上 下
85 / 205

85.隠し階層とハーレム野郎

しおりを挟む
 若い女子たちに罵倒されながら自己紹介に似た儀式を行う俺。
 その結果彼と彼女らの名前が分かった。
 パーティ唯一の男である長道健人はやはり勇者だった。
 それもマルクのお父さんが経営する商会を困らせているムルガ共和国の勇者その人だ。
 このハーレム野郎はみんなが困っているというのに自分は暢気にハーレムダンジョンですか。
 もし死んだらドラゴニアとムルガ共和国が大変なことになるというのに。
 長道健人の神器は竜騎士の投げ槍と英雄の指輪、スマホの3つ。
 正直言って雑魚だ。
 竜騎士の投げ槍は投げるとレーザービームのように真っ直ぐ飛び、何かに刺さると手元に返ってくるだけの槍だし、残りの2つはおなじみの神器だ。
 どう考えてもSランクダンジョンに潜るには力不足だ。
 長道のパーティメンバーは正確には先ほどから噛み付いている彼女を除いた3人で、噛み付き少女エリーさんはこの街で雇った案内役のBランク冒険者だそうだ。
 少しウェーブした茶髪をポニーテールにしている彼女が、このパーティ唯一の常識人と言って過言ではないだろう。
 他3名、さらさら黒髪少女ライラはムルガ共和国議員の娘、キラキラ金髪少女サラはムルガ共和国の大商会の娘、黒髪三つ編み少女アンナは旅の剣士の娘だという。
 旅の剣士の娘アンナは少し旅やダンジョンに慣れているものの、他2名は完全に箱入り娘だ。
 幼い頃から護身術の英才教育は受けているものの、魔法は魔力量の関係上初級程度しか使えないらしい。
 長道自身は魔力量に補正がある英雄の指輪を持っているが、魔法はあまり練習していないらしく同じく初級程度しか使えない。
 よく初級の魔法だけでここまで来られたものだ。
 このほぼお荷物パーティが砂漠階層まで登ってこられたのは、エリーさんの力が大きいのかもしれない。
 エリーさんは現在ソロで活動している冒険者だが、少し前までパーティでダンジョン探索をしていたのだという。
 パーティメンバーが結婚してしまって冒険者を引退するというので、パーティで使っていた魔道具などはすべてエリーさんが受け継いだそうだ。
 
「それで、あたしは魔法職がいるって聞いていたのでこのパーティに入ったんです」

「うるさいな!全員魔法が使えるんだから魔法職だろうが!!」

「初級魔法が使えるだけで魔法職のわけが無いでしょ!!それだったらあたしも魔法職よ!!もう無理、こんなパーティすぐに抜ける。すみませんそういうわけなんで、お手数ですが御一緒させてもらえませんか?次の階層の転移クリスタルまででいいので」

 これではあまりに彼女が可哀想だ。
 すこし同情してしまった俺は彼女のお願いを受けることにした。
 この階層はとても危険だ。
 お荷物3人を抱えていてはとても越えられないだろう。

「ちょっと、あたしたちの意思はどうなるのよ!」

「こんなおっさんと一緒に探索なんてサイテー」

「おっさんあたしの身体エロい目で見てくるし」

「あんたたち状況分かってんの!?この人に見捨てられたらあたしたち高確率で死ぬの!!」

「そんなことないって、きっとケントが守ってくれるから」

「ケント強いし」

「ケントがいれば大丈夫だって」

 3人の少女の能天気な言葉にエリーさんはがっくりとうなだれた。
 こんなやりとりが18階層にいたるまで繰り返されてきたのだろう。
 エリーさんの心労とストレスは計り知れない。
 
「なあ、おっさんも勇者なんだろ?」

「そうだよ」

「どんな神器持ってるんだ?見せ合いしねーか。なんなら決闘でもいいぜ」

「はぁ……」

 思わず溜息が零れた。
 今まで心根の歪んだ勇者には出会ったことがあったけれど、単純に馬鹿な勇者というのには出会ったことがなかった。
 経験が無いのでどうやって対応していいのか分からない。
 後ろ盾であるムルガ共和国のこともあるしさすがに殺す気にはなれないが、一発殴るくらいはしてもいいような気がするんだ。
 
「なぁなぁ、おっさん!神器見せてくれよ!ほらこれ俺の神器、竜騎士の投げ槍だぜ」

 神器を具現化して得意げに見せびらかす長道。
 殴る気も失せてしまった。
 長道はたしか18歳だったはずだが、精神年齢は12、3歳くらいに思える。
 まだカールのほうが賢かった。
 精神年齢が本来の年齢だと思って接するべきかもしれないな。





「ん?なんか地面が変な感触だな」

「気のせいじゃないの?おっさんなに、かまって欲しいの?」

「えーおっさんちょーキモい」

 息を吐くようにおっさんを罵倒するのをやめてほしい。
 おっさんはそれを快感に変換するタイプのおっさんじゃない。
 普通に傷つくから。
 あと地面の感触が変だったのは気のせいでもない。
 俺は魔法で砂を固め、丸めてどかす。
 そこには石作りの建築物のようなものが露出していた。
 まるで砂に埋もれた遺跡のようだ。

「なにこれ?」

「うそ……。これって、隠し階層?」

「隠し階層ってなによ」

「隠れてる階層ってことだろ?ダンジョンには付き物だよな!腕が鳴るぜ!!」

「待って!隠し階層は5階層は上の難易度を想定しておいたほうがいいの。あたしたちには絶対無理よ」

「やってみなきゃわからないだろ?」

 長道は遺跡のようなものの中心部に埋もれている宝石に触れる。
 宝石はぼんやりと光を放ち、俺達全員を隠し階層の内部に転移させた。
 まったく、ろくなことをしない奴だ。
 光が治まると、そこはフィールド型のダンジョンではなく迷宮型のダンジョン内部のようだった。
 石造りの通路全体がぼんやりと光るその雰囲気は、以前無人島で潜った牛鬼のダンジョンとよく似ている。

「ちょっとあんた!今回ばかりは本当に許せないわよ!!自分が何をやったのか分かってるの!?」

「まったくうるさい女だな。ダンジョンの隠し階層だぞ!?探索するのは当然だろ?」

 それはゲームのやりすぎというものだろう。
 この世界はゲームではない。
 自分の力量を見誤って難易度の高いダンジョンに挑めば待っているのは財宝ではなく死だ。
 俺はやり場の無い怒りを感じて震えているエリーさんの肩を軽くポンと叩く。
 セクハラじゃないから。
 おっさんなりの気遣いだ。

「彼の好きにさせてあげよう。だが、俺達を無断で巻き込んだんだ。助けてもらえるとは思わないことだな」

「助けてほしいなんて俺は初めから言ってない。行こうぜライラ、サラ、アンナ」

 長道は3人の少女を促すと、罠があるかもしれない迷宮をさっさかと歩いていってしまった。
 ぽつりと残された俺とエリーさんは顔を見合わせた。
 エリーさんは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。
 おそらく俺も同じような表情をしているんだろうな。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

孤児だけどガチャのおかげでなんとか生きてます

兎屋亀吉
ファンタジー
ガチャという聞いたことのないスキルが発現したせいで、孤児院の出資者である商人に売られてしまうことになったアリア。だが、移送中の事故によって橋の上から谷底へと転落してしまう。アリアは谷底の川に流されて生死の境を彷徨う中で、21世紀の日本に生きた前世の記憶を得る。ガチャって、あのガチャだよね。※この作品はカクヨムにも掲載しています。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

強奪系触手おじさん

兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~

十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

処理中です...