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90.重たい笑み

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 勇者ご一行様の無残な遺体を異空間収納にしまった俺達は、それまで通り探索を続けた。
 時折距離が近い気がしたり、潤んだ瞳を向けてくるエリーさんとはまだ何もない。
 ダンジョンの中なのだから当然だ。
 ダンジョンから出たら楽しみだな。

「どうやら次の小部屋のようですね」

「魔物の気配を感じる。エリーさんはここで待ってて」

「わかりました」

 長道たちが死んでいた罠から15分ほど歩くと、次の小部屋にたどり着いた。
 エリーさんに部屋の手前の通路で待っていてくれるように頼み、俺は一人で小部屋に入った。
 小部屋の中には、ドラゴニュートが2体。
 やはり進めば進むほどに倒さなければいけない魔物の難易度は高くなるらしい。
 しかしドラゴニュート2体ならばまだ余裕がある。
 悪いが牛鬼の如意槍の練習台になってもらおう。
 
「「グルルッ」」

 2体のドラゴニュートはそれぞれ違い武器を構えている。
 1体は剣、1体は槍だ。
 先ほどのドラゴニュートの槍は重さ軽減の魔法が付与されたマジックウェポンだったので、おそらくこいつらのも同等の武器だろう。
 武器だけでも売れば結構な儲けになりそうだ。

「グルァッ」

 剣を持ったドラゴニュートが突っ込んでくる。
 力任せに振るわれた剣を避け、槍を短く持ってドラゴニュートの手首を突く。
 神器である牛鬼の如意槍の穂先はドラゴニュートの硬い鱗を突き破り、手首に浅く突き刺さる。
 神器の攻撃は通用するが、やはり浅いな。

「グラァァッ!」

 ドラゴニュートは自慢の鱗が破られたのがよほど頭にきたらしく、激昂して先ほどよりも力任せな攻撃を繰り返す。
 槍を持ったドラゴニュートも少し離れた距離からチクチクと槍で突いてくる。
 技術は無いがその膂力だけならば牛鬼にも匹敵するだろう。
 俺は牛鬼の戦い方を頭に思い浮かべ、それをトレースするように2体のドラゴニュートを相手取っていく。
 近づけば槍、離れればビームの牛鬼の戦い方は非常に厄介だった。
 自分がやられて嫌だったことを思い出し、それを再現していく。
 もしあのときこうされていたら負けていたかもしれないと思うことを実践し、なぜ牛鬼がそれをしなかったのかを思い知る。
 牛鬼の槍術は合理的で、無駄が無かった。
 俺が思いつくようなことなどはとっくの昔に牛鬼が試してみて、そのうえでやめたことばかりだったのだ。
 俺は浅知恵はやめ、牛鬼の動きをひたすらトレースした。
 普段はあまり使わない火と光の混合魔法まで使って、ビームまでも再現した。
 牛鬼のは魔法ではなく特殊能力だったから発動速度が全く違う。
 いちいち魔法陣を描かなければならない魔法は牛鬼のように一瞬でビームを撃つことができなかった。
 しかしよく考えてみたら俺が牛鬼に勝てた要因のひとつは魔力の消費を抑えたからであって、そんなところまで真似することに意味は無いだろう。
 俺は水精の短剣を取り出し、水の弾丸をビームの代わりに撃ち出した。

「「グルァァァァッ!!」」

 水の弾丸ではドラゴニュートの硬い鱗を貫くことはできないようだが、結構なスピードで弾丸を撃ち出しているのでその衝撃は相当なものだろう。
 多少はダメージを負っているようだ。
 たまらず接近戦を挑んでくるドラゴニュートたち。
 俺は牛鬼の如意槍をグルンとひと回し、遠心力の乗った攻撃でドラゴニュートの剣を弾き飛ばす。
 そのままの勢いで回転蹴りを食らわせ、ドラゴニュート本体も弾き飛ばした。
 剣のほうのドラゴニュートはくの字になって吹き飛び、小部屋の壁に勢いよく叩きつけられる。
 俺は槍のほうのドラゴニュートと戦いながらも、片手を壁に向け剣のほうのドラゴニュートに水の弾丸を浴びせる。
 背中を壁につけていて衝撃を逃がすことのできないドラゴニュートは一瞬で血まみれになって倒れ伏す。
 これで1対1か。
 残ったドラゴニュートは警戒し、一度距離を取る。
 しかし牛鬼の戦い方の嫌なろころは、警戒しても距離を取れば遠距離攻撃で滅多撃ちにされるところにある。
 俺は牛鬼にされたように、ドラゴニュートを遠距離攻撃で滅多撃ちにした。
 数えるのが不可能なほどの水の弾丸がドラゴニュートを襲う。
 壁際まで押し付けられたドラゴニュートは、もう1体と同じ末路をたどった。

「これで勝てなかった相手には、必殺の如意槍ちょっとだけ伸ばしが待っていると……」

 牛鬼は神器の能力をほとんど使ってこなかった。
 しかしそれはすべて最後の一瞬に神器の能力を最大限発揮させるための布石。
 普段神器の能力をバンバン使って戦っている俺には想像ができない一撃だった。
 あのいぶし銀な神器の使い方は是非とも真似したいものだ。
 俺はドラゴニュートの死体を異空間収納に放り込み、エリーさんのもとへ戻った。

「終わったよ」

「お疲れ様です。見てましたよ。すごかったです」

 エリーさんの賛辞に軽く照れながら小部屋を抜け、次の通路に向かう。
 このダンジョンの造りは時々思わせぶりな袋小路はあるもののほぼ1本道で、一定距離ごとに小部屋があり魔物がいるという感じだ。
 しかし初めの小部屋から最初の魔物がいた小部屋までの通路よりも、次の小部屋までの通路のほうが距離が短い。
 体感でおおよそ半分くらいだろう。
 そして今また、次の小部屋までの距離はさきほどの通路の半分の20分ほどだった。

「今度はドラゴニュートが4体か……」

「シゲノブさん……」

「まだ大丈夫、なはず」

 しかしもう槍の練習とかしている場合ではない。
 俺は神の苦無威を使って4体のドラゴニュートを倒した。
 正面から戦わずに暗殺のようなことをするのは心苦しいのだが、自分たちの命には代えられない。
 
「すごいっ、すごいですっ」

「うん……」

 エリーさんの無邪気な笑顔が、今は少し重たい気がした。



 
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