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107.腐竜

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「これが腐竜か……」

 22階層、巨大な遺跡のような場所を守護する1匹の魔物。
 フィールドボスである腐竜ボルネウスだ。
 ハーレム勇者長道健人がその心臓を求めてやってきたモンスターであり、梶原さんが大怪我を負って敗北した魔物。
 その姿は当初想像していたものとは大きく異なっていた。
 俺は身体中が腐り落ちたグロテスクなアンデットドラゴンのような姿を想像していたのだが、本物はどこも腐り落ちてなどいなかった。
 そもそも腐りそうな肉が見当たらない。
 全身がメタリックなパーツに覆われた機械仕掛けの竜。
 翼は無く、ティラノサウルスのようなフォルムをしている。
 見た目は全然腐竜っぽくない。
 しかし腐竜と呼ばれる由来は、その攻撃にあった。
 ドラゴンといえば口から強力なエネルギー波を放つブレス攻撃だが、腐竜のブレスはすべてを腐敗させる。
 デザートヒュドラの毒のブレスに似ているだろうか。
 ただしその毒は強力な腐食性ガスのような特性を持っている。
 毒性は恐ろしく高く、まともに浴びれば一瞬で身体が腐り落ちて死んでしまうという。
 すべてを腐敗させる竜、だから腐竜。
 ちなみに腐竜の心臓は本物の心臓だ。
 全身メタリックな腐竜だが、外側の機械パーツを剥がすと生体部分が出てくるらしい。
 デ○モンみたいだと少し思ってしまった。
 メ○ルグ○イモンやム○ンド○モンをもう少し機械寄りにした感じの外見をしている。
 じっと動かず虚空を見つめるその姿はまるでオブジェのようなのだけど、一定範囲内に敵が入り込むと動き出すそうだ。
 俺は接敵範囲内に入らず、その姿を観察する。
 攻略記録は一番新しいものでも30年以上前のもので、どうやって攻略したのかは記録されていなかった。
 梶原さんも全く攻略の糸口が見つからずにやられてしまったと言っていた。
 舐めてかかっていい相手ではない。
 メタリックな体表は普通の竜種の鱗よりも硬い金属装甲。
 胸と背中、太ももにミサイル発射口があり、肩には機銃。
 右肩は実弾、左肩は光学兵器だ。
 両手両足の鋭い爪はどんな金属でできているか知らないが、ミスリルよりも硬いらしい。
 なんてデタラメなドラゴンなんだろうか。
 ダンジョンは神が作った説と古代文明の遺産説があるらしいが、神が作ったのでなければ古代文明というのはものすごい技術力を持っていたことになる。
 まあこの世界では、こんな超兵器を用意しても人間が食物連鎖の頂点に立つことができない可能性は十分ある。
 そんなことを考えるのはお偉い学者先生方にお任せして、俺はこの機械の竜を倒すとする。
 プランは考えた。
 雷魔法主体の作戦でいこうと思う。
 機械は電気に弱いだろうという浅知恵だ。
 実際電化製品は雷でダメになったりするから、電気で動いている機械であれば効果的だろう。
 電気で動いてない場合は、プランBの作戦に変更する。
 プランBは分子間結合力消滅ブレードによってゴリ押しで頭部を破壊する作戦だ。
 プランBが本命だったりする。
 だって絶対電気で動いてないもの、あれ。
 
「まあやるだけやってみるか」

 生体部分に効くかもしれないし。
 俺は特級雷魔法の魔法陣を描きながら腐竜に近づく。
 動きながら魔法が使えるのも神巻きタバコの能力のおかげだ。
 普通は魔法は移動しながら使うことは難しい。
 それは魔力というエネルギーが目には見えないものだからだ。
 目には見えないエネルギーを操作して魔法陣を描くのは非常にデリケートな作業だ。
 動きながらできるものではない。
 だが、魔力を感知する能力が神巻きタバコによって強化されている俺は魔力を目で見ることができる。
 ちゃんと描けているかの確認もできるので動きながらでも魔法陣が描けるのだ。
 魔法陣が完成するのと同時に、腐竜の攻撃範囲に入った。
 ガシャンとミサイル発射口が開き、肩の機銃が機械音をさせながら俺の方を向いた。
 攻撃はお互い同時。
 特級雷魔法『サンダーブラスト』が腐竜の胸のあたりにぶち当たり、機銃の掃射が俺を薙ぐ。
 特級の雷魔法ともなればそれはもはやエネルギーの奔流だ。
 膨大なエネルギーを浴びせかけられた腐竜の胸のミサイルは発射されず、そのまま爆発した。
 同時に実弾と光弾の雨あられが俺に向かって降り注いだ。
 空気を遮断している風の結界では防ぎきれず、バシバシと俺の身体にぶち当たる。
 1発1発がとんでもない威力で俺の身体を貫いた。
 即死を避けるために俺は必死で正中線を守った。
 即死さえしなければ回復できる。
 数秒か数十秒かわからなかったが、機銃による掃射が終わる。
 俺の身体は手で守った頭と心臓以外、ほぼくまなく穴だらけにされていた。
 べシャリと倒れ、震える手で神酒を煽る。
 意識が飛びそうだ。
 機銃ひとつでここまで威力があるとは思っていなかった。
 だが腐竜もまた、特級の雷魔法と自身のミサイルの爆発によって少なからずダメージを負っているようだ。
 胸の一帯だけだがメタリックな装甲が剥がれて赤い肉が見えている。
 このままどちらが先に死ぬか、我慢比べといこうか。
 俺は背中から触腕を生やし、牛鬼の如意槍と竜殺しの剣、水精の短剣を具現化する。
 竜殺しの剣を目にした腐竜は、一瞬動きが止まる。
 どれだけメタリックな見た目であっても、やはり竜種は竜種のようだ。
 俺はその一瞬の間に距離を詰め、接近戦に持ち込む。
 全力で放った牛鬼の如意槍による突きは、腐竜の鋭い鉤爪によって防がれた。
 肩の機銃が俺のほうを向く。
 俺は腐竜の股の下に入り、そのまま真上のデンジャラスゾーンに向かって竜殺しの剣を振るった。
 金的攻撃はどうかと思うが、そんなことを言っていられる状況ではない。
 だが腐竜の機械の身体は金的が急所ではないのか、まったくダメージを受けた様子はない。
 生殖機能なんて無さそうだもんな。
 腐竜はその巨体に似合わぬ軽快な動きでステップを踏み、俺をサッカーボールのように蹴り飛ばす。

「ぐっ」

 つま先の尖い爪が俺の脇腹を抉って色々こぼれ落ちたらまずいものがこぼれ落ちる。
 更には距離が開いたことにより、腐竜の全身の遠距離火力がすべて俺をロックした。
 腐竜はやはり強い。

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