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91.数は力のボス戦
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次の小部屋までの通路の距離は10分ほど。
中のドラゴニュートの数は8体だった。
もはや正面からやったら勝てなさそうな数だ。
俺はまたも神の苦無威を使ってすべてのドラゴニュートを暗殺した。
胸のもやもやは募るばかりだ。
「すごいすごいっ、こんな数のドラゴニュートを倒しちゃうなんて本当にすごいです!」
エリーさんが無邪気に褒めてくれるのもまた、俺の胸中をもやもやさせる。
俺の勝手なわがままなのかもしれないが、俺は褒められるべき場面でちゃんと褒められたいのだ。
そして今俺は褒められるようなことをしていないと思っている。
こういう場面で無邪気に褒められると逆に胸がもやもやしてしまう。
きっと俺は同じ気持ちを共有してもらいたいのだろう。
しかし人間というのはそうそう他人と同じ気持ちになることはない。
特に男と女は、分かり合うことが難しい。
エリーさんに悪気があるわけではないので注意するわけにもいかない。
俺はこの歳まで一度も結婚した経験がないのでわからないが、こういった些細な認識の違いが離婚の原因となるのかもしれない。
「行きましょうか……」
俺は募る胸のつっかえを口に出すことなく、先を急いだ。
こんなダンジョンは早く出てしまいたい。
次の小部屋へは5分で到着した。
中にはドラゴニュートがぎっしり。
数えていないが16体いるのだろう。
もはや人間が戦える数ではない。
人間の最高峰であるSランク冒険者であってもろくに戦うことなく蹂躙されるだろう。
俺もこんなのとは戦うのはごめんだ。
すべて神の苦無威で暗殺した。
「すごいですっ。シゲノブさんに勝てない魔物なんていないんじゃないですか?」
「い、いや、それはないよ……」
俺はエリーさんの賛辞にまともに答えることができなくなっていた。
自分の中の評価と他人からの評価が食い違うというのはこれほどに苦しいことだったとは。
俺の口数はどんどん少なくなっていく。
「あ、あれは……」
「ボス部屋か」
正直助かったという気持ちが強い。
これ以上この階層に閉じ込めれれていればエリーさんとの間に不和が生じていた可能性もあった。
エリーさんは非常に魅力的な女性だと思うし、時々見せるしぐさや言葉にドキドキさせられることもある。
しかし価値観の合わない女性だった。
何かが始まってしまう前にそれが分かってよかった。
エリーさんはおそらく俺に惚れている。
悲しませてしまうことになるだろうが、こういうことははっきりと言ってあげなければならない。
そのほうがエリーさんも未練なく次の恋に向かうことができるのだから。
俺はダンジョンを出たらエリーさんに気持ちを伝えることを決意し、ボス部屋のドアを開いた。
「予想した通りか」
ドアの中にはドラゴニュートがぎっしり。
今までの小部屋とは比べ物にならないほど大きな部屋にだ。
神の苦無威の隠密能力を発動し、数えながら暗殺していく。
最後の1体を倒し終えるとカウントは100になった。
100体のドラゴニュートがボスだったか。
完全に数は力を体現したダンジョンだったな。
いつかこの階層を正面突破できるようになってみたいものだ。
ボスを倒し終えその亡骸をすべて異空間収納に入れると、エリーさんがボス部屋に入ってくる。
「やりましたね、シゲノブさん」
「ええ、なんとか」
エリーさんの賛辞を軽く受け流し、宝箱部屋へと向かう。
これまでこの階層から出られるような場所は無かった。
ということは牛鬼のダンジョンのように宝箱部屋にその出口があるはずだ。
宝箱部屋は牛鬼のダンジョンと変わらない。
小さな部屋に宝箱と上に向かう階段。
あの階段がどこに出るのかは分からないが、この階層の外に出られることは期待してよさそうだ。
「何が入っているんでしょう。楽しみですね」
「そうだね」
宝箱を開けるのは俺も楽しみだ。
スマホゲームのガチャに何万円も課金していた会社の同僚の気持ちが異世界に来てようやくわかったような気がする。
何が入っているかわからないから楽しいんだ。
俺は軽く罠を調べるが、牛鬼のダンジョンのように意地の悪い仕掛けはされていなかった。
その代わり宝箱に弱い電流が流されているようで、触るとビリっと来る。
子供のいたずらのような罠だ。
俺はビリビリするのを我慢して宝箱の蓋を持ち上げた。
「すごい。これが隠し階層の宝箱なんですね……」
中に入っていたのは金銀財宝や数々の魔道具。
エリーさんは喜んでいるが、俺は少しだけがっかりした。
牛鬼のダンジョンとこの隠し階層、難易度で言えばここのほうが高い。
それに対してこの宝箱は2周目の牛鬼のダンジョンと同じ程度の内容。
神器も一つもないようだし、割に合わない気がする。
牛鬼のダンジョンの初回攻略と2周目のボスや宝箱の内容が違ったことを考えると、もしかしたらこの隠し階層を発見して攻略したのは俺たちが初めてではないのかもしれない。
初回攻略特典の神器などはすべて取られてしまっていると考えると、この割の合わなさにも納得だ。
「これアイテムボックスの魔道具ですよ、シゲノブさん」
エリーさんが手に取っていたのは青い宝石の付いたブレスレットだった。
俺の使っている異空間収納のような魔法が付与されたアイテムだろう。
俺には必要ないな。
「あげるよ」
「え、いいんですか!?あたし、何もしてないですよ?」
「いいんだ。エリーさんには元気をもらったから」
「シゲノブさん……。ありがとうございます。大事にします」
エリーさんは潤んだ瞳を俺に向けてくる。
ごめん、エリーさん。
おっさんは君の気持ちには答えることができないんだ。
アイテムボックスをあげたのはそんな俺の罪悪感を少しでも軽減するためだった。
中のドラゴニュートの数は8体だった。
もはや正面からやったら勝てなさそうな数だ。
俺はまたも神の苦無威を使ってすべてのドラゴニュートを暗殺した。
胸のもやもやは募るばかりだ。
「すごいすごいっ、こんな数のドラゴニュートを倒しちゃうなんて本当にすごいです!」
エリーさんが無邪気に褒めてくれるのもまた、俺の胸中をもやもやさせる。
俺の勝手なわがままなのかもしれないが、俺は褒められるべき場面でちゃんと褒められたいのだ。
そして今俺は褒められるようなことをしていないと思っている。
こういう場面で無邪気に褒められると逆に胸がもやもやしてしまう。
きっと俺は同じ気持ちを共有してもらいたいのだろう。
しかし人間というのはそうそう他人と同じ気持ちになることはない。
特に男と女は、分かり合うことが難しい。
エリーさんに悪気があるわけではないので注意するわけにもいかない。
俺はこの歳まで一度も結婚した経験がないのでわからないが、こういった些細な認識の違いが離婚の原因となるのかもしれない。
「行きましょうか……」
俺は募る胸のつっかえを口に出すことなく、先を急いだ。
こんなダンジョンは早く出てしまいたい。
次の小部屋へは5分で到着した。
中にはドラゴニュートがぎっしり。
数えていないが16体いるのだろう。
もはや人間が戦える数ではない。
人間の最高峰であるSランク冒険者であってもろくに戦うことなく蹂躙されるだろう。
俺もこんなのとは戦うのはごめんだ。
すべて神の苦無威で暗殺した。
「すごいですっ。シゲノブさんに勝てない魔物なんていないんじゃないですか?」
「い、いや、それはないよ……」
俺はエリーさんの賛辞にまともに答えることができなくなっていた。
自分の中の評価と他人からの評価が食い違うというのはこれほどに苦しいことだったとは。
俺の口数はどんどん少なくなっていく。
「あ、あれは……」
「ボス部屋か」
正直助かったという気持ちが強い。
これ以上この階層に閉じ込めれれていればエリーさんとの間に不和が生じていた可能性もあった。
エリーさんは非常に魅力的な女性だと思うし、時々見せるしぐさや言葉にドキドキさせられることもある。
しかし価値観の合わない女性だった。
何かが始まってしまう前にそれが分かってよかった。
エリーさんはおそらく俺に惚れている。
悲しませてしまうことになるだろうが、こういうことははっきりと言ってあげなければならない。
そのほうがエリーさんも未練なく次の恋に向かうことができるのだから。
俺はダンジョンを出たらエリーさんに気持ちを伝えることを決意し、ボス部屋のドアを開いた。
「予想した通りか」
ドアの中にはドラゴニュートがぎっしり。
今までの小部屋とは比べ物にならないほど大きな部屋にだ。
神の苦無威の隠密能力を発動し、数えながら暗殺していく。
最後の1体を倒し終えるとカウントは100になった。
100体のドラゴニュートがボスだったか。
完全に数は力を体現したダンジョンだったな。
いつかこの階層を正面突破できるようになってみたいものだ。
ボスを倒し終えその亡骸をすべて異空間収納に入れると、エリーさんがボス部屋に入ってくる。
「やりましたね、シゲノブさん」
「ええ、なんとか」
エリーさんの賛辞を軽く受け流し、宝箱部屋へと向かう。
これまでこの階層から出られるような場所は無かった。
ということは牛鬼のダンジョンのように宝箱部屋にその出口があるはずだ。
宝箱部屋は牛鬼のダンジョンと変わらない。
小さな部屋に宝箱と上に向かう階段。
あの階段がどこに出るのかは分からないが、この階層の外に出られることは期待してよさそうだ。
「何が入っているんでしょう。楽しみですね」
「そうだね」
宝箱を開けるのは俺も楽しみだ。
スマホゲームのガチャに何万円も課金していた会社の同僚の気持ちが異世界に来てようやくわかったような気がする。
何が入っているかわからないから楽しいんだ。
俺は軽く罠を調べるが、牛鬼のダンジョンのように意地の悪い仕掛けはされていなかった。
その代わり宝箱に弱い電流が流されているようで、触るとビリっと来る。
子供のいたずらのような罠だ。
俺はビリビリするのを我慢して宝箱の蓋を持ち上げた。
「すごい。これが隠し階層の宝箱なんですね……」
中に入っていたのは金銀財宝や数々の魔道具。
エリーさんは喜んでいるが、俺は少しだけがっかりした。
牛鬼のダンジョンとこの隠し階層、難易度で言えばここのほうが高い。
それに対してこの宝箱は2周目の牛鬼のダンジョンと同じ程度の内容。
神器も一つもないようだし、割に合わない気がする。
牛鬼のダンジョンの初回攻略と2周目のボスや宝箱の内容が違ったことを考えると、もしかしたらこの隠し階層を発見して攻略したのは俺たちが初めてではないのかもしれない。
初回攻略特典の神器などはすべて取られてしまっていると考えると、この割の合わなさにも納得だ。
「これアイテムボックスの魔道具ですよ、シゲノブさん」
エリーさんが手に取っていたのは青い宝石の付いたブレスレットだった。
俺の使っている異空間収納のような魔法が付与されたアイテムだろう。
俺には必要ないな。
「あげるよ」
「え、いいんですか!?あたし、何もしてないですよ?」
「いいんだ。エリーさんには元気をもらったから」
「シゲノブさん……。ありがとうございます。大事にします」
エリーさんは潤んだ瞳を俺に向けてくる。
ごめん、エリーさん。
おっさんは君の気持ちには答えることができないんだ。
アイテムボックスをあげたのはそんな俺の罪悪感を少しでも軽減するためだった。
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