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85.隠し階層とハーレム野郎
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若い女子たちに罵倒されながら自己紹介に似た儀式を行う俺。
その結果彼と彼女らの名前が分かった。
パーティ唯一の男である長道健人はやはり勇者だった。
それもマルクのお父さんが経営する商会を困らせているムルガ共和国の勇者その人だ。
このハーレム野郎はみんなが困っているというのに自分は暢気にハーレムダンジョンですか。
もし死んだらドラゴニアとムルガ共和国が大変なことになるというのに。
長道健人の神器は竜騎士の投げ槍と英雄の指輪、スマホの3つ。
正直言って雑魚だ。
竜騎士の投げ槍は投げるとレーザービームのように真っ直ぐ飛び、何かに刺さると手元に返ってくるだけの槍だし、残りの2つはおなじみの神器だ。
どう考えてもSランクダンジョンに潜るには力不足だ。
長道のパーティメンバーは正確には先ほどから噛み付いている彼女を除いた3人で、噛み付き少女エリーさんはこの街で雇った案内役のBランク冒険者だそうだ。
少しウェーブした茶髪をポニーテールにしている彼女が、このパーティ唯一の常識人と言って過言ではないだろう。
他3名、さらさら黒髪少女ライラはムルガ共和国議員の娘、キラキラ金髪少女サラはムルガ共和国の大商会の娘、黒髪三つ編み少女アンナは旅の剣士の娘だという。
旅の剣士の娘アンナは少し旅やダンジョンに慣れているものの、他2名は完全に箱入り娘だ。
幼い頃から護身術の英才教育は受けているものの、魔法は魔力量の関係上初級程度しか使えないらしい。
長道自身は魔力量に補正がある英雄の指輪を持っているが、魔法はあまり練習していないらしく同じく初級程度しか使えない。
よく初級の魔法だけでここまで来られたものだ。
このほぼお荷物パーティが砂漠階層まで登ってこられたのは、エリーさんの力が大きいのかもしれない。
エリーさんは現在ソロで活動している冒険者だが、少し前までパーティでダンジョン探索をしていたのだという。
パーティメンバーが結婚してしまって冒険者を引退するというので、パーティで使っていた魔道具などはすべてエリーさんが受け継いだそうだ。
「それで、あたしは魔法職がいるって聞いていたのでこのパーティに入ったんです」
「うるさいな!全員魔法が使えるんだから魔法職だろうが!!」
「初級魔法が使えるだけで魔法職のわけが無いでしょ!!それだったらあたしも魔法職よ!!もう無理、こんなパーティすぐに抜ける。すみませんそういうわけなんで、お手数ですが御一緒させてもらえませんか?次の階層の転移クリスタルまででいいので」
これではあまりに彼女が可哀想だ。
すこし同情してしまった俺は彼女のお願いを受けることにした。
この階層はとても危険だ。
お荷物3人を抱えていてはとても越えられないだろう。
「ちょっと、あたしたちの意思はどうなるのよ!」
「こんなおっさんと一緒に探索なんてサイテー」
「おっさんあたしの身体エロい目で見てくるし」
「あんたたち状況分かってんの!?この人に見捨てられたらあたしたち高確率で死ぬの!!」
「そんなことないって、きっとケントが守ってくれるから」
「ケント強いし」
「ケントがいれば大丈夫だって」
3人の少女の能天気な言葉にエリーさんはがっくりとうなだれた。
こんなやりとりが18階層にいたるまで繰り返されてきたのだろう。
エリーさんの心労とストレスは計り知れない。
「なあ、おっさんも勇者なんだろ?」
「そうだよ」
「どんな神器持ってるんだ?見せ合いしねーか。なんなら決闘でもいいぜ」
「はぁ……」
思わず溜息が零れた。
今まで心根の歪んだ勇者には出会ったことがあったけれど、単純に馬鹿な勇者というのには出会ったことがなかった。
経験が無いのでどうやって対応していいのか分からない。
後ろ盾であるムルガ共和国のこともあるしさすがに殺す気にはなれないが、一発殴るくらいはしてもいいような気がするんだ。
「なぁなぁ、おっさん!神器見せてくれよ!ほらこれ俺の神器、竜騎士の投げ槍だぜ」
神器を具現化して得意げに見せびらかす長道。
殴る気も失せてしまった。
長道はたしか18歳だったはずだが、精神年齢は12、3歳くらいに思える。
まだカールのほうが賢かった。
精神年齢が本来の年齢だと思って接するべきかもしれないな。
「ん?なんか地面が変な感触だな」
「気のせいじゃないの?おっさんなに、かまって欲しいの?」
「えーおっさんちょーキモい」
息を吐くようにおっさんを罵倒するのをやめてほしい。
おっさんはそれを快感に変換するタイプのおっさんじゃない。
普通に傷つくから。
あと地面の感触が変だったのは気のせいでもない。
俺は魔法で砂を固め、丸めてどかす。
そこには石作りの建築物のようなものが露出していた。
まるで砂に埋もれた遺跡のようだ。
「なにこれ?」
「うそ……。これって、隠し階層?」
「隠し階層ってなによ」
「隠れてる階層ってことだろ?ダンジョンには付き物だよな!腕が鳴るぜ!!」
「待って!隠し階層は5階層は上の難易度を想定しておいたほうがいいの。あたしたちには絶対無理よ」
「やってみなきゃわからないだろ?」
長道は遺跡のようなものの中心部に埋もれている宝石に触れる。
宝石はぼんやりと光を放ち、俺達全員を隠し階層の内部に転移させた。
まったく、ろくなことをしない奴だ。
光が治まると、そこはフィールド型のダンジョンではなく迷宮型のダンジョン内部のようだった。
石造りの通路全体がぼんやりと光るその雰囲気は、以前無人島で潜った牛鬼のダンジョンとよく似ている。
「ちょっとあんた!今回ばかりは本当に許せないわよ!!自分が何をやったのか分かってるの!?」
「まったくうるさい女だな。ダンジョンの隠し階層だぞ!?探索するのは当然だろ?」
それはゲームのやりすぎというものだろう。
この世界はゲームではない。
自分の力量を見誤って難易度の高いダンジョンに挑めば待っているのは財宝ではなく死だ。
俺はやり場の無い怒りを感じて震えているエリーさんの肩を軽くポンと叩く。
セクハラじゃないから。
おっさんなりの気遣いだ。
「彼の好きにさせてあげよう。だが、俺達を無断で巻き込んだんだ。助けてもらえるとは思わないことだな」
「助けてほしいなんて俺は初めから言ってない。行こうぜライラ、サラ、アンナ」
長道は3人の少女を促すと、罠があるかもしれない迷宮をさっさかと歩いていってしまった。
ぽつりと残された俺とエリーさんは顔を見合わせた。
エリーさんは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。
おそらく俺も同じような表情をしているんだろうな。
その結果彼と彼女らの名前が分かった。
パーティ唯一の男である長道健人はやはり勇者だった。
それもマルクのお父さんが経営する商会を困らせているムルガ共和国の勇者その人だ。
このハーレム野郎はみんなが困っているというのに自分は暢気にハーレムダンジョンですか。
もし死んだらドラゴニアとムルガ共和国が大変なことになるというのに。
長道健人の神器は竜騎士の投げ槍と英雄の指輪、スマホの3つ。
正直言って雑魚だ。
竜騎士の投げ槍は投げるとレーザービームのように真っ直ぐ飛び、何かに刺さると手元に返ってくるだけの槍だし、残りの2つはおなじみの神器だ。
どう考えてもSランクダンジョンに潜るには力不足だ。
長道のパーティメンバーは正確には先ほどから噛み付いている彼女を除いた3人で、噛み付き少女エリーさんはこの街で雇った案内役のBランク冒険者だそうだ。
少しウェーブした茶髪をポニーテールにしている彼女が、このパーティ唯一の常識人と言って過言ではないだろう。
他3名、さらさら黒髪少女ライラはムルガ共和国議員の娘、キラキラ金髪少女サラはムルガ共和国の大商会の娘、黒髪三つ編み少女アンナは旅の剣士の娘だという。
旅の剣士の娘アンナは少し旅やダンジョンに慣れているものの、他2名は完全に箱入り娘だ。
幼い頃から護身術の英才教育は受けているものの、魔法は魔力量の関係上初級程度しか使えないらしい。
長道自身は魔力量に補正がある英雄の指輪を持っているが、魔法はあまり練習していないらしく同じく初級程度しか使えない。
よく初級の魔法だけでここまで来られたものだ。
このほぼお荷物パーティが砂漠階層まで登ってこられたのは、エリーさんの力が大きいのかもしれない。
エリーさんは現在ソロで活動している冒険者だが、少し前までパーティでダンジョン探索をしていたのだという。
パーティメンバーが結婚してしまって冒険者を引退するというので、パーティで使っていた魔道具などはすべてエリーさんが受け継いだそうだ。
「それで、あたしは魔法職がいるって聞いていたのでこのパーティに入ったんです」
「うるさいな!全員魔法が使えるんだから魔法職だろうが!!」
「初級魔法が使えるだけで魔法職のわけが無いでしょ!!それだったらあたしも魔法職よ!!もう無理、こんなパーティすぐに抜ける。すみませんそういうわけなんで、お手数ですが御一緒させてもらえませんか?次の階層の転移クリスタルまででいいので」
これではあまりに彼女が可哀想だ。
すこし同情してしまった俺は彼女のお願いを受けることにした。
この階層はとても危険だ。
お荷物3人を抱えていてはとても越えられないだろう。
「ちょっと、あたしたちの意思はどうなるのよ!」
「こんなおっさんと一緒に探索なんてサイテー」
「おっさんあたしの身体エロい目で見てくるし」
「あんたたち状況分かってんの!?この人に見捨てられたらあたしたち高確率で死ぬの!!」
「そんなことないって、きっとケントが守ってくれるから」
「ケント強いし」
「ケントがいれば大丈夫だって」
3人の少女の能天気な言葉にエリーさんはがっくりとうなだれた。
こんなやりとりが18階層にいたるまで繰り返されてきたのだろう。
エリーさんの心労とストレスは計り知れない。
「なあ、おっさんも勇者なんだろ?」
「そうだよ」
「どんな神器持ってるんだ?見せ合いしねーか。なんなら決闘でもいいぜ」
「はぁ……」
思わず溜息が零れた。
今まで心根の歪んだ勇者には出会ったことがあったけれど、単純に馬鹿な勇者というのには出会ったことがなかった。
経験が無いのでどうやって対応していいのか分からない。
後ろ盾であるムルガ共和国のこともあるしさすがに殺す気にはなれないが、一発殴るくらいはしてもいいような気がするんだ。
「なぁなぁ、おっさん!神器見せてくれよ!ほらこれ俺の神器、竜騎士の投げ槍だぜ」
神器を具現化して得意げに見せびらかす長道。
殴る気も失せてしまった。
長道はたしか18歳だったはずだが、精神年齢は12、3歳くらいに思える。
まだカールのほうが賢かった。
精神年齢が本来の年齢だと思って接するべきかもしれないな。
「ん?なんか地面が変な感触だな」
「気のせいじゃないの?おっさんなに、かまって欲しいの?」
「えーおっさんちょーキモい」
息を吐くようにおっさんを罵倒するのをやめてほしい。
おっさんはそれを快感に変換するタイプのおっさんじゃない。
普通に傷つくから。
あと地面の感触が変だったのは気のせいでもない。
俺は魔法で砂を固め、丸めてどかす。
そこには石作りの建築物のようなものが露出していた。
まるで砂に埋もれた遺跡のようだ。
「なにこれ?」
「うそ……。これって、隠し階層?」
「隠し階層ってなによ」
「隠れてる階層ってことだろ?ダンジョンには付き物だよな!腕が鳴るぜ!!」
「待って!隠し階層は5階層は上の難易度を想定しておいたほうがいいの。あたしたちには絶対無理よ」
「やってみなきゃわからないだろ?」
長道は遺跡のようなものの中心部に埋もれている宝石に触れる。
宝石はぼんやりと光を放ち、俺達全員を隠し階層の内部に転移させた。
まったく、ろくなことをしない奴だ。
光が治まると、そこはフィールド型のダンジョンではなく迷宮型のダンジョン内部のようだった。
石造りの通路全体がぼんやりと光るその雰囲気は、以前無人島で潜った牛鬼のダンジョンとよく似ている。
「ちょっとあんた!今回ばかりは本当に許せないわよ!!自分が何をやったのか分かってるの!?」
「まったくうるさい女だな。ダンジョンの隠し階層だぞ!?探索するのは当然だろ?」
それはゲームのやりすぎというものだろう。
この世界はゲームではない。
自分の力量を見誤って難易度の高いダンジョンに挑めば待っているのは財宝ではなく死だ。
俺はやり場の無い怒りを感じて震えているエリーさんの肩を軽くポンと叩く。
セクハラじゃないから。
おっさんなりの気遣いだ。
「彼の好きにさせてあげよう。だが、俺達を無断で巻き込んだんだ。助けてもらえるとは思わないことだな」
「助けてほしいなんて俺は初めから言ってない。行こうぜライラ、サラ、アンナ」
長道は3人の少女を促すと、罠があるかもしれない迷宮をさっさかと歩いていってしまった。
ぽつりと残された俺とエリーさんは顔を見合わせた。
エリーさんは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。
おそらく俺も同じような表情をしているんだろうな。
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