おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉

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92.オヤジ殺し

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 アイテムボックスのブレスレットをエリーさんにあげ、残りを異空間収納に放り込む。
 金目のもの以外は特に得るもののない階層だったな。
 妙な勇者の死体を異空間収納に抱え込むことになってしまったし。
 そういえば一個だけ神器を手に入れたんだった。
 ここから出たらあの謎のタコ足神器の検証もしなくては。
 俺達は2人並んで出口の階段を登る。
 牛鬼のダンジョンではこの階段を登るとダンジョンの入り口だった。
 しかし今回はダンジョン全体がデスダンジョンなのではなく隠し階層のみだから、どこに出るのだろうか。
 エリーさんの息が荒くなってくるほどの長さの階段を登りきると、そこは18階層の入り口付近だった。
 振り返るとエリーさんが何もない壁からにゅっと出てくる。
 俺もはたから見たらこう見えていたのだろう。
 この出口は一方通行だから、こちら側からはどう頑張っても入れないようになっているのだ。
 エリーさんの出てきた壁はすでに何の変哲もない壁になっており、触ると硬い感触が返ってくる。

「はぁ、私たち、生きて出られたんですね」

「ああ、なんとかなったね」

「シゲノブさんっ」

 エリーさんは俺の胸に飛び込んでくる。
 避けるわけにもいかないので俺は受け止めた。
 エリーさんはぎゅっと俺の腰に手を回して抱きついてきた。
 ダイレクトに感じるエリーさんの体温や、胸に当たる吐息に少し変な気分になってくる。
 だが俺はもうはっきりこの気持ちを伝えると決めているのだ。
 このくらいの色香に惑ったりはしない。
 少し落ち着いたら転移クリスタルを使って一度ダンジョンから出よう。
 話はそれからだ。
 しばらくの間エリーさんは俺に抱きついて泣いていたが、背中を優しくポンポンと叩いてやると落ち着いたようで顔を赤くして距離をとった。
 あんな数のドラゴニュートが出てくるデスダンジョンに閉じ込められたんだ、無理もない。
 エリーさんも冒険者暦は結構長いようだけど、まだ年齢は20そこそこだ。
 怖い目にあって、近くのおっさんに縋ってしまうのも当然のことだ。
 エリーさんのその気持ちはきっと、吊り橋効果によって生まれた錯覚だ。
 目を覚まさせてあげる必要がある。
 2人で転移クリスタルに触れ、第1階層へと転移する。
 一瞬視界が暗転し、見慣れたサバンナに移り変わる。

「はぁ、疲れたね」

「そうですね。さきほどはお恥ずかしいところを見せてしまいました」

「いや、いいよ」

 言葉数も少なに、俺達はダンジョンを出る。
 久しぶりに見た衛兵の顔は、以前よりも眠気を感じさせない顔だった。
 さすがに怒られたのだろう。
 俺達はそのまま冒険者ギルドを目指した。
 本当は1晩ぐっすりと休んでからにしたいが、勇者とそのハーレムの一件はすぐにギルドに報告しておいたほうがいいだろう。
 幸いにも冒険者ギルドとドラゴニアのダンジョンは近い。
 この町の冒険者のほとんどがダンジョンシーカーを兼ねているからだろう。
 くたくたの足をあまり動かさなくてもいいというのは助かるな。
 5分ほどでギルドに到着する。
 相変わらず昼間から酒の匂いがぷんぷん漂ってくる場所だ。
 観音開きのドアを潜ると、ざわざわという喧騒が耳朶を打つ。
 うるさくてしょうがない。
 前回俺に絡んだ冒険者たちもまた昼間から飲んでいたようだが、今回はさすがに絡んでこない。
 梶原さんの言うことをちゃんと守っているようだ。
 俺は梶原さんを探した。
 キョロキョロと酒場だか冒険者ギルドだか分からない館内を見回していると、顎鬚を生やした偉そうなおっさんがこちらに歩いてくるのが見えた。
 俺と大体同じくらいの年代だと思うのだが、俺とは違ってイケてるチョイ悪オヤジって感じで少し羨ましい。
 俺も顎髭とか生やしたほうがいいのだろうか。
 無精ひげなら生えてるけど。

「エリー!!」

「ドノバンさん!!」

「ちょっ、えぇ……。エリーさん、マジで、えぇ……」

 チョイ悪オヤジは、エリーさんを見つけると駆け寄ってひっしと抱き合った。
 エリーさんも愛しくて仕方がないとばかりに身体を擦りつけてチョイ悪オヤジに抱きつく。
 3年ぶりに会った遠距離恋愛カップルのように抱き合っているけどさ、エリーさんはダンジョンの中での思わせぶりな態度はなんだったの?
 おっさん絶対エリーさんに惚れられちゃったと思ったよ。
 絶望的な状況の中でずっと隣にいてくれたのは冴えないおっさん。
 吊り橋効果で惚れちゃったっていう成人女性向け恋愛漫画みたいな展開なのかと思っていた。
 それで価値観の違いに悩んでいたんだよ。
 価値観が違いすぎて付き合えないなぁって。
 なのになんなのこれ、おっさん馬鹿みたいじゃないの。
 罪悪感を減らすために高価なアイテムボックスの魔道具まであげちゃったおっさんが馬鹿みたいじゃないの。
 いまさら返してとは言えない。
 おっさんは顔で引きつった微笑みを作りながら心で泣いた。

「お疲れ様です、木崎さん」

「ああ、梶原さん。どうもお疲れ様です。ちょうど探していたところです」

「そうですか。ところで、彼女と一緒だったのですか?」

 梶原さんはエリーさんのほうを見てそうたずねた。
 エリーさんはBランクの冒険者だから、梶原さんも知っていたのだろうか。

「ええ、まあ。ダンジョン内で少し知り合いまして。梶原さんにご相談したい内容にも彼女が関わっているのですが」

「ほう、わかりました。場所を移しましょう。こちらへ」

 確かにこんなうるさい場所じゃあ落ち着いて話せない。
 俺は素直に梶原さんの後ろについていく。

「ところで彼女、エリーさんとはダンジョンの中で何かありませんでしたか?」

「なにか、とは?」

 俺はドキリとしたが平静を装って梶原さんの問いに問いで返す。
 あまり平静を装えていないかもしれない。

「彼女には少し悪癖がありまして」

「悪癖……」

「ええ、彼女のギルド内での二つ名を御存知ですか?」

「いえ……」

「【オヤジ殺し】です」

 オヤジ殺し。
 英語読みにすればオヤジキラー。
 なるほど彼女にぴったりの二つ名だ。
 そして俺も、殺されたオヤジの一人というわけか。

「物騒な意味ではないのですがね。彼女、中年にめっぽうモテるんですよ。彼女自身も年上が好きなようでして、かく言う私もたまにドキドキさせられます。ちなみに、今彼女と抱き合っているのはうちのギルドの支部長であるドノバンです。すでに彼女にそうとう貢いでいるようです」

 支部長……。
 俺は宝箱から出たアイテムボックスの魔道具ひとつしか貢いでいないから、まだマシなほうなのだろうか。
 値段換算したら支部長よりも貢いでいる可能性があるけど。
 

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