持ってる神器は竜殺しの剣、風精の盾、スマホ、ゴッドプリンターの4つか。
 特に変わった神器を他に所持しているというわけでもなさそうだな。
 初見の風精の盾は風を操る力を持った盾らしい。
 水精の短剣と同じ系統の神器だろう。
 何が原因でゴッドプリンターが変質したのだろうか。
 性悪な神は人間達が争い合うように様々な仕掛けを用意したが、それ以上のことをするのは女神のやり方らしくない。
 たとえば性格が悪そうな勇者に干渉して、神器をカスタマイズしたりといった直接的な干渉はできないのか嫌いなのかは分からないが今までしてこなかった。
 となるとゴッドプリンターだけ能力がカスタマイズされたとは思えない。
 仕方が無いから山田シェンロンの行動ログとでも言えるようなものを神のスマホで見るしかないか。
 プライベートを吹っ飛ばす情報チートな神のスマホには、旧勇者がこちらの世界に飛ばされてから今までの行動を動画で見ることができるというとんでも能力がある。
 便利だがとんでもなく手間がかかる。
 ある程度は時間を絞って見るとしても、監視カメラの映像を延々と見て手がかりを探す警察の捜査のようなものだ。
 情報チートなのにアナログチックだな。

「シェンロンがゴッドプリンターを手に入れたのはいつ頃?」

「大体2ヶ月くらい前かな」

 2ヶ月前か。
 そこから今までの映像を延々と見なければならないのか。
 シェンロンが可愛い女の子だったら役得とばかりにじっと見ていられたのだが、残念ながらシェンロンは20歳前後の小太りな男だ。
 静香さんやマリステラさんの様子も見にいって来たいのでシェンロンにだけ構ってられない。
 だが、神器の能力が増えるという異常事態の原因だけは突き止めておかなければミイラ取りがミイラになりかねない。
 俺の首に首輪が付けられ、男爵やみんなに刃を向けるようなことになったら死んでも死にきれない。
 首輪の力で自害もできないというし、そんな事態にだけはならないようにしなければな。
 はぁ、何が楽しくて男の一日を観察しなければならないんだ。
 誰か代わってくれ。


 
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