おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉

文字の大きさ
上 下
92 / 205

92.オヤジ殺し

しおりを挟む
 アイテムボックスのブレスレットをエリーさんにあげ、残りを異空間収納に放り込む。
 金目のもの以外は特に得るもののない階層だったな。
 妙な勇者の死体を異空間収納に抱え込むことになってしまったし。
 そういえば一個だけ神器を手に入れたんだった。
 ここから出たらあの謎のタコ足神器の検証もしなくては。
 俺達は2人並んで出口の階段を登る。
 牛鬼のダンジョンではこの階段を登るとダンジョンの入り口だった。
 しかし今回はダンジョン全体がデスダンジョンなのではなく隠し階層のみだから、どこに出るのだろうか。
 エリーさんの息が荒くなってくるほどの長さの階段を登りきると、そこは18階層の入り口付近だった。
 振り返るとエリーさんが何もない壁からにゅっと出てくる。
 俺もはたから見たらこう見えていたのだろう。
 この出口は一方通行だから、こちら側からはどう頑張っても入れないようになっているのだ。
 エリーさんの出てきた壁はすでに何の変哲もない壁になっており、触ると硬い感触が返ってくる。

「はぁ、私たち、生きて出られたんですね」

「ああ、なんとかなったね」

「シゲノブさんっ」

 エリーさんは俺の胸に飛び込んでくる。
 避けるわけにもいかないので俺は受け止めた。
 エリーさんはぎゅっと俺の腰に手を回して抱きついてきた。
 ダイレクトに感じるエリーさんの体温や、胸に当たる吐息に少し変な気分になってくる。
 だが俺はもうはっきりこの気持ちを伝えると決めているのだ。
 このくらいの色香に惑ったりはしない。
 少し落ち着いたら転移クリスタルを使って一度ダンジョンから出よう。
 話はそれからだ。
 しばらくの間エリーさんは俺に抱きついて泣いていたが、背中を優しくポンポンと叩いてやると落ち着いたようで顔を赤くして距離をとった。
 あんな数のドラゴニュートが出てくるデスダンジョンに閉じ込められたんだ、無理もない。
 エリーさんも冒険者暦は結構長いようだけど、まだ年齢は20そこそこだ。
 怖い目にあって、近くのおっさんに縋ってしまうのも当然のことだ。
 エリーさんのその気持ちはきっと、吊り橋効果によって生まれた錯覚だ。
 目を覚まさせてあげる必要がある。
 2人で転移クリスタルに触れ、第1階層へと転移する。
 一瞬視界が暗転し、見慣れたサバンナに移り変わる。

「はぁ、疲れたね」

「そうですね。さきほどはお恥ずかしいところを見せてしまいました」

「いや、いいよ」

 言葉数も少なに、俺達はダンジョンを出る。
 久しぶりに見た衛兵の顔は、以前よりも眠気を感じさせない顔だった。
 さすがに怒られたのだろう。
 俺達はそのまま冒険者ギルドを目指した。
 本当は1晩ぐっすりと休んでからにしたいが、勇者とそのハーレムの一件はすぐにギルドに報告しておいたほうがいいだろう。
 幸いにも冒険者ギルドとドラゴニアのダンジョンは近い。
 この町の冒険者のほとんどがダンジョンシーカーを兼ねているからだろう。
 くたくたの足をあまり動かさなくてもいいというのは助かるな。
 5分ほどでギルドに到着する。
 相変わらず昼間から酒の匂いがぷんぷん漂ってくる場所だ。
 観音開きのドアを潜ると、ざわざわという喧騒が耳朶を打つ。
 うるさくてしょうがない。
 前回俺に絡んだ冒険者たちもまた昼間から飲んでいたようだが、今回はさすがに絡んでこない。
 梶原さんの言うことをちゃんと守っているようだ。
 俺は梶原さんを探した。
 キョロキョロと酒場だか冒険者ギルドだか分からない館内を見回していると、顎鬚を生やした偉そうなおっさんがこちらに歩いてくるのが見えた。
 俺と大体同じくらいの年代だと思うのだが、俺とは違ってイケてるチョイ悪オヤジって感じで少し羨ましい。
 俺も顎髭とか生やしたほうがいいのだろうか。
 無精ひげなら生えてるけど。

「エリー!!」

「ドノバンさん!!」

「ちょっ、えぇ……。エリーさん、マジで、えぇ……」

 チョイ悪オヤジは、エリーさんを見つけると駆け寄ってひっしと抱き合った。
 エリーさんも愛しくて仕方がないとばかりに身体を擦りつけてチョイ悪オヤジに抱きつく。
 3年ぶりに会った遠距離恋愛カップルのように抱き合っているけどさ、エリーさんはダンジョンの中での思わせぶりな態度はなんだったの?
 おっさん絶対エリーさんに惚れられちゃったと思ったよ。
 絶望的な状況の中でずっと隣にいてくれたのは冴えないおっさん。
 吊り橋効果で惚れちゃったっていう成人女性向け恋愛漫画みたいな展開なのかと思っていた。
 それで価値観の違いに悩んでいたんだよ。
 価値観が違いすぎて付き合えないなぁって。
 なのになんなのこれ、おっさん馬鹿みたいじゃないの。
 罪悪感を減らすために高価なアイテムボックスの魔道具まであげちゃったおっさんが馬鹿みたいじゃないの。
 いまさら返してとは言えない。
 おっさんは顔で引きつった微笑みを作りながら心で泣いた。

「お疲れ様です、木崎さん」

「ああ、梶原さん。どうもお疲れ様です。ちょうど探していたところです」

「そうですか。ところで、彼女と一緒だったのですか?」

 梶原さんはエリーさんのほうを見てそうたずねた。
 エリーさんはBランクの冒険者だから、梶原さんも知っていたのだろうか。

「ええ、まあ。ダンジョン内で少し知り合いまして。梶原さんにご相談したい内容にも彼女が関わっているのですが」

「ほう、わかりました。場所を移しましょう。こちらへ」

 確かにこんなうるさい場所じゃあ落ち着いて話せない。
 俺は素直に梶原さんの後ろについていく。

「ところで彼女、エリーさんとはダンジョンの中で何かありませんでしたか?」

「なにか、とは?」

 俺はドキリとしたが平静を装って梶原さんの問いに問いで返す。
 あまり平静を装えていないかもしれない。

「彼女には少し悪癖がありまして」

「悪癖……」

「ええ、彼女のギルド内での二つ名を御存知ですか?」

「いえ……」

「【オヤジ殺し】です」

 オヤジ殺し。
 英語読みにすればオヤジキラー。
 なるほど彼女にぴったりの二つ名だ。
 そして俺も、殺されたオヤジの一人というわけか。

「物騒な意味ではないのですがね。彼女、中年にめっぽうモテるんですよ。彼女自身も年上が好きなようでして、かく言う私もたまにドキドキさせられます。ちなみに、今彼女と抱き合っているのはうちのギルドの支部長であるドノバンです。すでに彼女にそうとう貢いでいるようです」

 支部長……。
 俺は宝箱から出たアイテムボックスの魔道具ひとつしか貢いでいないから、まだマシなほうなのだろうか。
 値段換算したら支部長よりも貢いでいる可能性があるけど。
 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい

兎屋亀吉
ファンタジー
異世界転生にあたって、神様から提示されたスキルは4つ。1.【剣術】2.【火魔法】3.【アイテムボックス】4.【アイテムコピー】。これらのスキルの中から、選ぶことのできるスキルは一つだけ。さて、僕は何を選ぶべきか。タイトルで答え出てた。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

スキルを得られない特殊体質の少年。祠を直したらユニークスキルもらえた(なんで??)

屯神 焔
ファンタジー
 魔法が存在し、魔物が跋扈し、人々が剣を磨き戦う世界、『ミリオン』  この世界では自身の強さ、もしくは弱さを知られる『ステータス』が存在する。  そして、どんな人でも、亜人でも、動物でも、魔物でも、生まれつきスキルを授かる。  それは、平凡か希少か、1つか2つ以上か、そういった差はあれ不変の理だ。  しかし、この物語の主人公、ギル・フィオネットは、スキルを授からなかった。  正確には、どんなスキルも得られない体質だったのだ。  そんな彼は、田舎の小さな村で生まれ暮らしていた。  スキルを得られない体質の彼を、村は温かく迎え・・・はしなかった。  迫害はしなかったが、かといって歓迎もしなかった。  父親は彼の体質を知るや否や雲隠れし、母は長年の無理がたたり病気で亡くなった。  一人残された彼は、安い賃金で雑用をこなし、その日暮らしを続けていた。  そんな彼の唯一の日課は、村のはずれにある古びた小さな祠の掃除である。  毎日毎日、少しずつ、汚れをふき取り、欠けてしまった所を何とか直した。  そんなある日。  『ありがとう。君のおかげで私はここに取り残されずに済んだ。これは、せめてものお礼だ。君の好きなようにしてくれてかまわない。本当に、今までありがとう。』  「・・・・・・え?」  祠に宿っていた、太古の時代を支配していた古代龍が、感謝の言葉と祠とともに消えていった。  「祠が消えた?」  彼は、朝起きたばかりで寝ぼけていたため、最後の「ありがとう」しか聞こえていなかった。  「ま、いっか。」  この日から、彼の生活は一変する。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...