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89.謎の神器

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「くそっ」

 砲弾の直撃によって完全に体勢を崩されてしまった。
 どこかに手をつかないかぎりは体勢を立て直すことはできないだろう。
 しかし橋からは鋭い刃が生えていて手をつけない。
 だが手をつけないならば、剣でもつけばいい。
 俺は竜殺しの剣を具現化し、橋から生えた刃に軽く剣を振るった。
 刃と剣がぶつかり、拮抗する。
 その力を利用して俺は体勢を立て直した。

「ふぅ、危なかった……」

 しかし剣を使うというのは結構いい考えかもしれない。
 俺は飛んでくる矢や砲弾を竜殺しの剣で弾いていく。
 普通の剣であれば砲弾など弾けばすぐに剣が折れたり刃こぼれしてしまうだろうが、神器ならばその心配もない。
 そもそも親方に作ってもらった刺突剣は10階層に上がる前に異空間収納にしまってあるのだけどね。
 あの刺突剣はとても使いやすくて良い剣だと思うのだけれど、さすがに大型の竜種を倒せる剣じゃない。
 砂漠フィールドに入ってからはもっぱら竜殺しの剣か牛鬼の如意槍を使っていた。
 牛鬼の如意槍は練習のため、竜殺しの剣は竜種との相性がいいために。
 名前の通り竜殺しの剣は竜種に対して有効な剣だ。
 竜種はこの剣を見ると萎縮して一瞬動きを止める。
 殺し合いの最中の一瞬は致命的だ。
 竜種しか出ないというこのダンジョンにおいてこれほど使いやすい神器は無い。
 俺は止まっていた足を動かし、半ばまで渡った橋をまた走って渡り始める。
 
「っっ!今度は電撃か……」

 橋の3分の2程度を渡り終えると、矢、砲弾に続き電撃が飛んでくる。
 しかし電撃に対しては俺は対策済みだ。
 残念だったな。
 この程度の電撃など、巨大な親シーサーペントが起こす雷に比べれば低周波マッサージだ。
 俺は気にすることなく橋を渡りきった。

「さて、さすがにもうなにも無いだろう。宝箱の中身をいただこうか」

 一応のため罠が無いかを調べ、宝箱を開ける。
 そこに入っていたのは、小さな小瓶。
 中には液体が満たされ、その中にタコの足のようなものが入っていた。

「えぇ、なんだこれ……」

 これだけのヘルモードのアトラクションを越えて、手に入るのがこんなタコ足1本とは。
 RPGゲームだったら制作会社に苦情の手紙がたくさん届いてしまうだろう。
 俺は小瓶を手に取ってみる。

『ぴろりろりん♪神の触腕はシゲノブのものになった』

「神の触腕?神器なのか?これが?」

 使い方の想像もつかない神器というのを初めて見た。
 色々と試してみたいが、今はこの隠しダンジョンから出ることが先決か。

「しかしこれ、帰りは砲弾とか矢とか飛んで来ない、よな……」







「あ、シゲノブさん!遅かったですね。心配しましたよ」

「ごめん、ちょっと中に厄介な仕掛けがあって」

 まさか帰りもきちんと砲弾や矢、電撃が飛んでくるとは。
 意地の悪いアトラクションだった。

「それで、宝箱ありましたか?」

「うーん、あったんだけどね。中身がよく分からなかったんだ」

「よく分からない?」

「そう、これ。神の触腕という神器らしいんだけどね」

「これは……なんというか、少し気持ち悪いです……」

「だよね」

 俺はちょっとおいしそうと思ってしまったことを隠し、話をあわせる。
 タコのから揚げが食べたくなった。
 あれはビールがいくらでも飲めるつまみだよ。
 あとたこわさ。
 口の中にあふれ出る涎を飲み込んでタコ足の神器をしまう。
 男爵領に帰りたいな。
 あそこにはこんなまがい物のタコ足ではなく、本物のタコがある。
 ちょっとタコ足を食べに帰るというのはどうだろうか。
 いやしかし、男が一度決めたことを覆すのは格好が悪い。
 ダンジョンから出られたら、近くの港町でタコが食べられないか探してみるとしよう。
 俺達はどうでもいいことを話しながらダンジョンの探索に戻った。

「なんか罠が増えてきた、気をつけて進もう」

「はい」

 ダンジョンを進むごとに罠が増えていくのを感じた。
 地面にこびり付く血の跡が目立つようになってきた。
 長道たちは魔物にたどり着く前に死んでいる可能性もあるな。
 やがて道から血の跡が消える。

「あれ……長道たちはどこに進んだんだ?」

 俺達は一番最後に血の跡があった場所まで戻る。
 そこには罠があり、俺達は避けてきた場所だ。
 そこで血の跡が消えているとなれば、おそらく罠に引っかかったのだろう。
 それも槍や剣が飛び出てくるタイプの罠ではなく、もっと古典的な罠に。
 ここに仕掛けられていた罠はおそらく落とし穴だ。
 俺は罠の発動スイッチを手で押してみる。
 するとそのすぐ先の床が開いた。

「これは……」

「むごいね」

 長道たちは落とし穴の中にいた。
 落とし穴の底から生えた無数の杭に身体をズタズタに貫かれて。
 どう考えても死んでいる。
 俺は長道たちが死んでからの時間を計算してみた。
 俺達が前の小部屋からここまでにかかった時間は大体1時間。
 宝箱部屋の時間を抜くと40分くらいか。
 長道たちは罠に引っかかりながらだが、俺達は一度も引っかかっていないことを考慮するとまだ長道たちを蘇生することができる可能性はなくもない。
 しかし今蘇生しても面倒なことになることは目に見えている。
 俺は長道たちの突き刺さった杭を根元から圧し折ると、そのまま異空間収納に入れた。

「助けないのですか?」

「助けられるか分からない。それに、助けてもまた文句を垂れる可能性がある。だったら、このダンジョンから出るまで保留にしておいたほうがいいと思ってね」

「そんなに時間が経っても、死んだ人を生き返らせることができるのですか?」

「異空間収納の中は物質の時間は止まっている。もし魂というものがあって、それの時間は止まっていなかったとしたら助けられないかもしれないけれど、そうなったとしても俺にすぐに蘇生しようと思わせられなかったのは彼らの落ち度だ。日頃の行いってやつだよ」

「そうですね……。シゲノブさん、もしあたしが死んだら……」

「すぐに蘇生するよ。何と引き換えにしてもね」

 見つめ合う俺とエリーさん。
 ダンジョンで若い子とのときめきを求めるのは間違っているのだろうか。

 

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