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103.危ない神器
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「ぐぉぉぉっ、神器!!俺の神器ぃぃっ!!」
強烈なパンチによって吹き飛ばされる俺と梶原さん。
「ちょっ、梶原さん!あれなんなんですか!?絶対長道じゃないですよ!!」
「い、いえ、長道君ですよ。たぶん……」
街の真ん中で暴れまわる巨漢。
確かに顔は長道のものだが、その身体はまるで別人のように鍛え上げられている。
身長も1.5倍くらいに伸びている。
ムキムキ外国人ボディビルダーの身体にちょこんと冴えない日本人顔が乗っているようなアンバランスさが気持ち悪さを増長させていた。
「狂人のプロテインという神器を御存知ですか?」
「狂人のプロテイン!?」
神のスマホの情報で見た覚えがある。
高田信子という主婦が持っている神器だ。
その能力は筋肉のパンプアップと身体能力の強化。
摂取期間によって、身体能力の強化率が上がっていく変わった神器だった。
神巻きタバコと違って神器の持ち主以外が摂取しても効果を発揮するが、持ち主以外はリスクが伴う。
それが狂化だ。
摂取期間が短ければ気が昂ぶりやすくてイライラするくらいで済むが、強化率を上げようと長期間摂取すればもはや自我を失い暴れまわるだけの狂人となる。
なんとも危ない神器だ。
「まさか、それを長道は摂取したんですか!?」
「おそらく。あの筋肉です。相当長い間摂取したのではないでしょうか。狂人のプロテインの持ち主は私と同じように三国に属さない勇者なのですが、どうやら最近金に困っているらしくずいぶんとプロテインが売りに出されているのです。ドラゴニアにも結構入ってきていてまして、頭の痛い問題です」
金に困ってそんな危ないプロテインを売るとか迷惑すぎる。
使用者も少量だけなら筋肉が隆起して身体能力が上がる代わりにちょっとイライラするくらいだから、メリットとデメリットを比べて使ってしまう。
使えば使うほど筋肉は大きくなるし、身体能力も上がる。
例えば冒険者などであれば、そんな薬はやめようとは思わないだろうな。
気付いたときには狂人だ。
ほとんど麻薬だな。
筋肉がついて身体能力が上がり、できることが多くなるのは快感だろうから。
依存性は無いようだからやめようと強く思えばやめられるだろうが、肉体を資本に生活している人にとっては身体能力が上がるというのは稼ぎが増えたり仕事が楽になったりするということだ。
一度経験してしまえば、元には戻りたくないと思ってしまう。
「最悪の神器ですね。あの神様らしいとは思いますが」
「困ったものです」
最悪なのは、そんな薬に手を出してしまった長道もだが。
スピードと防御力という斉藤君の神器の弱点をプロテインの力で見事にカバーしてしまっている。
そこそこ速く動くし、そこそこ防御も硬いし、時々強烈なパンチを放つ。
厄介な相手になってしまったものだ。
「いったいどれだけプロテインを飲んだらあの肉体になるのか」
「もしかしたらこの街に来たときにはすでに飲み始めていたのかもしれませんね」
「元が馬鹿だから支離滅裂な行動がおかしいと思われなかったってことですかね」
最初から狂人だから狂人になっていっているのに気付かれないというのも嫌な話だ。
俺はシャツを脱ぎ、上半身裸になる。
できれば街中ではやりたくなかったな。
触腕を人に見られるのもどう思われるか分からないし。
「木崎さん?なぜ脱いでいるのですか?」
「これが私の本気モードなんで」
「そ、そうなんですか……」
梶原さんにも引かれた気がする。
長道のせいで俺の尊厳が失われていく。
「では私は左から」
「私が右からですね」
梶原さんは残像が見えるほどのスピードで動き、長道に迫る。
あれでも梶原さんは本気ではないだろう。
なぜなら本気で走ると服が破けるからだ。
梶原さんの本気は俺よりも速い。
もし俺と梶原さんが本気で戦ったら全裸対全裸みたいになるはずだ。
おっさん2人が全裸で戦うとか嫌すぎる。
梶原さんとは今後とも良い関係を築いていきたいものだ。
俺は背中から触腕を生やして長道のところへ向かった。
「はぁぁぁっ」
梶原さんの蹴りが長道の拳によって防がれる。
グローブと手甲のような形に変形したメリケンサックの力によってその拳は強固な武器と化している。
梶原さんの重たいキックでもその拳を砕くことはできないようだ。
俺は梶原さんとは逆側から牛鬼の如意槍による突きを放つ。
そちらも長道は拳で防ぐが俺の武器は槍だけではない。
両手を塞がれた長道の身体を、触腕に持たせた竜殺しの剣と水精の短剣が切り裂く。
「ぐぁぁぁっ、神器、なんでお前はそんなに神器を持っているんだぁぁぁっ、神器神器神器神器、俺にも神器をよこせよぉぉぉっ」
「くっ」
身体から血を流しながらも、勢いの止まらない長道。
俺と梶原さんは一度距離を取る。
「思った以上に硬いですよ、あの筋肉」
「ええ、腕力も強い。英雄の指輪と拳闘士のグローブ、メリケンサックに加えて狂人のプロテインの強化ですからね。四重の強化はきつい」
長道の身体を切り裂いた触腕に伝わる感触は、硬い鱗を持つドラゴニュートを斬ったときよりも重たいものだった。
ドラゴニュートは鱗の内側にも強靭な筋肉の鎧を纏っている。
長道のあの筋肉は見せかけだけではなく、本当にドラゴニュートよりも高密度の筋肉ということだ。
さっきの攻撃はかなり威力の乗った攻撃だったのだが、触腕に伝わる手ごたえは浅いものだった。
血は結構出たが、筋肉を浅く切り裂いただけだ。
「地道にチクチク攻撃して、血を流させるのが一番早いかもしれませんね」
「ええ、街の被害も相当なものです。そろそろ決着をつけなければなりませんね。先ほどのように私が長道君の気を散らして回ります。その間によろしくお願いします」
「わかりました」
まったく、妙な薬でドーピングなんてしやがって。
地道に魔法の練習でもすればダンジョンに潜ってまた神器を手に入れることだってできたんだ。
2度も生き返らせたのにこんなことになってしまって、おっさんは悲しいよ。
強烈なパンチによって吹き飛ばされる俺と梶原さん。
「ちょっ、梶原さん!あれなんなんですか!?絶対長道じゃないですよ!!」
「い、いえ、長道君ですよ。たぶん……」
街の真ん中で暴れまわる巨漢。
確かに顔は長道のものだが、その身体はまるで別人のように鍛え上げられている。
身長も1.5倍くらいに伸びている。
ムキムキ外国人ボディビルダーの身体にちょこんと冴えない日本人顔が乗っているようなアンバランスさが気持ち悪さを増長させていた。
「狂人のプロテインという神器を御存知ですか?」
「狂人のプロテイン!?」
神のスマホの情報で見た覚えがある。
高田信子という主婦が持っている神器だ。
その能力は筋肉のパンプアップと身体能力の強化。
摂取期間によって、身体能力の強化率が上がっていく変わった神器だった。
神巻きタバコと違って神器の持ち主以外が摂取しても効果を発揮するが、持ち主以外はリスクが伴う。
それが狂化だ。
摂取期間が短ければ気が昂ぶりやすくてイライラするくらいで済むが、強化率を上げようと長期間摂取すればもはや自我を失い暴れまわるだけの狂人となる。
なんとも危ない神器だ。
「まさか、それを長道は摂取したんですか!?」
「おそらく。あの筋肉です。相当長い間摂取したのではないでしょうか。狂人のプロテインの持ち主は私と同じように三国に属さない勇者なのですが、どうやら最近金に困っているらしくずいぶんとプロテインが売りに出されているのです。ドラゴニアにも結構入ってきていてまして、頭の痛い問題です」
金に困ってそんな危ないプロテインを売るとか迷惑すぎる。
使用者も少量だけなら筋肉が隆起して身体能力が上がる代わりにちょっとイライラするくらいだから、メリットとデメリットを比べて使ってしまう。
使えば使うほど筋肉は大きくなるし、身体能力も上がる。
例えば冒険者などであれば、そんな薬はやめようとは思わないだろうな。
気付いたときには狂人だ。
ほとんど麻薬だな。
筋肉がついて身体能力が上がり、できることが多くなるのは快感だろうから。
依存性は無いようだからやめようと強く思えばやめられるだろうが、肉体を資本に生活している人にとっては身体能力が上がるというのは稼ぎが増えたり仕事が楽になったりするということだ。
一度経験してしまえば、元には戻りたくないと思ってしまう。
「最悪の神器ですね。あの神様らしいとは思いますが」
「困ったものです」
最悪なのは、そんな薬に手を出してしまった長道もだが。
スピードと防御力という斉藤君の神器の弱点をプロテインの力で見事にカバーしてしまっている。
そこそこ速く動くし、そこそこ防御も硬いし、時々強烈なパンチを放つ。
厄介な相手になってしまったものだ。
「いったいどれだけプロテインを飲んだらあの肉体になるのか」
「もしかしたらこの街に来たときにはすでに飲み始めていたのかもしれませんね」
「元が馬鹿だから支離滅裂な行動がおかしいと思われなかったってことですかね」
最初から狂人だから狂人になっていっているのに気付かれないというのも嫌な話だ。
俺はシャツを脱ぎ、上半身裸になる。
できれば街中ではやりたくなかったな。
触腕を人に見られるのもどう思われるか分からないし。
「木崎さん?なぜ脱いでいるのですか?」
「これが私の本気モードなんで」
「そ、そうなんですか……」
梶原さんにも引かれた気がする。
長道のせいで俺の尊厳が失われていく。
「では私は左から」
「私が右からですね」
梶原さんは残像が見えるほどのスピードで動き、長道に迫る。
あれでも梶原さんは本気ではないだろう。
なぜなら本気で走ると服が破けるからだ。
梶原さんの本気は俺よりも速い。
もし俺と梶原さんが本気で戦ったら全裸対全裸みたいになるはずだ。
おっさん2人が全裸で戦うとか嫌すぎる。
梶原さんとは今後とも良い関係を築いていきたいものだ。
俺は背中から触腕を生やして長道のところへ向かった。
「はぁぁぁっ」
梶原さんの蹴りが長道の拳によって防がれる。
グローブと手甲のような形に変形したメリケンサックの力によってその拳は強固な武器と化している。
梶原さんの重たいキックでもその拳を砕くことはできないようだ。
俺は梶原さんとは逆側から牛鬼の如意槍による突きを放つ。
そちらも長道は拳で防ぐが俺の武器は槍だけではない。
両手を塞がれた長道の身体を、触腕に持たせた竜殺しの剣と水精の短剣が切り裂く。
「ぐぁぁぁっ、神器、なんでお前はそんなに神器を持っているんだぁぁぁっ、神器神器神器神器、俺にも神器をよこせよぉぉぉっ」
「くっ」
身体から血を流しながらも、勢いの止まらない長道。
俺と梶原さんは一度距離を取る。
「思った以上に硬いですよ、あの筋肉」
「ええ、腕力も強い。英雄の指輪と拳闘士のグローブ、メリケンサックに加えて狂人のプロテインの強化ですからね。四重の強化はきつい」
長道の身体を切り裂いた触腕に伝わる感触は、硬い鱗を持つドラゴニュートを斬ったときよりも重たいものだった。
ドラゴニュートは鱗の内側にも強靭な筋肉の鎧を纏っている。
長道のあの筋肉は見せかけだけではなく、本当にドラゴニュートよりも高密度の筋肉ということだ。
さっきの攻撃はかなり威力の乗った攻撃だったのだが、触腕に伝わる手ごたえは浅いものだった。
血は結構出たが、筋肉を浅く切り裂いただけだ。
「地道にチクチク攻撃して、血を流させるのが一番早いかもしれませんね」
「ええ、街の被害も相当なものです。そろそろ決着をつけなければなりませんね。先ほどのように私が長道君の気を散らして回ります。その間によろしくお願いします」
「わかりました」
まったく、妙な薬でドーピングなんてしやがって。
地道に魔法の練習でもすればダンジョンに潜ってまた神器を手に入れることだってできたんだ。
2度も生き返らせたのにこんなことになってしまって、おっさんは悲しいよ。
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