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104.ハズレ神器を選んだ者の末路
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ぐっと腕に力を込め、大技を繰り出そうとする長道だったもの。
がら空きの向こう脛に梶原さんのローキックが直撃する。
「ぐぁぁっ、神器ぃ、ずるいぃ、俺も神器ぃっ」
今は失ってしまったがダンジョンに入るまで持っていた長道自身の神器は、正直言って強くなかった。
俺達異世界人たちに与えられた神器という力は、神の意思が込められているかのごとく不平等だった。
アタリの神器を選んだ者とハズレの神器を選んだ者がいた。
そしてこの世界に召喚され、戦いの最中で明らかとなったのは勇者同士であれば神器は奪うことが可能だという事実。
自分の神器が奪われるのではないかという恐怖と、アタリの神器を奪うことができるかもしれないという野心。
雇い主から新たな神器を手に入れるために他の勇者を殺すように命令された勇者も大勢いただろう。
長道健人という男の心は、神器という神の力によって壊されてしまったのかもしれない。
この世界への期待と不安、雇い主との関係。
自分を褒め称える3人の美少女。
自分の神器への不満。
他人の神器への羨望。
理想と現実の乖離。
誰しも弱い心を持っている。
そして、飲まれた。
「なんで俺の神器はこんなに弱いんだよぉぉぉっ、憎いっ、憎いっ、憎い憎い憎い憎いっ、強い神器が憎いっ」
梶原さんの攻撃を受けて足を圧し折られながらも、長道は強引に大技を繰り出す。
腕の筋肉が隆起し、3倍にも4倍にも見えるほどに膨らむ。
丸太のようなその腕が、俺に向かって突き出される。
俺はその攻撃を避けなかった。
触腕を地面に突き刺して受け止める。
バキバキという肋骨の砕ける音と強烈な痛みが俺を襲う。
砕けた骨が内臓を傷つけ、俺の口から真っ赤な血があふれ出した。
「ごほっ、イテテ、なかなか効くね……」
「木崎さん!!」
「梶原さん、大丈夫です。もう捕まえましたから」
俺に一撃入れた長道はピクリとも動かない。
それもそのはずだ。
もう死んでいるのだから。
背中から伸びる触腕の1本が、長道の胸に突き刺さっていた。
分厚い胸板に阻まれて心臓までは届いていないが、別に心臓を直接破壊する必要は無い。
電気ショックの魔法で心臓を動かすことができるのならば、その逆も可能だ。
俺は電気ショックの魔法で、長道の心臓を止めたのだ。
ヌルリと触腕を引き抜けば、弛緩した長道の身体が倒れ掛かってくる。
重そうなので避けた。
地に倒れ伏す長道。
俺は傷む肋骨を押さえ、神酒を煽った。
「ふぅ、お疲れ様です。梶原さんもどうです?傷だけではなく、疲労も和らぎますよ」
「ありがとうございます。では遠慮なく」
二人してぐびぐびと昼間から酒を飲む俺達。
はたから見たらダメなおっさん2人組だ。
「おーい、終わったか!?」
遠くから見ていたのか、近寄ってくるドノバンさん。
あの人は強そうな見た目だが、意外なことに戦闘のほうはからっきしらしい。
冒険者ギルドの支部長といえば元冒険者の人が多いのだが、あの人は本部から左遷されてきた人なので初めから事務方なのだ。
なぜ左遷されたかは詳しく聞いてないが、多分女関係だろう。
「ドノバンさん、長道はどうなるんでしょうか」
「さすがにこの街でこれ以上蘇生するのは危険だろう。ムルガ共和国がなんと言うかは分からないがとりあえず持って帰ってもらわなきゃ困るぜ。生き返らせるなら向こうの国でやってもらうことになるだろう」
「まあ蘇生に必要なのは初級程度の雷魔法くらいですから、神酒さえ売ってあげれば誰でもできますからね。神酒を売ることには問題はありませんが、代金はちゃんともらえるんですよね?」
「ちゃんとムルガ共和国に払わせるから安心してくれ」
「わかりました。お願いします」
神器をすべて失ったとはいえ、勇者にはまだまだ利用価値がある。
長道が斉藤君の神器を奪ったように他の勇者から神器を奪わせることもできるし、それを子孫に受け継がせることもできる。
神器が無くても勇者はこの世界の人たちに比べると魔力量が多い。
魔力量というのは遺伝するようだから、その子孫も魔力量は多くなる傾向にある。
ムルガ共和国が俺から高い神酒を買って生き返らせる可能性はあるだろう。
どちらに転がってもいいように、長道の死体はアイテムボックスの魔道具の中に保管されるようだ。
まだ心臓が止まったばかりだから、心臓を電気ショックで少し動かすだけで蘇生できるだろう。
ただ、一度死んでも狂人のプロテインの影響は抜けないと思う。
あれは別に身体を破壊しているわけではないから、神酒でも治療できない。
プロテインは筋肉に溶け込んでいるから、代謝によって筋肉が新しくならないと薬の影響は抜けないだろう。
俺が気にすることではないかもしれないが、プロテインが抜けるまでは色々と大変だろうな。
俺は長道の死体からメリケンサック、拳闘士のグローブ、英雄の指輪を抜き取る。
横に具現化したスマホも拾い上げた。
『ぴろりろりん♪メリケンサックはシゲノブのものになった』
『ぴろりろりん♪拳闘士のグローブはシゲノブのものになった』
『ぴろりろりん♪英雄の指輪はシゲノブのものになった』
『ぴろりろりん♪スマホはシゲノブのものになった』
これらの神器は斉藤君に返してあげよう。
別に金を取るつもりもない。
斉藤君はムルガ共和国の軍閥議員に属している。
神器が無ければ今の地位を追われてしまうかもしれない。
結婚したばかりの可愛い奥さんも路頭に迷うことになりかねない。
俺の数少ない愛煙家仲間だ、助けることに理由なんていらないさ。
ムルガ共和国の有力者との繋がりという下心が無いわけでもないし。
男爵に頼んで、今後ムルガ共和国の斉藤君の雇い主議員に限って神巻きタバコの輸出制限を解除してもらうのもいいかもしれない。
斉藤君へのいい結婚祝いになりそうだ。
がら空きの向こう脛に梶原さんのローキックが直撃する。
「ぐぁぁっ、神器ぃ、ずるいぃ、俺も神器ぃっ」
今は失ってしまったがダンジョンに入るまで持っていた長道自身の神器は、正直言って強くなかった。
俺達異世界人たちに与えられた神器という力は、神の意思が込められているかのごとく不平等だった。
アタリの神器を選んだ者とハズレの神器を選んだ者がいた。
そしてこの世界に召喚され、戦いの最中で明らかとなったのは勇者同士であれば神器は奪うことが可能だという事実。
自分の神器が奪われるのではないかという恐怖と、アタリの神器を奪うことができるかもしれないという野心。
雇い主から新たな神器を手に入れるために他の勇者を殺すように命令された勇者も大勢いただろう。
長道健人という男の心は、神器という神の力によって壊されてしまったのかもしれない。
この世界への期待と不安、雇い主との関係。
自分を褒め称える3人の美少女。
自分の神器への不満。
他人の神器への羨望。
理想と現実の乖離。
誰しも弱い心を持っている。
そして、飲まれた。
「なんで俺の神器はこんなに弱いんだよぉぉぉっ、憎いっ、憎いっ、憎い憎い憎い憎いっ、強い神器が憎いっ」
梶原さんの攻撃を受けて足を圧し折られながらも、長道は強引に大技を繰り出す。
腕の筋肉が隆起し、3倍にも4倍にも見えるほどに膨らむ。
丸太のようなその腕が、俺に向かって突き出される。
俺はその攻撃を避けなかった。
触腕を地面に突き刺して受け止める。
バキバキという肋骨の砕ける音と強烈な痛みが俺を襲う。
砕けた骨が内臓を傷つけ、俺の口から真っ赤な血があふれ出した。
「ごほっ、イテテ、なかなか効くね……」
「木崎さん!!」
「梶原さん、大丈夫です。もう捕まえましたから」
俺に一撃入れた長道はピクリとも動かない。
それもそのはずだ。
もう死んでいるのだから。
背中から伸びる触腕の1本が、長道の胸に突き刺さっていた。
分厚い胸板に阻まれて心臓までは届いていないが、別に心臓を直接破壊する必要は無い。
電気ショックの魔法で心臓を動かすことができるのならば、その逆も可能だ。
俺は電気ショックの魔法で、長道の心臓を止めたのだ。
ヌルリと触腕を引き抜けば、弛緩した長道の身体が倒れ掛かってくる。
重そうなので避けた。
地に倒れ伏す長道。
俺は傷む肋骨を押さえ、神酒を煽った。
「ふぅ、お疲れ様です。梶原さんもどうです?傷だけではなく、疲労も和らぎますよ」
「ありがとうございます。では遠慮なく」
二人してぐびぐびと昼間から酒を飲む俺達。
はたから見たらダメなおっさん2人組だ。
「おーい、終わったか!?」
遠くから見ていたのか、近寄ってくるドノバンさん。
あの人は強そうな見た目だが、意外なことに戦闘のほうはからっきしらしい。
冒険者ギルドの支部長といえば元冒険者の人が多いのだが、あの人は本部から左遷されてきた人なので初めから事務方なのだ。
なぜ左遷されたかは詳しく聞いてないが、多分女関係だろう。
「ドノバンさん、長道はどうなるんでしょうか」
「さすがにこの街でこれ以上蘇生するのは危険だろう。ムルガ共和国がなんと言うかは分からないがとりあえず持って帰ってもらわなきゃ困るぜ。生き返らせるなら向こうの国でやってもらうことになるだろう」
「まあ蘇生に必要なのは初級程度の雷魔法くらいですから、神酒さえ売ってあげれば誰でもできますからね。神酒を売ることには問題はありませんが、代金はちゃんともらえるんですよね?」
「ちゃんとムルガ共和国に払わせるから安心してくれ」
「わかりました。お願いします」
神器をすべて失ったとはいえ、勇者にはまだまだ利用価値がある。
長道が斉藤君の神器を奪ったように他の勇者から神器を奪わせることもできるし、それを子孫に受け継がせることもできる。
神器が無くても勇者はこの世界の人たちに比べると魔力量が多い。
魔力量というのは遺伝するようだから、その子孫も魔力量は多くなる傾向にある。
ムルガ共和国が俺から高い神酒を買って生き返らせる可能性はあるだろう。
どちらに転がってもいいように、長道の死体はアイテムボックスの魔道具の中に保管されるようだ。
まだ心臓が止まったばかりだから、心臓を電気ショックで少し動かすだけで蘇生できるだろう。
ただ、一度死んでも狂人のプロテインの影響は抜けないと思う。
あれは別に身体を破壊しているわけではないから、神酒でも治療できない。
プロテインは筋肉に溶け込んでいるから、代謝によって筋肉が新しくならないと薬の影響は抜けないだろう。
俺が気にすることではないかもしれないが、プロテインが抜けるまでは色々と大変だろうな。
俺は長道の死体からメリケンサック、拳闘士のグローブ、英雄の指輪を抜き取る。
横に具現化したスマホも拾い上げた。
『ぴろりろりん♪メリケンサックはシゲノブのものになった』
『ぴろりろりん♪拳闘士のグローブはシゲノブのものになった』
『ぴろりろりん♪英雄の指輪はシゲノブのものになった』
『ぴろりろりん♪スマホはシゲノブのものになった』
これらの神器は斉藤君に返してあげよう。
別に金を取るつもりもない。
斉藤君はムルガ共和国の軍閥議員に属している。
神器が無ければ今の地位を追われてしまうかもしれない。
結婚したばかりの可愛い奥さんも路頭に迷うことになりかねない。
俺の数少ない愛煙家仲間だ、助けることに理由なんていらないさ。
ムルガ共和国の有力者との繋がりという下心が無いわけでもないし。
男爵に頼んで、今後ムルガ共和国の斉藤君の雇い主議員に限って神巻きタバコの輸出制限を解除してもらうのもいいかもしれない。
斉藤君へのいい結婚祝いになりそうだ。
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